憂鬱と青いツリー(現パロ・挿絵あります)
メリークリスマス!
バルキウィック組の現パロイラストを、はまぐりさんに描いていただきました。
そこに至るまでの女子二人のカフェデートSSです。
プレゼントにどうぞ。
銀杏並木の葉っぱがみんな黄色くなった。感謝祭の公演が終わったかと思えば、すぐにクリスマスイベントの練習に入る。どんなふうにアレンジしようかな、と考えているときワクワクする。でも、今年はとっても気が乗らなかった。原因は明白だ。
「アル、溜息。どしたの?」
久しぶりに会った友人、ロベルタにも心配されてしまった。
「溜息、ついてた?」
「うん、私が見ただけでも、もう五回は」
そんなに?ああ、やだなぁ。
私は、なんでもないよと笑ってみせた。
ロベルタはバレエダンサーだ。こうやってカフェで一緒に座っていても、彼女の姿勢の良さとか、手の動きの柔らかさとか。眼福である。
それに髪の毛もとっても綺麗。彼女の髪は、濃いブラウンで緩く波打っている。コンテンポラリーダンスの時に、彼女の身体の動きに合わせて、これは生き物のように動く。重力が彼女には作用していないかのような動きに、私はいつも、すごいしか言えない。
「アルは、今年のクリスマス、仕事?」
「うん、昼間は広場のコンサートで、夜はホテルのレストラン」
「そっかー。私も今年はクリスマス、舞台なのよね。くるみ割り人形のあし笛、やるの」
「そうなんだ! おめでとう」
「ありがとう、だから練習の合間でしか出かけられない」
「お互い忙しいね」
「アルのコンサートにも、行きたかったなぁ」
そう言って、彼女はコーヒーを飲んだ。ロベルタの爪は、今日は控えめの赤。白地にグリーンでバラを描いている今日のカップと合わせると、なんだかクリスマスっぽい。
「アル、最近何か、嫌なことあったの? 元気ないけど」
「そうかな?」
「絶対そう。クリスマスコンサートの練習のせい? またアージェと喧嘩した?」
「そうだったらいいんだけどね」
アージェはいつも、私とデュオを組んでくれる高校生の男の子なんだけど、今年の年末年始はずっと彼の師匠について海外に行くことになっている。バイオリンの私とピアノの彼と。意見が合わないときは喧嘩になることも多い。でも今回はそうじゃないから、憂鬱なのだ。
「そうだったらいいって、じゃあ何?」
「今年のクリスマスはアージェがいないの。だから先生が違う人を連れてきてくれたんだけど」
「だけど? 気が合わないの?」
「曲に関しては、まだわかんないな。二回しか合わせてないから」
「変なの、いつも一回目で合わせられるようになってるのに。アルなら」
彼女にじっと見つめられて、私は内心でううん、と唸った。
説明しにくい。
「怖いのかなぁ。その人と同じ位置に立てない。委縮させられてる気がする」
「へえ、アルがそんなこと言うなんて珍しい。ねね、相手どんな人? アルの先生と同じくらい?」
「ううん。もっと若い。ユーリ兄やエリク兄と変わんないと思う」
そう、そのくせ彼は、妙にどっしりとした演奏をする。ジャンニ先生が何を考えて彼を紹介してくれたのか、まだ私には分からない。きっと、越えなきゃいけない何かがあるんだろうなっていうのは分かるんだけど、あと一か月。クリスマスまでにそれがつかめる気がしない。
私の先生は、できないからって怒ったりしない。でも演奏について考える、という点においては、とても厳しい人だった。
彼の演奏と私の演奏の違い。それをちゃんと考えろ、と暗に言われていることは確かだろう。これで私の演奏に変化が出なければ、見放されそうだ。彼と組んで弾くことよりも、そっちのほうが怖い。
そんなことを考えていたら、ロベルタがテーブルに出していたスマホを取り上げていた。
「その人、名前はなんていうの? 結構有名?」
「さあ。有名かどうかはしらないけど、先生の親戚なんだって。ルカ・イングラシア」
ロベルタがスマホで彼の名前を検索し始めたので、私はミルクティーを飲んだ。だいぶ温くなっている。そんなに時間がたったのだろうか。ふと見たカフェの時計は、もうすぐ夕方の四時になりそうだった。この後六時からまた練習。今日はルカと合わせる日だと思うと、本当に憂鬱だ。
「イケメンじゃない!」
スマホを見ていたロベルタがびっくりしたように言うので、
「ロベルタ、声。あと、それ絶対に、エリク兄の前で言わないでよ」
「分かってる。うわ、経歴もすご」
画面を食い入るように見ているけれど、実物に会ったらそんなこと言えないと思う。
「アル、こんな人と一緒に演奏できるなんて、そうそうないんじゃない」
「……ないかもね」
「じゃあ、何がそんなに不満なの?」
「その人、性格がめっちゃ悪い」
その後、かいつまんで練習の様子を説明したら、ロベルタにはだいぶ哀れまれた。私の憂鬱は間違ってない。全然、自慢にならないけど。
カフェを出て、練習場の近くまで彼女と歩いていると、
「ねえ、アル。クリスマスにしたいことって、何かある?」
「クリスマスは仕事だって」
「そうじゃなくって。当日にはできないけど、その近くの日に、やりたいことやらない?」
ロベルタが柔らかく笑んでいる。日が沈んだ後の夜までの余韻の中で、彼女はとっても優しい提案をしてくれている。
だから、私はそれにのることにした。
「ありがと。そうだなぁ、クリスマスツリー見に行きたい。とびきり大きいやつ、みんなで」
「オッケー。エリクとユーリ兄にも相談しとくね。練習、行ってらっしゃい」
「うん、ロベルタ。めっちゃ好き。私頑張るね」
どうでもいい現パロ設定
アルフォンシーナ バイオリン弾きの卵。
ロベルタ バレエダンサー。コンテンポラリーダンスが得意です。
エリク ロベルタとこっちの世界でも付き合ってる。絵師さんとは、彼はガテン系だろうという話に笑
ユーリ たぶん、こっちでもアルが好きだと思うので、頑張ってほしい。