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INNOCENT STEAL -First ECLIPSE-  作者: 豹牙
七章 最後の死盗
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44 優勢、化け物の翻弄

レンは槍を抜いてすぐに逆回転させる。

槍の峰に当たった薙刀が地面に落ちた。


「このクソ野郎が」

 

すぐにシンクはレンの腹を足で蹴り飛ばす。

勢いに耐えられなかったレンが地面に倒れた。

その隙にシンクは薙刀を拾ってレンに振り下ろす。

レンはとっさに転がって避ける。

だが、服が刺さって身動きが取れなくなった。


「調子にのんじゃねえよ、くそったれ」

 

服を破って脱出しようとするレンに文句を吐き捨てると、シンクは薙刀の先端を掴んでレンを巻き込んで大きく弧を描く。


「があっ!」


レンは槍を持ったまま木に叩きつけられて、口を押さえる。

ひどく吐き気がする。

しばらくは動きたくない。


そんなレンにシンクは容赦なく迫ってきて、薙刀を振り下ろす。

レンは横に走って寸前で避ける。

薙刀の攻撃はかわせたが、走りたくないとレン自身も思うように足はかなりふらついている。


「おいおい」

 

後ろでシンクの笑い混じりの声が聞こえた。

レンは木の根につまずいて派手に転ぶ。

咳と共に、口から血が吐き出される。


「ははっ! 転ぶなんて情けねえマネすんじゃねえよ!」

 

レンは地面の雑草を握って起き上がろうとするが、力が入らない。

槍は転んだ際に落としてしまったらしい。


「うっ……」

 

レンは肩で激しく息をしている。

その後ろから、シンクは薙刀を持って近づく。


「さーて、そろそろ調理の時間だな」

 

このままでは、殺される。

死ぬわけにはいかない。

でも、動けない。

身体に力が入らない。


「ロザリア……っ!」


最後に、彼女だけは。

でもどうすればいい。

このままでは、死ぬ。


「ああああっ!」


悔しさのあまり、レンは絶叫した。

目は無意識のうちに閉じていた。

その時が訪れる。

そんなの、嫌だ。

絶対に嫌だ。


「……っ」


薙刀は一向に振り下ろされない。


目を閉じていたレンは、そっと目を開く。

レンの足の近くで、シンクは呆然と立ち尽くしていた。


「何やってんだ、俺」

 

自嘲気味にそう言って、シンクは槍を拾ってレンの前に落とす。


「立てよ。転んだてめえを殺すのは面白くねえ」

 

違う。

面白くないとか、そんなものではない。

今確かに、シンクは戸惑っていた。

そんな未曾有なことがあるのだろうか。

いや、考えている場合ではない。

悪魔の為、ロザリアの為、自分はこの化け物のような兄的存在と戦わなければいけない。

 

呼吸を整えたレンは槍を拾って立ち上がる。


「はっじっくりいたぶられることを感謝しな」

 

初めて、シンクが本心と違うことを言った気がした。

 

しかし、その後の一撃がレンの思いを裏切った。


 

初めて、敵の姿が見えなくなった。

光が凄まじい速さで回転しているせいか、残像しか見えない。

 

トーナメントで彼の動きは予習したはずなのに。

彼は暗闇でほとんど見えていないはずなのに。

ロザリアは自分が追い込まれていると思った。

 

しかしロザリアが無傷に近いのに対し、セヴィスは何箇所にも傷を負っていた。

実際追い込まれていたのはどちらなのかと言ったら、セヴィスの方だろう。

 

ロザリアが剣を振って衝撃波を放っても、いつもセヴィスはその場所にいない。

彼は、剣による衝撃波を一度もまともに受けていない。

彼が受けるのは、ロザリアが剣を振ることによって動いた身体から発生する小さな衝撃波だった。

 

衝撃波の魔力権は使っている間、身体が動くことによって発生する風を刃へと変える。

当然腕や足を振った時のものが一番強力だ。

しかしこれは、使用者も無意識のうちに小さな衝撃波も発生する。

味方に当たるという欠点があるので、ロザリアは魔力権を味方のいないところでしか使わない。

 

一つ一つは全然痛くないのに、この暗闇では避けることが難しい。

傷だけが増えていって、最終的には剣に貫かれる。

厄介な攻撃だとセヴィスは思っていた。

 

それに対しセヴィスの攻撃は、一度でもナイフが刺されば電撃を流して殺すことができる。

ロザリアはそれを警戒して、ナイフの攻撃には一際注意を払っている。

 

ナイフの攻撃が速すぎて弾けないと判断したロザリアは、伏せるか飛ぶかして攻撃をかわしている。

その度にも衝撃波が発生して、セヴィスはたまに衝撃波を受ける。



それが何度か繰り返された結果、今に至る。


「何のつもり?」

 と、ロザリアは言う。


彼女の目の前でセヴィスは立ち止まっていた。

だが、ロザリアより走り回っていたはずのセヴィスは少ししか息を切らしていない。

かなりの時間走り続けたというのに、とロザリアは少し驚いていた。


「これ以上同じことを繰り返したって埒が明かない」

「それは、どういうことかしら?」

 

ロザリアは少し息苦しそうに聞く。


「俺は負けるって分かってることは絶対にしない。このまま走り回ったって、俺が負けるのは目に見えてる」

「なら、どうするの?」


セヴィスは四本の赤いナイフを地面に落とす。

最初は捨てたのかとロザリアは思ったが、腕からはワイヤーが伸びている。


「同じことをしない。それだけだ」

 そう言って、セヴィスは両手でワイヤーを振り回す。


片方が強烈な光を放っているので、もう片方はほとんど見えない。


「なるほど、ね」

 

地面に落とされた赤いナイフが来ると思っていたロザリアを、青いナイフが襲う。

光るワイヤーはセヴィスを中心に大きく弧を描く。


ロザリアは跳躍してワイヤーを避ける。

青いナイフは電撃と刃が同時に襲ってくるので、赤いナイフよりも危険だ。


ロザリアの後ろにあった木がワイヤーの刃で切れて、倒れる。

切り株の上に着地したロザリアは、すぐに剣を降って衝撃波を放つ。


「なっ」

 

ワイヤーを回収しながら、セヴィスはとても人間とは思えないような速さと動きで避ける。

あの軽業の様な避け方は余計な動作が多いのではないか、とロザリアは思った。

だがセヴィスの避け方に余計な動作は一切なかった。

現にロザリアはそれに翻弄されていて、攻撃もかわされているのだ。


戦闘が始まってから、彼の速さはだんだんと速くなっている。

疲れが存在していないのか、疲れでロザリアの視界が虚ろになっているのか。

前者はロザリアにとって信じられない。

 

だが、いくらロザリアの視界が虚ろでも、彼が速くなっていくのはもはや明らかだ。

疲れているはずなのに、速くなっていく。

そんなこと、ありえない。

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