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INNOCENT STEAL -First ECLIPSE-  作者: 豹牙
四章 怪盗の芳攻
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26 復讐の惨殺

とりあえず味方のフリだな。


「でも、ぼくはロザリア姉ちゃんを敵だとは言わないよ。みんな仲間なんだ」

「そうだよな、みんな仲間だ」

 

くだらねえ。

こいつ精神年齢何歳だよ。

最初に頭に浮かんだ言葉はこちらの方だった。


「シンクはどうしてここに来たの? ぼくがここで『宝石』集めをしていることを知って? それとも偶然?」

「俺はお前がここにいるって知ってすぐに来たんだ。久しぶりに会いたかったしな」

 

ひでえ茶番劇だ。

悪魔がここにいるからシンクは来たのであって、ユイレルと会いたいとは微塵も思っていない。


「さっきの男の人と女の人、『宝石』持ってなかった。だからぼくも襲うのは止めたんだけど、男の人が剣を持ってきてぼくに襲いかかって来たんだ」

「そりゃお前も俺も同じ悪魔だからだろ」

「そうだよ、みんな仲間だよ。 ん? てことは、みんなの元に帰って来てくれるんだよね!」

 

どうしてそんな話になるんだと思いながら、シンクは言う。


「ああ、嘘を解明しねえとな」

「よかった! 総攻撃までに帰って来てくれて!」

「えっ総攻撃?」

 と、シンクは聞き返す。


聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。


「そうだよ。悪魔も人間を襲うような生活はしたくないし、人間も平和を望んでいるはずだから、この長い戦いに蹴りをつけようってレン兄ちゃんが提案したんだ」

 

ユイレルはシンクが何を考えているのか気にも留めず、詳しく説明する。


「明日の正午、悪魔は祓魔師を見返すんだ。みんなで発電所と美術館のどっちに攻撃するか分担して、ぼくは美術館の攻撃について行くんだ」

「平和を望んでるのに戦うのか? 矛盾してねえか?」

 と、シンクが言うとユイレルの顔が深刻になった。


「ぼくたちは祓魔師を殺しに総攻撃に行くんじゃない。実力を認めてもらうんだ。この総攻撃の目的は人間と悪魔の共存なんだから。でも、誇り高い祓魔師たちに敗北を認めさせるには、ある祓魔師に死んでもらわないといけないんだ」

「ある祓魔師?」

「S級のセヴィスだよ。セヴィスがいなくなれば、祓魔師の自信は落ちるとレン兄ちゃんは踏んでる。だからセヴィスは明日ロザリア姉ちゃんとぼくが鉱山で倒すことになったんだ」

 

総攻撃の前に囲んで殺すのか。

言える立場ではないが卑怯なやり方だ。


「ぼくは正直セヴィスを倒せるか心配だったんだ。でもシンクがいれば倒せるよね」

 

いや、心配じゃなくて絶対無理だ。

お前らセビをなめてるだろ。

あいつは俺が本気で強くした、俺と対称的な戦法を使う相棒的存在。

夜さえ何とかすれば、あいつは世界最強を名乗れると自負できる。


ユイレルには先程まであった疑いの欠片が見られない。

シンクはそのセヴィスにウル牧場の悪魔ユイレルを殺せと言われているというのに、もう仲間だと信じている。

 

それに祓魔師の自信を落とすなら、強い一人を殺すことに専念するセヴィスより複数の相手にめっぽう強いチェルシーの方がいいような気がする。

レンの効率が悪いのは昔からだ。

そうシンクが考えても何も起こらないのだが。


「じゃあセビっ……セヴィスを殺したら何をするんだ?」

 

セヴィスが明日やられるとは思えないが、シンクは尋ねる。


ユイレルは疑うことを忘れている。

この雰囲気なら全て教えてくれるというシンクの予想は華麗に的中した。


「正午にレン兄ちゃんが発電所に行って電気を止める。その後は暗闇の中で美術館の人間を圧倒して、生きる権利を認めてもらうんだ」

「何で正午に電気を止めるんだ? その時間なら明るいだろ」

「あれ、知らないの?」

 

明日の正午。

どこかで聞いた。

確かニュースで。


ここでシンクが答えなくても、ユイレルは教えてくれるだろう。

そう分かっていながら、シンクは言う。


「……日食か」

「うん。クレアラッツの街を真っ暗にするんだ」

 

これで、悪魔の総攻撃計画の全貌が明らかになった。

そして、当然シンクに悪魔と共に総攻撃に参加する気はなかった。


「なら、俺も加勢しねえとな」

 

シンクは左手に刃が収納された薙刀を持ち替えて右手を差し出す。

ユイレルはシンクに翻弄されていることを知らず、それを力強く握る。


「っ!」


ユイレルは反射的にシンクの手を振り払った。

振り払われたシンクの手には針や毒が仕込まれているわけでもなく、魔力権の炎もない。

それに、ユイレルは無効化の魔力権を持っているので炎を恐れる必要もないと、シンクも分かっていた。


「何だよ」

 

ユイレルは脅えているのか、硬直している。

その様子を見ながらシンクは再び薙刀を持ち替える。


「俺がまだ信じられねえか?」

「違う! 違うんだ! 身体が勝手に!」

 

ユイレルは笑うシンクに対する恐怖で明らかすぎる嘘を言った。


「そうだよな。信じられねえよな」

「ち、違う!」

「俺を信じた時点でてめえはクソなんだよ!」 

 と言って、シンクはユイレルに薙刀を突き出すと同時にボタンを押す。


武器のボタンに気づいたユイレルは、後ろに小さく飛ぶ。

刃が音を立てて顔を出し、避けきれなかったユイレルの腰を服ごと浅く斬った。


「はっもう俺に騙されたくなかったら無様な死に様を晒すんだな」

 

シンクは涙目のユイレルに対して容赦なく長い薙刀を振るう。


「うっ……!」

 

ユイレルは大剣でシンクの攻撃を受け止める。

腰の傷が気にならないくらい薙刀の一撃が重いらしい。

すぐにユイレルは弾き飛ばされた。

 

シンクの戦い方は速さを重視したセヴィスとは対照的で、攻撃は大して速くない。

だが、全力で逃げないと避けられないぐらい広い薙刀の攻撃範囲と、一撃が重く強い。

一回でも攻撃を受けると致命傷となる。


大剣は威力が高いが重い。

槍は軽くても突くことしかできない。

その間の存在が薙刀。

シンクが薙刀を愛用する理由は薙刀が長くて切れ味の良い武器だからだ。


「この雑魚が」

 

倒れたユイレルに、シンクは躊躇なく薙刀を振り下ろす。

それをユイレルは地面を転がってかわす。

ユイレルのいた場所にあった雑草が宙を舞った。

 

こんな雑魚がロザリアと共にセヴィスを殺す相手によく選ばれたものだ。

この実力ではB級のハミルも倒せるか分からない。

それとも、ユイレルはロザリアにセヴィスを討たせるための囮だったのか。


シンクが思うに悪魔は囮を使う程腐ってはいなかったはずだ。

なら、この雑魚はセヴィスを倒せるとでも自惚れているのか。

その自尊心に溺れたユイレルを信じる悪魔もどうかとも思う。


囮か、自惚れか。

どっちでもいい。

シンクには悪魔と共に総攻撃に参加する気はなく、祓魔師に手を貸すつもりもない。

ただもし祓魔師が負けて、シンクの食事又はレストランの経営に支障が出るようならばシンクは祓魔師に手を貸すつもりでいる。

シンクが手を貸すかは未定だが、自分に得がないようなら手を貸すことはないだろうとシンクは思っている。

クレアラッツの祓魔師が日食と停電で負けるとは思えない。


だが祓魔師が総攻撃を知らない状態なのは少し危険だ。

念の為に総攻撃のことは明日セヴィスに教えるつもりだ。

悪魔が総攻撃に成功して、シンクに何の影響がないとは思えないからだ。


今確実に分かっているのは、ユイレルの存在はセヴィスにとって多少ではあるが邪魔だということだ。

それ以前に、シンクは極上の飯ルビーを食べる為にセヴィスに依頼された通りユイレルを殺さないといけないのだ。 


「待ってよ! シンク!」

 と叫んで、ユイレルは大剣を落として本気で泣きだした。


「待ってよって言われて待つ奴なんかいねえよ」

 

シンクは地面に刺さった薙刀を抜いて、そのまま振り上げる。

ユイレルの右肩から、先程つけた傷まで斜めに斬られ、多量の鮮血がシンクの顔に付着した。


「みんなを騙して裏切って、楽しいの!」

「楽しいからやってんだろ」

 と言って、シンクは両手で薙刀を持って凪払う。


「五体バラバラと生串刺し、どっちがいい」

「止めて!」

「違うな」


シンクは起き上がろうとするユイレルの腹を蹴ると、頭を踏みつける。


「違うだろ。もっと這いつくばって命乞いしろよ」

「考えて! こんなことしたって何の意味もないんだよ!」


地面から聞こえるユイレルのこの言葉が、自分の逆鱗に触れた。

そして、それが脂ぎった指紋となって残った。


「何の意味もねえ? それは罪悪感がなかっただけだろ?」


踏みつけていた足を一度上げて、涙と泥でぐしゃぐしゃになった顔を蹴る。


「罪悪って何! そんなの知らない! ぼくは無罪だ! 殺される理由なんかないよ!」

 

靴の裏から聞こえる忌々しい声。

耳を塞ぎたかった。


「無罪、ねえ」

「そうだよ! 長老が言ってたでしょ! 『悪魔は!」

「……」

「無罪』なんだって!」

 

悪魔は無罪。

グランフェザーの口癖であり、シンクが最も嫌いな言葉だった。


「ああー、その言葉聞きたくねえ。あのクソの意味不明な戯言なんて聞きたくねえ」

 と言って、シンクは足を下ろす。


「ねえ、シンクは何に怒ってるの? 納得できないから、ぼくに聞かせてよ」


ユイレルは震えた声で言った。


「うるせえな。てめえがクソを慕ってる時点でてめえは敵、決定」

「何で! 何で長老が嫌いなの!」

「……ほざくな」


迷うことなく、シンクは薙刀を振るった。


「う、うわあああああ!」


逃げ惑う相手を殺さない程度に刻みつけ、相手が死ぬまでそれを続ける。

何とも惨たらしい光景だ。

刺激。

それは、元々同じ洞窟に住んでいた悪魔たちを虐げた時に得られる悦楽のこと。

 

この刺激と料理で使う香辛料による刺激のどちらかだけ選べと言われたら、シンクは決断できないだろう。

彼は、それだけこの刺激に依存していた。

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