アンドロイドは眠らない。
ここは、まるで他の世界から切り離されたかのように熱く乾燥した荒野だ。
そんな荒野の中で広く広大な採掘場がある。
その採掘場の中に、この場所にてんで似つかわしくない、小さめの小屋がポツンと一軒だけ立っていた。
看板をよく見ると、これまた少し小さめの字で[マナ 研究・開発所 ]と書かれている、
どうやらここはマナと呼ばれる物の研究所らしい。
だがしかし、この大きさで研究所とはどうしても頼りなく感じてしまう。
この広大な荒野の中の広大な採掘所の中なのでそう感じるのかも知れないが、
まるで小人の家のように小さいのだ。
そんな事を小屋の前で考えていると、小屋、、、元い、研究所の中から声が聞こえてきた。
どうやら外見に、スピーカ等の機械類が見当たらない所を見ると、
内側から聞こえてくるようだ。
『お帰り!ウィズだよね?今ゲートを開けるから待っててくれ。』
『少々お待ちください。
確かに私はウィズですが、今お客様と思われるお方が来ております。』
そう言って、ウィズと呼ばれた彼女、、、
(と言ってもアンドロイドだが)が私の方を見つめる。
どうやら今、施設の中にいる彼が、彼女の瞳を通して私を見ているのであろう。
『やあ!もう来たのかい!今扉を開けるよ。
こちらから招待しておいて迎えも出さないで済まなかったね。』
施設の中から、古い友人の懐かしい声が聞こえる。。。
どれ久しい仲だ、挨拶でもしておこう。
『ああ、迎えが無いので何時来てもいいだろうと思ってね。
本当は連絡くらい入れたかったのだがこの辺りでは珍しい型の、、、
いや、いつか君と一緒にいた彼女がいたのでね。
声をかけたらやはり君の助手だったのでここまで連れて来て貰ったんだよ。』
『そうか!
そう言えばウィズが買出しに行ったのは君が降りる駅の近くだったね。
いやぁ、早速ウィズが役に立ってくれてよかったよ!』
『マスター、
長話も宜しいですがそろそろお客様の体温が上がってきております。
これ以上外に居りますと、
お客様を不快な気分にさせてしまう可能性がございます。』
挨拶が終わったのを見計らって彼女が嬉しい事を言ってくれた、
今私は喉が渇いてきた所だったのだ。
流石は研究所のアンドロイドなだけはある、気遣いも出来るとは驚きだ。
『おおっと、済まない!来させた上に私のせいで体調を崩されてはマズイな、ありがとうウィズ。
直ぐにそこを開けるよ、ちょっと待っててくれ。。。。。。?
あれ?おかしいな、、、ウィズ、もしかしてまたドア壊れてる?』
『私が見た所、どうやらこの辺一帯に生息するスナネズミに、
動力用の電力ケーブルを切られたようです。』
『あちゃ~、、、君の充電ケーブルの次はドアか、、、困ったなぁ、、、』
『ご安心くださいマスター。
ドアのロック自体は解除されたようなので、私が開閉することは可能です。
そして充電ケーブルは、もう二度とマスターがコーヒーなどこぼさない限り、
外に干す事も、砂ネズミが齧る事も無いので安心です。』
『ぐ、、、い、いやあれは、、、本当にすまなかった、、、』
『いえ気にしていませんよ、私はあくまで機械です。
充電の為に熱く、不衛生な外に長時間さらされても、何も思いませんし、文句も言いませんよ。』
そう言いつつも目を閉じ、言葉にトゲがある以上、かなり怒っているようだ。
『どうぞお入りください、お荷物は私がこのままお運びしましょうか?
大事な書類だけでもお渡ししたほうが宜しいでしょうか?』
『おっと、すまないね、では前から二番目のポケットに入ったファイルだけ頂こうか。』
『これですね、、、っ、申し訳ありません、間違えました、こちらのファイルですね。』
そう言って急にウィズが顔を背ける、、、ああそう言えば前と後ろでは区別がつかんな、、、
と思った時後ろの二番ポケットに入れていたグラビア雑誌を思い出し、納得した。
『、、、見た?』
『申し訳ありません。』
『、、、はぁ、、、いや済まない、こちらの配慮不足で不快にさせてしまったな。』
『大丈夫です、それよりもお飲み物はコーヒで宜しいですか?』
『ああ、、、』
『どうかなされましたか?』
私が何か言いたそうなのを察したのか、ウィズが声をかけてきた。
『君にこんな事を言うのは少し失礼かもしれないが、
アンドロイドも今ではまるで人間のように対応できるのだな、、、
彼の最初の願いは叶えてやれているのか?』
『今の私のメインリクエスト(いらい)は博士の研究の補助、又は記録です。
多分ですがしっかりと、こなせていると思います、、、自身は無いのですが。』
『いっいや、私が聞k、、、、、
ああ、そうか、、、いやよくやっているのなら心配ないな。
彼はそそっかしい、しっかりとサポートしてやってくれ。』
『かしこまりました。』
『それにしてもずいぶん長い廊下だね、、、
あの小屋からは想像できない長さだが、、、もしかして今地下にいるのかい?』
『はい、今現在地上から約15M地下にいます。
ですがご安心ください、もうじき扉が見えて来ます。』
『ああ、あれかい?それにしてもどうせ地下にするなら
あの小屋は要らなかったんじゃあ無いのかい?』
『、、、その経緯はマスターよりお聞きください、、、私の口からはお話出来ません。。。』
『?そうかい、、、まあ後でアイツに聞くとしよう。』
(実は最初マスターがあの小屋で研究するつもりだったなんて言えない、、、)
(どうせアイツの事だからあの小屋で研究出来ると思ってたんだろうな、、、)
『着きました、この中にマスターがいると思われます。』
そう言いつつウィズは今到着したばかりの扉をノックした、
そして、今まで静寂に包まれていた廊下に、
「ゴン!ゴン!!ピシッツ、、、パラパラ」と言う轟音と、ひび割れたドアのかけらが舞う音がした。。。
そして部屋の中から『ヒッ!』と言う噛み殺した悲鳴が、、、
『、、、ど、どうしたんだい!?急に!??
そんなに強く叩いたからドアが半壊しちゃったじゃないかい!』
『、、、、、あ、、、、、い、、いや、、、、はぁ、、、、、、。』
男が大声を出して質問するが、ウィズは口をパクパクし蹲ってしまった。
どうやら彼女も予期せぬ事態の様だ。
『、、、まぁその、、、
私も今大人気ない声を出してしまい、済まないと思うが、
普通人間は誰でもいきなり隣のおしとやかな見た目の、、、すまん、訳が分からんな、
つまり!いきなりこんな事をされたら誰でもああなる、って事だよ。』
(それよりこの子の体どうなってんの!?厚さ50cmはあるよこの鉄の扉!?
それを半壊ぃ!!?どんだけ無駄にパワー持ってんの!?)
『、、、何があったんだい?私も驚いただけだ、別に怒ってないよ。
それにドアの事だってちゃんと訳を話せば彼は許してくれるさ。』
そう言って男がウィズに優しく語り掛ける。そしてやっとウィズが顔を上げた。
『一体何があったんだい?もしかして彼に何かあったのかい?
さっき君は彼がここにいると思われる、と言ったよね?もしかして今彼はここに居ないのかい?』
と言いつつも、男は機械である彼女が取り乱す程の事が起きているのではないか、
と気が気でなかった。
だがしかし、ウィズが出した回答は、想像の斜め上にぶっ飛んでいた。
『、、、いえ多分マスターは中にいると思われます。
と言うのも、マスターは私が外から返ってくると、
いつも、GPS装置の電源を切り、
家具や機械の裏から私を脅かそうと飛び出てくるのです、、、
確かに一度、廊下に隠れて後ろから脅かそうとされた事はありますが、、、、』
(、、、、、ふぁ!?、、、、、いやいやいや!アイツもう直ぐ20になるくせに何やっとんの!?
、、、、、4年前から相変わらず変っとらんなぁ、、、)
『そっ、それで、、、お客様がいるのに今日もか、と思うと情けなくて、、、
いや、、、言い訳ですね、、、こんなの、、、失礼いたしました、御無礼いたした上に、
ご友人の前でマスターを言い訳に使うなど、、、申し訳ございませんでした。』
そう言ってウィズは深々と頭を下げた。
『、、、い、いや、、、いいんだ、彼のその行動は愛情表現みたいな物だからな、、、
私も御偉い方がいらした時に同じ事をされて泣きたくなった事がある。
しかし驚いた、君にはまるで母親のような感情が有るのだね、、、
私ももしあれが息子だったら、号泣しながら顔が判らなくなる位に殴り続けていや止めて置こう。』
『、、、違うんです、、、確かにマスターも情けないとは思いました、、、
ですが強く扉を叩いたのはマスターのせいじゃ無いんです、、っく、、、本当に自分が情けない、、、。』
『いや、人間としてその気持ちは解るぞ。
確かに彼に悪気はない、だがな、これは彼のせいなんだ。
人は、脅かした後に、
もしかしたら相手が転んで怪我をするかも知れない。とか、
誰かと一緒だから大恥をかくかも知れない。と考えないといけないんだよ。
これは彼のせいだ、君もアンドロイドだからと彼をかばう事は無い、彼も成長する日が来たんだ、ね?』
『、、、お気遣いどうも有難う御座います、、、ですが本当に違うんです、、、
本当の、、、本当の原因は、、、
さっき扉を開けた時からハイパーモードを起動しっぱなしだった事に気付けなかった私にあるんです!』
そう言って、ウィズは自分の中で思考の制御が出来なくなり、
とうとう口をポカンと開けて倒れてしまった、、、
(、、、前言撤回!、まったくもって予期せぬ事態じゃ無かった!
コイツ、、、アイツそっくりになってしかもチート性能持ちぃ!?、、、
とんだうっかり殺人兵器が出来てしまった様だ、、、、はぁ。。。)
そう考えながら、男もウィズの隣で膝を着いて虚空を見つめる事しか出来ないのであった。
そんな中「ガコン!グキイィィィ!」と、
まるでドアとは思えない音を立てて部屋の中から扉が開けられた。
びくびくと怯えながらマスターと今まで呼ばれていた青年が出てきたのだ。
『、、、、、ふっ、二人ともっ、、けっ怪我は無い?、、、いっいやウィズは怪我じゃなくて故障?
、、、とっ取り敢えず、、、先生の時に学んだ積りだったけど、
やっぱり誰かと一緒だとやっちゃ駄目なんだね、、、うん、納得。』
そう言って二人から反応が無い事を確認し、抜け殻に背を向け半壊したドアを改めて確認した。
(これがとんでもない間違いだとは知らずに、、、)
『あちゃぁ、、、中からは良く解んなかったけどこりゃ酷いな、、、改修に幾ら掛かるだろう、、、
ちょうど気密性アップも兼ねて、その辺を変える積りだったんだけど、、、こりゃ買い換えかな?、、、
それにしてもメディアに知れたら大変だな、、、最近ただでさえ反アンドロイド勢力が多いのに、、、
まぁ流石にここの監視カメラはいくら情報収集専門のクラッカー(PCとかに詳しい悪い奴)でも
セキュリティーを破るのは多分、、、いやでも僕こういうの苦手だからなあ、、、』
そう言った直後だった!後ろから男が彼を取り押さえる。
『ふわ!なっ、何するんですか!先生!離してくださいよ!』
『だまらっしゃい!お前なぁ!あの時の事を忘れていたならともかく!覚えていただぁ!
しかもこの反応じゃ、どうやら君が暴走することも想定外じゃ無かったようだよ!え!?
どう思うウィズ君!このバカで愚かなマスターさんにはお仕置きが必要じゃあ無いかね!』
『いっ、いやぁ、、、あの時とこの時じゃ、
元々親しいって意味で違うじゃないすかぁ、、、ウィズお願い助けて?』
『お客様、マスターを御放し下さい。』
『さっ、流石ウィズ!賢い助手を持って僕は幸せだよ!』
『こっ、コヤツゥ、相手が命令に背けん事を良い事にぃ!ウィズ君!考えたまえ!君が今なすべき事を!』
『残念でしたね!先生、ウィズには拒否権を持たせてあるので本当に嫌ならちゃんと断るんですよ!
さぁウィズ!先生を怪我をさせない様に談話室へ運んで!』
『?、、何を言っているんです?マスター??私はもう疲れました!
貴方が私に行う予測不能の行動に!
放して下さいと言ったのは、私が速やかにマスターを移動させるためですよ!』
『フッフッフ、、、いやぁ君は実に優秀な部下を持ったなあ、ビス?
私は数々の、イエスマンだけを部下にし、失敗した人間を山ほど見てきた。
だが彼女がいれば君が今回のような下らない失態を犯す事は無いだろうなぁ。』
そう言いつつ、ビスと呼ばれた青年は手を放され自由になった、だがしかし、
ビスの目の前にはウィズが怒りに肩を震わせ仁王立ちしているのだった。
『さぁ行きましょうマスター、いつも私が寝ているベットへご案内いたします。』
そう言ってにっこりと笑ったウィズを見て意図を理解しウィズが何をするのか分った男は、
少し肩を強張らせつつ、『余りやり過ぎん様にな』と言った。
『さぁマスター、私のベットの寝心地が気になるって確か言ってましたよね?
良かったじゃないですか、今日ご自分で寝て確かめられるじゃないですか!』
『良かったじゃないかビス、乙女の寝床に行けるんだ、ある種の人元からすればご褒美だぞ?』
『な、何をする積りだ!ウィズ!?ちょっと!!?ま、まさか、、、おいおい止めてくれよ!?
ベットって言ったって!君のベットには・・・』
『着きましたよマスター?今日はここでグッスリお休みになってくださいね?
少しビリビリするかも知れませんが、まぁ、、、死にはしませんよ(多分、、、)』
『多分!?待ってくれ!君の!君のベットは!、、、
君のベットは寝るベットじゃなくて!アンドロイドの充電用だろ!』
『まあまあ、ビスよ、これも社会勉強だ、
アンドロイドがいつもどんな場所で眠るのか、勉強して来たまえ。』
『安心してください?マスター。流石に電流は緩くして差し上げますよ。
大丈夫ですよマスター、人間そうは簡単には死にませんから。』
そう言ってウィズはニコっと笑い、ビスをベットに寝かしつけるのだった、、、
『装着完了ですね!いやぁ懐かしいですね、、、私たち機械も一応感覚はあるので痛い物は痛いんですよ、
なので、体が勝手に動かない様にこうやってしっかりと体を固定するんですよ♪』
『ウィ、、、ウィズ!?ちょっと待って!』
『待ちません。』「ポチ☆」
『ギヤァァァア!!あqswでfrtgyふじこlpぎゃぁ!!!!』
『、、、凄い事になっとるが大丈夫かね?』
『、、、問題ありませんよ、、、アレ、ただのマッサージモードですから。』
『マッサージモード!?、、、あ奴がどれだけ君を大切にしているか良く解ったよ。』
『あ、いえ違いますよ、あれは私がマスターに内緒で付けた物ですから。
先ほども言ったように、マスターが頻繁に寝心地を聞いてくるので何時か脅かしてやろうと思ったので。』
『詰り何時かは仕返しして改心させてやろうと思うとった訳か、、、』
『まぁそう言う事です。。。それにしてもマスター、凄く騒いでますね、、、
ちょっと強すぎましたかね?』
『どれくらいの電気を流しとるんじゃ?』
そう言われると、ウィズはささっと先生と呼ばれていた男の手を握り、ニタァっと笑みを浮かべた。
『き、君!?まさかっ!痛たたたた!、、、これを今彼は受け取るのか!?』
『そんな訳無いじゃ無いですか、流石に死んでしまいますよ☆
貴方に流したのはマスターに流す予定の電流を一気に流しただけです。』
『それが今流しとる奴かい?』
『ええ、そうですよ。』
(この子、、、ある意味振り切れとるな、、、ふぅ、、、こう言う所もアイツ似か、、、)
『そろそろ終わる頃ですね、、、ってあれ?マスターがヤケに静かですね?』
『ビスの事だ、そろそろ言うほど痛く無い事に気付いたのじゃろ。。。』
その時「ガシャン!」と言う音と共に扉とビスを固定していた拘束が解ける。
『ちょっとは反省できたか?ビス?』
『もう二度としませんよ、、、多分。』
『多分ですか、、、相当私のベットが気に入られたようですね、何ならもういっぺん行っときますか?』
『分った!もうしないよ!!それよりウィズ、口調を直しなさい、お客様の前だぞ。』
『申し訳ありません。
談話室の方はすでに空調を動かしておきました。
直ぐにお飲み物をお持ちしますのでお二人のお話には談話室を御使用される事をお勧めします。』
『全く話の転移が速い事だ、、、まぁ仕事が速いのは褒めて置く。』
『それ程では御座いません。
マスターがフジコってる間に幾らでも対処は出来ましたので。』
『、、、、、、、、もういい!行きましょう!先生!!』
『相変わらずいいコンビじゃな、、、お主らは。』
そう言い残し、マスターと先生と呼ばれていた男は、
私を置いて談話室へ歩いて行った。
『さて!私もお仕事しないと!。。。
まずはここに忍び込んだネズミの駆除からですね。』
彼女がそう言った瞬間だった。
彼女は急に立ち止まり、、、いや、映像が止まり、
次に私の目の前のモニターが真っ暗になったのであった。
『何が起こったんだ?、、、まさかあの研究所から逆にここのコンピューターを乗っ取られたのか!?
、、、彼女は私をも超えるハッカーだったのか、、、』
これが私のクロッカー人生最後の言葉だった。
そして今私はコーヒーを飲み、真っ暗になったPCが並んでいるデスクの前に座っている。
結局録画していた映像や音声、ナノマシンダイブによる三人の心理データ等すべてが吹き飛んでしまった。
もうじきここに、あのアンドロイドが警察を送って来るだろう。
そうじゃ無ければオートロックを解除できないので外にも出れず、飢え死にだ。
もしそうなってもタダのロックの故障であのアンドロイドがやった証拠は無い、か、、、完敗だ。
だが奴もなかなか良い奴なのかも知れんな、あの難いサイレンを響かせ、奴らが迎えに来たようだ。
今ドアをノックする音が聞こえる。
まぁ一つだけ私が言えるのは、、、
人 の 事 を 盗 見 る の は や め ま し ょ う 。
てこったな。
アンドロイドの私と。~つづく~
続きは多分書かないかも、、、(嘘)
もう続き書き出しました、多分そのうち更新します。