百均店長、決意する。
遅筆ですみません・・・m(__)m
次話はなるべく1週間くらいで更新します。
朝だ・・が、何だか寝足りない。夢見が悪かったのかなぁ。出来たらこのまま布団の中で微睡んでいたいけど、店舗を預かる身としてはサボる訳にもいかない。焼いてない食パンに缶コーヒーだけという極めて質素な朝食を済ませ職場に向かう。途中にあるネオン街の手前で昨夜の変な露店商の事を思い出したけど、それはほんの一瞬で足を止めるでもなく職場へと急いだ。
開店前の店内で朝礼をする俺。話題はいつも通りの業務連絡とあとひとつ。閉店の告知だ・・。はぁ、仕事とはいえお店が無くなるなんて皆に何て伝えよう。しかし、言わないわけにもいかないし・・。しょうがない!ここは思いきって言うか!
「・・・えー、業務連絡は以上です。何か質問がある方は?・・それでは開店前に皆さんに会社から報告があります。」
俺は出来るだけ丁寧に閉店になる事とそれまでの業務内容について説明した。皆に思った程が動揺無かったのは俺以外の従業員が全てパートやアルバイトだからか、何となく薄々そんな予感がしてたのか。もしかすると昨日の俺と社長の話が聞こえていたのかもしれない。
「と言うことで、閉店まで僅かですが来店されるお客様にはいつも通り明るく元気に接して下さい。それではよろしくお願いします!」
営業中は、何の滞りも無くいつもの様に過ぎた。変わったことと言えばパートさん同士のいざこざがあったとか無かったとか。まぁ、俺に話が回って来なかったということは大した事ではなかったんだろう。こう見えてパートさんからの信頼は厚いんだぜ!マジで。
閉店後、事務所で帳票の整理をしていたら社長から電話があった。
「甲斐田君、どうだろう昨日の話考えてくれたかい?」
えー?昨日の今日でまたこの話題かよ?もしかして不採算で返済の足しにならない様な店を押し付けたいのかな?
「いえ、まだ何も考えてないので。お急ぎなんですか?」
「イヤイヤ、甲斐田君は入社以来頑張ってくれたからね。独立心があるなら背中を押してあげたいと思ってね。」
「有難う御座います。もう少し考えさせて頂けますか?」
「ほかの店長の手前、あまり時間もないから出来るだけ早めに決めちゃってね。」
「かしこまりました。それでは失礼します。」
そんな内容で会話は終わったけど、実際の所どうなんだろ?ほかの他の店長にでも聞いてみるかな。
でも自分から電話するとなにか嗅ぎまわっているみたいだからなぁ。悩ましい所だ。
その日の仕事が終わったのは午後8時半くらい。途中弁当屋で夕食を買い自宅に向かっていると、いつの間にか霧がかかっていた。そういえば昨日は霧が出た後に変な露店のオッサンに会ったんだっけ・・。なんて考えながら歩いてたら誰かから名前を呼ばれた様な気がした。まぁ、そんな事ある筈もないかとそのまま歩いていたら,
「おい!ジローよ!」
思わず辺りを見回す・・。ん?何か見覚えのある露店?がある様な・・って昨日のアクセサリー屋さんじゃん!・・てか何で俺の名前知ってんの?
「えーと・・俺、昨日名乗りましたっけ?」
「お主、よもや昨夜の事を忘れたとでも?」
おぉっ?質問に質問で返されたよ。てか昨夜の事?指輪貰った事か?とりあえずもう一度質問でかえしてみよう!
「指輪を貰った事ですか?」
「ふむ、お主、ワシと契約すると言うたことを忘れたと申すか?」
あら?また質問で返されたよ・・って契約?ちょっとまて!オッサンと契約・・あれ?夢だよね!でも、何で俺の夢をオッサンが知ってんの?
「夕べお主の夢の中で話したじゃろうが。」
「えっ?」
思わず聞き返す俺。オッサンはさも当たり前のように俺の夢の中で会ったと話し出した。
「ワシと契約し、ワシのおった世界へ行くと言うてくれたじゃろう。ワシは嬉しくてのう、早く契約してお主とワシのおった世界へ行こうと思っとるんじゃ。」
ちょっと待て!あれは夢だよな!でもオッサンはその夢の話を俺にしてきてて・・
「あのー。ちょっと聞きたいんですが・・。」
「ふむ、なんじゃ?」
「オッサ・・いや、貴方は俺と俺の夢の中で会ったと言うんですか?」
「そうじゃ。お主も覚えておろう。」
いや!確かに!覚えてるというか思い出したけど!夢だよ?ユ・メ!俺はナニが何だか分からなくなってきた。
「お主、わざわざワシに色々聞いてきたじゃろ?その上で契約すると言ったではないか。今更反故にする気かの?」
「いや、あのですね、俺は夢だと思っていたワケで・・。まさか本当だとは・・・」
だってそうだろ?夢の中の出来事を夢だと思って何かオカシイか?俺の頭の中は混乱し通しだ。
「ふむ、そうじゃのう。確かに夢の中での会話じゃったから夢だと思うのは仕方ないかも知れんのう。ならばジローよ改めてお主に問う。ワシと契約してみぬか?」
「改めてと言われましても・・。夢での会話が現実だったんだとしたら不思議な体験をしたとは思いますが、他の世界とか魔法だとか言われても・・。俺は今まで魔法なんて見たこともないし。・・・ってか、そもそもこの指輪どうして抜けないんですかっ!」
指輪が抜けたらこの状況から抜け出せるような気がしてさっきから頑張ってるんだけど一向に抜ける気配がない。どうなってんだ?
「ジローよ。昨夜も言うた様にそれはワシが封じられとる指輪じゃ。じゃからワシが離れようとせん限りお主の指から抜ける事は無いのじゃ。」
「大体、封じられてるのに何でそんなにポンポン出てこれるんです?」
「おお、これは言い方が悪かったかの。封じられておるというよりもワシがその指輪と同化しとると言うた方が分かりやすいかの。昨夜も言うた様に永遠に近い寿命を持つワシの戯れよ。じゃから普段はその指輪の中におるが必要とあらばこうやって出て来る事も出来るのじゃ。面白いじゃろう。それにお主、自由に往来出来るならみたいな事も言っておったではないか。」
うッ。確かに言ったな、そんなこと。まぁ、いつでも帰って来れるってのが本当ならそんなに拒否るのも何だか悪い気がしてきたよ。夢の中でとはいえ色々質問した上でOKしちゃったからなぁ。でももしこのまま契約?するにしてもこれだけは本当に本当かどうか確認しなきゃな。
「1つだけ質問したいんですが、本当~ッに、何時でも帰って来れるんですね?」
「じゃから言うたじゃろう。ワシの戯れで此方に来とると。自由に往来出来ぬようなら別の世界になど来ぬわい。無論お主の安全は風の女神カルデア様の眷属の名に誓って守ってやるぞい。それにお主、魔法に興味を示しておったではないか。」
うッ!このオッサン、俺の厨二的な所を付いてきやがった。中々ヤルな。確かに、異世界とか魔法とかファンタジーな要素満載の単語には興味をそそられる。いつでも帰って来れるって言ってるしどうせもうすぐ無職になっちゃうからちょこっと位付き合ってみてもいいかな?でも待てよ?俺の寿命まで守るとか言ってなかったか?そもそも契約って途中で破棄とか出来るもんなのか?念の為聞いておくか。
「さっき、俺の寿命まで守るとか言ってましたけど、契約を途中で止めるとかは出来ないんですか?」
「勿論、契約の破棄は出来るぞい。ワシの力を利用して悪事を働く者が出んとも限らんからのう。」
あ~、なるほどね。神様の眷属とか言うだけあって悪い事に手は貸さないんだな。
「それって俺の申し出でも解除出来るんですか?」
「当然じゃ。契約とは双方の合意があって初めて成立するものじゃからの。」
それなら安心だな。世界間の往来も出来て身の安全も保障されてその上契約の解除も出来るなんて何だか出来すぎな感じもするけど俺にとって不利な条件は今んとこ無さそうだし試しに行ってみてもイイかな。
「分かりました。」
「おぉ!そうか!漸く決心してくれたか!この世界ではお主がワシを見る事が出来た初めての人間じゃったで性急に過ぎたかと心配しておったのじゃがこれで一安心じゃな。」
なんだよ、急かしてる自覚あったのかよ。ったく。ということで俺は風の神様の眷族と名乗るオッサンと契約することになったんだけど・・って、このオッサンまだ俺に名乗ってないわ!