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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十三話 弥生と竜の大暴走
43/51

弥生と悪化していく世界

ようやく執筆が完了したので、投稿しました。ドグマさんとペルロマ様が戦います。

 ペルロマが目覚めてから数十分経過した頃、広場の片隅で、男二人の戦いが再び始まろうとしていた。

 対戦者は、ドグマと、ベエモット。拘束魔法が解除されてから、二度目の戦いである。

 ドグマは早く戦いのか、右足を前に出す。足元から砂埃が宙を舞い、彼等二人の視界を遮っていく。直後、ドグマの瞳が輝き、口元を緩ませた。そこに居るであろうベエモットを見つめながら、彼はふと考える。この勝負勝った、と。ベエモットを仕留められる、と。

 ベエモットはというと、近くにいる娘の様子が気になるらしく、何度もチラ見していた。戦闘の構えはしている。戦おうと思えば戦える。それでも娘のことしか考えられず、今は戦いのことを考える余裕がない。娘を捨てて計画を取るか、計画を投げ出して娘を助けるか。ベエモットの中で計画と娘の板挟みになっていた。

 ベエモットの心情を知る由もなく、ドグマは今にも攻撃しそうな雰囲気を醸し出している。

 ペルロマが魔力を放出した影響なのか、ドグマとベエモットを取り囲むように、広場の水流が変化し始める。



 ――戦いが始まろうとしている。今なら動いても大丈夫かもしれない。

 弥生は、ドグマがベエモットにロックオンした隙に、座り込むスリジエの元へ泳ぎ寄った。下手に行動したせいでドグマに気がつかれてはまずいと思いつつも、スリジエのそばに近寄らずにはいられなかったのだ。

「スリジエさんっ! 大丈夫!?」

 弥生の声掛けに、スリジエは無気力そうに反応を示す。

「あ……ああ、春野さんね…………」

 体力に限界が近づいている様で、青ざめた顔色で少しずつ見上げ、弥生を見入っていた。本音を言えば自分の体を心配どころではないだが、声を出す気力も失いつつある為、声掛けに反応するぐらいしかできない。

「今のところ…………ギリギリセーフよ…………ははっ」

 スリジエの発言に、弥生は驚いたように後ずさりすると、動揺した声色でつぶやいた。

「あわわ……スリジエさん、なんか、大丈夫じゃなさそう……。やっぱり無理して動き回ったのが原因なのかなぁ……」

「だから、そう簡単に……決めつけない、の……」

 スリジエはそう言ったが、気力は気力でも、弥生に注意する気力はあるらしい。父親の姿を見つめながらながら、呆けたような顔つきで一言吐く。

「負けるなんて事実…………認めないんだから…………」

 娘の両目には、父親であるベエモットの姿を、くっきりと映し出していた。



(…………っ!! 先ほど受けたダメージが今になってくるか……! こうなると、ドグマからの攻撃を避けるのが難しくなったな……)

 ベエモットは心の中でつぶやき、周囲に聞こえないよう小さく歯噛みする。何かに刺されるような痛みと風景が乱れるほどの目眩を同時に喰らい、ベエモットもまた娘と同様、脳裏に『限界』という二文字が浮かび上がりつつあった。

 けど、ドグマが、ベエモットの隙を見逃さないはずがない。すぐさまターゲットに近寄り、魔法で鋭く尖らせた手剣を、ベエモットの右横腹に貫通させる。手剣を引き抜き、笑いながら叫んだ。

「クククッ…………これで終わりだなァ、ベエモットォ…………!!」

「しまった……!! ドグマ、貴様…………」

 ベエモットは言いかけたが、痛みが全身に伝わり、うつ伏せに倒れ込んだ。この瞬間、戦いの勝者はドグマということになる。

「ひゃははははっ!! ベエモットを倒したぞぉ……俺が、勝ったんだァ……!!」

 ドグマは、敗者を見下ろすと、腹の底から高笑いした。笑い終わると、次のターゲットを誰にしようか、念入りに辺りを見回し始める。まさしく獲物狩りをする、ハンターの目そのもの。誰かいるはず、くまなく探していた時、ドグマの瞳にある人影が目に飛び込んできた。

 城の上空で、今もなお魔力を放出し続ける、竜の少女・ペルロマの姿が――。

 ペルロマを凝視すると、ドグマは不気味な笑みをこぼし、魔法陣の呪文を唱える。直後、ドグマの足元に魔法陣が出現。輝きを放ちながら、魔法を発動させていく。ドグマを包み込むように渦が巻き起こり、収まった頃にはドグマの姿はなかった。



 ドグマの叫び声を、耳にしたスリジエが無意識に本音を漏らす。

「そんな……お父様が倒されたなんて……信じられない」

 ベエモットのことを“昔の呼び名”でつぶやいた時、スリジエの中で、かつて父親と過ごした日々が鮮明に蘇っていく。楽しかった思い出、辛かった思い出、嬉しかった思い出、様々な思い出が一斉に溢れかえっている。忘れようとも忘れることができない、大切な記憶の数々が、スリジエの心を一層締め付けた。

「スリジエさん、何かあった?大丈夫?」

 弥生の話し声によって、スリジエは記憶の世界から現実世界へと引き戻される。

「ちょっと昔のことを思い出しただけ……別に大したことじゃないから平気よ」

 またあの男との思い出か――――などと思いつつ、スリジエの顔つきは優しげだった。

 弥生とスリジエのもとに、隙を見て動いた睦月が、駆け寄りながら話しかける。

「春野! スリジエ! 怪我はないか!?」

 弥生は目伏せすると、心配そうな声色で答えた。

「私は大丈夫だけど、スリジエさんが……」

 弥生の発言を、聞き取った睦月が、体調不良気味のスリジエに尋ねる。

「スリジエ、大丈夫か? 顔色悪いぞ? やっぱりあの作戦で無理に動いたせいで、疲れたんじゃないのか?」

「さっきよりは落ち着いてきたから、心配ないわ」

 スリジエは二人に話すと、何とも言えなそうな表情で視線を逸らした。

「そうか……それならいいが」

 睦月は言った直後、ドグマの気配が消えていることに気が付き、勢い良く振り返る。

(ドグマが消えた……!?)

 おかしい。ドグマが逃げるはずがない。とすると、次のターゲットを見つけたか探しに行ったかだな。

 思考回路を全開で巡らせ、次の行動を予想していく。一つ一つ、確認した結果、ある案が浮上した。

(まさか、次の狙いは…………ペルロマ様か!?)

 対戦相手としてふさわしい者は誰か考えたら必然的に浮かぶ答え。睦月はその答えにたどり着く。それはドグマも同じだったようだ。

「しまった……急いでドグマを止めなければ……取り返しの付かない事態になる!」

 睦月が突然叫んだ為、弥生とスリジエは目を丸くして睦月を見つめる。

「む、睦月さん……!?」

「どうかしたの、冬川君?」

 二人の声掛けに気づかず、睦月は忌々しそうに城の上空を見上げていた。


      *


 広場で姿をくらましたドグマは、魔法によって、ペルロマがいる城の上空へと姿を現す。次の獲物を狩る為に。

 そんなドグマの狙いなど気にもとめず、ペルロマは虚ろな瞳で、魔力放出を続けている。今はまだパワー全開ではないが、徐々に魔力が強くなっていることは、上級魔術師であれば一発で見抜くだろう。当然、ドグマも理解していた。ペルロマの魔力は尋常じゃなく強いということを。

 ドグマは考えを巡らせる。どう攻撃すれば、ペルロマが反撃してくれるか。その一点だけに集中して作戦を練っていく。

「クククッ……やはり直球勝負で行ったほうがいいだろうなァ……クククッ」

 つぶやくなり、ドグマが体内から取り出したのは、丹念たんねんに研がれたロングソードだ。

 ドグマは、力強くソードの柄を握りながら、対象者であるペルロマ目掛けて、急速に走り出す。そして、深くしゃがみ込んで、力いっぱい飛び上がった。下降する途中でソードを構え、ペルロマに差し掛かった瞬間、力いっぱい振り下ろしていく。

 ペルロマは、ドグマの殺気に気がついて振り向いたが、左腕にソードが食い込み、反動で吹き飛ばされた。

「……っ!」

 ペルロマが顔をしかめながら地面に叩きつけられる中、ドグマは攻撃を止めることなく二度目の突進を開始する。それは着実に悪化を辿っていくことになる、不穏な足音に聞こえた。

「今回も俺の勝ちだァ……!! ひゃはははは!!」

 ペルロマは何も言葉を発さず、少しずつ起き上がっていく。ドグマの一撃が堪えた様で、数秒後、ようやく体勢を整える。直後、ペルロマの唇が動いていき、小言で呪文を唱え始めた。

「マギクム・クァドーラ・トゥムクロス」

 ペルロマの足元に、ドグマとは違う魔法陣が、浮かび上がるように姿を見せる。神々しく光を放ち、魔法が起動していく。

「アペイロ・バブル・ステレオン」

 ペルロマが言い放ったとほぼ同時。無数の気泡が壁を作るように生み出されていき、一つ一つが小さな氷、あられに変化。対象者であるドグマまで直進していった。

 ドグマは、ペルロマの攻撃に気がつくも、衝突覚悟で突進を続ける。ペルロマまで寸前というところで、霰の嵐がドグマに集中攻撃を始めた。一つ一つの攻撃力は小さなものだが、集団で集まれば大きな力となる。霰魔法は発動者の魔法が強ければ強いほど、威力も上がっていく。ペルロマは現段階で最強とも言える魔力の持ち主だ。威力は最高値まで上昇していた。

 霰の集中攻撃が効いたのか、ドグマは背後へと飛ばされる。ドグマもまた、背中を勢い良く打ち付けられた。痛みは背中から全身へと広がっていく。

「クククッ……おもしれぇ、とことんこれでもかっていう限界まで、潰してやらぁ……ひゃはははは!」

 ドグマは起き上がりながらつぶやくと、血迷った瞳でペルロマを睨み付けた。


      *


 ドグマとペルロマが戦い始めた頃、広場では、弥生が「大変なことになった」と叫びながら、慌てふためいていた。弥生の視線の先には、今もなお、戦いを続けているペルロマとドグマの姿が見える。

 睦月は、一際険しい顔つきで歯ぎしりをたてた。

「ペルロマ様とドグマの戦いが始まってしまったか……この状態が続けば、それこそ空間そのものが危うくなってくる」

 ドグマの状態が悪化していることに不安を感じたのか、弥生が今にも泣きそうな表情で、睦月の顔に目を向けた。

「睦月さん、ドグマさんは、もう、元には戻らないのかな……?」

 弥生の切実な問いかけに、睦月が無表情で淡々と答え始める。

「いや、聖なる光を浴びれば元に戻るはずだ。しかし、肝心のアイテムが見つからないとなると……何も変わらない。今のままだろうな」

 睦月からの返答を聞いて、弥生は「そんな……」と落ち込んだ様子で地面を見つめていた。

(そもそも、ドグマさんがああなったのは、黒の人魚族らが心を闇に染める魔法か術式をあらかじめかけた所為と思う。いざという時、発動させて自滅に追い込む為に……そうすればわざわざ自分たちの手を染めることをしなくて済むだろうから。ドグマさんの心は、最初はそんなに染まっていなかったはず。でもペルロマさんの光浴びて……)

 弥生はため息を吐く。

(聖なる光を浴びれば元に戻る、か……早く見つけないと、ドグマさん、元に戻らないままずっと苦しみ続けてしまう……)


 と、その時だった。突如、地鳴りが広場を襲う。最初は揺れているかわからないぐらいの微かな揺れだったが、そのうち、揺れは激しくなっていき、立っていられないほどに地面を揺らしていく。数秒で終わるかと思いきや、揺れは三分以上も続いていた。

「――――!?」

 弥生ら三人は不可抗力でしゃがむと、地面に手を付き、揺れに耐えながら踏ん張る。

 しばらく揺れが続き、揺れがおさまったと同時刻、空間そのものに巨大な亀裂が入り始める。少しずつ、少しずつ、溝は深まっていく。亀裂の先には、弥生とスリジエがもう一つの世界へ向かっている際に見た風景が顔を出していた。

「まずい。本格的に空間の歪みが起き始めた! そうなると、進行は速い。急がないとアクア・ワールドが消滅してしまう!」

 睦月の叫び声に、弥生とスリジエは声に出して反応を示す。

「えっ!? この世界が消滅する……!?」

「どういうこと!? 冬川君、それ本当なの!?」

 二人の言葉に、睦月は言いにくそうな顔で、目線を逸らした。

「おそらく、ペルロマ様とドグマがぶつかり合い、魔力が空間に影響を及ぼし始めているのが原因だドグマの魔力で空間が歪むかどうかは不明だが、少なくとも、ペルロマ様の魔力が影響を及ぼしているんだろう。黒の人魚族とベエモットによって、ある程度まで空間が不安定になっていたからな。拍車をかけるようにペルロマ様の目覚めと覚醒だ。早くあの二人を止めなければ、このまま全員無事じゃいられないだろうな」

「そんな……じゃあ、早く止めないと、みんな死んでしまうってこと……?」

 弥生は、驚いたように目を見開きながらつぶやいた。

 彼女のつぶやきを聞いて、何かに気づいたのか、思い出したような顔つきに変化する。額からは冷や汗が流れ、頬をつたい、地面へ滴り落ちた。


(死ぬ……? ここにいるみんな、死ぬ……? ということは、あの男も……?)


 スリジエの中に浮かび上がったのは、最悪の状況、『死』へのカウントダウン。それは自分自身も父親も皆、死を意味していた。スリジエが最も恐れている事態。分かっていても、受け入れられない事態。

 スリジエの混乱がピークに達した時、思い出という名の記憶がフラッシュバックを始めた。父親と過ごした日々。忘れることができない記憶達が走馬灯ように浮かんでいく。


(やっぱり、私には……あの人を、お父様を見捨てることなんて、できない……)


 スリジエは瞼を強くつむり、両手に握り拳を作ると、勢い良く目を見開いた。スリジエの中で、決意が固まる。嘘偽りのない、心から思う、父親を助けたいという気持ち。

 スリジエの決意が固まった時、スリジエの尾ひれが再び動き出す。瀕死の状態で倒れ込んだ父親の元へむかって泳ぎだした。

「スリジエさん!?」

「スリジエ、どこにいくんだ!?」

 弥生と睦月は叫ぶと、お互い顔を合わせて、首をかしげていた。




 真実を知るのがこわい。でも、何も知らないまま終わるのがもっとこわい。

 心の中で呟きながら、スリジエはベエモットの元へとたどり着く。目の前には、今にも命燃え尽きそうなベエモットが横たわっていた。全身から汗が吹き出し、弱々しい呼吸音が聞こえていくる。唇は真っ青に変化し、死へのカウントダウンが間近に迫っているように見えた。

「………………大丈夫、なの?」

 スリジエが声を漏らすと、ベエモットがゆっくり顔を向ける。

「……スリジエ、か……」

 ベエモットはそう言うなり、唇を動かしながら、一音ずつ言葉を発した。

「スリジエ、今まで……すまなかった…………」

 父親の口から放たれたのは、謝罪の言葉。想定外の発言に、スリジエは「えっ」と驚きの声を上げる。まさか父親が謝るなんて、思いもしなかった。どういうつもりなのだろう。

 父親の言葉を耳したことで、スリジエの心に動揺が生まれていた。


なんか、一ヶ月おきの更新になりつつあるので、一ヶ月に二回に更新速度アップさせたいなと思っております。できるかは微妙ですけど、頑張りますです。

次回は今月末までに更新できたら更新します。できなかったらまた来月になるかも。

次回もお楽しみに〜!

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