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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
最終話 弥生ともう一つの世界
49/51

弥生とペルロマと竜人族

二ヶ月振りの帰還です(汗)

「ペルロマさん!!」

 弥生とスリジエは、声を揃えて、初代王女の名前を呼んだ。同時に立ち上がると、笑顔で泳ぎ寄った。

「よかった……本物のペルロマさんだぁ……!」

「応答がない時はどうなるかと思ったじゃない……ヒヤヒヤしたんだから!」

 二人の反応を受け止めながら、ペルロマが微笑みかける。

「すまぬな、色々と迷惑をかけてしまったようだ」

 申し訳なさそうにつぶやくペルロマに向けて、弥生は横に首を振った。

「そんなことないです! 迷惑だなんて!」

「弥生殿は優しいな……気を遣わなくて構わん。吾輩が迷惑をかけたのは事実なのだ」

 ペルロマの瞳は、寂しげな表情を醸し出していた。

「それよりも、お主らに話すべきことがある。時間がない。一度しか言わぬ故、きちんと聞いて欲しい」

 弥生は、うーん、と、首を傾げる。

「話すべきこと……?」

 スリジエも不思議そうな顔で、ペルロマを見つめていた。

「私達に関係あることなのかしら……?」

「関係あるかどうかはお主らで判断すると良い。話すべきこととは、吾輩と竜人族、そして、アクアワールドの歴史についてだ」

 ペルロマさんと竜人族、アクアワールドの歴史について――――!?

 弥生とスリジエは、何を言っているんだろう、と言いたげな顔でペルロマを凝視していた。

「吾輩は元々、夢鏡を守る役目を担っていた」

 ペルロマの言葉に対し、弥生スリジエは体中がしびれるような衝撃が走る。今まで聞かされなかったペルロマの過去のその先に、続きが隠されていた。その事実を知って、衝撃が走らない訳がなかった。

「願いのチカラは、吾輩が元々持っていたチカラではない。ある神に取り憑かれてしまったが故に、身につけた、言わば呪いのチカラなのだ」



 ペルロマに取り憑いたという神のチカラが、他者の願いを『歪んだ形』で叶えてしまう厄介な能力だという。そのチカラは他者が願った通りに願いを叶えるのではなく、願いを込めた思いに負の思いがあれば、歪んだ形へと願いが現実化していく。竜人族の中で最も魔力が強かったのはペルロマで、今までの竜人族達を凌駕するほどの圧倒的な魔力を誇っていた。それを知った神は、目的のため、ペルロマに近づいたという。



 スリジエは何度も瞬きを繰り返す。そして、言った。

「神が近づいた……? アクアワールドに神がいるなんて話、初めて聞いたわ」

「いやアクアワールドに神は存在しない。“やってきた”のだ、アクアワールドに」

「だとしても、神という存在が何故、アクアワールドにやってきたのかしら? そもそもどうやってやってきたというの……?」

 スリジエの疑問を一瞬で砕け散る事実が、ペルロマの口から明かされる。

「あるだろう、『夢鏡』という媒体がな」

「――――!?」

 弥生とスリジエは、同時に、大きく目を見開いた。

 二人の様子を一見しながら、ペルロマは言葉を紡いだ。

「夢鏡を通じて、神と名乗る存在はアクアワールドに姿を現したのだ」



 遥か昔、一人の創造者により、いくつもの世界が作り出された時代。創造者が姿を消した頃、神と名乗る者達が、自我を持ってしまったことで戦争が起こっていた。

 最終的に一人の神が戦争を終わらせるのだが、戦争は犠牲を生み出していた。戦争が起こったことで、数体の神々や世界が滅んでいったという。



 ペルロマの話が一区切りついたところで、スリジエは疑問点を切り出す。

「夢鏡とペルロマさんにどう関係しているというの?」

 急かすスリジエをなだめるように、ペルロマは制した。

「まぁ、待て。この話には続きがあるのだよ」



 その戦争には裏があった。実は竜族がキッカケで起こったという。元々、竜族が本来住んでいた竜族の世界が存在していた。

 しかし、竜族の世界は閉じられた世界で、自由のない、理に縛られた世界だった。最初の頃は何事もなく過ぎていったが、頭が良かった竜族たちは時が経つにつれ、自分達の世界には自由がないと気づいてしまった。そして、いつしかこう思うようになる。


 ――窮屈な世界から抜け出して自由になりたい、と。


 自由になるには問題があった。竜族の世界を管理する神という壁が存在していた。壁を壊すには、神に世界の縛りを解かせるか、世界そのものを無くすしかない。

 ならばと、竜族達は考え、行動に移した。いわゆる反逆というものだ。

 まずは、自分たちの世界を管理する自我のない神に、自我を与える魔術をかけたのだ。それが発端となり、神は戦争を引き起こした。

 戦争の代償で神々や世界が消滅したが、竜族が住んでいた世界も含まれていた。戦争により自分達の世界を失った竜族は、自由を手にいれ、新たな世界『のちの人間界』へと移り住むことになったという。



「――――っ!?」

 弥生とスリジエは息を呑んだ。話の続きに、驚きが隠せない様だ。

「竜族は人間界に住んでいたんですか!? でも今はアクアワールドですよね!?」

 弥生の問いに、ペルロマは淡々と答えた。

「今はな……昔は違ったのだ。今で言う人間界に、竜族は新たな住処にしていた」

 スリジエが独り言のようにつぶやく。

「じゃあ、どうして……?」

 ペルロマは、間を置いてから言った。

「――――黒の人魚族」

 弥生とスリジエは「えっ…………??」と声を漏らし、ペルロマの顔を見上げた。

「黒の人魚族がそれに関わっていると、言ったら、どうする?」



 竜族が今の人間界である新たな世界に移動した頃。その頃は人間界に住んでいた先住民と異世界の者とで戦いが巻き起こっていた頃だった。様々種族が先住民と戦い、争っていた。先住民との戦いに、神も立ち上がり、二度目の大きな戦争へ発展しようとしていた。

 戦いに神までもが参戦したと聞いた先住民達は、一刻も早くこの戦いを終わらせる為、自分達と同じように戦争を止めようとしている異種族達の勢力に味方を始めた。人間と異種族の連合は、欲にまみれた他の異種族達を止める為、急ごしらえの神器を生み出した。

 神々しい輝きを放ちながら神器は戦争集結の手助けしていく。

 先住民と神器の活躍により、あっという間に戦争は集結。先住民の勝利で終わり、役目を終えた神器は、それぞれ三つに分かれて、別のモノへと変化させた。剣、鏡、宝玉へと。


 その後、三つに分かれた神器は、最も戦いに貢献した種族が、それぞれ三つの種族を管理することとなった。


 一つは、先住民――――のちの人間達が。

 一つは、竜族――――のちの竜人族が。

 一つは、魔法を駆使する異種族の民――――のちの人魚族が。


 異種族と人間は次第に交流をするようにより、親睦を深めるようになった。異種族達と人間の交流は平安時代まで続いたが、長い年月で次第に人間は、神器の存在や異種族を忘れるようになり、異種族の存在そのものを否定するようになった。

 そのことを知った異種族達は悲しみ呆れ果て、四番目に貢献『天使族』が人間達の代わりに管理を任されることとなった。これを知り、人間界で戦争を引き起こした他の異種族達は『納得がいかない』と『神器は自分達のものだ』と言い張って、再び戦争を起こした。


 このままでは『戦争を引き起こした異種族』らによって、自分たちの世界を滅ぼされてしまう。

 そこでようやく思い出す。異種族の存在を。遠い昔、戦争があったという事実を。

 人間達はもう一度立ち上がった。自分たちの世界を壊されてたまるか。神器に頼らず、魔法も頼らず、科学技術という手段をとった。


 人間たちの功績もあって、地上に残っていた欲まみれの異種族達は壊滅させられ、戦争はここでようやく集結した。


 戦争を引き起こすキッカケとなった神器の一つは、二度と悪用されないよう天使族が二重の封印をかけ、戦争が起こってしまったもう一つのキッカケでもある、人間達の世界のどこかに隠したという。

 天使族は人間達に言った。

『いつの日か、貴方達が神器を必要とする時が来た場合、我々は封印を解きましょう。しかし、貴方達が異種族の存在を忘れてしまうようなことがあれば、もう一度神器を取り上げます』

 そう言い残すと、神器を見つけるためのヒントを人間界中に散りばめた――――。



 その後のことである。神器の鏡を管理していた初代王女ペルロマが憑依型の神に取り憑かれてしまったのである。

 それを人づてで知った黒き人魚族は、今が好機と言わんばかりに行動に出た。

 人間界にひっそりと住んでいた竜族と、神器の宝玉を巡って争う一部の白き人魚族を、二つの種族共に、発動させた空間魔法で別空間へと飛ばしたのである。神器の鏡と共に――――。




「これが、竜族と白の人魚族達がアクアワールドに住むようになった経緯だ。何か質問はあるかな?」

 ペルロマが話す真実に、驚きっぱなしの弥生とスリジエ。アクアワールド誕生の裏に黒の人魚族が関わっていた。話が壮大すぎて、頭の中がついていけていなかった。

 ふと、弥生の脳裏に、一つの疑問点が浮かび上がる。

「あれ……? でも、そうなったら変、だよね? 白の人魚族って確か『夢石ユメイシ』を管理していたはずじゃあ……!」

「そうよ、そうなったら『夢鏡ユメカガミ』が“二つある”ってことになるじゃないの!!」

 スリジエが叫んだ時、ペルロマは二人に疑問点の答えを言い放った。

「残されていると言われる文献には一部誤りがある。それは、奴等によって夢石を偽物にすりかえたという事実だ」

 ペルロマから聞かされたもう一つ真実を知って、スリジエは腕を組みながら考え込んだ。

「それなら辻褄が合うわね……白の人魚族達が混乱している内に、夢石を夢石に姿を変えさせた夢鏡にすりかえることも不可能ではないわ」

「じゃあ、夢鏡はどうやって竜族から奪ったんだろう?」

 弥生がさらに質問すると、ペルロマは言った。

「奴等は竜族が持つ“世界操縦の能力”を欲しがっていた。だが世界操縦の能力が欲しくても、吾輩に取り憑いた神が持つ、願いを歪めて叶えるなど脅威にしかない。どうしても封印したかったのだろう。突如、竜族の領域に侵入したかと思えば、一瞬の隙をつかれてしまい、夢鏡を持ち去ってしまった。我々が夢鏡を再び目にした時はアクアワールドとなるこの空間に着いた時だった」

 ペルロマは顔を上げ、僅かに微笑みをこぼした。

「だが、アクアワールドでの生活は満足しているよ。何も不自由はない。ある意味、奴等には感謝すべき、なんだろうな」

「ペルロマさん……」

 弥生とスリジエは、寂しげな目でペルロマに視線を送った。

「さて、吾輩の話すべきことはこれでお終いだ。ここでお主ら二人に頼みがある。二つ頼みがあるのだが、聞いてくれるかね?」

 弥生が「なんですか、ペルロマさん」と問いかける。弥生の中に、不安の渦がうごめいた。まさか――嫌な予感がよぎる。

「一つは、ここで吾輩にとどめを刺してほしいのだ」

 弥生とスリジエで、ペルロマのとどめを刺す。ほんの少ししか共に過ごしていないとは言え、今の二人には躊躇いのある頼み事だった。

「もう一つは、吾輩が覚えている魔法を一つ、受け取って欲しい」

 ペルロマが言うもう一つの頼み事に、二人は「えっ」と何度もまばたきする。

「ど、どうして……そんなことを……?」

「魔法を受け取るだなんて、まるで何かに備えるための準備みたいじゃない……」

「そうだ。この出来事が終結したのち、奴等が本格的に動き出すだろう。そして奴等は世界操縦の能力を手に入れることを諦めてはいない。おそらく自分たちの計画の為に必要なのだろう。その奴等の計画が動き出した時の為に魔法を覚えて貰いたいのだ。とどめを刺された瞬間、二人の脳内に魔法を覚えてもらうよう、自分自身の体に術式細工してある」

 ペルロマは深呼吸すると、続けて言った。

「吾輩は、神に取り憑かれて呪われたチカラを持ってしまった、災いの王女だ。このチカラは神と共に消滅しなければならない。これは運命なのだ」

 それでもなお、弥生とスリジエは躊躇していた。なかなか、魔法を発動できずにいた。

「弥生殿!! スリジエ殿!! 早く!!」

 弥生とスリジエ、二人の頬を一筋の雫がつたう。濡らされた頬には、薄い線ができていた。悔しげな表情を浮かべながら、二人同時に叫んだ。

「アクア・プッシャー!!」

「レイヴン・ボール!!」

 大量の水が漆黒の球体を飲み込む。渦を描くように螺旋状になって突進していく。進んでいく度に先端が鋭利に変化。ペルロマの心臓に一直線に貫き、水がペルロマを包み込んだ。漆黒の球体から攻撃を受けつつも、最期に言い残した。

「弥生殿、スリジエ殿、ありがとう……」

 ペルロマの意識体は、泡のように小さくなって、散っていった。

 



 現実世界。意識の世界から帰還した弥生とスリジエ。三十分ほど意識がなかったせいか、二人共、ぐったりと横たわっていた。

 弥生とスリジエは、ゆっくりを瞼を上げていく。瞳に溜めていた涙をこぼした。

 二人が目覚めたことに気づいた、睦月とベエモットは二人に声をかけた。

「……弥生、スリジエ、大丈夫か!? 今度は何があった!」

「二人共、怪我はないかい!? ペルロマ様に会えたのかい!?」

 弥生が上体を起こす。涙を腕で拭き取り、睦月とベエモットに対し、意識の世界で何があった伝えた。

「会えたよ……ペルロマさんに。ペルロマさんとお話したよ……アクアワールドや竜人族の秘密とか話してくれた……その後、とどめを刺してほしいと言われて……そして……」

「ありがとうって言って消えて言ったわ……」

 スリジエも話すが、声はか細く、ペルロマとの別れにまだ堪えているようだった。

「二人共、詳しく話が聞きたい。話してくれ」

 睦月は、アクアワールドの王族としてアクアワールドの歴史は知っておかなければならない、そう思い、弥生とスリジエに話すよう頼んだ。

「うん、分かったよ」

「何があったか、詳しく話すわ」

 弥生とスリジエの二人は、ペルロマから聞いたこと、何があったか、事細かに説明していった。

 弥生とスリジエからの話に、アクアワールドの王族でもある睦月は驚きを隠せない。

「アクアワールドや竜人族、ペルロマさんにそんな秘密があったなんて……」

「まさか、アクアワールド誕生秘話の裏に黒の人魚族が潜んでいたとは。海の世界で黒の人魚族が、白の人魚族達を空間魔法で飛ばしたことは関与していると分かっていたが、まさかここまで関わっていたとは……」

 ベエモットも、アクアワールドの歴史に黒の人魚族が関わっている、その事実に戸惑った表情で話を聞いていた。

「ペルロマ様が消滅したということは――――」

 ベエモットが辺りを見回す。弥生とスリジエ、睦月も、各々辺りの様子を確認した。


 その時。タイミングを見計らっていたかのように、アクアワールド全体を、まばゆい光が包み込んだ。人や建物、空など、全てが一瞬でもとの姿に戻されていく。


 夢鏡が四人の前に姿を見せた。

『また、必要とあれば、お呼びください。また、会いましょう』

 とだけ、言い放つと、またアクアワールドの何処かへと姿を消した。


 時間も戻され、アクアワールド本来の姿が現れ、空間の歪みも消滅していた。


「終わったね、スリジエさん……」

「そうね、春野さん。これで全て、終わったわね……」

 弥生とスリジエは、もとに戻った広場を見つめていた。



 アクアワールドで起こった事件は、これにて幕を下ろした。

ってこれで終わりじゃないよ! 残るはあと二話!

次のストーリーはいよいよドグマさんこと、ミレスさんが何故黒の人魚族の一員になってしまったか、そこらへんのストーリーになります。

次回もお楽しみくださいませ〜。

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