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INNOCENT STEAL -First ECLIPSE-  作者: 豹牙
二章 最凶の生徒
13/51

13 兄弟の朝

時刻は七時三十分。

候補生の集合時間は八時三十分。


皆が登校しているこの時間に、家と学園が近いセヴィスは兄のウィンズ=ラスケティアと朝食をとっていた。

机の上にあるラジオで、ロザリアが見ていたものと同じニュースが流れている。


「このターレという老いぼれはどうも気に食わん。貴様の戦法を堂々と晒し、僕が作った武器の構造まで語る。いい加減にして欲しいものだ」

 とウィンズが言った。

 

ウィンズは二十歳のA級祓魔師で、美術館の副館長である。

学園にいた時はテストの成績は常に一番を保持し続けた天才だが、運動は苦手で拳銃による戦闘以外はほとんどできない。

 

そんなウィンズの主な仕事は祓魔師たちの武器の発明で、彼の武器は高性能だと評判だ。

戦闘が得意でなくても発明能力があるので、ウィンズは特別にA級と認められている。

ウィンズは太い黒縁の眼鏡と、黒色の髪をしている。

無駄に伸びた襟足が首の部分で分かれているという独特の髪型が印象的な青年だが、顔はセヴィスと全く似ていない。

少し童顔で、セヴィスの方が兄に見えるぐらいだ。


「今日は候補生のトーナメントか。くだらん。どうして僕が貴様等の進行役をしないといけないのだ」

 

コップに注がれたコーヒーを一杯飲んで、ウィンズは言った。


「まっ、貴様のような勉強が一切できない馬鹿にとっては、良い成績を取る為に必死なのだろう?」

 

返事はない。


「はーはっはっはっ! 頭の悪い馬鹿とは本当に救いようのない人種だな!」

 

ウィンズは高笑いしている。

セヴィスは無視している。

毎日のことだ。

 

ウィンズの傲慢な性格は昔からで、何を言っても通じない。

セヴィスは彼に逆らうことを十年前に諦めている。


「僕のような希代の天才は……」

「兄貴」

 

ウィンズが喋っている間にセヴィスは口を挿む。

セヴィスのこの行動にウィンズは反射的に眉をひそめた。


「貴様、僕が話している間に話すとは何様のつもりだ」

 と言ってウィンズは睨む。


そのウィンズにセヴィスは無言で手を差し出す。


「何だその手は」

「ナイフを返してくれ。アンタが持ってるんだろ」

「ナイフ? ああ、あれはあまりにも血で汚れていたものだから僕が自分から研いでやったのだ。光栄に思え! はーはっはっはっ!」

 

高笑いしながら、ウィンズは立ち上がって部屋を出て行った。

 

ウィンズが去ると、部屋は途端に静かになった。

セヴィスが物心ついた頃からこの家に両親はいない。

父は事故死、母は病気で亡くなったとウィンズに聞いている。

家事はウィンズがほとんどこなしており、セヴィスは本部から出される悪魔の出没情報を頼りに悪魔討伐をして金を稼いでいる。

悪魔討伐の報酬は並みの人間の給料を大きく上回るが、そのほとんどはウィンズの武器発明の材料費で消える。

その為、生活費は武器の収入だけだ。

普通候補生に自分から討伐に行くことは認められないのだが、称号を持つ者だけは別だ。


「毎回思うのだが、この武器は不便すぎる」

 

声と共に、ウィンズが部屋に入って来た。

その手には、八本の赤いナイフと二つの黒いブレスレットが握られている。


無論ただのナイフではない。

全てのナイフの持ち手には細い金属製の糸が結びつけられており、四本の糸が一つの黒いブレスレットに繋がっている。

ナイフの形は真直ぐで、風の抵抗をほとんど受けないように作られている。

ナイフを投げることだけに専念した武器だ。

それがセヴィスの武器で、使う時に付着した相手の血が舞い上がることから由来して『ブラッディ・スパイラル』という。


「こんな失敗作より、僕が最近発明したものを使ったらどうだ」

「今更変えるのは面倒だ」


このナイフはウィンズが初めて作った武器だ。

今ウィンズが作っているものに比べたら性能も悪い。

だが、セヴィスはこれを愛用している。

武器を変えるのが面倒だからだ。


「この武器はブレスレットのバネが糸を出す速さが、貴様の投げる速さよりも遅い。これでは攻撃による隙は体術で賄うしかなくなってしまう。それに、この糸は電気抵抗が強く貴様には合っていない。

そんな駄作を公衆の場で晒すのは僕の高貴なプライドに障る。貴様の真似をする為に同じ武器を欲しがる輩がいるのは本当に理解できん。セヴィスは馬鹿だけど一応S級だし~真似をすれば最強になれるんだぁ~とでも思っているらしいな」

 と棒読みで言って、ウィンズは口角を上げる。


「僕は今似た形の高性能な武器を作っている。完成予定は明後日だ。一番武器に負担をかけそうな貴様に試してもらう」

「そんなことどうでもいい」

 

ウィンズから素早くナイフを奪ったセヴィスは、階段を上がって自分の部屋へ向かう。


「貴様がそれでいいのなら止めはしないが、少なくともその駄作武器で貴様の弱点である夜が克服できると思うな」

 

下からウィンズは冷たく告げて、朝食のパンがのっていた皿を洗い始める。


夜は悪魔たちの独壇場であると共にセヴィスの弱点である。

夜に泥棒として街を動き回るセヴィスは普通の人間より夜目が効く方なのだが、洞窟暮らしの悪魔の夜目とは比べ物にならない。

夜は明かりがないとナイフの命中率も大幅に下がるため、他の祓魔師と比べて暗闇はセヴィスの決定的な弱点とウィンズは言う。

明かりのない山道で悪魔に囲まれたら、自分はただの雑魚になるとセヴィスは自覚している。


これが夜の悪魔をシンクに任せている理由となっている。

夜に現れる悪魔は大抵C級以下だと分かっていても、自分がS級でも、警戒心は解けない。

セヴィスは元々ぶっきらぼうでやる気のない性格をしているが、悪魔に関しては妙に用心深い。

それに、夜セヴィスが悪魔を討伐すると血の海が残ると一度ニュースになったこともある。

そのせいか、よく悪魔を殺すことしか楽しくない殺人狂だと勘違いされる。

しかし、それはシンクの仕業である。

セヴィスが手に入れた出没情報を教え、夜にシンクが悪魔を殺す。

その代わりにセヴィスはシンクが手に入れにくい大きな『宝石』を盗み、シンクが悪魔討伐の報酬金を全てくれるという仕組みだ。


互いに自分の利益だけを考えた、元S級悪魔とS級祓魔師の奇妙な関係は『いただく』という言葉の下、崩れることなく成り立っている。

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