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初瀬、殿様やめるってよ

「殿様の初仕事です!!」

「お金でも、エロいことでも、望むがままですぞ!!」

 二人の勢いに押しまくられた初瀬は、とりあえず、顔の前でぶんぶんと両手を振った。


「いやいや、とりあえず落ち着きましょうよ。」

「お言葉ですが、私は至って落ち着いております。父は・・・・・・知りませんが。」

「失礼、150年ぶりに殿様を探し当てた感激で、少し取り乱しておりましたな。」

 権蔵は、右頬を軽く掻いた。

「そもそも、殿様だとか、家来だとか、そんな前時代的な・・・・・・。今は、平成ですよ。江戸時代はとうの昔に終わってるんです。」

「そうおっしゃるのも、ごもっともです。これは、娘から説明させましょう」

「私どもの祖先――桜間伴蔵は、維新に直面し、武士の身分を失った後も、藩主の春島家への忠義を失いませんでした。伴蔵は、誓ったのです。今後、春島家の当主を探し当てるまで、できる限りの蓄えをしておき、探し当てた殿様に役立てていただこうと。そこで、桜間家は、商家となったのです。その後、4代にわたって、建設業を営み、今ではそれなりの規模の会社にすることができました。他にも、いくつかの家臣が同じように、忠義を持ち続けることにしたようですが、明治以後ちりぢりになったようで、現在は、いずれも行方知らず。残念なことです。全ての家臣が揃えば、春島藩の再興も夢ではありませんものを・・・・・・」

2017年に春島藩を再興して、いったいどうするつもりなのか、というツッコミはできなかった。聞くのが怖かったのと、どんどん話がそれて行くからである。


「いや、聞きたかったのは、そうではなくて。維新のときの代の先祖が、殿様に中世を誓う、というのは、まあいいとして。」

 そこは、確かに、分からないでもない。生まれてからずっと武士として生きてきた人間が、大政奉還をしたから、ハイ今日から別の生き方をしてくださいと言われても、納得できない人もいるだろう。

「でも、なんで、その後の代まで、同じ考えなんですか。会長も、それから、権蔵さんも、みんな、戦後に生まれてるんですよ」

「ああ、そのことですか。」

「これは、私からの方がいいでしょうかな。家臣の家に生まれたからには殿様に絶対服従、そんなことは、まこと残念ながら、今の世では通用しないでしょう。したがいまして、私どもの家では、代々、跡継ぎが、判断することになっております。」

「先祖の思いを受け継ぐのか、受け継がないのか。もちろん、今の日本の法律では、個人の行動の自由が守られています。だから、家の思いに縛られずに、自分の好きなように生きるのも自由、というわけです。」

 咲楽は、少し誇らしげに胸を張る。

「つまり、あくまで自由に選択した結果、家の考えに従う、という選択を私はしたわけです。そして、娘も同じ決断をした、ということですな。ですので、この平成の世に、殿様に忠義を誓っても、いささかの問題もございますまい。」

「い、いや、だとしても・・・・・・」

 どこか、おかしい。初瀬は、必死で、そのおかしさを探した。

「ええと、家臣と殿様がいますよね。忠義を尽くしたい家臣がいる、というのは、よく分かりました。」

「恐悦至極。」

 咲楽は、真面目に頭を垂れる。

「でも、それを受ける殿様が、それを断ったら?」

「へ?」

「へい?」

 権蔵と咲楽は、同時に、間抜けな声を上げる。考えたこともなかったのかもしれない。

「だって、桜間家という家臣の家には、家の伝統に従うか、断るかの選択権があるわけですよね。なら、殿様の家だって、伝統を絶って、自由に生きることを選ぶことができないと、バランスが取れないんじゃないんですか?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」

 たっぷり、30秒は沈黙が続いた。そして、権蔵と咲楽は顔を見合わせ――――

「さあ、そんなことは気にせず、再会のお祝いの宴を始めましょうぞ!!」

「ごちそうを沢山用意しております!!」

「いや、勢いでごまかそうとしないで!! 俺は殿様なんて辞めるんだーー!!」

 すっかり薄暗くなった桜間家の庭に、街に、三者三様の叫び声が響いた。

そろそろ、書きためがなくなってきているので、次々回くらいから、更新ペースが下がると思います。

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