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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十一話 弥生と最終戦への序曲
37/51

弥生と最終戦に向けての前準備

何とか間に合いました(汗)なので、もしかすると、誤字脱字が多数あるかもしれません。その時は、報告してもらえるとありがたいです。

 弥生がスリジエ達と合流できた、同時刻。

 アクアワールドにある町の中心部で、ベエモットは誰にも見つからないように身を隠していた。身を隠した場所は狭い通路――――すなわち、路地裏だった。

 けれども、それだけでは不十分と考え、気配と魔力を消し、体を透明にして、万全にさせる。それでも、手に持っている『夢鏡ゆめかがみ』の強大な魔力はベエモットでさえ、隠しきれない。見つかるのは時間の問題だろう。


 ――せめて、本計画を実行できる時間を稼ぐことができれば良いのだが……。今ここで、黒の人魚族・派遣隊の奴等に見つかる訳には……。


 ベエモットは何気なく、表の通りを見やる。一人の人物が路地裏の入口を通路した。一気に警戒心が高まっていく。


 ――黒の人魚族・派遣隊のメンバーか……!?


 ふと、通り過ぎた人物の顔を思い出す。そして、気付いた。先程の、竜の教会に居た派遣隊のメンバーは四人。メンバーの一人が言っていた『いくら待っても、リーダーが来なかった』こと。


 もしや、あの人物は……。

 ベエモットが情報を整理しながら推測していた時。


[…………っ!?」

 ベエモットの身体に、釘を何百本も打ち込まれたような、激しい痛みが伴い始める。声に出そうにも出せない。じわりじわりと身体を傷つけていく痛み。ベエモットも〝痛みの原因〟が何なのか、重々承知している。それが〝呪いの副作用〟だということも、当然分かっていた。声に出せない苦しみが、計画を遂行しようとするベエモットを悩ませていく。


 雪江、チェリー、スリジエ…………!


 ベエモットが家族の名前一人一人呼ぶと同時に、ベエモットの記憶が呼び起こされた。




『あなた……お帰りなさいませ』

 夫に優しく微笑む妻。


『お帰りなさい、お父様』

 笑顔をこぼしながら声をかける長女。


『おとうさまっ、おかえりなさいっ!』

 無邪気な笑みで和ませる次女。


 妻と二人の娘、三人の笑顔を鮮明に思い出す。何故こうなった。何故こうも、人生が狂ってしまった。分からない。




「リーダー!! やっと、見つけましたよ!」

 突如、記憶を遮るように耳に入った、何者かの声。直後、急速に路地裏を通り過ぎる人影。

「……!! その傷、その体、どうなさったのですか!? まさかライアンとかいう男にやられたのですか……?」

 姿と顔は見えなかったが、発言を整理すると、派遣隊のメンバーだと思われる。


 ――やはり、先程の人影は派遣隊のリーダーだったか……となると、ここで見つかるのはまずい。ひとまず退散せねば。


 ベエモットが逃げる為、ゆっくり歩き始めた瞬間。

『ベエモット、私だ。ヴィユだ』

 ベエモットの元に、ヴィユからの連絡が魔法によって届く。思いつめた声色でベエモットの名を呼んでいる。

『あれから一切連絡が来ないが、どうした? 現状報告だ。現状報告をしろ』

「……お断りします。ヴィユ様」

 即答で拒否したベエモットに、ヴィユは驚きの声を出す。

『な、何だと……!?』

 まさかベエモットが断るとは思っていなかったらしく、言葉を失っている様だった。

「もう、あなたの……いえ、あなた方の計画には協力致しません。私には自分の計画を遂行しなければいけませんからね」

 ベエモットの話に対して、ヴィユが思いっきり声を荒らげる。

『どっ、どういうことだ! 理由を説明しろ!』

「お断りします。どうせ、私が計画の協力に背いた場合、私を殺すようになっていることは分かっています。それなら、私にも考えがあります。あなたには教えませんがね。では、もう時間がないので」

 ベエモットはそう宣言した後、魔法を遮断させる。一度、夢鏡を凝視。視線を前に戻すと、足音を建てないように、再び歩き始めた。



      *



 弥生達が竜の教会に戻って来たのは、ペルロマと別れてから十五分後のことだった。竜の教会と竜の洞窟を結ぶ通り道は煙突のような筒状になっている為、魔法で浮上しなければならない。その為、どうしても時間がかかってしまうのだ。

 弥生とスリジエが、その場にへたり込む。

「戻って、こられたぁ〜!」

 弥生は深々とため息を吐き、

「ほんとっ……あの元・王女に振り回されたわ……」

 スリジエは苦々しく頭を抱えた。

 ライアンは弥生とスリジエを見つめ、優しく話す。

「一息ついたら、ベエモットの居場所を捜索しましょう。一刻の猶予もございません。急ぎましょう」

 二人はライアンを見上げ、静かに頷く。

「はい……」

「ですね……」

 弥生とスリジエが返事した時。

 ほぼ同時に、睦月の怒号が飛び交う。

「そうじゃないだろうっ!」

 師であるライアンを睨みつけると、言った。

「ライアン先生、その前に言うべきことがあるんじゃないですか!?」

「どうかなさいましたか、王子?」

 ライアンが動じることなく平然とした対応に、睦月がさらに声を荒らげる。

「どうかした、じゃないですよ! 先生はおっしゃったじゃないですか! 春野と合流したら〝全て〟話すって!」

 ライアンは「ああ……」とつぶやくと、続けて話した。

「それですね……確かに、言いました」

「だったら!! じゃあ、どうして戻ってきたのですか……!? 人界での仕事はどうなさったのですか……!? きちんと、説明してください……!」

 睦月の切実な想いに、ライアンの心が動く。

「そうですね……そろそろ話すべきかも知れませんね」

 ライアンは数秒間、しばらく考え込んだ。話すことを決意したのか、重い口を開く。

「…………分かりました。話しましょう。全てを……まず、皆様に言っておかなければならないことがあります」

 ライアンが三人に向けて、ある事実を告げた。

「私は、この世に生きている者では……ありません」


 弥生ら三人の脳内が一瞬フリーズする。そして、言葉の意味を理解した。

「えっ、ええええっ!?」

「ど、どういうことなの!?」

「ラ、ライアン先生……!?」

 弥生、スリジエ、睦月の大声が響き渡る。まさか、ライアンから予想もしていなかった告白をするとは思っていなかった様な感じだ。


 ライアンは淡々と己の生死について語っていく。

「つまり、本体は既に、死者となっている……そう言うことですよ。今ここに居る私は分身です。工作員として仕事をしていた時、奴等にスパイだとバレてしまい奴等から逃げながらこの世界に情報を魔法で伝達していました。それでも限界はあります。私が一人になったところを、奴等に集団で不意打ち攻撃をかけられました。一人で応戦しましたが、私と同等の実力者が大勢いた為、数に勝てずそのまま……。私が亡くなったのは、王子がこの世界を出た直後だったので、知らせが王子の耳に入らなかった様ですね」


 師であるライアンの死亡事実に、睦月は硬直したまま動かなくなる。全ての機能が凍結した人間のように、睦月の反応が消え、呆然としていた。何を言えば良いのか。どんな言葉をかけて良いのか。師は生きている、という想いを胸にここまできただけに、師が亡くなっている事実は睦月にとって、あまりにも衝撃的だったのだ。

 そして、〝視えて〟しまった。ライアンの分身を通して、本体が既に死亡していたことに――――。

 睦月の瞳に、涙が溜まる。


「そして、私がここに居る理由は、王子達を導く為です」

 ライアンが静かに告げた。その言葉を耳にして、睦月は復唱するようにつぶやく。

「俺ら、を……導く、為……?」

 ライアンは王子に向けて、薄っすらと微笑みで返した。

「ええ、そうです。この世界に再び良からぬことが起こることをペルロマ様がおっしゃいました。それを聞き、いざという時の為に、本体が書いた歴史書に、本体の分身――――つまり私を出現させる術式を組み込み、きたるべき時がくるまで待っていたという訳です。長い年月が経ったせいで、術式に綻びがありましたが」

「そういえば、ライアンさん……ペルロマさんとお知り合いだったみたいですけど……どういうご関係で……?」

 不思議そうな顔でライアンを見つめながら問いかけた弥生の質問に、ライアンが微笑みを維持したまま答える。

「昔、助けて貰ったことがあるのですよ。亡くなった妻と共に。その頃は妻ではなくまだ幼馴染だった頃ですが。ああ、今はその話は関係ありませんでしたね」

 ライアンはそう言うなり、王子に視線を移動した。

「さて…………王子、よく聞いて下さい」

「ライアン、先生……?」

 睦月が何度も瞬きしながらつぶやく姿を、ライアンは見ながら話す。

「私はもう、あなたに体術や魔法を教えることはできません。時間がたてばこの体も消えてしまうでしょう。ですから、これからは王子が好きなこと、やりたいことをどんどん学んでいってください」

 睦月は「ライアン…………」と言い、視線を逸らして、歯噛みした。

 ライアンが話を続ける。しかし、そこから表情が一変する。

「そして、もう一つ。ここから先の戦いはとても厳しいものになるでしょう。特に…………弥生さん、スリジエさん。あなた方にとって、相当苦しい戦いになることは間違いありません」


「――!!」

 弥生、スリジエ、睦月の目が大きく開かれた。弥生とスリジエに至っては、ライアンから苦言を言われるとは思っていかなかった為、余計に驚きが隠せない。


 ライアンの言葉はさらに続く。

「多くの術を使える王子はともかく、弥生さんとスリジエさんは、もう少し魔法の種類を増やした方がいいでしょう。黒の人魚族の中でも……魔法や戦闘に長けた派遣隊が倒れた、という事実を奴等が――――特に族長が知れば、また何人か送り込んでくる可能性があります。そうなれば、私だけで皆さんを守りきれるとは思えません。要するに、自分の身は自分で守れ――――そういうことです」


 ライアンの発言に対して、

 ――き、厳しい先生だ。

 弥生とスリジエは冷や汗を掻きながら内心言った。


 弥生が〝ある事実〟に気が付き、その事実を質問として投げかける。

「えっと、あの……ライアンさんはどうして『送りこまれた事実』を知っているんですか……?」

「王子の頭に触った時、お二人に関する記憶を魔法で読みました」

 ライアンの何気ない一言に、弥生とスリジエは「え゛っ!?」と驚嘆の声を発した。

「ちょっ――――ライアン先生!? 何勝手に……」

 勝手に記憶を読まれた睦月は、ライアンを怒鳴ろうとするも、その前にライアンが衝撃の事実を告げる。

「今のままのお二人では、ベエモットに瞬殺されるでしょう。彼はおそらく、私とほぼ同等の実力者です。私がいた歴史書はさっきまでベエモットが持ってましたから、それくらいは分かります」


「うううぅ……瞬殺される……」

「今のままじゃ、あの男に勝てない…………」

 弥生とスリジエが、呆然と独り言を言っていた。


 ――……あれっ? ライアンさん、それだけの実力を持っているなら、どうして黒の人魚族に寝返らないんだろう。


 弥生は疑問に感じたが、今は気にすることはないと、素早く疑問を掻き消す。そして、ライアンの提案を呑むことを決意した。

「わかり……ました。ライアンさんの提案、呑みます!」

 スリジエも、弥生と同様、ライアンの提案を受け入れる。

「右に同じくよ! あの男に勝てるなら……何だってしてやるんだから!」

 二人の決意は固かった。

 ライアンが両名に尋ねる。

「では、あなた方二人の脳内に、魔法の呪文と詳細をいくつか転写させます。よろしいですね?」

 ライアンの言葉に、弥生とスリジエの二人は、力強く頷いた。

 そして、ライアンによる、記憶の転写が始まる。


 ライアンは自身の両手を、弥生のスリジエ、両名の額につけた。小言で呪文か何かを唱えていく。弥生とスリジエ、周囲の水流が速まり、光と共に渦ができる。数秒後、光と渦は消え失せ、記憶の転写が終了した。

 弥生とスリジエ、それぞれ三つずつ、魔法が転写された。



 弥生が転写された魔法は水系の魔法三つ。


 一つ目は、アクア・プッシャー。

 一言で言うならば、凄まじく強力な魔法である。込める魔力次第では相手を水圧で気絶させたり、圧死させられる、水系の攻撃魔法。


 二つ目は、アクア・アーマー。

 要するに、水の鎧である。常に流動している為か、徒手空挙や魔法が命中しても滑る、水系の防御魔法。


 三つ目は、アクア・ブレード。

 腕より生やす、水の刃。高速で流動し、切れ味は抜群でスパスパ切れる。砂などを混ぜると、殺傷力が高くなる、水系の攻撃魔法。



 そして、スリジエが転写された魔法は闇系の魔法三つ。


 一つ目は、漆黒レイヴンボール

 スリジエやベエモットが使用する魔法、ブラックボールを強化したようなもの。ダメージはブラック・ボールの約三倍ほどある、闇系の攻撃魔法。


 二つ目は、漆黒レイヴン監獄ジェイル

 相手を閉じ込めてしまう、漆黒の空間。魔法を破ろうとして魔法を使えば使うほど、その魔法を糧として、さらに強固な空間になる反則級の闇系魔法。外から見ると、半径二メートルくらいの球状結界。魔法が切れるまで、ジッとしているしか出る方法はない。


 三つ目は、潜影シャドウ移動ムーブ

 影の中を潜行する、闇系の魔法。相手の死角を取れる。共に潜れる人数は二人までで、息は出来ない為、長時間の使用は不可能だという。



 弥生とスリジエは同時に頭を下げ、同時に礼を言う。

「ライアンさん、ありがとうございます」

 ふと、ライアンが思い出したように一言。

「そうそう、言い忘れていましたが、転写された記憶は定着していませんのでご注意を」

 思わぬ事実に、弥生とスリジエは「ええええっ!?」と、思わずライアンを二度見した。

 ライアンは二人の反応を気にすることはなく、続けて話す。

「なので、三十分間は予習してください。そうすれば、記憶が定着され、魔法として使用できますから」


 弥生とスリジエがオロオロと慌てふためく中、睦月は師の様子を顔を引きつらせながら見つめていた。

 ――ライアン先生、相変わらずだな……。


「それと、スリジエさん」

 ライアンの発言で、指名を受けたスリジエは困惑の表情でつぶやく。

「えっ、まだ、何か……??」

「予習している中、申し訳ないのですが、探知魔法でベエモットの居場所を突き止めてもらえませんか? この世界の人々は探知魔法覚えていないので……もちろん、王子と私もです」

 ライアンが苦笑しながら、話した。

「そう、なのですか……?」

 スリジエが質問を投げかけると、ライアンも質問で返す。

「ええ、そうなんですよ。スリジエさん、お願いできますか……?」

「わ、分かりました。やってみます」

 スリジエは了承し、目を閉じて、探知魔法を発動させた。

 発動させてから僅か五秒ほど。

 スリジエが目を開け、不思議そうな顔で、言う。

「……………………見つけたわ。あっさり見つけられたのだけど、どういうことなの?」

 ライアンは右手をスリジエの額に触れ、ベエモットの居場所を記憶を読み取った。

「なるほど……では、行きましょう」

 ライアン以外の三人は「えっ!?」と驚きの声を漏らす。

「時間はもう、残されていませんし」

 ライアンは弥生らを急かすような発言をした。そして、教会の入口まで歩き始める。

 弥生、スリジエ、睦月は何がなんだか分からないまま、ライアンの後をついていくしかなかった。



      *



 竜の教会を出てから十分経った頃だろうか。弥生達が現在いるのはアクアワールドの、町の中心部だった。ライアンを先頭に、後列にはスリジエ、弥生、睦月の順で早泳ぎしている。四人が目指しているのは、ベエモットがいると思われる、アクアワールドにある町はずれ。詳しい場所はスリジエとライアンしか知らない為、弥生と睦月はライアンについていくしかない。

 一方で、スリジエと弥生は記憶を定着させる為に、必死で予習していた。ただひたすら覚えるしかない。


 が、つぎの瞬間、弥生とスリジエの暗記が〝何か〟によって途切れる。弥生達を阻むように巨大な黒い球が四人を襲いかかったからだ。その攻撃に対して真っ先に、先頭を走っていたライアンが反応を示す。すぐさま半球状結界を展開する防御魔法を発動させ、弥生達を守った。直後、球と結界がぶつかり合いながら、黒い球が少しずつ消滅していく。


「さすが、ライアンとやら。強いな」

 声と同時に男人魚が、黒い球の奥から姿を見せた。黒いローブを羽織った姿は、見た瞬間誰もが〝奴等〟だと気づく。

「これは、これは。先程のあなたでしたか。傷は癒えた様ですね、派遣隊のリーダー・ドグマさん?」

 ライアンの言葉に対して、リーダー・ドグマが吐き出すように言う。

「ふんっ、あれくらいで倒されたのは私の不覚だったが……今度は負けない。派遣隊のリーダー・ドグマ、次こそは……必ず」


 弥生は大きく目を見開きながら、思わず叫んだ。

「派遣隊のリーダー!?」

「さっき仲間の誰かが言っていたわね……リーダーが来ないって……………………って、あれ? あの人……」

 スリジエが不思議そうな表情でドグマを見つめる姿に、睦月が怪訝そうに声をかける。

「どうしたんだ……? 知っているのか……?」

 スリジエは眉をひそめると、ゆっくり頷く。

「知っているというよりも、春野さん達と合流する前……あの人に偶然会ったのよ、確か……でも。砂埃が起こって、おさまった時にはあの人が倒れていて……もしかしてって思ったけど、やっぱり奴等だったのね」

 忌々しそうに歯軋りをたてた。すぐに気付けなかったことが、悔しいスリジエ。


 ライアンは申し訳なさそうな顔で一礼し、一つ一つ丁寧に言葉を発する。

「あの時は合流する為に急いでいたので、申し訳ありませんでしたが、不意打ちをとらせてもらいました」

「ライアンとやら……賭けをしようじゃないか」

 ドグマが『賭け』という名の勝負を、ライアンに持ちかけてきた。その顔は自信に満ちている。

 ライアンの「賭け……ですか」という呟きに、ドグマは笑顔を見せた。

「ああ、そうだ。お前が勝てば……我々派遣隊はこの世界から撤退する。しかし、お前が負けて俺が勝ったら……王子を渡してもらおう。我々の計画には、どうしても王子の力が必要不可欠なんだよ。で、どうするんだ?」

 ライアンはしばらく考え込み、決断を下す。

「…………分かりました。その勝負、受けましょう」

 ライアンの決断は、勝負を受けるという決意だった。


 ライアンの決断に対して、弥生、スリジエ、睦月の表情が一変する。勝負を引き受けるとは思っていなかった顔だ。

「せ、先生!」

 睦月が声を上げた。ライアンは結界から抜け出し、睦月に話しかける。

「大丈夫ですよ、王子。すぐに済みますから」

 ニッコリと微笑むと、ドグマに目を向けたライアン。

「よし、じゃあ……始めるか」

 ドグマの一声で、勝負が開始される。


 直後、ドグマが攻撃を繰り出した。

ヴィオーラグランス!」

 紫色の輝きが姿を現し、渦を巻くように前へと進んでいく。


 ヴィオーラのグランス。紫の光で攻撃し、命中すると、体力の半分以上が減ってしまう闇系の魔法だ。


「なかなか高度な技を使いますね。さすが派遣隊のリーダーだけありますね……それなら」

 ライアンはすぐさま結界を強化させると、攻撃を右に避け、すんなりかわした。

「ストルム・アレーナ!」

 ライアンが呪文を唱える。すると、砂が巻起こり竜巻状に変化、嵐のようにドグマに直撃した。


「ぐぅ……強いな……ならば!」

 ドグマは独り言つぶやくと、ライアンに向かって、高速で泳ぎ寄る。

「これでトドメを刺す!」

 そう言い、呪文を唱えた。

「クリンゲ・アルム!」

 ドグマの腕から下に、黒い刃が生えて、ライアンに振りかざす。


 ライアンは左に避けると、ドグマの腹部に蹴りを入れた。そして、言う。

「急いでいるので……勝負はここまでにしますね」

「ふっ、どうやら……そのよう……だな……」

 ドグマはポツリと言い残して、その場に倒れ込み、気を失った。


 ライアンはきびすを返し、結界内にいる三人の元へ。

「終わりました、皆様。急ぎましょう」

 そう告げた瞬間、結界が解かれる。三人は結界から開放されたかと思えば。

 ライアンが二匹の人魚姫に向けて、言い放った。

「弥生さんとスリジエさんは、予習を忘れずに、ですよ?」

 ライアンにそう言われ、弥生とスリジエは苦悶の表情を見せる。

「では、まいりましょう」

 ライアンの発言に、力強く頷く三人。

 弥生達はこうして、前へと進んでいった。ベエモットがいると思われる、ある場所に向かって。

 そして、最後の戦いが、刻々と近づいていたのだった……。


これで第十一話終了です。またしばらく当分、投稿てきるかわかりませんが、時間がとれれば投稿します。はい。

次回は第十二話に突入です。ついに、ベエモットとの最終対決が始まります。頑張ります(汗)

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