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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十二話 弥生と竜の子守唄
38/51

弥生と近づく最後の戦い

何ヶ月振りの投稿となります(汗

というより、思うように執筆が進まないばかりか、予定していた日に投稿できずにそのまま過ぎていき、結果、今に至ります。

大変お待たせいたしました。第十二話の突入です。

 場所は変わり――――南の海はというと、ブルーホールの海底洞窟に存在する秘密部屋では、黒の人魚族メンバー十五人が何度目かの会議を開いていた。


 通知を送ってから今現在まで。サブリーダーの報告によって、思いもしない出来事が起こっていた。

 王子が『夢石の継承者』によって、装置から逃げたこと、ライアンと名乗る男が一人で派遣隊全員を倒してしまったこと、そして、ベエモットが自らの計画を実行し始めたこと――――。想定外の数々が重なっていた。


「いかがなさるんです!? 族長!!」

「王子は脱走してしまいましたし、派遣隊は倒されてしまいました! 計画が少しずつ破綻しています!」

「早く、ご決断を!!」

 ほとんどのメンバーが族長を急かす中、ヴィユはただ一人黙り込んでいる。自身の『欲望』が族長に知られることが、ベエモットを利用して夢鏡を独り占めにしようとしたことが、露見されないか内心ビクビクしていた。


 当然、議論は一向に進んでおらず、どっちつかずの状況、白熱した議論と化していく。そんな時、一人の男が、発言した。


「あの『仕掛け』を――――発動させる」

 言い放ったのは、しばらく黙り込んでいた族長。

 族長の言葉に対して、誰もが想定外だったらしく、一瞬で静寂の空間に変わる。まさか、族長がそんなことを言い出すなんて――――そんな表情で族長を凝視していた。

 直後、メンバーの抗議が開始する。

「なっ、何をおっしゃいます!」

「計画が破綻し始めている中、あの仕掛けを発動させるなど……暴挙に過ぎません!」

「世界も壊れますが、それ以上に『空間』までもが壊れてしまいます!」

「それだけはおやめになった方が……!」

「族長! 別の案がよろしいかと…………」

 早々とあの『仕掛け』を発動させるということは、計画の破綻を示している。それは誰もが理解していた。だからこそ、族長の提案を呑むことはできなかった。


 メンバーの抗議を聞き入れたのか、族長は再びだんまりとし、何も言わなくなる。しばらく考え込んだ後、ヴィユに視線を写した。

「ヴィユ……お前は、どう、思う……?」

 声をかけられたヴィユは一瞬、反射的にビクついたが、冷静に自身の考えを述べ始める。

「族長、その案は悪くはありません。ただ、少々横暴すぎるかと……。何故、仕掛けを発動されるのか、理由が判明しない限り、彼等は納得されないと思います」

 ヴィユの言葉に、族長以外のメンバー全員が感心しながらヴィユを見つめた。

 全員の視線を受けながら、ヴィユが重い口を開く。

「……ですが、族長が理由をおっしゃってくれるであるのならば、私はどんな理由であろうとも族長に従います」

 まさかの族長支持に、ほとんどのメンバーが息を呑んだ。

 族長はヴィユの言葉に、満足げな表情で何度も頷く。

「そうか…………ならば、良い」

「し、しかし、先ほどヴィユ様がおっしゃっていたように、少々横暴すぎると思います! 何故そこまであの『仕掛け』にこだわるのでしょうか!?」

 もう一人のサブリーダー・ブリフスの叫びに対して、族長は表情変えることなく言った。

「裏切り者と役立たずな者は……………………手っ取り早く消去すべき、と思わないか?」

「…………!?」

 その瞬間、反対していた者は皆、一言も反論しなくなり、室内は静まり返る。


 族長が何を言いたいのか、その『理由』が判明した為だ。それが誰と誰を指しているのかも想像がついてしまった。これ以上反対すれば、自分らも彼等と同じく消されてしまう――――そう考えた上で、全てを悟った。


「異論はない様だな。では、次の指令が決まった。ロータス!」

 族長の声掛けに、待機していたロータスは驚いた様に「は、はいぃ! なんでしょうか、族長!」とその場で慌てふためく。

「聞いていた通りだ。会議の結果を派遣隊に通達したい。早急に通信魔法を発動させろ、そして、彼等と繋げるんだ」

 族長の新たな指令を耳にして、ロータスが申し訳無さそうな表情で族長を見つめた。

「えっ、ええっ!? しかし、それは…………」

「ロータス、早くしろ!!」

 族長はロータスを急かすように叫ぶ。

 ロータスは族長の声にビクつきながら、思いっきり背筋を伸ばすと、しどろもどろとした声色で言った。

「は、はいぃ!! 直ちに繋げます!!」

 数秒後、ロータスによる通信魔法の発動が開始された――――彼等に繋げる為に。



      *



 少し時間を戻して、十分ほど前。

 町の中心部にある大通り――――建物内にある庭で、派遣隊メンバー全員が顔を揃えている。リーダー・ドグマ、セイヴィア、レベイルの三名が負傷の為、体を休めている最中でもあった。


 庭は五人が少々体を伸ばせるほどの広さで、かと言って狭すぎるという訳ない為、安心して休憩できる庭となっていた。庭の隅に植えられた水中花達はアクアワールドの崩壊が影響を与えたのか、既に枯れ始めている。


「リーダー……先ほど本部に報告したところ、会議が終わり次第、次の指令を出すとのことです」

「そうか……会議が終わるまで待つしかない、か…………」

 サブリーダーとリーダーのやりとりを、他のメンバー三人は罪悪感を募らせながら、無言で静かに見守っていた。


 リーダー・ドグマがため息を吐いた時、

「……………………リーダー」

 とサブリーダーがつぶやいたのを合図に、四人がドグマの前に並び立ち、深く頭を下げる。

「王子奪還できず、申し訳ありませんでした」

「いや、お前達のせいじゃない。勝手な行動をした俺に責任がある」

 リーダーの言葉を、耳にしたレベイルが、声を震わせて叫んだ。

「リーダー……そんなことありません!」

「……リーダー」

 他の三名らも、心配そうな表情でドグマに視線を送る。


 ドグマは、メンバー一人一人の顔を見回すと、悩みながら四人に言った。

「問題は…………ここからだ。これからどうするべきかだ」

「私は、本部の連絡が届くまで、待機していた方が良いと思います。下手に動けば、本部の機嫌を損ねる可能性があるかと」

 セイヴィアの意見に、サブリーダーがしかめっ面な顔で同意する。

「俺もセイヴィアの意見に同意です。本部は計画のズレに焦り始めている中、我々が勝手な行動に出れば、我々全員の処罰は免れないと思われます」

「確かに、そうだな。ここは待機するしかない、か…………」

 ドグマは苦々しい表情で歯噛みすると、二度目のため息をついた。


 ドグマがため息ついたと同時に、ドグマの脳内に響いた、聞き覚えのある声。ドグマに語りかけるように、声は叫び始めた。

『ドグマ! ドグマ、聞こえるか! ドグマ!』

「その声は…………ロータス! 聞こえている! どうした!」

 ドグマは驚いた様子で言い、他のメンバー四人も目を丸くして硬直している。これから、何を告げられるのか、まだ五人は知らなかった。

 ロータスは慌てたような声色で話す。

『ドグマ……そこにメンバー全員いるな!?』

「ああ、派遣隊メンバー全員揃っている」

 ドグマが肯定した直後、ロータスから派遣隊メンバー全員に対して『あること』が告げられた。

『先ほど、会議で次の指令が決定した。そのことについて、族長自ら話をするそうだ。メンバー全員、聞くように。では、族長…………』

『派遣隊の諸君、私だ』

 彼等にとって、最も慕う統率者の声が、彼等の空間をじわりじわりと支配していく。

「――――!!」

 五人は同時に大きく目を見開くと、その場で跪いた。

『先ほど、会議が終了し、君たちの新たな指令が決定した』


 しかし、族長から告げられた指令は、派遣隊メンバーにとって残酷な内容だった。


『アクアワールドに仕掛けた『破壊装置』を発動させることが決まり、君たち〝四人〟にはこちらが発動させる移動魔法で帰還してもらうこととなった』

「四人!? 四人とはどういうことですか、族長!」

 セイヴィアが族長を問い詰めると、族長は答える。

『サブリーダー・ハバリー、隊員ヒィーロル、レベイル、セイヴィアの四名だ』

 告げられた瞬間、五人の顔色が一瞬で変化し、「!?」と思考が停止していった。

『そして、リーダー・ドグマはそのまま、アクアワールドに残ってもらい、責任をとってもらう。リーダーが全責任を負うのは当然だろう? 任務を遂行できず、我々の計画を狂わせ、自分勝手な行動に出た。使えない君をそのままにしておく訳にはいかないんだよ』

 族長から告げられたドグマへの指令に、ドグマ以外の四人が声をあげる。

「そんな、リーダーが…………!?」

「嘘です! そんなことって!」

「信じられない……馬鹿な!」

「…………まさか、そんな」


「私が、何故……」

 ドグマは、受け入れられない様で、呆然と地面を見つめ続けていた。自身に責任があるとは言ったが、こんなにも早く責任を取らされることになろうとは思ってもいなかった為だ。信じたくない、ドグマの脳内はその言葉だけが巡っていた。


 硬直しているドグマをよそに、族長は気にすることなく話を続ける。

『ドグマ君、君はそのまま居てくれればいいのだよ……仕掛けが発動されるその時まで……そのまま、ね。仕掛けはこちらで発動させるから心配はいらない』

 ドグマの話に、四人は再び声を出した。

「それって、まさか……!!」

「そのまま死ねってことですか……!?」

「それが、次の指令なんて……」

「……………………冗談じゃない」

 リーダーに対する、族長の仕打ちに、憤慨の思いで聞き入っている。


『さて、そろそろ君たち四人にはこちらに戻ってきてもらおうか』

 族長が言った直後、ハバリー、ヒィーロル、レベイル、セイヴィアの足元に出現した魔法陣が強い光を発する。

「リ、リーダー!!」

 レベイルが叫んだと同時に、四人の姿が瞬時に消滅した。他の三名は声を発することもできずに――――。


 族長が、ドグマに向けて、静かに言う。

『これが君の最期となるだろう、今までご苦労様だった。この通信が終わった後、黒の人魚族に残っている君の記録や名前は全て削除されるだろう。残さず全てを』


 ――こんなことってあるのだろうか。

 ドグマは両手に握りこぶしを作り、抗うことのできない運命に、歯ぎしりを立てた。


『サヨウナラ、ドグマ君』

 族長の声は聞こえなくなり、ドグマは一人、虚無感に襲われ始める。

 本部から与えられた『王子が逃げ出さないよう見張り、余計な真似をしないように止める』という大切な任務に失敗しただけではなく、ライアンに勝負を申し込むなど勝手な行動に移した挙句、計画に背き始めたベエモットの暴走を止められなかった。族長の機嫌を損ねる行動ばかりだということに、改めて痛感する。

 ――私の人生が、ここで、終わる…………。ここで…………。

 庭に一人だけ取り残され、誰もいない場所で、ドグマは一筋の涙を流した。

 その瞬間、ドグマの中で、何かが壊れ始めていた――。



      *



 弥生ら四人が歩く海道うみみちは、廃墟となった城跡に続く小道だが、しばらく整備されていない様で、いたる所に藻や海藻類が生えまくっていた。道の両脇を背の高い草花が覆い尽くし、弥生達を見守っている。奥へと進めば進むほど海藻類に邪魔され、思う様に進めなかった。


 二匹の人魚姫を、ライアンと睦月が前後で護衛するように、四人は道を進んでいた。進む彼女達を阻んでいるかの如く、海鳴りに似た轟音が響く。


 轟音に反応を示した弥生が、薄暗い辺りを見回しながら、ライアンに質問を投げかけた。

「あの……ライアンさん、ここは何処なんですか? 何処に向かっているんでしょうか……」

 ライアンは少し振り向き、視線を戻すと、質問に答え始める。

「心配することはありません。ここは、アクア海道……この先にある旧・城跡に続く道ですよ」

 ライアンの回答に、弥生は悩むように考え込んだ。

「そこに、ベエモットさんが……………………」

「ふと気になったのだけれども、その城跡って……一体、何に使われていた城だったのかしら?」

 スリジエの疑問に対して、再びライアンが答える。

「廃墟となった城は、初代の竜人族によって、最初に建てられた城で、老朽化で崩れるまで、王族達は皆、その先にある城に住んでいたんですよ」

「それまでに戦争やら戦いやらで、急激に城の耐久性が落ちたせいとも言われている。最初に造られた城は、建設物の技術が低かった為、それほど耐久性があった訳じゃないらしいからな。……今は違うがな」

 睦月の補足に、弥生とスリジエの二人は目を見開いた。

「ええっ、そうなの!?」

「というより、そもそも竜人族って何者なのかしら?? どんどん疑問が増えていくわ……」

 弥生とスリジエは、不思議そうに海道周辺を見回していた時だろうか。


 聞き覚えのある声が木霊する。

「ふっ、呑気な奴等だなぁ…………」

 弥生達が振り向くと、黒の人魚族の派遣隊メンバーが行く手を阻むように仁王立ちしていた。彼の瞳は先ほどとは違い、正気が宿っていないばかりか、意識もボンヤリと曖昧で、正直に言えば覇気がない。彼の異常は、瞬時に弥生達全員に読み取られた。


「……! あなたは!」

「派遣隊リーダー、ドグマ!!」

「何しにきた! また邪魔しにきたのか!?」

 弥生、スリジエ、睦月、構わず戦闘ポーズで出迎える。また、戦うのか。黒の人魚族の登場によって、急速に警戒心が高まった。


「邪魔しに、か…………俺はやっぱり邪魔者か…………」

 ドグマは吐き捨てるようにつぶやく。と同時に、ドグマが戦闘ポーズをとることはなく、ひたすら物陰を凝視しているだけだった。


 ドグマの異変に、ライアンがいち早く見抜いた。

「弥生さん、スリジエさん、王子。ちょっと待ってください、様子がおかしいです……彼は、私達の邪魔をしにきた訳ではない様です」

 ライアンの指摘で、弥生達三人は「えっ!?」と思わず戦闘ポーズを解く。

「呑気なお前達に良いことを教えてやろう。もうじき、十五分もすれば、派遣隊が仕掛けた破壊装置が本部によって発動され、アクアワールド全てを破壊させる。これは本部によって決められたことだ。俺にはどうにもできないがな」

 ドグマの言葉に、弥生ら三人が「ええっ!?」と驚愕の声を発する。

 ライアンは怪訝そうな顔で言った。

「なんの真似ですか? あなたは黒の人魚族…………」

「俺はもう、黒の人魚族じゃあない。黒の人魚族のメンバーから外された。全ての責任を押し付けられてな」

 ライアンの言葉を遮るように、淡々と発言するドグマ。


 弥生、スリジエ、睦月の三名は互いに顔を見合わせた。そして。

「ええええっ!?」


 三名の声をかき消すように、ドグマがしゃべり始める。

「お前達に勝負を挑んだことが、本部の人たちの気に触った様だ……ちなみに黒の人魚族は俺しかいない。他のメンバー四人は本部によって強制的に帰還させられた」


「そんな…………!」

「嘘をついている可能性がある。黒の人魚族がそんなことをする訳がない」

 弥生と睦月が信じられないような顔でドグマを見つめていると、スリジエが険しい表情で言った。

「いや……黒の人魚族なら、そんなこと簡単にやるわ。使えない者は切り捨てる、それが奴等の方針だもの」

 弥生、睦月の表情が確信したような表情に変化していく。

「じゃあ、やっぱり……!」

「嘘をついていないということか……!」

 弥生、睦月、スリジエの視線の先には、正気が消えていく彼の姿があった。

「族長に言われた……『君は仕掛けが発動されるまで、そこに居るだけでいい。これで最期になるだろう』ってな。だから、俺に居場所はない。このまま、死ぬしかないんだよ……俺は邪魔者なんだ」

 ドグマの言葉に反応したのが、ラリア姿の弥生である。

 ドグマの心を助けたいと思い始めた様で、ドグマの心に響かせるような声で言った。

「そんなこと、ない! いらない人なんて、誰もいない! いつも誰かが誰かを必要としている。きっと、あなたも…………」

「綺麗ごとだ、そんなこと! どっかで聞いたことあるような台詞吐いても、枯れきった俺の心は動かないぞ、夢石の継承者さんよぉ」

 ハァハァと、荒い息遣いで弥生達をガン見するドグマ。

 弥生はドグマの前まで泳ぎ進み、悲しそうにつぶやく。

「でも、元リーダーさん……すごく苦しそうに見えます。自分で自分を追い詰めている様にも……」

「そういうこと言って俺を救おうとしても無駄だ、俺はこのまま死ぬ運命なんだからなぁ」

 ドグマの様子に、ライアンが小首を傾げた。

「あまりにも様子がおかしいですね……まるで、心が闇に囚われているような感じがします」


「それって……………………」

 弥生が「もしかしたら……」と思い、ライアンの方に体を向けて視線を送る。ライアンも弥生と『同じ考え』の様で、弥生に対して力強く首を縦に振った。


「とにかく、情報は伝えた! お前達に会うのも、これで最期だぁ……分かったかぁ、夢石の継承者どもぉ……」

 ドグマが去ろうとした時、弥生の「待ってください!!」という叫び声が海道全体に響いた。

 弥生はドグマに手を差し伸べると、続けて話す。

「私達と一緒に来ませんか? ドグマさん」

 優しい笑みを浮かべながら――――。

 ドグマはしばらく悩んでいたが、数秒後、何かを決意した様で、力強く弥生の手を握る。ここから、ドグマが弥生達の元に来た瞬間だった。



      *



 弥生達が無言のまま旧・城跡に到着したのは、海道での騒動から十五分後のことだった。

 建物の面影はほとんど見受けられず、ただ壁の残骸が残されているだけで、海道よりもさらに海藻類が生い茂っており、城だったとは思えないほどの有様である。城跡の光景に対して、ライアン以外の弥生ら全員が息を呑んだ。

 睦月が、老朽化していく城跡を見つめながら、ポツリと一言。

「昔に比べて、だいぶ荒れたな……誰も整備していないんだろうな……」

 瞳はどこか寂しげな表情を宿していた。


 外壁だった残骸には、様々な苔が生え続け、壁を覆い尽くし、緑の塊化となっている。睦月、ライアン以外の人物が見れば、ここに城あったとは想像がつかないだろう。案の定、弥生、スリジエ、ドグマの三人は、信じられないと言いたげな表情で呆然と城跡を見つめていた。


 スリジエが城跡の奥に目を向けた時、ふと、一つの人影を発見する。人影が目に入った瞬間、人影の正体が誰なのか、瞬時に理解した。

「ベエモット……!」

 彼の姿が目についたと同時に、忌々しそうな表情で歯軋りを立てていた。

 ライアンは、スリジエの様子ですぐさま状況を見抜き、立ち尽くす弥生達に一声かける。

「前に……進みましょう。〝彼〟が待っています」

 ライアンの一声で、弥生ら四人は緊張した面持ちで前へと進んで行った。




 進んでいくと、約五分ほどで、城跡の中心部に到着する。そこには、弥生達に背中を向け、城跡で待ち伏せているベエモットがいた。弥生達が到着したと気づくなり、苦々しい顔で深いため息を吐く。

「やっと、来ましたか……遅かったですね」

 一人一人見回していく内、本来ここに居るはずのない人物の存在に、大きく目を見開いた。

「――――!?」

 どうしてお前がここに居る! そう言いたげな目で想定外の人物を睨んでいる。

 ドグマも同様に、ベエモットと似たような面持ちで、視線を逸らすことなく凝視していた。

「……ふん、驚くのも無理はないなぁ、ベエモット。だが……安心しろ。俺は族長の権限で『全て』を失ったんだからなぁ。俺にはもう、お前をどうこうすることなんざぁ、できないんだからなぁ」

 ドグマの発言で、何故ここにいるのか、ベエモットの中に溢れていた様々な疑問が消えていく。


 二人の様子を警戒した面持ちで傍観している、人魚が一匹。

「ベエモット……!!」

 スリジエの呟きを聞いていたらしく、ベエモットが娘に向けて微かに笑みをこぼした。

「……ああ、スリジエ…………今のところは暴走せずに現状維持できている様ですね。お利口さんです」

 スリジエは複雑な心境で父親を見つめる。


 ライアンは弥生、スリジエ、睦月の三人に、再び提案を述べた。

「弥生さん、スリジエさん、王子。彼との戦いは私に任せてもらえないでしょうか? ベエモットの真意を知るには、どうしても戦わないといけないのです」

 ライアンの提案を聞いて、スリジエただ一人だけが反論し始める。

「ちょっと待ってください! 親の尻拭いは子供の私がしなきゃいけない! だから! 私も戦います!」

 ライアンは無表情でスリジエの顔を見据え、彼女を諭すように淡々と話した。

「スリジエさん、気持ちは分かります。けれども、彼は貴方と戦うと知れば、なおさら真意を隠そうとするでしょう。そうなると、貴方が知りたがっている、彼の本音が、一生分からないままになります。それに、彼と戦えばどうなるか、貴方は既に分かっているはずです。それでも、貴方は彼と…………戦いますか?」

 ライアンの説得は、スリジエの心の奥深くに突き刺さった様で、何も反論できずに言葉を失う。

「……!! それは……!!」

 ――ベエモットとまともに挑んでも、勝つことはない。分かっていた。それでも、戦えば何か分かるかも知れない。そう、考えていた。それすらも、見抜かれていたなんて……。

 スリジエは、ライアンの説得を受け、提案に応じることを決意した。

「分かり、ました……。参加しないことにします」

「その代わり皆さん、特に王子。一歩引いた場所で戦局を見極めるのも王の務めです。この戦いをよく見ていてください。これが、一流の魔道士同士の戦い方ですよ」

 ライアンはニッコリと微笑むと、ベエモットを目指してゆっくり前へ歩き始める。彼自身が考えた、作戦を胸の内に秘めながら。


「話は聞いていた通りです。よろしいですね、ベエモットさん?」

 歩きながら声をかけてくるライアンに、ベエモットが不機嫌そうな顔をしながら本来の言葉遣いで言った。

「私は構わないが……無様な姿を見せることになるぞ?」

「教え子が見ていますから、そう無様に負けていられませんよ?」

 ライアンは不敵な笑みをこぼしつつ、対戦相手のベエモットを睨みつける。

 彼には考えがあった。もう間もなく消える自分自身の存在と引き換えに、ベエモットの魔力を、時間が許されるまで、弥生達がベエモットと戦える程度まで削る。それが、彼の作戦だった。作戦をベエモットに悟らてはおしまい。全てが無駄になってしまう。それだけは避けたい。


 けれども、弥生達は気がついていた。ライアンが胸の内に作戦を隠し持っていることを、彼の背中を見つめて感じ取っていた。


 ベエモットは、ライアンの言葉を耳にし、困ったような顔つきでつぶやいた。

「それを言うなら、私の場合は……娘が見ているんだがね?」

「娘、ねぇ……。きちんと会話をしない間柄を、親子と言えるんでしょうかね?」

 ライアンの挑発に、ベエモットが僅かながら歯噛みする。

「お前に、〝私達〟の何が分かるというんだ……? お前と〝同じ存在〟であるあの子と、全てを隠しながら生きている私の、あいだにあるモノの何が!! 何が、分かるのだ!!」

 今まで溜まっていたベエモットの感情が溢れ出す。


 父親の激昂した様子は、娘のスリジエですら、見たことのない一面だった。今までの父親はどこか感情を抑えるように怒っていた。あそこまで怒鳴った父親など目にしたことはなかった。

 父親は、ベエモットは、私の知らないことを知っているのかも知れない。

 スリジエの脳裏に、そんな考えが浮かび上がっていた。


「くっ…………!!」

 ベエモットは感情が抑えきれなかったことをすぐに理解し、溢れてくる感情を押さえ込み始める。本音を悟られないように。

「ふっ、どうやら……貴方にも、少しは親らしい一面があるようですね。ならば、親としての〝ちゃんとした一面〟を取り戻す為に…………私が貴方を教育して差し上げましょう! 教師として、そして……同じ父親として!!」

 ライアンの叫びを合図に、戦いの火蓋が切られた――――。


ドグマさんについて。

まさかこうなるとは思っていなかった、スランプ作者。本来は情報を伝えた後、その場から去り、そのまま一人で、事の顛末を見届けるはずでした。

けれども。なんだか、作者、放っておけなくなりまして。ええい! 弥生達側に行かせちゃえ!

ってなりました(汗

ちなみに、はっきり言いますと、ドグマさんは『実はまだ黒の人魚族のメンバーだった』というのはないです。はい。マジでクビになったパターン?です。

ドグマさんの心の闇をどう解決させるか、気長に考えながら次いきます。


さてさて、次回の投稿予定日ですが。

9月末までに、第十二話を終わらせることを目標に頑張りたいです。なので、また、投稿する、かも?

お楽しみに〜!


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