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兼部

 時計は午後3時30分を回った。昼休みの成り行き上、放課後に改めて忍者部を訪ねた初瀬であった。が、明弧の着替えのために廊下で10分待たされ、さらに、演劇部に顔を出している市歌を待つため、忍者部の部室で時間をつぶす羽目になった。ちなみに咲楽は、忍者部の備品だという忍者小説を静かに読んでいる。

 初瀬も特にすることはないので、忍者マンガを借りたが――

「春藤さん、ハッドリくんは忍者マンガと言っていいのかな?」

 よく見ると、本棚にはゴルフをする猿の漫画も並んでおり、もはや忍者と何の関係もないように見える。

「同じ作者だから、そこにも忍術の極意があるかと思って。」

「いや、そりゃ確かに同じ作者だけど。それを言い出したら、他にもいろいろあるような。」

「私、FよりA派なの。」

 かみ合ってるのか合っていないのかよく分からない会話をしながら、部室で待つこと15分。ようやく、遅れていた市歌が登場した。ご丁寧に、昼休みに来ていたドレスに着替えてきている。

「みんな、お待たせ―。」

「揃いましたね。じゃあ、始めますね。」

 忍者装束に手裏剣を持ち、気合十分という感じで立ち上がった明弧。

「昼にも説明したように、忍者、忍者道というのは、とっても魅力に溢れているの。極めれば、乙女らしくもなれるし、男らしくだってなれる、それ以外にだってなれる、そんな魔法のようなクラブなの。でも……、」

 そこで明弧は、わざとらしく声のトーンを落とし、

「実は、忍者部は設立以来、最大のピンチを迎えているの。」

 数秒、沈黙が部室を支配する。まだ出来て数か月じゃないか、というツッコミも入れたかったが、そんなことを口にすれば、余計に話が進まなくなることは、間違いない。やむなく、初瀬は、明弧が求めているであろう返答を口にする。

「そのピンチっていうのは?」

「そう、それなの。困ったことに、生徒会から、部員の少ないクラブを統廃合するっていうお達しが来ててね。」

「正確には、理事会でそういう動きをしているから、注意されたい、という注意書きだがな。」

「っていうか、メイちゃん、自分でその文書を作ってたじゃない。」

 容赦なくツッコミを入れる先輩2名。明弧はたちまち泣きそうな顔になった。

「自分で作った文書を、自分のクラブに出さなければいけないその辛さ、先輩方には分かりますか!?」

 確かに、咲楽は剣道部、市歌は演劇部というしっかりしたクラブに所属しているため、我が事として意識することはないのだろう。唯一、草野球部なる怪しいサークルに所属する初瀬だけが、感覚を共有することができるのかもしれないが――

辛い(つらい)です。」

 そんな微妙なボケしか、初瀬には言えなかった。


「それで、メイちゃんはどうしたいの?」

 市歌は、もう茶化すことはなく、明弧に優しく声をかける。

「とりあえず、部員を増やして、顧問の先生を獲得しなければ、忍者部に明日はありません。」

「それはそうだろうが、当てはあるのか。これまでも、勧誘活動はずっとしてきたのだろう。」

 今度は咲楽。

「そうなんです。ですが、全くと言っていいほど……。お願いです! 皆さんも入部してください!!」

「え? 俺たちが?」

「もうこれしか、道はないの!! ね、お願い。助けると思って!」

 徐々に近づいてきた明弧は、とうとう初瀬の腕をつかんだ。初瀬は困惑して、

「いやいや、俺もみなさんも、それぞれクラブに入っている上に、生徒会もあるし……」

「クラブの兼部は認められているはずよ。2つ、3つと入っている子も多いよ。幽霊部員でいいから、お願い。ね、ね?」

 押せば何とかなると判断したのか、初瀬にぐいぐいと詰め寄る明弧。とうとう、腕を絡められ、肩まで初瀬に密着する態勢になった。

 ごほん、と咳払いが一つ。咲楽であった。

「メイ君、落ち着きたまえ。幽霊部員でいいなら、私たちも入ろうではないか。」

「ほ、本当ですか! 会長、ありがとう!!」

 初瀬の腕を放り出して、明弧は咲楽に飛びついた。

「今、ちょっと残念だったでしょ。メイちゃんが離れて。」

 市歌が、ひそひそと初瀬に話しかける。

「いや、そんなことは決して。っていうか、「私たち」ってやっぱり……」

「まあ、入ってるんだろうねー。しょうがないかな。付き合いだと思って、諦めよっか。」

 苦笑する市歌。そんなわけで、

「すごい!! これで、忍者部の部員が4人に増えましたーー」

初瀬たち、生徒会役員一同は、忍者部に入部することになったのである。

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