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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
最終話 弥生ともう一つの世界
48/51

弥生とスリジエ、二匹の人魚姫

お待たせしました。年末までに投稿、間に合ってよかった……。

最終話、第三節です。

 ペルロマを覆い隠した闇は、みるみるうちに膨れ上がっていき、暗黒に染まっていった。呑み込まれてしまう。そう思ってしまうほど、闇がさらにどんどん深くなる。

 数秒経過した頃、闇が縮み始め、消滅していく。役目は終わった、そう告げているかのようだった。小さくなっていく闇を、二匹の人魚が呆然と見つめている。

 完全に闇が晴れた時、ペルロマが最凶の姿に変わり果てて現れる。顔や手足に黒い紋様のようなモノが刻まれ、目は白目黒目共に赤く染まり、服装も悪魔を連想させるような黒を基調とした服装へと変化していた。見た目だけが変わっただけではない。体から黒いオーラを身に纏い、魔力も強さがましているように思えた。


 ペルロマの変化に、弥生は動揺が隠しきれないのか、本音を吐いた。

「な、なんで、こんなことに…………?」

 諦めない。そう誓ったばかりの、ペルロマさんの変わり果てた姿。最凶になったチカラ。想定外の事態が起きている。

 おかしい。何かが、おかしい。初代王女はこんなチカラを持っていたのだろうか、分からない。

 弥生の横で、スリジエは小さく舌打ちした。

「状況は最悪ね……最悪としか言いようがないわ」

「スリジエさん……どうしよう、どうしたら…………!」

 何度目かの混乱状態へと陥る弥生に、スリジエが呆れたようにつぶやく。

「春野さん……いちいち戸惑って悩んでどうするのよ。やるべきことはただ一つ、そう言っているじゃないの」

 スリジエの視線は夢鏡へ向けられ、続けて話した。

「どんな状況下であろうとも、諦めない、悩まない! ペルロマさんと心を繋げない限り、状況が悪化するだけ。どうしようって迷っている最中もどんどん状況は悪くなるわ。ペルロマさんを本当に心配しているなら、何が起ころうとも目の前の状況を受け止め、やり続けなければいけない。そうでしょう?」

 ――真実から目を背くな、何度も立ち向かえ、諦めるな。

 スリジエからのメッセージに、弥生は笑顔で答える。

「そうだね、そうだよね。悩んでばかりじゃ何も始まらない。やらなきゃ、だね」

 スリジエは弥生に向けて笑顔を見せた。そうこなくっちゃ、と言いたげな目で視線を送っていた。


 こうしてペルロマの前に、再び、二匹の人魚姫が立ちはだかる――――。

 三秒間。睨み合いが続くと、弥生とスリジエは、ペルロマを見つめながら祈り始めた。心を込めて、相手に思いが届くように、強く祈る。


 “お願いです、私達を信じてください。心を開いてください、お願いします”


 二人が何度も祈れば祈るほど、ペルロマが放つオーラがどす黒く変色していく。闇がペルロマを蝕んでいくような、何かが支配していく光景に見えた。

 祈り始めて間もない頃、何かしらのチカラが発動された。弥生とスリジエに対し、『邪魔をするな』そう言っているかのよう。

 弥生とスリジエは顔を歪めた。足元がおぼつかなくなり、何かのチカラによって、祈りの体勢が取れなくなる。

 おそらくペルロマがチカラを使ったのだろう。考えられる理由はそれしか思いつかない。ペルロマがチカラを使って邪魔をするということは、今もなお、心を開いていないという事実に行き着く。この事実を変えない限り、状況は一変しない。


 今のままだと状況が変わらないことに、睦月がいち早く気がついた。

「このままじゃらちが明かない! 春野、スリジエ! ペルロマ様の心を探せ! 目を閉じて、意識の奥深くに眠っている心の光を、意識の入り口を見つけるんだ!」


 弥生とスリジエは何かに気がついたような表情を浮かべながら、二人同時に「分かった!」と叫んだ。

 睦月のアドバイスを受け、弥生はゆっくりと目を閉じて、意識を集中させる。耳に飛び込んでくる雑音を一つ一つ消していく。暗闇の異空間とも言える、意識の奥深くまで入り込もうと試みた。


 どこかにあるはず、ペルロマさんの光が、必ずあるはず。


 何もない闇から光を探す……途方に暮れる作業を、延々と繰り返すだけ。何かをつかもうにも掴めない。前に進もうと思っても進まない。下手したら転倒しそうになる。そんな体験をしているようだった。

 もう一度集中すれば、見つかるはずなんだ。もう諦めない、絶対。

 弥生は闇の中をくまなく探しながら突き進む。


 その時。

 強く光り輝き続ける、光の球体が目前に迫った。春野弥生殿、こっちだ、吾輩はここにいる。

 弥生の耳には、ペルロマが話しかけているように聞こえた。まだペルロマさんの心には光が残っている。

 そして素早く目を開け、思いの丈、大声で叫んだ。

「見つけた!!」

 弥生と時同じくして、スリジエも見つけた。ペルロマの意識を。

「あったわ! ペルロマさんの光!!」

 弥生とスリジエは、目を合わせて、首を縦に動かす。スリジエが夢鏡を天高く掲げた。スリジエの手に、弥生が自分の手を重ねた。


 ようやく、ペルロマさんを救えるかもしれない。 

 自分達の心と、ペルロマさんの心、夢鏡のチカラを借りて心同士を繋げよう。

 これで終わりじゃない。ペルロマさんのチカラを止めない限り。

 世界の崩壊は免れないだろう。

 守って見せる、世界とペルロマさんを――――私達の手で。


 けれども、作戦終了の合図が突如訪れた。弥生達が最も恐れていた事態が発生してしまう。そう、前触れもなく、二度目の地鳴りが、起こった。

 四人全員、勢い良く地面に叩きつけられた。各々苦悶の表情を浮かべて、地面に張り付いている。地鳴りだけなら、耐えれば落ち着いてくる筈だ。四人の考えに対し、違う結果が生まれた。


『ソウチガキドウサレマタ――――ゴチュウイクダサイ』


 機械が言ったような声が、どこからか流れ込む。“ソウチ”という単語を耳にしたドグマが言った。

「もう一つの世界を壊す破壊装置が……起動されてしまったのか!? なぜ、今なんだ!?」

 弥生はふと今までのことを振り返る。ドグマさんが言っていた言葉を、思い出す。


 ――もうじき、十五分もすれば、派遣隊が仕掛けた破壊装置が本部によって発動され、アクアワールド全てを破壊させる。これは本部によって決められたことだ。


 心を闇に支配され始めた時のドグマさんは、確かにそう言っていた。けど十五分すでに経っているはずなのに、起動するの今? なぜ? 地鳴りが起こってから起動を……?

 まさか、と弥生は思う。世界崩壊に拍車をかける為!? これを狙って今まで起動させなかったの!? 自分達の、計画の為に? そんなことって……。


 弥生には、もう一つ、気になっていたことがある。それはベエモットのことである。


 広場に来た時、ベエモットさんがペルロマさんを召喚して『本来あるべき姿に――――そして、この空間ごと消してほしい』と願っていた。この空間ごとけして欲しいの意味は分かったけど、“本来のあるべき姿に”って部分が分からない。いっそ、本人に直接聞くとか……。


 弥生がベエモットに視線を移動させた瞬間。弥生の目に移る景色がぐにゃりと歪み始めた。歪みは大きくなっていき、景色として認識できないほどに陥る。

 弥生は何度も目をこすり、瞬きを繰り返し、嘘かと現状を確認した。

「な、にが、起きたの……?」

 弥生の視界が回復されていくと、はっきり見えた光景は、世界が消滅し始めた姿――――空間そのものの消滅が、本格的にうごきだしたのだ。


 スリジエは両手に握り拳を作った。力いっぱい、悔しそうに握りしめる。

「早く……終わらせないと」

 眉間にシワを寄せ、額や頬に冷や汗を滲ませながら、強く歯噛みした。

 やっと、春野さんを連れてここまで来たのに。

 また、私は死ぬの……? また、奴等に殺されるの……?

 あの時と同じように大切な人たちを失ってしまうの……?

 スリジエはキッと上空を睨んだ。

 冗談じゃないわ! そんなの御免よ!

 私はもう二度と、奴等の計画に利用されるつもりはないわ!


 弥生は荒い吐息を吐くと、か細い声で言った。

「ここままだと、ペルロマさんと心が繋がらないまま……終わってしまう」

 ゴクンと生唾を飲み込み、小刻みに体を震わせた。

 ここで本当におしまいなの……?

 何度も諦めかけて、やっとここまで来たのに。

 地鳴りの合図が鳴ったら、諦めなきゃいけないの……?

 もう、ペルロマさんとお話できないの……?

 弥生は素早く顔を上げた。

 ここで終わりだなんてぜったい嫌だ! 

 スリジエさんが教えてくれたんだ! 何度も立ち向かえ、諦めるな、そう私に伝えてくれたんだ!

 

 二人の思いとは裏腹に、地鳴りは待ってくれない。

 地面と地面がぶつかり合い、激しく揺れた。死の音を立てながら。

 ――まだ続くのか、終わりはないのか。

 弥生の頭の中に不安がよぎった時、弥生の心を見透かしているかのように、すぐさま地鳴りが収まり始めていく。


 今だ、今しかない!


 弥生とスリジエは、互いに視線をぶつけた。頷き合うと、二人は声を揃えて叫んだ。

「スリジエさん!!」

「春野さん!!」

 弥生とスリジエは、意識の中に飛び込む為、心を繋げる為、再び目を閉じた。

 弥生は闇の世界に降り立つ。再び意識の中へと入った世界で、ペルロマの光を探していく。どこかにあるはずであろう、光の入り口を目に焼き付けようと捜索するも、それらしい輝きは見当たらなかった。

 諦めるな……くまなく探すんだ!!

 数分後。

 あるのは、闇が広がり続ける世界。弥生の意識体しかない。ペルロマの光が消えていることを意味していた。

 弥生は急いで目を開け、ペルロマの方向を見た。

「光の入り口が、ペルロマさんの入り口がない……?」


 意識の中から戻ったスリジエも、ペルロマを見つめた。

「まだよ!! 必ずあるはずよ! 諦めるものですか!」

 スリジエはそう言った直後、続けて叫ぶ。

「それに、私達が諦めなかったら、チャンスは必ず巡ってくる!!」

 間もなく、スリジエが意識の中へ飛び込んだ。

 ――私には分かる。ペルロマさんが、ペルロマさんの意識が完全に消えていないことを。

 スリジエは闇の中を、恐れることなく進んでいく。

「ペルロマさん! どこにいるの!?」

 どこ、ペルロマさんの光……。

「ペルロマさん、返事してぇ――――!!」

 私もペルロマさんの血筋ならば、きっと見つけてみせる、ペルロマさんを!!

 スリジエが前を見据えた時。彼女の体にある魂が、神々しい輝きを放ちだす。

 輝きは一直線に伸びて、ある光を示した。それは魂と魂との共鳴ともいうべき現象だろうか。

 魂の共鳴が示す光は、弥生とスリジエが探していた光の入り口。紛れもないペルロマの意識体。

「ペルロマさん!! 見つけた!!」

 と、同時に、スリジエの意識は現実世界へと引き戻された。目を開けると、見慣れた景色が視界に飛び込む。


 ふと、スリジエと弥生の目が合った。感がていることは同じ、それならば。

 弥生が「スリジエさん!」と呼びながら、スリジエに手を伸ばし。

 スリジエも「春野さん!」と呼びながら、弥生に手を差し伸べた。

 目指すは、最凶に成り果てた初代王女の中にある、光の意識――――。


 二人の思いと手が重なり合う時、人魚のキセキが巻き起こる。


 アクアワールドの秘宝、夢鏡のチカラが最大限へと覚醒していき、邪を消し去ることができる、聖なる光を放ちだす。聖なる光は再び広場を覆っていき、はびこっていた邪のチカラを消し去っていく。

 ペルロマが放っていたオーラも、一瞬で覆いかぶさり、チカラを弱めさせていく。

 ペルロマは抵抗を見せるも、最大限のチカラを持った夢鏡に勝てず、聖なる光に呑み込まれていった。しばらくして、最凶だった姿は元の姿へ戻っていき、本来の姿を取り戻した。黒いオーラも完全に消滅し、気配すら感じなくなった。


 今ならペルロマさんも応えてくれるかもしれない……!!


 ペルロマがもとに戻ったことを確認すると、弥生とスリジエは夢鏡に向かって叫んだ。

「アクアワールドの秘宝夢鏡よ!!」

「今こそ、心を繋げる時!! 我らに新たなチカラを与えよ!」

 二人の呼びかけに、夢鏡は再び応えた。それぞれチカラを与え、白き光を放つ。さぁ、最大限にまで引き出されたこのチカラを思う存分味わいなさい、そう言っているかのようだった。

 弥生とスリジエは、手を繋げたまま、反対側の手を差し出す。

「ペルロマさん、応えて!!」

 弥生とスリジエの言葉を聞いていないのか、ペルロマは目を閉じたまま微動だにしない。何かしらの反応すら、どこにも見受けられない。 

 まだ届いていないと察知し、二人はもう一度、名前を呼ぶ。闇の世界で見つけた、ペルロマの意識体を頭に思い浮かべながら。

「お願い、ペルロマさん!! 返事してぇ――――!!」

 二人を包む白き光は、ペルロマを目指し、突き進む。ペルロマの中に入り込むと、光の意識体を包み込み始めた。白き光は広がりを見せ、闇の世界を白の世界へと変えていく。ペルロマの体も白き光に包まれ、神々しい輝きを放つ。まさしく初代王女と相応しい立ち姿であろう。

 強く願い、祈り続ける弥生とスリジエ。二人の耳に、待ち望んでいた者からの声が、木霊する。


『弥生殿……スリジエ殿…………』


 二人が目を大きく見開いた瞬間、二人の意識は再び、意識の世界へといざなわれた。ペルロマの意識がある、あの世界へ。




 弥生は、目を覚ました。うつ伏せの上体を起こし、隣に視線を向けると、スリジエも目を開けて体を起こしていた。辺りを見渡せば、先程と打って変わった世界が広がっている。闇一色だった空間が、白き光によって真っ白な世界に変貌をとげていたからだ。

「春野弥生殿、スリジエ・ムーン殿」

 ペルロマが静かに言った。威厳のある燐とした声で、二人の名を呼ぶ。

 名前を呼ばれた二人は、同時に振り向く。先には、数時間前に出会ったペルロマが、二人の目の前に立っていた。


今回は弥生ちゃんとスリジエちゃんの奮闘ストーリーになりました。

次回はペルロマによって、ペルロマの謎や竜人族のルーツが明かされる!?

かもしれないですが、まだ設定できてないのでそこからやります……(汗)


今年は1年ありがとうございました。

来年も『弥生ともう一つの世界』をよろしくお願いします。来年の3月か4月に完結を目指して地道に執筆を続けていきます。

最後までお付き合いいただけたら幸いです。


皆様、良いお年を!

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