百均店長、いよいよ出発する。
翌日、仕事を終えた俺はテルさんに急かされていた。
「ジローよ、今日こそは出立できるんじゃろうの~!」
「分かってるって。そんなに急かさないでよ。」
自宅へ戻ったばかりなのにどうしてそんなに急かすかなぁ。
「で、テルさん取りあえず俺は何を持って行けば良いかな?」
「何をとは?ワシが居れば万事抜かり無しじゃ。」
「いや、そういうんじゃなくて、食べ物とか飲み物とか、あと、人に会ったら言葉とかはどうなるの?そこはテルさんが通訳してくれれば大丈夫だとは思うけど。」
「ふむ、そういう心配じゃったか。まぁ、往来は自由に出来るんじゃし1~2食分あれば良いとは思うがの。人里に行けば露店もあるじゃろうし。それと言葉は自動的に変換されるから心配は無用じゃ。」
そうなんだ。まぁ、いつでも帰って来れるならその辺の心配は要らないかもな。じゃあ俺は2連休貰ってるから今夜から明後日までとして湯煎で食べれるご飯とレトルトのカレーとシチューでも入れとくか。飲み物は500㎖のペットボトル何本かを入れて・・・と。あとはお菓子を少々と。まぁ、こんな所かな。あッ、一応店から買ってきた便利グッズも何点か入れとくか。百均の品物だから無くしても大して惜しくはないし。それと服装は取りあえず長袖のTシャツにジーンズとスニーカーで良いかな。
色々準備してたら何だか小学生の頃の遠足を思い出してきたよ。柄にもなくワクワクしてるし。しかもそんじょそこらの遠足じゃなくて【異世界】だし。よくあるファンタジーみたいにいきなり召喚されて『勇者様!』なんて心配もないし。本当に遠足気分で行けるなんてなぁ。
「ねぇテルさん。準備はこんなもんで良いかなあ。」
「ふむ、お主が良いならそれで良いのではないかの。何かあればワシがお主を守るのじゃからして。」
俺の準備を側で見ていたテルさんがそう言った。まぁ、足りない物があれば取りにか戻ればイイんだしな。
目の前に広げた荷物(ほとんど食糧)を通勤にも使っているリュックに詰め、いよいよこれで出発準備はOKかな。
「準備は出来たかの。それではジローよ、出立するかの。」
そう言うとテルさんは掌を窓際に向けてかざした。すると掌の前に黒い縁の様な物が浮かんできた。黒い縁は徐々にその輪を広げていく。よく見ると黒い縁には何やら文様の様な文字の様な模様が刻まれている。漫画やラノベでお馴染みの魔法陣と言えば分かり易いだろうか。などと考えていると、黒い縁はテルさんが通れる程の大きさにまで広がっていた。
「ほれ!ジローよこのゲートを通るのじゃ。」
「う、うん。」
俺は恐る恐るテルさんが【ゲート】と呼んだ黒い縁に足を踏み入れた。いよいよ【異世界】の第一歩だ。