百均店長、契約する。
「そういえば、俺まだ貴方の名前も知らないんですが。教えて頂けますか?」
当然といえば当然の質問をしてみた。
「これは申し訳ない。すっかり失念しておったわい。何せこの世界に来て初めてワシに気付いてくれた者が契約をしてくれるとあっては興奮せずにはおれんでな。そうじゃのワシの事は【アウステル】と呼んでくれ。南風という意味じゃ。それとお主、ジローよ。折角なんじゃしその堅苦しい話し方は止めんか?もっと気さくに話してくれた方がワシとしても話し易いんじゃが。」
自分の口調を差し置いて気さくにと来たか。まぁ、確かにこれからずっと敬語ってのも居心地良くはないよな。連れに話す感じで良いのかな?それならいっそ呼び方もあだ名っぽくしてみるか。
「分かった。じゃあ友達に話すような感じで話しま・・話すよ。あと、【アウステルさん】って呼びにくいから少し縮めて【テルさん】って呼んでいいかな?」
「テルさん・・・ふむ」
あちゃ、何か考え込んでるよ。仮にも神の眷属を名乗ってる人にいきなりあだ名は失礼過ぎたか?と思っていたんだけど、
「フォッフォッ!これは愉快!これまで悠久の時を過ごして来たがそのように呼ばれたのは初めてじゃわい。まるで友の様ではないか。テルさん、テルさんか♪」
何故か存外気に入ってくれた様だ。良かった怒られなくて。
「それで、テルさん相談なんです・・なんだけど、俺次の休みが明後日だから、テルさんの世界に行くのは明後日でも良いかな?」
もうすぐ無職になるとはいえ、そこは社会人として最後まで勤めなきゃな。自由に往来出来るんだからそれくらい大丈夫だよね。
「勿論じゃ。じゃが契約は是非今夜が良いのう。今夜は満月じゃから精霊の加護も受けれるかも知れんでのう。」
え~ッ?精霊?いるの?ホントに?地球に?まさかねぇ。一応確認しとくか。
「精霊って地球にも居るんです・・・居るの?本当に。」
「当然じゃ。世界がいくら変わろうとも神のおわす世界は必ずあるのじゃ。現にこの世界・・・地球と言うたかの。この世界とワシの居る世界でも神々の交流は行われておった̪。じゃから信仰も似たようなものがあるしの。平行する別世界と言えば良いかも知れんの。この地球では精神的な世界と物質的な世界の隔たりが大きい様じゃから中々気付かないかも知れんがの。」
そんなもんなのか。まぁ俺は霊感の(れ)の字もない鈍感男だからそんなの感じた事も無いけど。でも目の前に居るテルさんが神秘的な存在であることは疑い様がないからなぁ。
「じゃあ、その【契約】ってのは今夜するとして、具体的にはどんなことをするんだ?」
「さっきから質問が多いのう。・・・しかしやっと本題に入ってくれたか。では少し静かな所へ行こうかの。」
テルさんはそう言うと、右手をそっと上に差し出した。するとテルさんの体がふわりと宙に浮いた。いや、テルさんだけじゃなく俺も浮いてる~ッ!
(ちょ、まっ!無理無理無理~!俺高いとこダメなんだよ!!)と叫びたいけど本当に怖い時ってのは声なんて出ないもんで、テルさんが飛ぶのと同じ軌跡をたどって浮遊する俺・・・。いかん、本気でちびりそうだ(泣)。何とかこの状況から抜け出さなきゃと、お腹に力を入れ声を絞り出した。
「テルさん!テルさん!・・テルさんってばぁ~!」
「ふむ、どうじゃ快適じゃろ。人間は飛べんからのう。ワシとなら何時でもこんな風に飛べるんじゃぞ。」
「そうじゃなくて!お・・俺、高い所ダメなんだ!」
「ほ?そうじゃったか、これはスマン事をした。じゃがもう少しの辛抱じゃ。ほれ、あそこに見える山の頂で契約としようかの。」
そう言って着いた(降りた)のは何処かの山頂らしき所だった。らしきと言ったのは、あまりの怖さにずっと目を閉じてたからだけど、まぁテルさんがそう言うんだからそうなんだろう。
テルさんは地べたでヘタってる俺を微笑ましげに見ながらこう言った。
「ジローよ。落ち着いたら契約といこうかのう。ほれ、精霊たちも祝福しとるようじゃ。」
辺りを見回すと色々な色の光が飛び交っているのが見える。これが精霊なのか?それにしても今までこんなの見た事も無いのに何で見えるんだろうと思っていたら、テルさんが俺の表情から察したらしく
「不思議かの?じゃがこれで信じたろう。これが精霊たちじゃ。今宵は満月じゃからいつもより活性化しとるしここはお主たちが霊峰と呼んどる場所じゃからの。」
というとテルさんはまるで西洋の騎士がそうするような所作で俺の前に跪きこう言った。
「ではジローよ、ワシの額の辺りに指輪を嵌めている方の掌をかざしこう宣言するのじゃ【我、此処に宣言する。風の眷族アウステルを我が僕とすることを】とな。」
え?僕って主従関係ってことだよね?いいのか?ってか迷ってる暇はなさそうだな。仕方ないやってみるか。
俺はテルさんの額の辺りに指輪をしている方の掌をかざしてみた。すると俺の掌を中心にテルさんの周囲が白く光り始めた。光は俺とテルさんを包む様に広がって行き何かの文字列を象る。ラノベとかマンガとかで見たことある魔方陣みたいだ。光と文字列の広がりが何となく安定したように見えた頃テルさんが俺を促す。
「ジロー、いまじゃ。宣言するのじゃ。」
促されるままに俺は宣言したよ。
「我、此処に宣言する。風の眷族アウステルを我が僕とすることを。」
宣言と同時に光は閃光となりやがて収束した。これで契約はおわったのかな。
「ジローよ、これでワシとお主の契約は成った。これから宜しくの。」
嬉しそうなテルさんの顔が印象的だった。俺には分からないけどそんなに嬉しいもんなのかな。てか、俺ってばとうとう神の眷族?の主になっちゃったのか。なんか、実感ないな。