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INNOCENT STEAL -First ECLIPSE-  作者: 豹牙
四章 怪盗の芳攻
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25 残酷な翻弄

フレグランスを追わなければ。

このままでは、五年前のシンクの時と同じだ。

 

しかし、五年前と今は違っていた。

 

しばらくして、痛みから解放されたロザリアは街灯を一際強く反射する物体を見つけた。


「これは?」

 

先程割ったガラスの破片に紛れて、緑色の葉のような形をしたものが落ちている。

手に拾い上げてみると、緑色の物体には葉脈の様な模様が彫ってある。


汚れがないことと、傷つき方からして、これは先程壊したものだ。

つまり、自分は衝撃波を放った時にフレグランスの物も壊してしまったということだ。


この葉には見覚えがあるが、何かは思い出せない。

しかし、正体を特定する重要な物であることには間違いない。


ロザリアは葉をポケットに入れて立ち上がり、大通りに出る。

既に、彼の姿はない。


それは、セヴィスが着けていたイヤーフックの一部だった。



十分程歩くと、『ウル牧場この先右百メートル』と書かれた看板が見えた。


あと少しで着くだろうと思った時、

「うっ……」

 突然マリが脚を押さえて蹲った。


「大丈夫か?」

 と、シンクは心配を装った表情をする。


だが、内心はマリが現場からいなくなることを期待している。


「わたしはいいですから、せ、先輩を!」

「ここから右に行けばいいんだな?」

 

地面に手を付いて喘ぐマリをその場に置いてシンクは角を曲がろうとするが、

「てんちょ、そこは左です……」

「え」

 

またしても道を間違えそうになったらしい。

シンクは踵を返して、頭を掻いて反対方向に向かう。


「ちくしょう、右ってどっちなんだよ。俺の右手がこっちだから、あれっこっちは左手か。じゃあ包丁を持つ手が左手で……でも俺右利きだよな」

 

ぼそぼそ呟きながら歩いていると、前方から金属音が聞こえてきた。

それは近づくにつれて次第に大きくなっていく。

 

暗闇の中に二つの人影が見えてきた。

両手で剣を持つ方がアルジオで、もう片方の鉈の様な大剣を持つ小柄な男が悪魔、おそらくユイレルだろう。 

 

このまま不意打ちを仕掛けるか、精々堂々と戦うか。

面白いのはどちらだろう。

普通に考えて不意打ちだな。

いや、堂々と現れて相手を脅かすのも面白いな。


「店長!」

 

考えているうちに、アルジオに気づかれてしまった。

アルジオの言葉に反応して、悪魔が振り向く。

 

悪魔はシンクを見て息を呑んだ。

シンクは悪魔の顔を見てやっぱりな、と笑った。


「もしかして……シンク?」 

 

アルジオは驚いて言葉を失っている。


ユイレルは元々同じ洞窟に住んでいた悪魔だ。

シンクより九歳年下の少年が、小さな無邪気さを残し逞しく成長していた。


シンクはユイレルが今年で十六歳になることに気づいた。

普通十六歳とはこういうものだ。

昔から少年らしさがほとんどなかったセヴィスを見ていたら感覚が狂ってしまったらしい。


それにしても、まさか依頼された悪魔の名前にこいつの名が載るとは。

運命の悪戯にも程がある。

最も、運命や神を信じようと思ったことは一度もないのだが。


「久しぶりだな。元気にやってたか?」

 

平穏すぎるシンクの挨拶を聞いたユイレルの額に、一粒の汗が流れた。

当然のことだとシンクは思う。

 

五年前ロザリアの父親ナナテスを殺して逃走し、追いかけてきたロザリアに対してはあれだけ言ったのだ。

ロザリアの信頼は厚い。

ユイレルがシンクを信用していたのかは分からないが、彼女がシンクを犯人だと言えばユイレルは信じるだろう。


「……うん、ぼくは元気だよ。久しぶりだね」

 と、ユイレルは言う。


彼の口は笑っているが目は笑っていない。

 

この態度からシンクは判断した。

ユイレルは疑ってはいるものの、まだシンクを信用しようとしている。

これは利用できる。


「まさか、人間たちと仲良くやってるなんて。シンクはすごいよね。強いし、こうやって群れを抜けてからもちゃんと『宝石』を食べて生きてる。しかも飢えずに人間たちと一緒に暮らせるんだ」

「まあ、な」 

 

このクソ野郎、俺のこと言いやがった。

これでもう悪魔だとばれちまったな。


ユイレルの後ろで、アルジオが剣を落として腰を抜かしているのが分かる。

まあ、ばれちまったのは仕方ねえ。

昔から隠し事は思いやりと我慢の次に苦手だったしな。

後はアルジオの行動次第でシンクの行動は決まる。


「会えて嬉しいよ。ぼくも再会を飛び上がるぐらい喜びたい。でも、その前に一つ確認したいんだ」

 

ユイレルがこう言うのはなんとなく分かっていた。


「ぼくはロザリア姉ちゃんやレン兄ちゃんに、シンクは敵だと言われてきた。でもぼくは信じられないんだ」

 

ロザリアとレンがユイレルにシンクが敵だと吹き込むのも予想できていた。

突然そんなことを言われても今まで仲間だったのだ。

子供のユイレルにはすぐに信じられるわけがない。

おそらくユイレルは今まで何度も葛藤を繰り返してきたが、それでも疑いきれなかった。

そんな表情をしている。


「教えて。シンクはぼくたちの敵? それとも、ロザリア姉ちゃんとレン兄ちゃんが嘘をついてるの?」

 

ユイレルは待っている。

シンクが「敵だ」と答える瞬間を。

 

そして同時に、シンクが「ロザリアとレンが嘘を言っている」と言う瞬間を微かに期待している。

 

シンクは五年前のあの時のように、わざと困った様な顔をした。


「嘘だ。ロザリアが言ったことは全部嘘を隠すための口実にすぎねえ」

 と、シンクは言う。


ユイレルの目が見開かれて、笑顔に変わった。


「やっぱりそうだったんだ! おかしいと思ってたんだよ!」

 

五年前のロザリア並みに騙しやすい相手だとシンクは思った。


「ロザリア姉ちゃんは武闘会で勝つ為に嘘をついて追放したんだ! ロザリア姉ちゃんがS級を持っているのがその証拠だ!」

 

今のS級はロザリアか。

このままこいつを騙せば、今の悪魔についての情報が貰えるとシンクは確信する。

その前に邪魔な人間を一匹どかした方がいい。


「おい、アル」

 

アルジオは黙って顔を上げる。


「看板の前でマリが動けなくなっちまったんだよ。送ってやれ」

「は、はあ」

 

よく分からないまま、アルジオは剣を拾って去って行く。

マリを放ってはいけないという義務感が彼を動かしたのだろうか。

 

さて、これからこのクソ野郎をどうイジめようか?

少なくともこいつへの俺の恨みは、心臓一突きじゃ晴れねえよなぁ……。

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