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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
最終話 弥生ともう一つの世界
47/51

弥生と彼等の最終作戦

お久しぶりです。二ヶ月振りの投稿となります。

お待たせしました。

 弥生とスリジエが、ペルロマのいる城上空にたどり着いた頃。

 同時刻、冬川睦月とベエモットは、結界を張っているペルロマを見下ろしていた。見下ろす風景はあまり絶景とは言えない。何しろ黒黒くろぐろとした建物や、消えていく人々が、嫌でも目に着いてしまうからだ。

 睦月とベエモットが何故そこにいるのか。もし、ペルロマが何らかの行動に移した場合、拘束魔法で押さえ込む為だ。弥生とスリジエが真っ先に倒れないようサポートする目的もある。


 睦月とベエモットの間を、遮る壁のように、無数の細かな気泡が音を立てながら上っていく。

「ベエモットさん、一つ聞いても……良いですか?」

 睦月の声掛けに対し、ベエモットは「なんですか?」とだけ言った。

「貴方は本当に黒の人魚族の仲間じゃないんですね?」

「ふっ……そうですが、少し勘違いなさっておられるようですね」

 睦月は少し目を見開いて、怪訝そうに聞き返した。

「どういう意味ですか……?」

 ベエモットは目を伏せながら言った。

「黒の人魚族も、白の人魚族も、本来の意味は赤道を堺に北半球側で住まう人魚達を白の人魚族、南半球側に住まう人魚達を黒の人魚族と呼ぶのです。その中で先代の血を色濃く受け継ぐ人魚族は王族となり、それ以外の人魚族は王族を補佐しサポートする役目を担う。睦月君が考えている黒の人魚族は自分たちの欲望の為に暗躍している人魚族のことだろう。国王時代、立場は王族が上だった。しかし今は逆だ……奴等の方が上となっている。そうなってしまったのは、もちろん私が原因だ。情けないものだよ」

 ベエモットの話に、睦月は納得したように何度も頷く。

「そういうことだったんですね……」

「せめて、奴等の計画の足止めとなればいいのだがな……」

 ベエモットがため息をついたタイミングで、睦月がどうしても聞きたかった質問を投げかける。

「あの、ベエモットさん……俺の母親を知りませんか?」

 思わぬ睦月の問いに、ベエモットは「えっ……睦月君の母親?」とつぶやいた。

「そうです……一年ほど前、奴等にさらわれて、今、囚われの身となっているんですが、それらしき話を聞いたことありませんか?」


 ――囚われの身。その単語を耳にして、ひとつだけ思い当たる節があった。


「もしかして……奴等に囚えられているという、異界の王妃がそうかい?」

 ベエモットの言葉に、

「そうです! それが俺の母親なんです!」

 睦月が過剰に反応を示した。思い求めていた母親の情報。少しでも情報を得る為、食らいつく。

「私も詳しい事は知らなくてね、奴等のリーダーは『今、進めている計画の要となる人物で、成功させるには、どうしても、王妃の能力チカラが必要不可欠なのだよ』とだけ言っていたよ。すまない、これ以上のことは知らないんだ」

 ベエモットは視線を逸らすと、ため息を吐いた。

「そう、ですか……」

 睦月は残念そうに視線を落とした。思っていた情報は得らず仕舞い。代わりに、ベエモットが口にした『計画』という単語が、頭から離れずにいた。


 さっきから言っている『計画』って一体なんなんだ……?

 まさか、シャルロット以上の計画を練っているのではなかろうか。

 考えても、考えても、答えは見つからない。黒の人魚族の情報を殆ど持っていない睦月には、検討もつかない言葉だった。


 気難しい顔つきで考え込む睦月を、ベエモットは寂しげな瞳で見つめた。

 ――もしかすると、奴等の言う計画は、想像以上に、最悪の事態を招くかもしれない。

   睦月君、その時は迷ってはいけない……その迷いに、奴等は漬け込むのだから。


 再び、視線を移した時、ベエモットの瞳に、良からぬチカラを持つ闇がペルロマによって放たれた。彼女の前には、正気に戻ったドグマと、弥生とスリジエがいる。このままいくと三人は、ペルロマの闇に飲み込まれてしまう。

 ……しまった! 一瞬だけ目を離した隙に、闇が放たれてしまった!

 ベエモットは素早く呪文を唱え始め、睦月のサポートを受けることとなった。



      *



 一方、瞬間移動で場所を移動した三人は、ペルロマの姿が見えない地点まで一時避難している。瞬間移動で場所を移動したのは、強力すぎる闇のチカラを近距離で受けそうになったからだ。

 くっ……凄まじい力だ! この場を持ち堪えることができるだろうか……。

 ドグマは最も強力な結界魔法を張り、ペルロマの闇を回避しようと試みていた。チカラの差は圧倒的にペルロマが強すぎる為、ドグマの結界もそう長くは持たない。

 ペルロマの闇が弱まる気配は一向に見られず、なおかつ結界に守られているゆえ、彼女に近づくことは容易ではない。


 ――これでは結界を壊すことができない……! 折角、二人の力になれると思ったんだが……!


 ドグマの顔に、困惑と焦りの表情が見え隠れし始める。壁となり遮る闇に対し、恨めしそうに歯噛みした。手立ては残されていないのか。ある筈だと自身に言い聞かせていく。

 直後、ベエモットの声が木霊する。

「スコタディ・ヘル・アディモナス!」

 ドグマは素早く上を見上げた。ベエモットを見つめ、「――国王様」と無意識につぶやく。


 ベエモットが発動させた魔法――――闇を弱体化させる最高難度の魔法をペルロマにかけていた。結界越しから魔法が効くということは難しい筈だが、完全に効かないという訳でもなさそうだ。

 ペルロマの闇が、僅かながら、弱まり始めていたからだ。少なくとも、ドグマが結界を攻撃し続けたおかげなのか、若干割れたヒビに魔法が入り込んだためと思われる。


 これならいけるかもしれない、ドグマの瞳に二度目の決意が現れた。ペルロマの元へ一目散に泳ぎきったと同時に、ドグマは再び手剣を出現させる。勢いをつけて、結界に突き刺した。



 ドグマがペルロマの結界攻略を再開した頃。

「ドグマさん……大丈夫かな」

 不安げにつぶやいたのは、水色した長い髪を棚引かせる人魚、ラリアこと弥生だった。心配な思いなのは、弥生だけではない。彼女の隣にいる、スリジエもまた、ドグマの背中を遠くから見つめていた。

 スリジエは、募らせていく不安を圧し殺しながら、言った。

「春野さん……私達もいくわよ」

 弥生は驚いた様子で、スリジエに視線を移した。若干、弥生の表情が歪む。

「スリジエさん……? 私達が行って、足手まといにならないかな?」

「でも、このまま何もしないワケにはいかないでしょ? ――――それに」

 スリジエが、深呼吸をして、息を整える。

「ここで諦めたら、今度こそ、全員死んでしまうわよ」

 揺るぎない決意に、再び、夢鏡が反応を示した。心臓が脈打つように、鏡にまとう光が何度も点滅していく。


 ――大丈夫。その強い思いがあれば……きっと、届くはずですよ。さあ、今こそ私のチカラを使う時です。


 弥生とスリジエは、目を見開いて互いの顔を見合う。

 今こそチカラを使う時。声はそう言った。それならば、やろうじゃないか。と、二匹の人魚姫は頷き、視線を移した。

 目指すは、ペルロマとドグマのいる場所へ。

 二匹の人魚姫は尾びれを動かし、ドグマのいる目的地点まで、ひたすら泳ぎ始めた。




 再び、ペルロマとドグマのいる地点へと戻る。そこに、二匹の人魚姫が到着した。

「ドグマさんっ!!」

 弥生の叫び声に、ドグマが思わず振り向く。一瞬だけ、「えっ」と驚愕の声を漏らす。まさか二人が戻ってくるとは夢にも思わなかった様で、瞬きを何度も繰り返していた。

「弥生ちゃん……スリジエ王女様まで……! ここは危険です、安全な場所へ……」

 ドグマがいいかけたところを、スリジエが凛とした声色で遮る。

「大丈夫よ。私達は私達ができることをしに戻ってきただけだもの」

「足手まといになるかもだけど、夢鏡のチカラを借りながらドグマさんを手助けできたらと思って」

 弥生は、スリジエが両手で持っている夢鏡を、見つめた。夢鏡は今もなお、眩い輝きを放っている。

 もう、迷わない。そう言っているかのようにも見えた。

 二匹の人魚姫から溢れ出る決意に、ドグマはフフッと笑みをこぼす。

「弥生ちゃん、スリジエ王女様……助かるよ。ありがとう」

 すぐさま真顔へと切り替え、ドグマの手剣に力が込められた。次で必ず決着をつける。決意の瞳で、ペルロマと彼女を守る結界を睨んだ。

 ドグマの背後で、弥生とスリジエは夢鏡に問いかける。

 

 ……力を借りたい、ドグマさんを手助けしたい。


 二人の問いかけに対し、夢鏡は光をドグマに向けて放つ。放たれた輝きは、ドグマの中へと吸い込まれ、ドグマの魔法を強めていく。

「結界への攻撃はこれが最後だ。あともう少し攻撃すれば、結界に穴があく! そうすれば……」

 と、ドグマは攻撃を再開した。強化された手剣で結界を傷めつける。僅かなヒビをさらに広げる為に。

「二人がペルロマの元へと行けるんだ!」

 ドグマの手剣が、勢い良く振り下ろされた。手剣の刃先が結界に触れた時、ピシピシと、目で確認できるほどの大きなひび割れが起こる。

 同時に、ペルロマの顔つきが一変した。虚ろげな瞳でぼんやり立っていただけだったのが、歯噛みしながらドグマを凝視した。その顔つきは、なんてことをしてくれたんだ、と怒り狂った表情をしている。

 ペルロマは、小言で呪文を唱える。唱えている呪文は、結界を張る魔法だ。

「このまま続ければ結界は壊れる筈だが、すぐ修復されるだろう。どうしても、自分の領域に他者を近づけたくないらしいからな。この王女様は」

 分析しながら発言したドグマに、弥生が質問を投げかける。

「ドグマさん……じゃなかった。ミレスさんは、どうしてそう思うんですか?」

「誰かが近づくたびに払い除けようとしている。まだ心を閉ざしたままということだ。今、彼女に語りかけても反応することはないだろう」

 弥生は不安そうに「そんな……ペルロマさん」と俯いた。せっかくここまで来たのに。

「けど、諦めてはいけない。必ず突破口がある筈だ。それを見つけるまで、俺は諦めない」

 ドグマはかけていた手剣の魔法を一旦解除し、片手を元の姿へと戻した。


 ……諦めない、ということを教えてくれたのは、他でもない。君なんだ、弥生ちゃん。


 ドグマは魔法陣を出現させたかと思えば、光の魔法を発動させた。闇に対抗できるのは光。光と闇は一対なのだ。闇が弱まり始めた今なら、うまくいくかもしれない。そう思ったからだ。 

 ペルロマが一時的に魔力を込めると、結界は本来の力を取り戻し、ドグマの魔法を一瞬でかき消した。

「やはり、完全に弱まった時ではないと、結界によってかき消されるか……」

 ドグマは小さく舌打ちする。自身をサポートしてくれている、弥生とスリジエに向けて、言い放った。

「弥生ちゃん、スリジエ王女様! 疲れるとは思うが、このままサポートをし続けて欲しい!」

 二匹の人魚姫は、同時に頷く。

「わかりました!」

「わかったわ!」

 弥生とスリジエは、いっそう夢鏡に祈り、ドグマに力を与えた。夢鏡から力を与えられるたびに、ドグマの魔力は強化されていく。

 ペルロマは自身の領域に入られたくないのか、結界の魔法を張り巡らせ、さらには自身の魔力を強めようと、同時進行で力を込め始めた。憎しみにも似た目の色で、ドグマを睨みつける。

 今までとは違うペルロマの行動に、ドグマは警戒心を強めた。また次の攻撃が来るかもしれない。もしもの時は、もう一度弥生ちゃん達を隔離させることも視野に入れなくては。

 ドグマが瞬間移動の魔法を発動させるため、呪文を唱えていた時だった。

 何十層も張り巡られた結界が、ぐにゃりと歪み、弱体化を始めた。それはペルロマに異変が起きたということ。ペルロマの魔力が弱まり始めたのだ。結界の魔法をかけながら魔力を高めていたことで、魔力を使いすぎたのが原因と思われる。


 ――今ならいける!!


 ドグマは確信した。結界を破壊できることを。両手を手剣へ変えて、戦闘態勢に入る。ペルロマが次の行動に映さない内に、素早く動き出した。手剣をクロスさせながら振り上げる。

 ドグマの口元に笑みがこぼれた。悪いな、初代王女様よぉ。勢いをつけて、一気に振り下ろした。

 ペルロマ結界に、手剣の刃先が深く食いこむ。受けた衝撃で音を立てて揺れ始める。

 ドグマが素早く引き抜いた。その瞬間、何十にも張られた結界は、次々と崩壊していき、跡形もなく消滅していった。ペルロマの表情がおもむろに強張っていく。

 結界崩壊に、弥生とスリジエは、嬉しそうにはしゃいだ。

「やった〜! ドグマさん、すごいです! ペルロマさんの結界、壊しちゃうなんて」

「私の父親と互角に戦っていたぐらいだもの! 実力はさすがね!」

 二人の褒めに、ドグマは照れくさそうに微笑む。

「後はお二人にお任せします」

 弥生とスリジエは、同時に頭を下げた。

「ドグマさん、ありがとうございます!」

 二人が見せる満面の笑みを、ドグマは誇らしげに見つめている。手助けできて良かった、と。

 弥生はようやくペルロマの元へと行ける喜びを胸に抱き、スリジエと一緒に泳ぎだす。二人は同じことを思った。願いとも言える、強い心で言う。


 ――もう一度ペルロマさんとお話がしたい。


 ――一瞬だけでも良い。私達の声を聞いて欲しい。


 弥生とスリジエの思う心に、反応を示しているのか、夢鏡の輝きが徐々に増していく。

 二匹の人魚姫は、至近距離までペルロマへ近づいた。彼女とは数時間前に会話したばかりというのに、違う人のように思える。特に弥生は、アクアワールドのの昔話を聞きながら会話していただけに、寂しさがこみ上げていた。


 ――再び、ペルロマさんと会話ができますように……。


 ――ペルロマさんの心と繋がりますように……。


 弥生とスリジエは、強く、強く祈り始めた。人魚姫達の願いを光に乗せて、夢鏡が、輝きを放つ。

 ペルロマは、夢鏡の眩い輝きが瞳に映ると、禍々しい闇のチカラをもう一度放った。

 夢鏡が放った光と、ペルロマが放った闇は、順調に進んでいき、中央付近でぶつかり合う。弥生とスリジエがチカラを込めれば光は強まり、逆にペルロマがチカラを強めると闇が強まる。二匹の人魚姫と初代王女。双方譲ることなく、何度も同じことを繰り返していた。

 ぶつかり合いが数分続いた頃、ペルロマが思いの丈魔力を込めた。瞬間、弥生達の光は、闇の中へと呑み込まれ、消滅していく。

 弥生とスリジエは、大きく目を見開いた。光が呑み込まれた。それほどまでにペルロマの闇は深いのかと圧倒されるばかりだった。


 弥生達がペルロマと対面したのも束の間、突如、ペルロマが闇そのものに覆われ始める――――。


次回は、せめて年が変わる前に投稿できたらしたいです。もし投稿できなかったら、年明けてからの投稿になります。

年内に投稿できるよう、頑張ります。次回もお楽しみに〜!

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