Buon natale (アルフォンシーナ)
Buon Natale!
本作、イタリア語を基調にしておりますので、クリスマスのご挨拶もイタリア語で。
恋人同士の話ではなく、家族のお話。
登場するのはバルキウィックの幼馴染四人組です。久々に四人揃ったところが書けました。
本編より5年ほど遡ります。お楽しみいただければ幸い。
冬に体が慣れてきた時期、ヴィルラント王国ではナタレを迎える。
ナタレは春の花祭りと秋の収穫祭、九の月の建国祭に並ぶ大きな祭りだ。
祭りの日は女神が国に現れた日だとされていて、建国祭が初代の王の色である赤をメインに使うのに対して、ナタレは女神の色である水色をメインに飾り付けされる。
王国唯一の貿易都市バルキウィックでも、この日の半月ほど前から飾り付けが進んでいた。そして当日、どこの通りでも水色のリボンや布を使った飾りがされていて、いつもは雑多な雰囲気の異国通り(エステロストラーダ)にも一種の統一感が作られていた。
その通りから一本入った裏通り、小さな魔道具店の表にもナタレの飾りがされている。
この店の主人である魔女は教会となるべく関わらない方針をとっている。そしてナタレだけは他の祭りと違って教会の色が濃い為、本人も森の家に引きこもってしまい店も閉まっている。
表の飾り付けをするアルフォンシーナは、せめて魔女が好きなものをと、毎年水色のリボンと一緒にネーヴェアルジェントをモチーフにした飾りを一緒に取り付けることにしていた。
水色と白銀色とが混じった飾り付けは、アルフォンシーナがやって来た数年前からこの店の特徴にもなっていた。
こうやって飾り付けをするのはもう八回目かなぁ、とアルフォンシーナは店の扉の前で、自分がつけたネーヴェアルジェントの花をぼんやりと見ながら思った。
今日はナタレ。
店は休み。
魔女も森の家にいる。
六つのとき、魔女に拾われた年ですら、ナタレに森の家に近づくことを許されなかった。
この日は魔女にとっても特別な日らしい。
あの年だけは、カミラの家に預けられたけれど、それ以降はずっとナタレには孤児院にいた。
兄たちが独立してからは、特に仲の良い四人で食事をしていたけれど、それも三年目の今年は潰えてしまった。
いや、そういうと語弊があるな、とアルフォンシーナはかぶりを振って店の表から中に入る。
十五歳の彼女は、まだ成人までに三年ある。
それが、こうやってナタレの日に一人でうろちょろしているのには訳があった。
彼女の養い親である魔女のヤナは、家族と呼ぶには少し躊躇するくらい、アルフォンシーナときっちりと線引きをしていた。
他人にアルフォンシーナのことを紹介するときは便宜上「娘」という言葉を使っていたが、それが世間一般でいう娘とは違うものだと、彼女ももう分かっていた。
自分を拾ってくれた人は、ちゃんと面倒を見てくれたし、独り立ちできるように色々と教えてもくれる。書類上も養子となっているけれど、期間限定だと事あるごとに刷り込まれていた。
いつか来る別れのためにお互いに必要な事なんだろう、と理解はできるけれど。
ナタレの風習として、基本的に家々で女神を祭り、家族と共に過ごす、というものがある。
他の三つの主要な祭りと違って、派手なイベントはないのだ。
ヴィルラント教の敬虔な信者だって、教会に出かけるくらいで、特にバルキウィックでは教会自体も小さく、他のところのように教会主導で何かしたりということもない。
王国だと、バルキウィックがある此処アッカルディと、あとは女神の上位に月を祀るヴァレーダ。
この二箇所のナタレは他のところに比べて特にひっそりとしているようだ。
信じてないわけじゃないんだけど、とアルフォンシーナは誰ともなしに言い訳のようなことを考える。
魔女の存在が近くにあり、自身も魔人の眷属である彼女は、女神が天地創造の神々とは違う存在のように感じていた。
天地創造の神々は、どちらかというと空想に近いものだけれど、女神は現実に近いのだ。
店の中に入ったアルフォンシーナは、毎年のようには、大きな机を出さなかった。
これは今年は必要ない。
ナタレには肉の塊を焼くのが定番だったけれど、エリクがこない今年はそれも要らない。
家族で過ごす、という事が、今年は彼女に少しの寂しさを呼んでいた。
彼女はまだお酒を飲まないので、ナタレ用に売られているハーブティーを準備した。
そしていつものようにサラダと、ウサギリンゴ。
大きな肉の代わりに、スライスしたベーコンを焼く。
簡易なポタージュと、それに浮かべるためのクルトンと。
今年はこの簡易なキッチンでも楽々準備できるな、なんて思いながら。
一人分よりはだいぶ多い量の皿を、表の接客用のテーブルに並べる。
カウンターには、食事後に食べる予定のカミラクッキー。
見た目だけでも華やかに、と一応そのテーブルの周りだけナタレの飾り付けをしてみたのだが、見事に店の中でそこだけポツンと浮いている。
思ったよりも呆気なく準備が終わって、その手ごたえのなさに溜息をついた。
冬だというのに、窓の外がまだ明るくて、準備を始めてからそれほど時間が経っていないのがよく分かる。
例年ならロベルタと喧しく喋りながら準備していたことを思い出した。
喧しければちょっとは気が紛れるだろうか。
軽い気持ちで楽器を出して、気分が乗るような曲をあえて弾いてみる。
ロベルタが踊ってくれそうな舞踊曲を思いつくもの片っ端から総なめにしていく。
耳に残る彼女の靴音。
仕事で踊り手と伴奏として度々彼女と組むので、あの硬質で品の良いステップを刻む音は、すんなりと記憶から再現できる。
木質の硬い床を蹴るとき、たとえ素足であっても、ロベルタは容赦ない。
それは彼女の矜持でもあるのだろう。
ロベルタの過去に関して知っているのは、その年齢と親がいないということだけ。
本人が話さないことを根掘り葉堀り聞く趣味をアルフォンシーナは持たない。
だからなのか、彼女の事をたくさん知っているわけではないけれど、長く友達でいられているのかもしれない。彼女がなぜ踊り手になったのかは分からないが、彼女自身が決めた事だし、それに合っているからいいんだろう、と結論づけた。
彼女の練習に付き合って、一日中バイオリンを弾いたことを思い出す。
贅沢ね、私。
そう言って、休憩中。水を飲みながらロベルタは、踊りに似合わぬ柔らかさで笑っていた。
どれくらい、そうやって弾いていたのだろうか。
不意にアルフォンシーナの脇を、覚えのある魔力を帯びた術式が軽やかにすり抜けていった。
そして、彼女にほど近い所にあるランプが一つ、煌々と光りはじめる。次々にそうやって、店の明かりが点いてゆき、すっかり暗くなっていた室内が柔らかく照らされる。
演奏をやめて入り口を振り返ると、外套を腕にかけてユーリが立っていた。
太陽は一日の仕事を終えて沈む所で、気がつけば、ユーリが灯りを点けてくれていなければ、目を凝らさないと室内がよく見えないほどだった。
「よく集中していたんだね。こんなに真っ暗な中、弾いてるのが舞曲だったからどうしたのかと思った」
そう言って、彼は勝手知ったる所という様子で、外套をパサリと椅子の背にかけた。
「今晩は。暗くなってたの、全然気づかなかった」
楽器を肩から外して、アルフォンシーナは何かを誤魔化すように笑う。
暗くなっていたことは、意識のどこかには引っかかっていたが、特に重要ではなかったのだ。
カタリ、とバイオリンを店のカウンターに置く、弓も。
「リカルド様の方は、もういいんだね」
まあ座って座って、と先ほど料理を並べた所の椅子を勧める。
実際ユーリは店に来ると言っていたけれど、彼の立場を考えれば本当に来られるかどうか、アルフォンシーナには確証がなかった。それで、こんな中途半端な準備になってしまっている。
十五歳から三年間、王都に行っていたユーリは、バルキウィックに戻ってからリカルドの跡を継ぐために領主補佐として務めていた。そして、リカルドの養子でもあるから、本来ならナタレはそちらの家族と共に過ごすはずなのだけれど。そう思って彼を見ると
「リカルド様には許可はいただいているし、それに私が来なければ、アル、一人だろう?」
「いや、ネロがいるから……」
兄の秘色色の瞳に見られるのを避けて、店奥にあるものを取りに行こうと背を向けると、
「嘘」
と、短く言って笑われた。密やかな兄の声は店の中で何故かよく通る。
店奥に行くための扉の前でアルフォンシーナは眉尻を下げて、ユーリを振り返った。
「なんで分かったの?」
「アル、自分で言ってただろう。最近夜でもネロが帰って来ないって」
そんな事言ったっけな。でも、ネロが夜に帰って来ないのは事実。兄がそう言うのだから、多分そうなのだろう。目を細めるユーリに、ちょっと待ってて、と言い残して一旦店奥に入る。
ヤナが、ナタレに兄たちが来るなら、と置いていったワインがあるのだ。エリクはいないけれど、開けても大丈夫だろうか。ボトル一本、ユーリは飲みきれるのかな。
そんな事を考えながら、グラスと栓抜きと一緒にそれを持って、テーブルのところに戻る。
「これ、ヤナさんがユーリ兄とエリク兄にって。飲めそうだったら開けて」
その、飲めそうだったら、というのにはもう一つ理由があった。ヤナの置いていったこのワイン、ハルキノ産のものなのだ。ユーリから直接聞いてはないけれど、彼がヴァレーダの本家に近いところ出身の人なら、嫌なんじゃないかなと思ったのだ。
ラベルを一瞥してユーリが、いただくよ、と言ったのでアルフォンシーナはほっと胸を撫で下ろした。
じゃあ、食事の準備するね、先に飲んでて、と彼女はそそくさと奥に戻る。
気持ちが不安定な時にあまり兄たちの前に居たくはない。
今日ここにいないエリクも合わせて、二人とも、何故かこちらの気持ちに聡いのだ。
一人減ったからと言って、その能力が減るわけでもなく。
ざわざわとした、言いようのない不安を落ち付けようと、ポタージュに火を入れてかき混ぜる。
どろっとしたクリーム色の水面にプツプツと現れる泡を、おたまで混ぜながらつぶす。
だいたい、兄たちは優しすぎるのだ。
こちらの足元を不安定にしてくるくらいに、どろどろに甘い。
独り立ちを阻害をしてるんじゃなかろうか、と勘ぐるくらいに。
ヤナみたいにある程度突き放してくれる方がいいな、とポタージュが温まる頃には、アルフォンシーナの気持ちは概ねいつも通りになっていた。
温かいものと、いい匂いと。
あと、誰か気の許せる人が近くにいるというのは非常に大事だと、うんうんと頷く。
スープを持って店表に戻ると、ユーリは一人でボトルの三分の一くらい飲んでしまっている。
「ごめんね、遅くなって」
そう言うと、ユーリは真っ直ぐの髪をさらりと揺らして、いいよ、いつもと違うんだから、と首を横に振った。ユーリに会わなければ馴染みがなかっただろう彼の白金の髪が、橙の光に浮いている。
スープを並べて、一緒に準備したナタレのハーブティーも自分のところに置く。
来年はどうなんだろうね、とアバウトに聞けばユーリは、まだ今年の食事も始まってないのにそう言うこと聞くの、と苦笑した。
「大丈夫、また四人に戻るよ」
そうなんだろうか、とアルフォンシーナは首をかしげた。兄はどうやら確信を持ってその言葉を紡いだらしい。スープから立ち上る湯気を見つめてうっすらと笑んでいるので、彼女はなんとなくその表情に納得した。
お祈りを済ませて、二人でナタレの食事を始める。
ナタレにしては質素だけれど、気心知れた兄との食事は穏やかに進む。
いつもはここにエリクとロベルタがいて、ユーリはどちらかと言うとあまり喋らない。エリクが喋りすぎるせいか、彼の暴走をやんわりと止める為にいるかのようなのだけれど。
「アル、最近ジーナさんからってどんな課題が出てるの?」
「地域の色が強い曲。今は王国中央。前までは南部のこの辺りやってたけど」
「へえ」
食事が終わったら聞かせてくれないかな、とグラスを傾けながら、兄は言う。
エリクの豪快さに消されがちだけれど、ユーリもお酒は強いし、エリクがいなければ普通に喋る。
ワインのボトルがほとんど空になっているのを見て、次の持ってこようかと聞けば、もう少ししてから、という答えが返ってきた。兄が笑みを深くしたのには気づいたけど、理由は分からなかった。
ほとんど食事を終えて、机の食器を下げる。
ユーリも手伝ってくれて、いつもより数の少ない皿は、瞬時にテーブルから姿を消した。一度卓の上を拭いて、今度はカミラクッキーとお茶を準備する。
何をやっても例年より時間がかからなくて。ユーリがいてもそう思うのだから、もしこれで一人だったら、ちょっと泣いてたかもな、とアルフォンシーナは密かにため息をついた。
それは彼女としては何気なくしたことだったけど、意識して店奥でやるべきだった。
「どうしたの、アル」
目ざとく兄にそう聞かれて、アルフォンシーナは何のことか分からずに、瞬きを数回して彼を見つめる。今、ため息をついただろう、と言われ、そうだったかなと思うくらいには、意識していない行動だった。
「寂しい? 二人がいなくて」
兄が苦笑する。
クッキーを並べた皿から手を離し、体を起こして、再度椅子に座る兄を見た。
「ユーリ兄は?」
そう聞くと、いつもよりはね、とさらりと返される。
その答えに自分だけが、このふよふよした気持ちを抱えているのではないとわかって、何故かホッとした。
「いつか、こういう時は来るんだろうと思ってたし、それが遅いか早いかだけの違いだっていうのも頭ではわかってるんだけど」
何がとは、言わなかった。
言わなくても、きっと兄はわかってくれるだろうし、それが目の前にいる兄にもいつか当てはまるのだということをハッキリとは口にしたくなかったのだ。
勿論、自分にだって当てはまるかもしれないけど、顔の魔術痕は、四人が作る偽りとはいえ家族のような関係を、その他の誰かと構築するには結構な障害になるだろうと思っている。
「二人が、本当に『そう』なるっていうことには、ちゃんと良かったなって……」
そこまで言った時、ユーリがすっと立ち上がった。
最後まで言葉を続けないうちに、兄に抱きしめられる。
「アル、本当に、じゃないよ。私たちはもう今までだって本当の家族だっただろう?」
少なくとも私はそう思っていたけれど、と普段と同じトーンで言われる。
抱きしめられている所為で、兄がどんな顔をしているのか分からないけれど、アルフォンシーナの後頭部に添えられた彼の大きな手。その五指にいつもより力が込められているのを感じた。
そのまま、お互い何も言えずに時間が過ぎる。
ふっと、彼の指の力が抜けて、ユーリはアルフォンシーナよりだいぶ大きな体躯を起こした。
「大事なのは血の繋がりとか、紙の上の契約の話ではないんだよ。少なくとも、私にとってはそんなものより三人の方が大事だ」
兄の口から出た『そんなもの』という発音が、いつもの彼には似合わぬ粗野な響きで、彼女は少し驚いた。
目を見開く彼女の頭をポンポンと撫でながら、柔らかく彼は言う。
「大丈夫、アルが嫌にならない限り、私たちがアルを一人にすることはないよ」
その言葉に思わず息がつまる。
真っ直ぐに兄を見れなくて、アルフォンシーナは俯いた。
何で、この人は自分が欲しいと思ってる言葉がわかるんだろう、自分ですら言われるまでそれが欲しいなんて分からなかったのに。
喉の奥が熱くなって、うまく返事ができない。
視界には兄の足と自分の足、そして四つの靴が踏みしめる床に張られた木の板が入る。
薄暗い中でも、年季が入っているだろうそれの木目がうっすらと、穏やかな水面のように見えた。
ユーリは優しく頭を撫でてくれる。
確かに、彼に言われるように、この手の行動に意味を求めれば家族になるだろう。
欲しいと思っていいのだろうか。
ユーリがくれた言葉をそのまま受け取っていいのだろうか。
その問いかけは音にはできず、ただ、それに答えを与えられるのは自分の意思だけなのだと分かっていた。
ようやく、ありがと、と口にすれば、頭上でユーリが苦笑した。
「食事の時に言ってたの、落ち着いたら弾いてほしいな」
そう言われて、アルフォンシーナは俯いたまま頷いた。
ユーリが椅子に戻って座る音をきっかけに、アルフォンシーナもカウンターに置いた楽器を手に取ろうと顔を上げる。
そこに、いきなり店表の扉が勢いよく開いて、
「Buon Natale!」
「ロベルタ!?」
今日、来ないはずのロベルタ、それにその後ろからエリクが顔を出す。
「来ちゃった」
そう言いながら、彼女は走り寄って来てアルフォンシーナに抱きつく。
自分より大きなロベルタに飛びつかれて、その勢いを受け止めきれずに、アルフォンシーナは床に倒れた。
「あら、ごめんなさい」
その言葉とは裏腹に全く悪びれもない様子で、彼女はクスクスと笑いながら、それでもアルフォンシーナにぎゅっと抱きついた。
「どしたの?」
「エリクとの食事の後にね。ナタレの市で、アルが好きそうな焼き菓子見つけちゃって。そしたら、急に会いたくなったのよね」
抱きついたまま、ロベルタはエリクの方を見る。それにつられて、そっちを見ると大方荷物持ちにでもされたのだろう。いくつも抱えた袋を、カウンターに置くところだった。
ロベルタはそのカウンターにバイオリンが置いてあるのを見つける。
「アル、弾くの?」
「うん、ユーリ兄と言ってたのはナタレの曲じゃなくって、ここら辺の曲だけど」
「いいわね、私も聞きたい」
そう言いながら、ロベルタは起き上がって、さっきまでアルフォンシーナが座っていたところにちゃっかりと腰掛ける。そんな彼女に、上着くらい脱いだらどうですか、とユーリが呆れ顔で言った。一度立ち上がって外套を脱ぐロベルタ。近くに来ていたエリクがいいタイミングで、彼女の脱いだ外套を受け取って自分の分と合わせて入口近くの椅子に背もたれにかけた。
その光景を、ああ、いつも通りだ、とアルフォンシーナは床に座り込んだままぼんやりと眺めた。
「おい、いつまでそうやってボーッとしてるんだよ」
外套を椅子の背に置いたエリクが、近くまで来て手を差し出す。
それを掴めば、ふっと引き上げられた。
「アル、さっき言ってたワインのボトル、まだ奥にあるんだろう?」
立ち上がると、ユーリからそう声が掛けられる。それに頷くと、
「エリク、貴方も飲んでいくでしょう?」
珍しく、ユーリから誘いの言葉をかけた。
エリクはそれに勿論、とニカッと笑って返す。
「じゃあ、もってくるね。あ、ロベルタはハーブティーでいい?」
「うん、お願い」
おっとりと笑う彼女の向かいで、ユーリがこちらを見ている。
兄は、こうなることを予想していたのだろうか。
大丈夫、また四人に戻るよと言われた時には、来年のことだと思っていた。
こんなに早く、また四人で集まれるとは予想していなかったのだ。
ワインのボトルとハーブティーを持って戻ると、机の半分はお菓子で埋まっていた。
兄たちの方は簡易な酒の肴。
ああ、飲む気満々で来たんだな、と思うとなんだか嬉しかった。
家族で過ごすナタレの夜は特別で、それが女神が現れた日だとかはどうでもよくて。
ただそれを口実に、こうやっていつまででもみんなで集まれるといいなと思った。
家族の形は変わる。
それを受け入れることをしながら、そうだな。とアルフォンシーナは考える。
潰えても、その痛みを抱えては進めるだろうけど、できれば誰か別の人が混じったりとか。そっちのほうの希望を持ちたいと思ったのだった。
お読みいただきありがとうございました。
良いナタレをお過ごしください。
年内にまた更新できますように。