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INNOCENT STEAL -First ECLIPSE-  作者: 豹牙
六章 本能の裏用
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39 明かされる犯人

「あいつがロザリアの親父さんを殺した……いや洞窟を出て行ったのは、おれたちのせいなのかな」

 と言って、レンは自分の槍を握りしめる。


その隣には既にロザリアはいない。

クロエの二度目の放送を聞いて、彼女は別行動をとることになった。

 

クロエはジェノマニア王国全土に伝えた。

一般市民に避難してほしいこと。

フレグランスの予告状がきたこと。

祓魔師の分裂。

そして本部は降伏の意思を緩めないことを。

 

フレグランスと聞いた途端、ロザリアは突然表情を変え、「私が彼を倒す」と言って走り去った。

誰も彼女を止めなかった。

皆、彼女を信じていた。

彼女なら、必ず彼を倒してくれると、信じていた。


「祓魔師を分裂させたのはシンクだ。あいつがみんなの邪魔をするのも、おれたちの前に出てきたのも、やっぱり意味があったんだ。

多分、これはシンク一人によって立てられた計画じゃない。長老がシンクに殺されたのなら、おれと会う前にロザリアとすれ違うはずなんだ」

「じゃあ、長老を殺したのは誰?」

 

女の悪魔フィーネがたずねる。


「あの時シンクは、長老が死んでいるかもしれないと言った。だから犯人じゃない。長老を殺せるのは祓魔師だけだ。でも祓魔師はトーナメントの準備があったはずだ。ある一人を除いて」

 

レンはしばらく俯いて、顔を上げる。


「セヴィスだけは自由行動が許されていた、と言うより何も任されていなかったんだ」

「彼が犯人なの? でも、降伏を薦めたのはセヴィスだってロザリアが」

「違う。ロザリアと会った時の彼は巧妙な嘘をついていたんだ。ロザリアは優しいから、全部信じたんだ」

「ロザリアはセヴィスに騙されていたの?」

「嘘だと思っていたけど、シンクの言う通りだった。セヴィスはかなりの悪だ。この計画の元凶は、シンクかセヴィスだ。でもこの二人のどちらかが、相手を利用しているわけじゃない。この二人は互いに利用し合っているんだ。怪盗フレグランスや、シンクがとった行動や、長老の殺害はその一端でしかない」

 

レンの話に、後ろにいる数十人の悪魔は絶句している。


「長老は自分の命と引き換えに、おれたちにセヴィスの本性を伝えたんだ。ロザリアは彼が正義の祓魔師だと思っている。でも、セヴィスの正義は偽物だったんだ。祓魔師になったのも、多分計画の一環だと思う」

「その計画はいつからできていたのかしら?」

「フレグランスっていうのは最近つけられた名前だけど、フレグランスは五年前から活動している。つまり、この悪魔全滅計画は最低でも五年前から立てられていたんだ」

「五年前ってことは、シンクは二十歳だけどセヴィスはまだ十一歳よ。十一歳って……そんなのありえない」

「ああ。十一歳の時のおれはただ楽しく戦闘訓練をしていた。だから、その面ではすごいと思うよ」

 

レンは立ち止まる。

彼らの前方に、発電所が見えてきた。

発電所に着くまで、あと十五分程だろう。

発電所を破壊する時間と日食の時間を考えれば、ちょうどいい。

 

既に、太陽は衛星に食われている。

薄暗い森の中を、彼らは歩き始める。


 

一足早く美術館にやって来たロザリアは、塀の後ろで別館の様子を窺っていた。

今のところ警備はC級の祓魔師しかいない。

おそらくB級以上は作戦会議をしているのだろう。

 

ロザリアがここに来た理由は、真実を確かめる為だ。

他の悪魔はどうか分からないが、ロザリアはフレグランスの正体をセヴィスだと予想している。

だが、そうだと信じきれない。

彼がそんなことをするような人間に見えなかった。

だから、真実を知りたい。

 

ここにいれば、必ず会える。

そんな気がした。


「おい、ロザリア」

 

後ろから聞こえた声に、ロザリアは驚いて振り返る。

そこには、収縮した薙刀を持ったシンクが立っている。


「何かしら?」

「おっ斬りかかってこねえのか?」

「あなたは私を殺しに来たんじゃないでしょう? 私を殺しに来るのは、あなたじゃない」

 

シンクは少しつまらなそうな顔をして、腕を組んだ。


「丁度いいわ。教えて欲しいことがあるの。あなたなら分かるでしょう」

 

剣の柄に右手をかけて、ロザリアは聞く。


「フレグランスの正体は、私の予想通りなの?」

 

ロザリアがたずねると、シンクは珍しく考え込んでいる。

彼の大胆な部分しか知らないロザリアは、首を傾げた。

 

それから十秒程後に、シンクは顔を上げた。


「……それは、俺に聞くもんじゃねえよ。自分で答えを探すんだな」

「じゃあどうしてあなたはここに来たの?」

「別れの挨拶」

「え?」

 

ロザリアは思わず聞き返した。


「日食を味方につけたって、悪魔は負けるんだよ」

「悪魔は負けないわ。絶対に」

「お前がどれだけ燃えたって、現状は変わらねえ。だから俺みたいに悪魔が人間と共存するには、影で悪いことでもしねえと無理だ」

 

ロザリアは黙り込んだ。

シンクの言っていることが嘘だろうとは思っているが、どこか信じようとしている自分がいる。


「お前とは、今日でお別れだな。一つも楽しいことがなかったわけじゃねえけど、俺はお前らが死ぬ程嫌いだった」

「……あなたは、あの時肉が食べられなかったから、お父さんを殺して脱走したの?」

「てめえの俺に対する罪悪感はそれだけか? それだけで、俺が変わるかよ」

 

腕に、力が込められている。

ロザリアには、彼が怒っている理由が分からない。

自分はいつだって、長老の言うとおりにしてきた。

シンクに何か嫌なことをした覚えはない。


「私はあなたに何もしてないわ」

 

ロザリアは素直に思ったことを言う。


この言葉がさらに彼を怒らせるのは分かっている。

だが、怒っている理由が分からないと理不尽だ。


「は? てめえ本気で言ってんのか?」

「本気よ。私にはあなたが私たちを嫌う理由が分からない。私は、長老の言うことを聞いていただけ。あなたには何も悪いことはしてないわ」

「そうやって、クソの言うことばっかり正しいと思い込みやがって、何が無実(イノセント)の悪魔だ。罪の意識がないだけじゃねえか。てめえやレンがクソに期待されたせいで、俺が貴重な食料を手に入れて調理しても、俺以外の悪魔に全部吸収された。てめえらの成長の為に何度も飢えに苦しめられて、てめえらを守る為に何度も死傷を負った」

 

聞いたことのない話に、ロザリアは再び何も言えなくなった。


「そこまでしても、結局てめえは武闘会で俺に勝てなかった。てめえが俺より強くなれば、俺の重荷は下ろされると思ってたんだ。でもてめえが負けたから、俺の努力が報われることもなかったんだよ」

「そんなの……ただの嫉妬じゃない。わざと負ければ報われたわ」

「てめえがあまりにも弱すぎるから、俺が手を抜いたら一発で分かる。俺が本気でやったらてめえは『宝石』になってただろうな。だから勝つしかなかった。俺はいつもグランに尽くさなかったとか言いがかりつけられて、どれだけ強くなってもてめえらの教育係だったわけだ。どうしようもなかったから、俺は失望したんだよ」

 

ロザリアは最初、自分がこの過去に気づけなかったことを申し訳なく思ったが、今の彼の現状を思い返すうちにだんだんとシンクに共感できなくなってきた。


「それであなたは、殺すのが好きになったのね。あなたが素直に長老に従えば済む話だったのに、あなたが意地を張るからそうなるのよ」

 と、ロザリアは言う。


これでロザリアは怒ると思っていたが、シンクは笑い出した。


「ははっ別れの挨拶に来てよかったぜ。これで心置きなくてめえやレンを殺せる。いや、あいつと決着をつけられる」

「……」

「今日のメインディッシュは、クソマズ焼きにするか」

 

そう言って、シンクは去って行った。

彼が向かった方角。

そのすぐ近くに発電所があることをロザリアは知っていたが、止めなかった。

 

私は、レンとは違う。

人間を圧倒するためではなく、真実を確かめるためにここにいる。

 

クロエは、降伏と確かに伝えた。

それだけだったらレンも人間を信じて、総攻撃を止めただろう。

グランフェザーの死が、レンを変えた。

その犯人は一人しか考えられない。

 

だが、ロザリアには信じられない。

 

彼は祓魔師に降伏を促し、電車の中で自分の無理な願いも聞き入れてくれた。

あんなに優しかった彼が、その犯人。

そして、お腹を空かせていた悪魔を餓えへと追い込んだ泥棒。

同一人物だなんて、そんなのありえない。

夢なら夢であってほしい。

彼とは、ハミルのような良い友達になりたかった。

私は、平和な世界で彼ともっと話をしたかった。

楽しかった話、悲しかった話、面白い話をしたかった。

何よりも、一度も見たことのない彼の笑顔を見たかったが、それは叶わないらしい。


理由は一つしかない。

私が悪魔だからだ。

悪魔なんて存在しなければ、彼も私も、普通の人間として生きられた。

でも、悪魔として生きたことは、決して後悔したくない。


ロザリアは、悪魔と祓魔師の両方を信じていた。

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