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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十二話 弥生と竜の子守唄
39/51

弥生とベエモットとの最終対決!

久々の投稿なのです。今回から、タブレット端末&キーボードでの執筆になりましたので、急ピッチで執筆が完了致しました。なので、やっと、投稿にこぎつけました(汗)

お待たせしました。

今回は、ライアンとベエモット、直接対決ストーリーなのです!

 突如、ベエモットが力強く歯軋りをし、憎悪の目でライアンを睨んだ。今にも切れそうな危うい雰囲気を醸し出している。

「ほざくな、亡霊の分際で……」

 一方ライアンは、ベエモットの様子などお構いなしに、苦笑しながら呟く。

「それを言うなら、娘さんだって同じでしょう? 娘さんのことは父親である貴方が、一番よくおわかりの筈ですよ」

 ライアンの発言が気に障った様で、ベエモットは荒々しく息を吐いた。

「貴様……! よくも、そんなことを軽々しく……! 殺してやる!」

 叫んだ直後、両手に魔力を集中し、極限まで上昇させると、大声で唱えた。 

「フリーズ・アロー!」

 ベエモットが呪文を唱えた瞬間、氷で作り出された矢が、数え切れないほどあまた出現する。氷の矢は、まるでベエモットの合図がかかるのを待っているかのようだった。


 ベエモットの魔法に、二人の戦いを見守っていたスリジエの目の色が変化した。同時に、声を荒げた。

「いきなり、フリーズ・アロー!?」

 まさかあの魔法を使うなんて、と言いたげな表情で父親を見つめ続ける。見つめる瞳はどこか、寂しげだった。

 肝心のベエモットは、娘の視線に目もくれず、ライアンとのバトルを決死の思いで続けていた。


 フリーズ・アロー。またの名を、凍てつく矢と呼ばれている。

 同時にいくつもの氷の矢を発生させ、一斉に連射できる為、攻撃魔法の中でも殺傷度の高い氷系魔法だ。スリジエの姉、チェリーを殺した氷の矢を強化させたようなもので、刺さった部分から徐々に凍り付いていき、最後は跡形もなく粉々に砕け散ってしまう。フリーズ・アローの矢に直撃した者は死んでしまうと言われるほど、凶悪な魔法として世に知れ渡っている魔法である。


 ベエモットの逆ギレに対し、ライアンが呆れたようなため息を吐いた。

「おやおや、逆ギレとは……現代で言う『モンスターペアレント』とかいう奴ですか? 一人の『父親』として、かっこ悪いと思いませんか?」

「うるさいっ! 黙れ、亡霊!!」

 ベエモットは怒鳴りながら、大きく右腕を振った。それを合図に、氷の矢が、ライアン目掛けて急速に動き出した。


 二人の様子を、弥生達四人は、ソワソワしながら傍観している。特に、ライアンの弟子である睦月は、ライアンが心配らしく、不安な感情が巡っている。


「やれやれ……仕方がありませんね」

 ライアンはそう呟いた直後、続けて、呪文を唱えた。

「フレッチャー・ブルッチャーレ!」

 こちらも、炎で作られた矢がいくつも姿を現し、同時に連射されていく。


 フレッチャー・ブルッチャーレ。

 別名、燃え散らす矢と呼ばれている、炎系の魔法だ。フリーズ・アローと同様、殺傷力の高い攻撃魔法でもある。


 二人の戦いを、固唾を呑んで見守る弥生達。四人の視線が、一気に二つの矢に集まった。


 氷の矢と炎の矢、互いの距離が急激に縮まっていく。何事もなく、まっすぐ進んでいたが、中央付近に差し掛かった時、目にも止まらぬ速さで衝突した。そして、火花と破片を散らしながら、消滅し始める二種類の矢。


 睦月は光景を目の当たりにし、ライアンの姿を探し始めた。火花と破片が邪魔する中、師匠が傷一つなく無事という事実を確認する。直後、安堵したのか、師匠に向けて微笑を浮かべた。

 ライアンも、弟子の睦月に向けて、応えるように微笑み返す。


 水中に、火花と氷の破片が舞う中、ライアンがベエモットを目指して駆け抜ける。ほぼ同時に、彼は城跡全体に強力な結界を張った。姿を現したバリアが壁となり、城跡を覆い、外部を遮っていく。

 ライアンがつぶやくように言った。

「これで、奴等に、覗かれずに済みそうです」

 不敵な笑みをこぼすライアンを、ベエモットは無言で睨み続ける。ベエモットも、ライアンに向かって、ゆっくり動き出した。




 一方で、彼等の戦いを、複雑な心境で傍観する人魚が居た。彼女の瞳には、血で繋がれただけの父親が、くっきりと映される。

 スリジエは今まで、ベエモットとの関係を、冷めた親子関係と考えていた。いや、そうだと決めつけていたのだ。


 ――自分のことは、娘ではなく道具としか思っていない、と。


 けれども現在の父は、今まで見てきた父とは異なる顔を見せていた。父が怒ることがあっても、怒鳴り散らすことはなかった。娘のことを「道具」と言っても、娘や他人に「殺してやる」なんて言ったことはなかった。初めて見せた、父親の新しい一面。


 ――今まで見てきた……あの頃の父とは、違う!!


 傍観していたスリジエの中で、異変とも言うべき〝何か〟が既に起こり始める。固まっていた氷が溶け始めたような、父に対して、光の感情が宿りつつあった。スリジエにとって、想定外の出来事だった。

 だからこそ、違和感が拭えないのだろう。


 何故、あそこまで怒鳴るのかということを。自分と父親の関係性を。あの人の本当の心が、白なのか、黒なのかを。

 もし、白であるならば……、私は…………。

 そして、彼女の中で、ベエモットを観る目が、変わっていく。


 ――ライアンさんとあの人の戦いで、何かが分かった時は、向き合おう。もう一度、父と。


 スリジエは、今一度、彼等の戦いを見守り始める。父親の心と向き合う為に。




 スリジエが一人、思案している頃。

 ライアンとベエモットが、バトルで激しく城跡を動き回る内、かつて『王座の間』が存在していた部屋まで移動していた。唯一、部屋の原型を留めている場所で、僅かだが、きらびやかな装飾が目に見えるほど残っている。『王座の間』だけも残しておくべきと考えた様で、唯一、結界が張られていた為だろう。

 けれども現在は、彼等の戦いによって、外壁や天井などがチーズのように穴だらけとなり、無惨な姿に変貌を遂げていた。それでも、彼等は止まらない。


黒球ブラック・ボール!」

光弾ルーチェ・ムニツィオーネ!」

空刃インヴィジブル・ブレード!」

水刃ヴァッサー・シュナイデン!」


 交互に繰り出される彼等の魔法は、城壁を破壊していく。壊れ始める城壁越しで、互いに睨み合う二人の男。


 破壊されていく城を目の当たりにし、睦月はめまいが起こりそうになった。睦月が幼少期に過ごした城が魔法によって壊される光景は、睦月にとって、一生見たくはなかった光景である。壊しているのは、スリジエの父ベエモットと、かつて、この城に住み込みで働いていたライアンだ。めまいが起こりそうになるのも無理はない。

 彼等の戦いを、痛々しい表情で傍観中の睦月が、心の中で一言つぶやく。

 ――全てが終わったら、大臣に修理するように頼んでみるか……。


 ベエモットが、静まり返っていた空間の沈黙を破り、自身を見ているライアンに声をかけた。

「ほぅ……なかなかやるじゃないか。私とここまで戦えるとは……大したものだ」

 ライアンは微笑をこぼすと、強さの“理由わけ”を話し始める。

「昔、様々な種族の友人がいましてね。今はもう、人間の手によってほとんど殺されてしまいましたが。その友人達から様々な魔法を教わったのですよ。教わった魔法の中には、失伝ロスト魔法マジックもありましてね。そんな私と互角だなんて……貴方も同じような経緯をお持ちで?」

 ライアンの問いに、ベエモットは不敵な笑みを浮かべながら答えた。

「ふっ……まあな。あながち間違ってはいない。昔、妻と一緒に様々な古代遺跡を巡ったことがあってね。その時に、様々な失伝魔法の記録媒体である魔法具を発見したんだよ。その魔法具のおかげなのか、私も、多少は失伝魔法が使えるんだよ。君が失伝魔法を知っているようにね。試しに見せてやろう……私が知っている、失伝魔法の一つを、な」

 ニヤリッと微笑んだかと思えば、今はもうこの世には存在しない言語で、静かに呪文を唱える。

「アグニマール・レイシャンテ!」

 神々が戦争をしていた頃――まだ一つしか言語が存在しなかった頃の言語だ。

 ベエモットが呪文を唱えた直後、ベエモットよりも巨大なプラズマ火球が出現。プラズマは急発進し始め、ライアンへ突進していく。

 ライアンはこの場をどうやって凌ぐか、考えを巡らせる。前方にはベエモットが、後方には弥生達が、ライアンの一手を待っていた。弥生達に、怪我をさせてはいけない。

 ベエモットが唱えた同様の言語で、ライアンは呪文を叫んだ。

「リヒテア・ソワナハータ!」

 唱えた瞬間、ライアンの前方に、小型の『ブラックホール』が精製され、プラズマ火球へと放たれる。

 プラズマ火球とブラックホールは引き寄せあうかのように進んでいく。

「弥生さん、スリジエさん、王子、ドグマさん、目をつむっていてください!」

 ライアンが忠告したと同時に、二つの球は跡形もなく衝突――そして、花火のように光り輝きながら散っていく。

「――!?」

 強烈な光の輝きに、弥生達は思わず目閉じた。

 皆が目を瞑っている間、ライアンが動きを見せる。対戦相手が停止している隙に、ベエモットとの距離を一気に縮めていく。


 弥生が、状況が飲み込めないまま、目を瞑っていた時。彼女の脳内に、突如、ライアンの声が入り込む。

『弥生さん。こんな状況下で申し訳ないのですが、お聞きしたいことがあります。時間はとらせません。よろしいですか?』

 ――は、はい!

 弥生がしどろもどろに頷くと、ライアンは優しい声色で問いかけた。

『王子の記憶を読んだ限りでは、弥生さん、貴方は剣を魔剣化する魔法を使った用ですが、本当ですか?』

 弥生は戸惑いながらも、事実であった為、「そうです」とつぶやく。

 瞬間、ライアンの表情が僅かに緩まった。

『そうですか。相手を傷つけたくなくて使ったのであれば、最良の方法です。魔力をまとった剣に殺傷力はありません。代わりに、洗脳魔法のような精神干渉系の術を解く効果があります。そして、弥生さん、ありがとうございます』

 ――??

 弥生は、ライアンからお礼を言われたことに驚いたのか、内心がざわめき始める。ライアンさんにお礼を言われるほどのことをしただろうか。全く見に覚えがない。

『貴方が魔剣化する魔法を使ってくれたおかげで後輩達が傷付くことなく済みました。本当にありがとう。後輩が傷付くのだけは、私も見たくはないので』

 ライアンの話に、弥生がポツリと言った。

 ――ライアンさん……。

 輝いていた光は徐々に収まっていき、弥生達がようやく目を開けた時、ライアンが、ベエモットの懐に入っていた。

『お礼に、本物の魔剣というものを、見せて差し上げましょう!』

 ライアンは、肉体と共に出現した、自身の愛剣を鞘から抜き、そのまま目にも止まらぬ速さで横に振る。同時に、ライアンの前方に、数多の斬撃が一斉に放たれた。いわゆる、魔力斬撃と呼ばれる攻撃方法だ。

 ベエモットは「くっ」と小さく声を上げ、慌てた様子で目を見開かせると、逃れるように飛び退く。着地した瞬間、反撃しようと試みていた。だが、何かに気づいたらしく、それからは全て『逃げ』に徹する。


 ベエモットの不可解な行動に対し、理解不能と言いたげな瞳でベエモットを見つめる一同。

 何故、『逃げ』徹するのか。訳が分からなかった。


 ライアンは、ベエモットの行動理由を解明する為に、もう一度、斬撃を放った。

 それでも結果は変わらず、ベエモットは再びかわしていく。

 その時、ライアンの脳裏に、何かが浮かび上がった。気付いてしまったのだ、ベエモットが『逃げ』に徹する理由を。どうして今まで、スリジエが実体を保てたのかを。

 全てが分かった時、疑問に感じていたことが解けたので、ライアンは攻撃方法を変更した。ベエモットの傍まで歩み寄り、少しばかり拳に魔力を込めると、立ち尽くすベエモットを、力いっぱい殴り飛ばした。

 殴られたベエモットは、後方の壁へと豪快に衝突する。直後、もろくなった壁が崩れ落ち、へたり込むベエモットを襲った。

「!?」

 ワケがわからない、と言いたげな表情でライアンを凝視するベエモット。


 ライアンの行動に、目を見開かせながら、前のめりの体勢で見つめる弥生達。何が起こったのだろうか。弥生達から漂う不穏な空気が、結界内の空間を包み込んでいく。


 ライアンがベエモットに言った。

「貴方は何故か、魔力を使うことを渋っていますね。理由として考えられるのは、私に魔力切れを起こさせる為か、もしくは、貴方自身に『何か』がかけられおり、その『何か』が発動することを恐れている為か。はたまた、両方なのか。どれかはまだ分かりません。分かっているのは、貴方が、魔力を使うことを恐れ、攻撃から逃げていることぐらいでしょうか」

 ライアンの言葉を、ベエモットは静かに聞き入っている。

「…………」

「いずれにせよ、貴方がその気なら、こっちは貴方にあわせて、あまり魔力を使わないように戦うだけです」

 ライアンは前を見据えると、ベエモットに視線を移した。

 ベエモットは、ゆっくり立ち上がったかと思えば、ニヤリッを笑みをこぼす。

「ほう……この私と殴り合いを演じるのかね?」

「そうでもしないと、貴方は本気にならないと思いましてね」

 苦笑しながら言うライアンに、ベエモットが彼に向かって叫んだ。

「良い度胸をしているな……良いだろう。お望み通り、本気で相手をしてやろうじゃないか。来いっ!」

 ベエモットの言葉を合図に、ライアンが走り出す。ベエモットの近くに差し掛かった時だった。

 ベエモットが、この時を待っていたかのように、ライアンの腹部に向けて、魔力を込めた拳を食らわせる。

「……!!」

 カウンターで食らった為か、今度は、ライアンが後方に吹き飛ばされた。ライアンの後方に立つ、弥生達の前方スレスレで停止する。

「これでもかつて、徒手空拳を学んでいたからね。そう簡単に負けやしないよ」

 自信満々に微笑むベエモットを、ライアンは起き上がりながら睨んだ。

「なるほど……油断しました」


 睦月が不安になったのか、「せ……先生!」と、声を荒らげる。先生は大丈夫なのだろうか、睦月の脳内はそれだけしか考えていなかった。


 王子の心境を見抜いた様で、彼を心配させまいと、ライアンは笑みをこぼした。

「大丈夫ですよ、王子。これでも、元・特殊工作員ですから。心配には及びません。なので、その目で見ていてくださいね? 両者の実力が拮抗きっこうしている場合の、決着の付け方を!」

 実力が拮抗している場合、迂闊に大きな技を出すことはできない。これ以上大きな技を出せば、必ず大きな隙が生まれるからだ。そんな状況下で、最も実用的なのが、この『殴り合い』なのである。殴り合いは、大きな隙を生まない、最適な手段なのだ。


 ライアンが立ち上がった瞬間、彼等の殴り合いが再開される。時に片方に大ダメージを与え、時にはクロスカウンターを与える。勝負は、平行線を保ったまま、時間だけが過ぎていった。

 そんな中、ライアンは拳を通じて、ベエモットへと、自身の想いや記憶の一部を送り込む。ベエモットと通じ合うことができれば、ベエモットの真実が分かるのかも知れない。そう考えてのことだった。

 戦いながら、ベエモットの中に、ライアンの悲痛な記憶が流れ込んでいく。ふと、ベエモットは思った。

(ああ、この男も、私と同じなのか)

 ベエモットがウッカリ『そう思ってしまった』この時を、ライアンは待っていた。


 他人の記憶・想いを受け入れる事。それはつまり、相手に心を許した証。

 瞬間、ベエモットを纏っていた、記憶を読めないようにする魔力障壁が弱まっていき、逆に相手の記憶や想いを盗みやすい状況が生まれる。

 ライアンは、すぐさま、ベエモットの記憶に侵入を始めた。個人情報と引き換えに、ライアンが手に入れたのは、ベエモットの心中にある、誰も予期せぬ驚愕の事実――――。

(やはり、そういうことでしたか……)


 弥生は、急に静まり返ったことに、不安感を募らせる。状況が一変するような、何かが起こる、そんな気がしていた。だからこそ、不安感が拭えないのだ。早く戦いが終わって欲しい、と。視線を、戦い続ける彼等に向けながら、戦いが終わるその時を待ち続けた。


次で、第十二話終了し、第十三話へと突入します。いよいよクライマックスに近づいていきますが、無事、完結出来ることを、祈るばかりです。

今は『弥生ともう一つの世界』の完結を目指し、引き続き、執筆を続けます。

次回は今月中に投稿できたら投稿したいです。ではでは~!

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