弥生とまだ知らない嵐の予兆
……大丈夫かな?
弥生は一人の少女の顔を上から覗き込んでいた。午前中十一時半ごろのことだった。
図書館の中庭で倒れた少女の顔色をうかがってよりそっている最中なのである。
睦月に相談したとき、
「日陰に移動させ、首かわきの下を何か冷たいもので冷やしたら、しばらく様子みるように」
といわれたためだ。熱中症の人はそうやったほうがいいらしい。自分はそういう知識は持っていないので、どれがいいかはちんぷんかんぷんなのである。
顔色は良さそうだけど…………。
だが変わった様子はなく、あれからどれだけ経ったかはわからない。一時間くらいは経ったような気がする。
睦月さん、来てくれるかな?
うれしさもこみ上げるが、本当に来てくれるか不安もある。確かに、自分は睦月に想いを伝えた。伝えただけで、恋人同士かと聞かれたらはっきりと答えられない。
睦月さんが好きだといってくれたときは心臓が止まるくらいうれしかった。
あぁ、自分はこのひとの隣にいてもいいんだって思った。
けど。
恋人なのかは自信がない。
完全に睦月の心境が理解できていないからだろう。
時折、睦月さんの心の中がわからなくなる時があるから。
やっぱり、睦月さんと恋人なんて、理想が高すぎたのかなぁ……。
無意識にため息が漏れた。
……いや。今は睦月さんが来るの待つことだけに集中しよう。それ以外のことを考えるのは時間の無駄だ。
気合を入れなおしたら、再び少女の様子をうかがってみる。やはり顔色に変化が見られる様子はない。
変化……なし、か。
その時。
「おーい、春野!」
聞き覚えのある声が耳に入る。周りを見渡し、声が聞こえる方へ耳を傾ける。
そして見覚えのある二人がこちらに向かっているのが目に入った。
「睦月さん……と、葉月!?」
睦月が葉月と一緒にやってきたのは予想もしていなかった。そのため、声のボリュームが上がる。
すぐさまハッと口をつぐみ、隣の少女を横目で確認。目を覚ましてはいないようだ。
危ない……隣に人がいるの忘れてたよ。
「どうしたの。弥生。やばそうな感じの顔して」
心配になったのか、からかうように声をかけてきた。
「ううん、なんでもない…………って「やばそうな感じの顔」って何!?」
「大丈夫か? 春野も具合が悪いのか?」
「え? いや! な、何でもないの! 大丈夫!!」
睦月にごまかし笑いを浮かべて答える弥生。
睦月は納得がいかなそうに、
「そ、そうか……」
とつぶやく。
「あ、そうだ。む、睦月さん。あの、さっきは電話ありがとう。睦月さんのおかげで助かった」
「そうか。それは良かった」
今度は安堵の表情を浮かべる睦月。
何も事情を知らない葉月が話に割り込んでくる。
「何があったかは知らないけど、あんたが言っていた「お礼」とやらはどうなったのかしらー?」
「……あ! そうだった! すっかり忘れてた!」
葉月の言葉で思い出し、飲み物を二人にそれぞれ手渡す。
「ありがとう」
「サンキューね、弥生」
二人はお礼を、感情込めずに言った。
睦月が思い出したように弥生に質問する。
「そうだ。春野、倒れたっていうその子の様子はどうだ? 何か変わったことはあったか?」
その質問に見たこと、ありのままを答えた。
「ううん。別に変化はない。顔色はいいけど、具合がいいかまではちょっと……」
「そうか。わかった」
睦月は何事もなかったかような顔を見せる。
そこに葉月の不満そうな声が漏れてきた。
「あーぁ。二人でなにやら楽しそうよね。私一人だけ仲間はずれ?」
「葉月……どうしたの?」
弥生はきょとんと首をかしげる。
そんな弥生の顔に目が行くと葉月は愚痴をこぼす。
「どうしたもこうもないわよ。その子一体誰よー?」
「誰って、さぁ……?」
「さぁって、私は何も知らないでここにやってきたのよ? それなのに、弥生と睦月さん二人で勝手に盛り上がられたら、さびしいじゃない」
葉月がここまでの事情を知らないことに気づく。
そうだ。葉月はこの子のことまだ何もしらないんだった。
おそらくどうしてこの子がいるのかもわからないだろう。なにせ、睦月にしか話していないのだから。
睦月さんが来てくれたことに舞い上がってすっかり忘れていた。
――やっぱり、葉月に話しておいたほうがいいよね。
葉月はみんなわいわい楽しむのが好きな性格で一人や仲間はずれなことはあまり好まない。
弥生の目が自然と少女の方に向かれる。
この子のこともいちから話しておいたほうが葉月は安心するだろう。話したら何か力になってくれるかもしれないし。人を手助けするのに人数は多いほうがいいよね。
よし! 葉月に話そう!
「葉月、実はあのね…………」
弥生が葉月に声をかけようとしたとき。
弥生の隣からうめき声のようなものが聞こえてくる。
よく見ると、どうやら少女が意識を取り戻したらしい。
「よかった! 気がついたんだね!」
安心して全身で息をする弥生だが、葉月に事情を説明することは頭から抜けてしまったのだった。
*
時間を戻して十一時半ごろ。
スリジエの意識は夢の中へと引き寄せられていた。
スリジエのまぶたがゆっくり上げられる。地平線のように辺りは何もなく、障害も無い。上も下も右も左も新月のごとく真っ黒に染まる暗闇の世界は、どこか恐怖が芽生えてくるほど恐ろしい。一人でここにいるのは少々辛すぎる。
ここは……どこかしら?
自分がなぜここにいるかもわからない。この世界が何なのかも。
もしかしてここは…………夢の中?
図書館とやらについて歩いたときから意識がない。もしかして……。
周りを見渡してみる。が、どこもかしこも真っ暗。一つだけわかるのは、自分の身体が闇を照らす光の代わりになっているということだけ。
再び辺りを見渡したとき、一筋の光が目の中に映りこむ。よく目を凝らすと人影のようだ。
だが。
あのシルエットは……?
スリジエには見覚えのある人。忘れるはずがない、スリジエが一番尊敬する人。
「チェリーお姉様!? どうしてここに!?」
本音が声に出てしまう。
夢枕に立ってくれたのだろうか。それともただの幻だろうか。
それでもかまわない。少しでもチェリーお姉様とお話できるのなら。たとえ夢の中でもかまわない。
スリジエが走り出したとき、チェリーも後ろにバックするかのように遠ざかっていく。
「待って! チェリーお姉様!」
手を伸ばしてみるも届くはずはない。
まだ、何も話していない。一言だけでいい。
――チェリーお姉様とお話したい……。
スリジエの願いもむなしくチェリーは遠ざかっていき、闇の中に呑まれていった。
そんな……。
再び全身の力が抜けていくような感覚になる。
――スリジエ……。
突然、声がどこからか話しかけてくるように聞こえてくる。
――スリジエ……。
「チェ、チェリー……お姉さま?」
まぎれもなくチェリーの声。間違えるはずが無い。
スリジエが振り返ると光で包まれた体が透けているチェリーの姿があった。
「チェリーお姉様!」
――スリジエ……久しぶりね。何日ぶりかしら。
「チェリーお姉さま……どうして、どうして死んだりなんか……」
それしか言葉が出なかった。出てこなかった。目には涙でいっぱいだった。
――スリジエ。自分を見失っちゃ駄目よ。
「え? 自分を……見失う?」
スリジエは反射的に顔をあげる。
意味がわからなかった。どういうことだろう。
――あなたが求めるものはもっと別にあるわ。真実からそむいちゃ駄目。すぐそこに真実が必ず眠っている。
ますます混乱しそうになる。それって、仇が自分が思っている人じゃなく、もっと別の……。
――スリジエ。自分を見失わないように気をつけて。あと、『あいつ』がまもなくこの海堂町に……。
「チェリーお姉様!?」
チェリーの体が足から崩れるように消えていくのがわかる。
「待って! まだお話したいことが……」
夢は残酷なものだ。肝心なところで夢の世界から引き離されていく。そう、肝心なところで。
スリジエの意識は再び現実世界に戻される事となった。
「ん……ううん…………」
スリジエが目を開けると見知らぬ少女が顔を覗かせるように見つめていた。
「よかった! 気がついたんだね!」
安心したような明るい少女の声。
声を聞いて場所が変わっていることに気がつき、はっとする。しかも、少女一人だけではなく、顔立ちが整ったスリジエ好みの少年。翡翠色の長い髪を一つにまとめ、自分と変わらないような胸を持つ美少女。
「こ、ここは一体…………」
ただ独り言のように発する。
確か、自分は城からこの海堂町の浜辺に着いて、カップルから図書館の道を聞きだし、向かっていたはず。そして図書館にたどり着いて……そこまでは覚えてはいる。少し歩いて、そこで意識が……。
あぁ。自分は倒れたのね。
倒れたということは、刻々と時間が迫ってきているということ。
やばいわね。
そこにさっきの顔を覗かせていた少女が声をかけてきた。
「大丈夫……? もしかして……まだ具合、悪いの?」
考え事に集中していたために反応が遅れてしまう。
「え? あ、あぁ。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「そう? 中庭で飲み物買ってたら、あなたがやってきて、ぶつかったと思ったら急に倒れるからびっくりして……なんとかして知り合いの男の子に相談してここまで移動させてきたの」
「そう、なの……」
やはり、この中庭で倒れたのは間違いないらしい。
やっぱりこの『作られた人工の体』じゃ持たないのね。
せっかく、チェリーお姉様が復活されてくれたのに。どうして自分の体は言うこと聞いてくれないのだろうか。
やっぱり自分なんかが仇を見つけるなんぞ、無理があったのだろうか?
勝手に城を飛び出して、勢いを付けすぎたのだろうか?
どちらにしてもがんばりすぎて無理をしたということ。
もう、あきらめようかしら? 仇探しなんか。
その時、鮮明に蘇える夢の中で言ったチェリーの言葉。
――あなたが求めるものはもっと別にあるわ。真実からそむいちゃ駄目。すぐそこに真実が必ず眠っている。
私が求めるものはもっと別にある……。
チェリーお姉様は昔から変わらないわね。
かすかにスリジエの口元が緩んだ。
だからこそ……だからこそ、やっぱりチェリーお姉様を殺した奴は許せない! どんなにしても!
絶対仇を見つけて、見つけたら…………私は、どうなるんだろうか。
仇のことを考えるあまり仇を取ったあとの事は考えていなかった。仇を取ってももう、私は生きてはいない。でも元々一度は死んでいるのだからしょうがないけど。
でもやっぱり、どうなってしまうのだろう。私の体は。
しばし考えてみるが、なにも浮かばない。
考えてもしかたがないか。その時が来たら考える事にしよう。
スリジエは自分を凝視しながらしゃべる少女を横目にため息をつくのだった。
*
十一時四十分になったときだった。
図書館の中庭では弥生が目を覚ました少女に声かけようか、タイミングをうかがっていた。
はっきりとした理由はない。ただ単に少女の具合が本当に良くなっているか確認したいだけなのだ。
「あ……」
声は出るも、少女はなにやら考え事をしているようで、声をかけづらい。
もう一度挑戦。
「あ、あのっ……」
言葉にはなったが、声が小さすぎて少女の耳には届かない。
こ、今度こそ!
と、思ったとき、少女が難しい表情で空を見上げる。
具合でも悪いんだろうか? やっぱりまだ熱中症が治っていないとか……。
心配になった弥生は少女に念のために聞いてみることにした。
「大丈夫……? もしかして……まだ具合、悪いの?」
「え? あ、あぁ。大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「そう? 中庭で飲み物買ってたら、あなたがやってきて、ぶつかったと思ったら急に倒れるからびっくりして……なんとかして知り合いの男の子に相談してここまで移動させてきたの」
「そう、なの……」
その表情はどこかさびしそうだ。この表情、睦月さんが見せる表情に似てる……。
やっぱりどこか悪いのかな?
少し経ったとき、ごほごほと咳き込むような音が響いた。
この咳はおそらく少女のものだろう。
「大丈夫!? やっぱりどこか具合悪いの? 悪いんだったら……」
弥生はそういってみるも少女の方は、
「ほんとに大丈夫だから……心配してくれてありがとう」
青ざめた顔で受け流す。
大丈夫、大丈夫ってそんな顔で大丈夫って言われても……。
余計に不安が重なっていくだけなのだが。
やっぱりしっかりとした病院に見せた方がいいかな? いや、病院はお金かかるし、私はそこまでお金もっていないし……お金かからないでこの子の具合がよくなる方法は……。
考えるも頭がいいほうではないので、思いつくはずはない。
さっきの少女のように考え事をしている弥生を見て思ったのか、葉月がつぶやいた。
「弥生、さっきから何難しい顔してんのよ。まるで『昔の弥生』に戻ったって感じね」
え……? 昔の、私……?
それを聞いた直後、昔のトラウマがさかのぼるかのように鮮明に蘇えっていく。
弥生の背中に怪談話を聞いたような鳥肌が立つ。そして、身震いが止まらなくなる。と同時に過去のトラウマがビジョンとして映りだす。
夜……。
監禁……。
暗闇の海。誰も助けに来ない孤独な空間。
私、私は………………。
昔のあの事件のことが頭から離れなくなっていく。
どうしよう。どうしよう。誰か……助けて…………。
「どうしたのよ。どんどん難しい顔になっていくわよ」
葉月の声で我に戻り、平然とした顔でしゃべる。
「何でもないよー! ただ、昔っていつだったけーって考えてただけ!」
「昔って……あんた、まだ生まれてからそんなに経ってないでしょ」
葉月のいつものあきれた声が耳に入った。
ごまかしはしたものの、やっぱり複雑な感情は抜け切れない。
一度思い出した記憶を忘れようとするのは難しいらしい。
こんなんじゃ、明日の学校いつもどおりいけないかも……。
弥生がそう思っていると、葉月が声を出す。
「弥生、私図書館の職員の人と話して、医務室入れないか聞いてくるわ」
「え……急に突然……」
弥生は顔を見上げたが、既に葉月の姿はなく葉月の後ろ姿だけがかすかに見える。
足が速い……葉月。
でも、私まだ事情話してないんだけどいいのかな……?
といってももう、葉月は行ってしまったのにいまさら言えないし……。
かといって、葉月を仲間はずれにはさせたくないし……。
隣の横たわる少女をちら見する。
またさっきと同じように考え事をしているよう。
声、かけてみようかな……。
ほんの少ししか話していないとはいえ、やはり名前ぐらいは名乗らないと相手に失礼だ。一度顔を合わせて知り合いになっていれば、この先友達になれる可能性もあるだろうし。
よし! 自己紹介しておこう!
そう意気込んだものの……。
弥生は過去の記憶が頭から離れなくなっていた。そのためか、声かけようにも声かけていいのかためらっている。
……駄目だな、私って。
やっぱりどんなに前世の記憶があろうとトラウマはトラウマ。消えることがない。一生消えないものなのね……。
無意識に少女に目が行ったとき、少女が立ち上がろうとする場面が映りこむ。
だが、身体が完全に治りきっていないためか、すぐにふらつき元の仰向けの状態に戻る。どこか過去の事にあがく昔の自分のようだった。
弥生はいつしか少女を『昔の自分』と照らし合わせていた。
過去にあがいてあがいても、起きてもう終わってしまったことは変えられない。どんなにしても。
過去は過去。今は今。だからこそ、もう、二度とあんなことにならないように、同じ目に遭わない未来にするために今まで生きてきた。今もそうだ。過去は変えられないが、未来は変えられる。未来は必ずこうだと決まったものはないのだから。
突然、少女の息が荒々しくなった。
思わず少女に目を見張る。
「やっぱり、少しの間休んでおいた方がいいよ。無理しちゃ余計に身体を壊すだけだし」
「そうね……」
少女はただそれだけ交わした。
優しくゆるやかな風が吹き込み、少女の長い髪がふわりと宙に浮く。藤のようなあざやかな色の髪が揺れる。
綺麗な髪だなぁ……。
そのゆれる髪に見とれてしまう。
私もこの子の髪のように心が軽くなる日って来るのかなぁ……。
来るといいなぁ……きっと。
不安を募らせながらも、青く澄んだ空を見上げた。
*
時間を戻して十一時四十分。図書館の中庭にて。
葉月は弥生を落とし入れる作戦を考え込んでいた。弥生に復讐しようと思い立ったのは、自分が好きだった男の子を弥生にとられたからだ。それ以来、弥生に復讐するために生きてきたようなもんだ。
後ろでひざまずき、少女に寄り添う弥生を見る。倒れた少女の具合が気になるようだ。そんなの、ほっとけばいいものを……。まぁ弥生の性格上、ほっとくことが出来ないからどうすればいいか困っているのだろうが。
とはいえ、作戦を立てるにしろ、弥生にばれたら元も子もない。あの弥生が気づくはずがないだろうが。しかし、睦月さんは頭がいい。何をしようとしても気づかれる恐れがある。ここは慎重に行くべきだろう。
作戦は何がいいかしら。
表情はいつもどおりの顔でこなしながら、頭の中をフル回転させていく。
オーソドックスにささいなものでいじめていくというのはどうだろうか。だが、学校は明日だ。今行うものではない。ここで行えるものでもない。ということはこの作戦は没だ。
次に嘘の噂を流して弥生の心を至らしめるというのはどうだろう。だが、問題は『噂の内容』だ。噂の内容によって、デマだと判断させられる場合もある。弥生を落とし入れるための明確な嘘の内容がなくてはいけない。これは一時保留にしておこう。あとで何かに使えるだろう。
次は…………。
葉月の目が弥生と少女に向いたとき、ある事が思い浮かぶ。
そうだ……! 弥生のこの状況なにかに使えるだろう。最近、図書館を荒らし、図書館にいる人が襲われる事件が発生している。何かに使えるかもしれない。とはいえ、弥生はまだ中学生だ。この状況では犯人にするには難しい。しかも、犯人は計画的に事件を起こしている。頭が悪い弥生には到底無理なこと。だが、名目上は少女を助けるために図書館の職員を呼びに行くということにすれば、自分自身の株が上がる。弥生は無理だろうが。
まぁ、それも悪くないわね。
その時、弥生が難しい顔して少女を見つめる。
何か動揺させることがでるかもしれないと思い立つ。
葉月は思ったことを口にする。
「弥生、さっきから何難しい顔してんのよ。まるで『昔の弥生』に戻ったって感じね」
その瞬間、弥生の顔がみるみるこわばっていき、青ざめていく。
どうやらあの言葉は効いたようだ。
だがあれだけじゃ不自然に思われるかもしれない。
念のためにからかっておくか。
「どうしたのよ。どんどん難しい顔になっていくわよ」
葉月の声で我に返る弥生。
「何でもないよー! ただ、昔っていつだったけーって考えてただけ!」
「昔って……あんた、まだ生まれてからそんなに経ってないでしょ」
あきれようにつぶやく。
これなら大丈夫だろう。
さて……作戦を実行するとしますか。
葉月は平然とした顔で言う。
「弥生、私図書館の職員の人と話して、医務室入れないか聞いてくるわ」
「え……急に突然……」
後ろを振り向き、事務室があるほうへと猛スピードで駆けていく。
走りには誰にも負けない自信がある。
これだけ走れば誰も追いつけは出来ないだろう。
葉月は睦月にほめられる妄想をしながらかけていったのだった。




