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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十三話 弥生と竜の大暴走
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弥生とペルロマ救出大作戦

お久しぶりです、第二節です。お待たせしました。

なんというか、またもう一節増えそうな予感がする(汗)

 広場の片隅、弥生とスリジエが、ペルロマの両側へそれぞれ回り込む為、声を押し殺して静かに泳いでいく。睦月はというと、ペルロマの背後を気づかれないように慎重に目指し、弥生達よりも素早く前へと進んでいた。

 スリジエがペルロマの右側へ到着し、ある程度まで距離をつめようとしたが、何かに阻まれている様で、ペルロマに近づくことができない。まさかの事態に、目を見開きながらつぶやく。

「これじゃあ、作戦ができないじゃないの……!」

 スリジエが叫んだ直後、弥生が一足遅れてペルロマの左側にたどり着いた。

「スリジエさん! どうかしたの!?」

「春野さん! それが、ペルロマ様に近づけないのよ! 結界みたいなものに守られているみたいで、近づこうとしてもその先に近づけないのよ!」

 スリジエから聞いた事態に、弥生は「ええっ!? そんな!」と本音を漏らす。

「それじゃあ、睦月さんが考えてくれた作戦が無駄になってしまう……」

 誰も予想にしていなかった結界の存在。遠くでは結界を見分けにくく、ペルロマとは随分距離が離れており、ましてや水中世界で視界が限られているとあっては、結界の存在に気がつくのは誰であろうとも困難だろう。

 ようやくペルロマを正気に戻せると意気込んでいただけに、二人共、面食らったような形相でペルロマを見続けた。これで終わってしまうのか――――その場の空間にはあきらめムードが漂い始める。

 弥生が、思いの丈をぶつけるかのように、大声で叫んだ。

「ペルロマさん!!」

 もう、ここまでなのか。二人が諦めかけた時、ペルロマの表情が微かに変化し、結界が弱まり始める。放った弥生の声が、ペルロマの心に染み込んだ様で、ペルロマの唇が動いた。


「ハ……ルノ……ヤヨ……イ……ドノ…………」


 ペルロマから発せられた言葉を、二人は耳にする。その言葉が何だったかも、直ぐに理解した。

「ペルロマ様が春野さんの言葉に反応した……!!」

「ペルロマさん……届いたんだ、声が」

 初代王女の様子を間近で見ていた睦月は、すぐさまペルロマの背後に回り込み、弥生とスリジエにジェスチャーで合図を送った。

 ――今だ! 今なら、魔法が使えるはずだ!!

 弥生とスリジエは、睦月の合図に対し、「分かった」と頷く。二人は顔を見合わせ、励ますように頷きあった。作戦を実行するのは今しかない。三人共に、確信していた。

 弥生とスリジエ、二匹の人魚は、ほぼ同時に呪文を唱える。

「アクア・プッシャー!」

漆黒レイヴンボール!」

 ライアンから与えてもらった魔法の一つを、使いこなせるか試す意味も込めて、発動させたのである。けれども、二人共同じことを考えているとは思っていなかった様で、弥生もスリジエも内心驚いていた。

 ペルロマに向かって放たれた水圧と漆黒の球は、一直線にターゲットまで進んでいき、ペルロマに直撃する。ペルロマはふらりとよろめき、その場でしゃがみ込む。

 ――今だ!! 今ならいける!

 睦月は確信を持つと、自身が記憶している、最大の効果を持つ睡眠魔法を放った。

「彼の者を深い眠りへいざなえ――――シュラノフ・アポテレズマ!!」

 眠りへと誘う煙が、睦月の前に出現。煙は目前に迫るペルロマを、背後から覆っていく。誰もが、これならうまくいった、と思っただろう。けれども、その考えはまだ甘かったのだということを思い知らされる。


 ペルロマは一気に目を見開き、彼女の体から放たれた光の衝動波が、煙を一瞬で消し去った。ペルロマが放った衝撃波は猛スピードで攻撃範囲を広げていき、弥生、スリジエ、睦月の三名に直撃する。至近距離作戦が仇となったのか、まともに攻撃を食らってしまい、それぞれ吹き飛ばされていく。それほど遠くまで飛ばされなかったが、ペルロマとは再び距離が開いていた。

 睦月がゆっくり起き上がり、うつ伏せで倒れている二人に向けて、声を震わせながら叫ぶ。

「まだチャンスはある。もう一度やるぞ!」

 弥生とスリジエは、ほぼ同時に、「もう一度やってみよう」と言わんばかりの瞳で頷いた。



 睦月がもう一度近づいた時、ペルロマは、虚ろな瞳のまま後ろを振り向く。何かに気づいたような素振りで、背後に迫る睦月を見つめていた。

 睦月は、ペルロマの行動に、ほんの一瞬焦りを見せ、動きを止める。気づかれた、そう思ったためだ。どうするべきか迷ったが、時間が残されていないこともあり、作戦を決行せざるを得なかった。

「彼の者を深い眠りへ誘え――――シュラノフ・アポ……」

 睦月が呪文を唱え終わろうとした直後、ペルロマに大きな変化が起こった。

 ペルロマは何か思いついたのか、両手を前に突き出し、クロスさせる。睦月には何が起ころうとしているか人目で分かった。ペルロマが一番得意としている魔法を発動させようとしていることに。理解するまでそう時間はかからなかった。

 ――まずい、あの技が発動されてしまう! 至近距離にいればいるほど受けるダメージは計り知れない。とにかく二人を避難させなければ!

 睦月は力いっぱい叫んだ。

「春野、スリジエ。ペルロマ様が魔法を発動させようとしている。一旦作戦は中断、とにかく逃げるんだ!!」

 弥生とスリジエが、睦月の声に気づき、戸惑いながらも大急ぎで逃げ始める。が、睦月が気づいた時より、ペルロマが唱えた魔法の発動が早かった。

「フルクシオ・タルナーダ」

 ペルロマを軸として水流が渦を巻き、渦の回転はみるみるうちに速くなり、次第に竜巻のような姿へと変化していく。竜巻は徐々に幅を広げていき、対象者を飲み込もうと動き出していた。

 水流の竜巻はペルロマの間近にいた睦月、少し離れた場所にいる弥生とスリジエを巻き込み、三人を引き剥がそうと流していく。三人は抗おうと、魔法発動を試みようとも不可能に近く、水流に沿って流されるだけだった。

 弥生、スリジエ、睦月は、ペルロマが放った攻撃をまともに受け、意識が途切れる。数秒後、三人はそれぞれ別々の場所に流れ着いた。三人が流れ着いた地点は、上から見た場合、三角形の様に見えなくもない。

 最初に意識が回復したのは、弥生だった。

「ここは……一体……」

 弥生はよろめきながら上体を起こし、場所を確認するため、辺りを見回す。弥生の意識が回復するごとに、一体何が起こったのか、何故このような状況に陥っているのか、記憶が一つ一つ鮮明に思い出されていく。

「睦月さん……スリジエさん……」

 彼等の名前を口にすると、弥生の顔つきが変化し、顔面蒼白で体を小刻みに震わせる。

 と、弥生が、横たわる人影を見つけた。弥生から右斜め先の地点で倒れている一人の少年。こげ茶色の髪、黒い服を着ていることから男子の学生服、見覚えのある顔立ち。これら総合的に判断すれば、少年は睦月であると理解できる。

 そして、睦月とは別にもう一つの人影があった。弥生から見て左斜め先の地点で意識を失っている、薄紫色の長い髪を持つ一匹の人魚。睦月よりも少し遠く離れた地点の為、顔の確認は難しいが、髪の色からするにもう一人はスリジエだと判別できる。

 二人の意識が戻っていない事実に不安がよぎった様で、弥生は力いっぱい大声で叫んだ。

「睦月さん!! スリジエさん!! 目を覚まして――!!」

 彼女の声が届いたのか、睦月、スリジエの指に、反応が起こる。二人はそれぞれ、ゆっくり起き上がると、静かにまぶたを開けた。

「春野……?」

「春野さん……の声……?」

 意識が朦朧としながら、弥生の存在を確認する二人。

 弥生は安堵したのか、ため息を吐き出した。睦月のいる地点まで泳ぎ寄る。スリジエも意識が回復していくうちに、今の状況が呑み込めてきたらしく、慌てて睦月の元まで尾ヒレを動かした。

「睦月さん!!」

「冬川君!!」

 泳ぎ寄った人魚姫たちに、睦月が話しかける。

「すまない、完全に俺の作戦ミスだ。二人に負担をかけさせてしまった。本当に申し訳ない。やはり、ペルロマ様を止めるには夢鏡が必要なようだが…………」

 睦月の言葉を耳にし、スリジエが「あっ」と思い出したような声でつぶやいた。

「そういえば、夢鏡って今どこにあるのかしら? 確かあの男が持っていたはずなのに持っていないし……」

 ――――!!

 スリジエの発言によって、最も重要視されるべきことを、彼等はようやく思い出す。今回の事件の原因であり、同時に解決の糸口でもあるアクアワールドの秘宝の存在を。

 そして、ドグマとペルロマを助ける唯一の手段である秘宝を。


 弥生達が合流した頃、ドグマ、ベエモットにかけられた拘束時間の限界が迫っていた。一秒、また一秒と過ぎていく時間。弱まり始める拘束魔法。魔法消滅は時間の問題だった。

 二人は自らの願望を果たすためにも、『その時』がくるまで待ち続ける。拘束から開放されることを――。


 睦月は考え込みながら、二人に向けて話す。

「いや、持っていないはずはない。あの時持ち去ったのはベエモット本人で間違いないし、ペルロマ様の封印を解くには夢鏡が必要になってくる。だが、手に持っていないとすると考えられるのは……」

 可能性はそれしか思いつかいないが、他にも可能性はないとは言い切れない。しかし、現段階では『ベエモットが体内に隠している』という可能性しか考えられない。もし他に可能性があるとすれば、夢鏡自身がまたどこかに隠れている可能性しかない。

「とりあえず、ベエモットに直接聞くか、それが駄目なら戦闘で確かめてみるか……」

 睦月がつぶやいた直後。弥生達が恐れていた、拘束されていたドグマとベエモットが待ち望んだ『その時』が訪れる――――。


「きょわああああぁぁぁぁ!!」


 ドグマの奇声のような雄叫びで、弥生ら三人は、現実へと引き戻されていく。耳触りな雄叫びは、弥生達三人の耳に否応なく入り込む。何事かと言いたげな顔で、両耳を塞ぐ弥生達。

 三人は同時に振り返り、雄叫びが聞こえた方向へと目を向けると、鋭い目つきで直立しているドグマの姿があった。

「余計なぁ…………真似を、しやがってぇぇぇ…………!! 全てを終わりにしてやる!!」

 ドグマで小言で何やら呪文をつぶやく。魔法を唱えている様で、唱え終わった瞬間、右腕の関節から下を手剣に変えた。右腕を振り回しながら、同じく開放されたベエモットを睨みつけた。

「まずはお前から片付けてやる!!」

「くそっ!! 拘束魔法が解けたか! もう少し長めにかければよかったか!」

 睦月は地団駄を踏んで、悔しそうに舌打ちする。走り出したドグマを見つめ、続けて言った。

「ベエモットは先ほどドグマと戦って体力を失い、戦いのダメージが残っているはずだ。あと一、二回、攻撃を与えられると、確実に倒れるだろう。もしベエモットが倒れると夢鏡の在り処がわからなくなってしまう……そうなると状況がさらに厳しくなるな。やばいな……」

 睦月の言葉を耳にし、スリジエが「えっ」と驚いたように目を見開く。


(あの男が倒れる……? そんな馬鹿な……そんなはずはない。あの男は、父は、戦いで負けて倒れるような男じゃない! それに、倒れてしまったら、真実がわからなくなるじゃない! そんなのは、絶対イヤ!)


 スリジエは無我夢中で尾びれを動かした。戦いを止めたいからなのか、はたまた父親を助けたいからなのか、スリジエには分かっていなかった。それでも行動せずにはいられなかったのだ。

 止めてみせる、そう意気込みながら泳ぐスリジエ。けれども彼女も、ペルロマから受けた攻撃のダメージを感じていた。泳ぎ始めてまもなく、スリジエは、しゃがみ込んで洗い息遣いで胸を抑える。

 ――やっぱり、まだ、ダメージが……これ以上無理すれば、またもう一人の自分が出てきてしまう。でも……。

 スリジエは顔を上げると、ドグマとベエモットの様子を、心配な目で見続けた。

頑張って更新しているけど、なかなか完結まではこぎつけないっすねぇ(汗)

次回は第三節です。きままに執筆していきますです。はい。

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