弥生と家族への思い
お待たせしました。三ヶ月振りの更新です(汗)
初代王女ペルロマが消滅してから数分経過。元通りになった広場では、弥生、スリジエ、睦月、ベエモットが未だに集まっていた。
睦月はアクアワールドの王族として、弥生とスリジエにお礼を述べた。
「春野、スリジエ。まずアクアワールドの王族代表として言わせて欲しい。この世界を救ってくれて、ありがとう。アクアワールドが消えずに住んだのは二人のお陰だ」
続けて、父親である国王の代わりに、ムーン家への謝罪をする。
「そしてベエモットさん、スリジエさん、国王が犯した過ちに深くお詫びします。国王が異空間に閉じ込めたことが原因で、貴方達の家族を死なせてしまったことは変えられない事実。許して欲しいとは思っていません。時間をかけてでも償いたいと考えおります」
「もう、いいさ。奴等はこうなることを予見して、あえてアクアワールドに行かせたのだろう。死んだ事実は変わらない。私はただ雪江を、雪江の遺体をとりもどしたかっただけなのだ」
睦月に告げたベエモットの言葉を、スリジエは「お父様……」と寂しげな顔で聞いていた。
ベエモットの言葉を耳にした睦月は、遺体回収の手伝いを申し出る。
「……せめて、遺体を回収する手伝いをさせてください。このまま遺体を放っておくわけにもいかないでしょうから」
雪江の遺体を永遠に異空間に放っておくことは許されることではないだろう。ましてや、雪江を死に追いやったアクアワールドの者がそのまま放置し続けるなど、周りの目は今以上に厳しい目で見られることは間違いない。
「それに、アクアワールドに住む者として、雪江さんの遺体回収を手伝う義務があります」
睦月はベエモットにそう告げると、小言で何かの呪文を唱え始めた。アクアワールドと異空間を繋ぐ扉に関する呪文だろう。異空間への扉が姿を現すと、光の玉が扉の中から飛んでくる。ベエモットの前で停止。光の玉がはじけ飛び、そこから雪江の遺体が出現した。
「たまに国王が訪問者を異空間へ閉じ込め、そのまま亡くなってしまうことがありまして。その遺体を回収し、アクアワールドで埋葬する時がありますので、こうやって遺体回収をするんです」
無残な姿で帰ってきた、元・南の海人魚国の王妃。やっと会えた。そう遺体が家族に告げているように見える。
「雪江……!!」
「お母様……!!」
ベエモットとスリジエの目には涙が溜まり、嬉しさを滲ませていた。
「睦月君、ありがとう……これでようやく、雪江を安らかに眠らせることができる」
「冬川君……ありがとう」
二人の言葉を聞いて、安心した表情で頷く睦月。ベエモットとスリジエがようやく家族と再会できたことに対し、弥生は自分のことのように「良かった」と涙を浮かべながら喜びを噛みしめていた。
その時だった――――聞き覚えのある声が広場に木霊する。
「……ベエモット国王陛下」
四人全員が振り返り、声がした方角へと視線を移した。
「ミレス、か――――?」
ベエモットがつぶやくと、ドグマはベエモットの前で跪ついた。先程、ペルロマの結界を破ったドグマである。今はもとの姿に戻り、ミレス=ブリジャールとなっている。
「そうでございます、ベエモット国王陛下」
先程とは打って変わった態度に対し、弥生が何度も瞬きを繰り返す。
「ミレスさん……? 一体……」
四人の視線を一度に浴びながら、ミレスは胸の内を話し始めた。
「ここに現れた理由は今までの無礼と罪に対して謝罪をしたく参上した次第です。このミレス=ブリジャール、王族直属の親衛隊長でありながら、国王様や王妃様、チェリー王女様にスリジエ王女様をお守りすることができず、黒の人魚族の計画に気づけず野放しにしてしまった。その結果、王妃様は行方不明になり、のちに王権が崩壊……城は黒の人魚族の手に堕ちてしまいました。私自らも黒の人魚族共に記憶や姿が闇魔術で変えられしまい、奴等の手下となってしまった。操られていたとはいえ国王様を抹殺しようと致しました」
「ミレス……お前……」
元従者の告白に、ベエモットは目を見開いて、ミレスを見下ろしていた。
跪いたまま、ミレスは告白を続ける。
「今まで申し訳ございませんでした、国王様。こうなったのも全て私の責任です。王族の皆様を守れなかった私の責任なのです。どうか、この私に処罰を下してくださいませ!」
「ミレス……私が城を出てから一体何があった? 何故、奴等の手下になってしまったのだ?」
国王からの問いかけに、ミレスはこう答えた。
「心の隙を奴等に見抜かれしまい、魔術をかけられてしまったのです」
「ミレスさん、話して……私、知りたい。国王が父親から奴等の仲間になってからは、今までのお付きの人や執事、親衛隊の人たち、何人かは顔見知りの人はいるけど、ほとんど知らない人に変えられてしまった……だから、ミレスさんに何があったか、知りたいの」
スリジエの言葉が胸の奥に響いたのか、ミレスは「わかりました、お話致します」と告げて、あの日の出来事を話し始めたのだ。
*
ミレスの回想。さかのぼること、ミレスが王族直属の親衛隊隊長をしていた頃の話。
最近になり、良からぬことを企てている黒の人魚族を見かけるようになってから間もない時のこと。その頃は親衛隊隊長として最も忙しい時期で、護衛に集中していたこともあり、何気ない些細なことを見逃すようになっていた。それは隊長としてあるまじき失態であり、のちの出来事にもつながっていくミスでもある。王族崩壊後に後悔するのだが、それでも良からぬ奴等がいるからと証拠もなしに突きつけるわけにもいかず、見逃すしかできなかった。
それから数日後、スリジエ王女が死にかけるという事件が起こった。その首謀者は誰が考えても良からぬことを考えている黒の人魚族であることは明白だった。
さらに月日が経った頃、突如、王妃が失踪した。王妃が姿を消したという事実はまたたく間に王国全体に広がっていき、国民は混乱し、王族たちに不安を抱くようになる。
ミレスはふと考え込む。一連の出来事、奴等の仕業じゃなかろうか。そう疑問を抱いていた。そう推測すれば、辻褄が合うのだ。
――スリジエ王女様が死にかけ、王妃様は失踪……? これはあまりにもおかしすぎる!
ミレスは部下を引き連れ、立ち上がった。親衛隊隊長として、王族の危機を守らねばと。城に潜む黒の人魚族の元へと乗り込む。しかし、それがミレスの運命を決定付けた――――。
「観念しろ、黒の人魚族! 王族に関わる全ての出来事はお前たちの仕業だということは分かっている! 親衛隊長のこのミレスが、お前たちを拘束する!」
ミレスの掛け声と共に、親衛隊は黒の人魚族らを拘束しに戦闘モードへ突入した。奴等を倒そうと、自分たちが持てるチカラ全てを駆使していく。
――あと少しで、奴等を倒せる! あと一息だ!
ミレス達が勝利を確信した直後。すぐさま己の過信だったと後悔することとなる。
「愚かな親衛隊どもだ、我々には黒魔術という最強の術式があるというのに」
黒の人魚族の一人が言い放った言葉を皮切りに、一人また一人と、先程の勢いと裏腹にことごとく隊員が倒されていった。親衛隊の戦闘能力より、黒の人魚族の魔法が遥かに格上だったからだ。
戦いの中、倒されていく部下の姿を横目で見ながら、ミレスは未熟な行動をしてしまったと今更ながら激しく後悔の念に駆られる。
――私のせいなのか、全て、私が深く考えずに行動したばっかりに……!
黒の人魚族はミレスの心の奥底に潜む闇に気づいたのか、よそ見した隙をついて皆で一斉に魔法を連続して発動させた。集団攻撃に勝てるはずもなく、あっという間にミレスも負けてしまった。
それで終われば、何事もなかったかのように過ごせたかもしれない。そのまま放っておかないのが、黒の人魚族だ。
「親衛隊隊長と副隊長、そしてあの隊員三名は使えるな。あのままにしておくのは勿体無い。我々の計画の為に人肌脱いでもらおう」
ミレスを含めた五名は、黒の人魚族のアジトに連行され、仲間の証である刻印を押されてしまう。さらに、今の姿は黒の人魚族の仲間としてはふさわしくないとして姿と記憶を改変させられ、黒の人魚族派遣隊として生きることになったという。
*
「こうなったのも全て、奴等の予兆を見逃した私の責任にあります。皆様、本当に申し訳ございませんでした!」
話し終わったミレスの目には、大粒の涙がぽたりぽたりとこぼれ落ちていた。
頭を下げて深く詫びる元配下に向けて、ベエモットは冷ややかな視線を浴びせた。
「……ミレス。本当に悪いと思っているのかね?」
「自分の不注意と身勝手な行動がこのような結果を招いたことは事実です。奴等の行動を見逃さず、早急に対処していればと今でも悔やまれます……」
元配下・ミレスの発言に対し、ベエモットは寂しげに話した。
「ミレス、どんなに過去を悔やんでも、あの頃にはもう戻れないのだ」
ミレスは跪いたまま、拳を作り、強く握りしめる。歯噛みしながらつぶやいた。
「分かっています。ですが……! それなら、それなら……私を罰して下さい……!」
「分かった……ミレスがそう望むのなら、罰を下そう」
ベエモットが言った瞬間、弥生、睦月、スリジエの表情が凍りつく。元配下とはいえ、罰を下して欲しいという希望を受け入れるなどとは思っていなかったため、思考回路が停止した。特にスリジエは、ミレスの言葉を否定してその考えを改めろと言うと思っていただけに、父親の決定に納得いかない様子だった。
「どうしてなの!? どうしてそう簡単に受け入れるの!? おかしいわよ!!」
「スリジエ……これはミレスが望んだこと。口出し不要だ」
ベエモットは聞く耳を持たず、娘の抗議を退けた。かと思えば、何を思ったのか、魔法陣を発動させる。小言で呪文を唱えた直後、ミレスに炎の魔法を浴びせた。
炎はミレスの全身を覆い尽くし、魔法の効力が消えるまで燃え続けた。本当に罰を下した――――弥生とスリジエと睦月は、突然起こった光景を凝視している。
スリジエが再び抗議を唱えようとしたが、父親の言葉によって遮られた。
「ミレス。罰は下した。これで……『黒の証』は消えただろう?」
ベエモットの発言に、四人全員が驚いた様子でベエモットを見つめた。「えっ」と四人同時に声を出して動揺する。
「私は計画を手伝えを言われたが仲間になれとは言われなかった。元国王が自分たちの部下となって働くとは思っていなかったようで、そういう話を一切してこなかった。むしろ仲間になったところで反逆する可能性を抱いていたようだ。だから私は『黒の証』を刻まれてはいない。だがミレス、お前は違う。『黒の証』を刻まれ、完全に奴等の正式メンバーとなっている。黒の証……奴等の正式メンバーにのみ刻まれるという、黒魔法によって作り出された特殊なアザだ。黒の証を消すには『黒魔法の炎』で焼き消すか、奴等の上層部がもっているという特殊な薬品を使って消すしかないからな。頼み込んだところで奴等が薬品を渡してくれるとは思えない」
ベエモットの話を一通り聞いた睦月は気がつく。
「だから炎の魔法を浴びせたのか……! アザを消す為に……」
「国王様……! ありがとう、ございます……!!」
泣きじゃくるミレスのそばに近寄ると、ベエモットはこう告げた。
「ミレス、これからは娘スリジエの兄代わりとなってそばにいてもらえないだろうか?」
「こ、国王様!? それはどういうことなのでしょうか?」
「ちょっ、何を急に……!? ミレスさんを私の兄代わりにって!」
ミレスとスリジエの言葉を受けて、ベエモットが話した。
「私は娘を守るとはいえ、スリジエを虐待した。そもそもこうなったのは全て自分のせいだ。結果的に自らの手で家族を崩壊させ、バラバラにさせた。チェリーに申し訳ないことをした……娘二人を傷つけ守れなかった。父親失格なのだ、私は」
スリジエは「お父様……」とつぶやきながら、父親の言葉に耳を傾けていた。
「昔からスリジエは兄が欲しかったと言っていてね、私と雪江を困らせたこともあったものだ。もしも、もう一人子供がいたら、運命が変わったかもしれないし変わらなかったかもしれない。今からでも遅くはないだろう。スリジエの兄となって家族の一員になること、それがミレス、お前がこれから先背負う罰だ」
「国王様……! ありがとうございます、ありがとうございます……!」
ミレスはひたすら泣き続けた。自分に新たな目的が生まれた。スリジエ王女様を見守り、そばいること。それは元国王のベエモットから与えられたもの。罰と評されたものでも、ミレスには嬉しさを感じずにはいられなかった。
「全て、終わったな……では私は一足早く立ち去ることにしよう」
ベエモットの発言に対し、弥生と睦月とミレスが一斉にベエモットを見つめた。ここで立ち去るのか? 弥生達が疑問に思う中、ベエモットの行動に猛抗議を唱える人物が一人名乗り出た。
「…………待ちなさい!! ……バカ親父!!」
スリジエの気迫に、空気が圧倒された。皆の視線がスリジエの方へと向けられていく。
娘の叫びに「スリジエ……?」と、動かしていた足を止めて、振り向くベエモット。
スリジエは溜め込んでいた本音をぶつけた。
「何勝手に立ち去ろうとするの!? 父親じゃないの!? そばにいてくれないの!?」
「私は自分で家族を奪った。守ってやれず、自ら壊していった。そんな私に父親と名乗る資格はない」
「それなら……今度は私から父親を奪う気かぁ!!」
スリジエから思い丈をぶつけられたベエモットは、何度も瞬きを繰り返した。まさか娘から止められるとはおもっていなかったみたいだ。
スリジエはくしゃくしゃの顔で父親を睨む。充血した目からは涙が溢れ、歯を食いしばっていた。
「チェリーお姉様の一件も許せないし、今も許すことはできない。でも! 一番は何も言わずに自分で勝手に抱え込んで一人解決しようとしている父親が許せない! もう、家族は……父親しかいない。だからこそ、たった一人の父親だからこそ、そばにいて欲しいのに! なんで、なんで逃げるのよぉ!!」
これまで父親が戦う姿を見てきて思った本音。どうして父親はあの頃の自分に戻らないのか、何があって父親が変わってしまったのか。全てが分かった瞬間、スリジエは決意していた。ようやく父親と向き合う時が来たのだと。
「スリジエ……お前…………」
今まで聞いたことすらなかった娘の本音に、思わず息を呑むベエモット。
スリジエは、一番言いたかった言葉を吐いた。
「逃げないで、私と真正面から向き合ってよぉ!!」
「スリジエ……スリジエ……!」
その瞬間、ベエモットの心に縛られていた鎖が解き放たれた。ベエモットは走り出し、娘をそっと抱き寄せる。
「すまなかった……スリジエ……向き合うことから逃げていた。しかし、それをしない限り前には進めない。これからはお前のそばにいるよ」
父親の目からこぼれた涙を、右手で拭き取るスリジエ。口元を緩めながら、ポツリと一言。
「…………気付くのおそすぎ」
親子の仲直りに、ミレスは安心した表情で見つめていた。弥生と睦月も、「二人が和解して良かった」と視線を交わして頷き合った。
一段落したところで、弥生が話を切り出す。
「そう言えば。これからどうしよう」
「弥生達は先に戻ってくれ。時間は向こうの世界も戻されてあるから、弥生とスリジエは学校にいかないとまずいんじゃないか?」
睦月の言葉に、弥生とスリジエは「――――あ」と同時に声を漏らした。
「自習の時間が始まった頃に学校を飛び出しているから、戻らないといけないだ……」
「それに校長先生と荒川先生にも報告しておかないとまずいんじゃないのかしら?」
弥生とスリジエの会話に、ベエモットが割って入る。
「報告するなら、校長先生に伝えてくれないだろうか。『脅迫して迷惑をおかけしました。誠に申し訳ございませんでした。後日、改めて謝罪しに伺います』と伝えてもらえないかな?」
スリジエはふくれっ面な顔で父親を指差す。
「当たり前よ! そもそも、こうなったのはあんたのせいなんだから。ちゃんと謝罪しに行くのよ!」
「ああ、分かっているよ……必ず、謝罪しに行くよ」
スリジエは納得すると、睦月に話を振った。
「冬川君はどうするの? 学校に戻るの?」
「俺はまだ後始末が残っているからな。それを片付けてから学校に行くよ。そう荒川先生に伝えてくれ」
スリジエは頷きながら言った。
「分かったわ、伝えておくわね」
「それと、ベエモットさんとスリジエ。雪江さんのことですけど、改めて父親に謝罪させるので待ってもらえませんか? あの人、極度の人魚嫌いなので、時間がかかるとは思うけど……」
睦月は気まずそうに目線を逸らした。極度の人魚嫌いで、子離れできないあの父親のことを考えると、素直にうんと言ってくれるとは思えない。確実に時間はかかるだろうな。
ベエモットは睦月の父親がどんな人物が分かっているため、睦月が言いたいことを理解した。
「気にしないでくれ。あの国王が心の底から謝ってくれるとは思っていないさ。海堂町に戻ったら雪江の墓を作るから、その後墓に手を合わせてくれれば、それで充分だ」
「はい。必ず、父親と共に雪江さんの墓参りへ行きます」
睦月は父親を連れて墓参りに行くことを約束した。というより、人一人死なせたのだ。謝罪するのは当然。人魚嫌いだろうが謝罪も兼ねて墓参りに行くべきだと、息子の睦月は思っていた。
「じゃあ、睦月さん、私達は先に戻っているね」
弥生が声をかけると、睦月は優しい笑みを向けた。
「ああ、気をつけて帰れよ」
一足早く、弥生、スリジエ、ベエモット、ミレスが扉をくぐり、海堂町へと戻って行った。
弥生達を見送った後、睦月は一人佇んでいた。やるべきことがあまりにも多すぎでどれから手を付ければいいのか迷っている最中だった。父親のこともそうだが、ベエモットや黒の人魚族が装置によって破壊させた建物の残骸や装置そのものが残っていたためだ。他にもやるべき問題は山積みだ。
睦月の視界に生まれ故郷が映る。一時的に崩壊への道を辿ったとはいえ、見たくはなかった光景を思い出してしまう。
――そうならないためにも、俺がしっかりアクアワールドを守っていかなきゃ!
睦月は黒の人魚族が残した装置の残骸を思い浮かべた。まずは装置の撤去から始めないといけないな。大きすぎるし、一人で片付けるなんてまず無理だ。できるだけ多くの人に手伝ってもらうしかないな。
と、その時。
城から勢い良く飛び出してくる一人の人物がいた。その人物は睦月にめがけて、全速力で走っていた。
「我が愛する息子よ〜〜〜〜!! 会いたかったぞぉ〜〜〜〜〜〜!!」
睦月が振り向いた瞬間、満面の笑みをこぼしながらこちらを目指している父親の姿が目に止まり「げっ、バカ親父」と思わず声に出して言った。
睦月父は勢いそのままに、息子を力強く抱きしめた。
「ん、もう! 心配したんだぞ! あれから睦月は戻ってこないし、牢屋の様子がおかしくなるしで大変だったんだぞぉ! このまま牢屋から出られないと思ったじゃないかぁ!!」
しかし。息子の表情は冷たかった。というより、拒絶反応を示していた。
「抱きつくな! 離れろ! 気色悪いぞ、親父! いい加減に抱きつく癖なおせよ!」
「つれない我が愛する息子! 話は終わってないぞ! あの後、牢屋がいろいろおかしくなったと思ったら、気がつけばなにもかも元通りじゃないか! 一人の兵士が吾輩が牢屋に入れられているときがついてくれてな。ようやく牢屋から出られたのよ! こうして、親子感動の再会って訳なのだ、我が愛する息子よ〜〜!」
睦月は目を光らせ、呪文を唱え始めたかと思えば、炎系の魔法で父親を吹き飛ばしていた。
睦月父は吹き飛ばされた勢いで尻餅をついた。
「ひどい! 親に向かって……駄目だぞ! こんなことをしちゃ! 父さん、泣いちゃう!」
「何がこんなことをしちゃ駄目だ、離れない親父が悪いんだろうが! というか、親父! 国王として、いろいろやってもらうこといっぱいあるんだからな! 覚悟しろよ!」
「ううぅ。国王の責務、苦手なんだよぉ……」
「泣き言言わない! ほら、城に戻るぞ!」
弱音吐いて泣きじゃくる父親を、睦月は引きずりながら連れて行った。親父もベエモットさんのようなしっかり者の国王だったら良かったのにと、心の中で呟いたのだった。
次回、ようやく最終回です!
前巻、ラストに黒の人魚族を登場させるのをし忘れたこともあり。今度はちゃんと登場します。
最終確認しましたが、それでも誤字脱字があった場合は報告してもらえると助かります(汗)