弥生とスリジエと洞窟に住まう少女
やっと、第十一話の第二節です。お待たせしました。今回はペルロマ元・王女の過去が分かるかも?
ライアンの話に対し、スリジエは呆然とした表情でライアンを見続けた。キョトンと首を傾げ、疑問を投げかける。
「誰なのですか……その人……?」
聞き覚えのない名前に、戸惑うしかないスリジエ。
ライアンは静かに目を閉じ、ペルロマ元・王女について、ゆっくりと語り始める。
「ペルロマ元・王女とは……はるか昔、アクアワールドで初代国王と婚姻した初代女王のことですよ。彼女は、王族の一族でもあり、竜と人間の異種族――――竜人族リーダーの娘でした。その彼女と人間である彼との婚姻を反対していた者もいるそうです。それでも二人は婚姻し、夫婦になったと言われています。そして彼女は夫と共に、この世界で初めての国王と王妃になり、二人で力を合わせて不安定だった情勢を変えたと言われています」
――!! そんな人がいたなんて……!
ライアンの話を補足するように、睦月が淡々と話した。
「国王は王妃と違って長生きできない。国王が寿命を迎え、永遠の眠りについた。その後、ペルロマ様は五人いる子供の内、最も律儀で頭の良かった息子に王権を譲って眠りについた……竜の教会の底に。ちなみに、ペルロマ元・王女という名前は、ある種のあだ名と思ってくれればいい」
「じゃっ……じゃあ、その人が、ペルロマ元・王女…………? 春野さんはその人の元にいるってこと……!?」
スリジエの問いかけに、ライアンが静かに頷く。
「ええ、そうです。そこに弥生さんはいる筈です」
スリジエは頭を抱えながらため息を吐いた。
春野さんって、相変わらずのドジというか、よく問題を起こすというか……。
睦月は伏せ目がちに床を見つめ、ポツリと独り言のように言う。
「しかしまさか、春野が仕掛け扉に気付くなんて……」
「どうして気付いたかはわからないけど……春野さんのことだから、好奇心で扉に触れてみたくなったのじゃないかしら? あくまで推測だけど」
スリジエが考えながら、弥生の行動について推測した。
ライアンは苦笑すると、スリジエに話す。
「あの洞窟は来る時が来るまで誰であろうと入ってはいけない決まりになっています。その為、気付かれないように強力な術を施して、仕掛け扉を隠しているのですが……」
「その洞窟の番人をしているのが、元・王女ペルロマ様だ。悪しき者が洞窟に侵入しないように見張る、守護者の役割を持っている」
睦月が説明した後、ライアンがさらに補足の説明を始める。
「あの洞窟は夢鏡を生み出すための儀式に使われる洞窟で、儀式には『選ばれし者』と呼ばれる、最も魔力の高い住人が生け贄の候補として、三人ほど選ばれます。その内の一人が……」
ライアンの視線が睦月に移動したことで、その内の一人が誰かが判明した。勝手に事情を明かされた睦月本人は、ふてくされるようにライアンを睨んでいる。
「……!! それってつまり冬川君が……?」
スリジエの質問を遮るように、睦月が叫ぶように言った。
「今は、関係ないだろう」
睦月にしてみれば、洞窟に関する話はこれ以上話したくないらしい。
「……そう、ですね。今は弥生さんを迎えに行くことが先決です。そろそろ、弥生さんを迎えに行きましょう」
ライアンも睦月の言葉に同意し、力強く首を縦に振った。
何だかまだモヤモヤしているけど……詳しい話は、今は知らない方がいいみたいね。
スリジエは仕掛け扉の前に立ち、扉を見つめながら心の中でつぶやく。
――春野さん、迷子になっていないと良いけど……。
スリジエ、睦月、ライアンの三名は順に仕掛け扉の奥へと消えて行く。そして、最後のライアンが仕掛け扉に入った瞬間、竜の教会には誰もいなくなった。
*
スリジエ達がペルロマについて話している頃、『竜の洞窟』と呼ばれる場所で、弥生がペルロマと同じ時を過ごしていた。
弥生はというと、ペルロマの言っていることが分からず戸惑っていた。信じていいのかどうか迷っているらしく、不思議そうな顔でペルロマを見続けている。
一方のペルロマは、弥生の登場に関して動じることなく、落ち着いた雰囲気で弥生を見つめた。
「王女だった者……? と言うより、何故、私のことを……?」
弥生の質問に、ペルロマが答える。
「ここから、事の成り行きを見守っておった……魔法でな。それに、外からやって来た人魚達は限られておる。特に、人魚界の秘宝を継承できる人魚などは今の時代、ラリア・ホワメールしかおらん。そしてお主はそのラリアの魂を宿しておる……そう考えればお主がラリア王女の生まれ変わりだと検討がつく。違うかな?」
「そ、そうです……ま、間違いありません」
ペルロマの問いかけに対して、オドオドしながら肯定する弥生。ペルロマの雰囲気に呑まれている様だった。
ペルロマは弥生を何度もチラ見し、何を思ったのか、可笑しそうにクスクスと笑い始めた。
「ふふっ、お主……〝やはり〟面白いな。見てて飽きない」
弥生は何を言っているのか分からないらしく、
「え……? ええ?」
心配するような表情で慌てふためいている。
「外よりやってきた者がここに来るなど今までなかったからな……このようなことは初めてのことなのでな」
ペルロマの言葉に、弥生が「す、すみません……」と小さな声で謝罪した。
ペルロマは前を見据えると、弥生に視線を移す。弥生に向けて、『問い』を投げかけた。
「謝ることはない。外より来た人魚よ……お主、何故吾輩がここに住んでおるか分かるかな?」
弥生はしばらく考え込んだが、検討がつかない様で、すぐさまギブアップする。
「……分かりません。ど、どうしてですか……?」
弥生が質問すると、ペルロマが優しく微笑んだ。
「ある一種の罰……と言うべきだろうな」
「えっ!? 罰でここに住んでいる……!?」
弥生はペルロマの解答が理解できなかった。脳内がパンクしそうになり、思考が停止する。何も聞こえず、受け付けられない。意味不明――考えた結果、弥生が出した結論である。
ペルロマは弥生が理解できていないことに気づいているのか、弥生に向けて落ち着かせるように話す。
「分からないお主の為にも、答えを教えてやろう。だがその前に……少しばかり、昔話をしようか」
そして、彼女は語り始めた。
はるか昔のことだ――――まだこの世界ができたばかりの頃。まだ情勢が不安定で、争いや諍いが日常茶飯事化としていた時代の話。
この世界にはまだ規則や世界を統率する者が存在していなかった。その為か、情勢は年々悪化していった。
そんな時、この世界の争いを無くそうと、統率者に名乗りを上げた者がいた。その人は不正や過が許すことができない正義感と即座に物事を判断する決断力に溢れた男だった。
男は仲間や周囲の人々と協力して、情勢を安定させようと試みるが、そう簡単にはいかなかった。むしろ、男の行動により、情勢はどんどん悪化していった。
しかし、男達に希望があった。
竜と人間の異種族――――竜人族との連携があれば、情勢は変わると考えていた。男の考えを裏付けるように、男には気にかけていた者がいた。その者には世界操縦という、世界をコントロールする稀な能力を持ち合わせた者が存在していた。それが、王族の一族であった竜人族リーダーの娘であった。
ところが、情勢を変えようと奮闘している内に二人が恋に落ち、すぐに恋人同士となってしまったのだ。当然、二人の仲を快く思わない連中は大勢いたが、二人は気にすることはなかった。
そして、男達が竜人族の娘と共に奮闘してから数年後。男らが願っていたことがついに起こり、実現された。情勢が安定し始め、争いや諍いが減り始めたのだ。
皆大喜びした。これで、世界は救われる、と。
だが、喜びはそう長く続かなかった。世界を変えようすると男達の行動に対し、激しい怒りを覚えた者達が仕向けた争いにより、男の仲間達全員が命を落とすという結果が生まれた。争いが静まり、生き残ったのは男と――――竜人族の娘のみ。それでも、二人が諦めることはなかった。亡くなった仲間達の為にも必ず願いを叶える、そう意気込んだ。
数年後、ようやく彼らの長い戦いに終わりが来た。情勢がようやく安定し、世界に規則が生まれたことで、争いや諍いが起こることが無くなったのだ。
二人はその功績が認められ、晴れて夫婦となり、国王と王妃に即位した。
安定したとはいえ、まだまだ不安定だった情勢をより安定させるため、二人は変える努力を続けた。その甲斐もあって、世界はさらに安定していき、文化や日々の生活がみるみるうちに発展していったという。
その後、国王は寿命を迎えた為に死亡。夫を亡くした王妃は、五人いた子供の内一人に王権を譲り、地下へと眠りについた――――二度と争いが起こらないことを願いながら。
語り終えた彼女は、ふう、と一息つく。
「これで昔話は終わりだ。退屈しのぎにはなったかな?」
ペルロマの話に、弥生は言葉を失う。口に手を当てると、おそるおそる言った。
「ぺ、ペルロマさん……。もしかして、その竜人族の娘って…………」
「ふっ、察しが良いな。そうだ。その竜人族の娘というのが…………吾輩のことだ。弥生殿よ」
ペルロマは弥生に向けて話し、さらに語っていく。
「竜人族は王族の一族だったが、今まで情勢に介入することはなかった。彼らは『自身達のせいで悪化させるのでは』と恐れていたからだ。だが、情勢の安定は願っていた。特に、吾輩の父君はな」
弥生は悲しそうな瞳で見つめた後、何かを思い出したような表情を見せる。
「……あっ、そういえば! ここに住んでいるのは『ある種の罰』でここにいるとか……」
ペルロマは「ふふっ」と微笑むと、目線を逸らして言う。
「そうだ。吾輩は仲間が死にそうになっていたのに……救うことをしなかった。できなかったのだ、恐怖に負けて。吾輩が魔法で助太刀しておれば、助かった命もある筈だ……だが、できなかった。だから、自身の戒めでここにいる。息子には『暇だから』と言ったが、まあそれでも……あながち嘘ではないがな。暇だったからな」
自身を見る弥生を一瞬だけ見ると、苦笑したペルロマ。
「ペルロマさん……寂しく、ないんですか?」
弥生の問いかけに、ペルロマは微笑んだまま答えない。
弥生が口を開いた――――その時。
どこからか、「春野さんっ!」と、弥生の名を呼ぶ声。
弥生は辺りを見回すと、見慣れた三人の人物が、そこにあった。スリジエ、ライアン、睦月の姿を。
「!! スリジエさんっ! ライアンさんに、睦月さんも! よ、よかっ……」
弥生が三人の元へ泳ごうと、素早く立ち上がる。が、僅か数秒後。
「春野さんの阿呆――――!!」
「春野の阿呆――――!!」
スリジエ、睦月の両名がほぼ同時に大声で叫んだ。
「ご、ごめんなさいぃ――――!!」
弥生は涙目にしながら大声で謝る。
「全く、春野さん……あなたって人は」
スリジエは尾ひれを激しく地面に叩きつけて、弥生を睨みつけた。
睦月も勢い良く地面を蹴り、ため息を吐く。
「ここは大事な儀式の時以外、王族であろうと入ってはいけない場所なんだ! なのに、お前って奴は……!」
「ご、ご迷惑お掛けしました……」
弥生が二人に頭を下げている時、ライアンはペルロマに深々と一礼した。
「お久しぶりです、ペルロマ様」
「ライアンか……久しいな。しかし、その体……」
ペルロマはライアンとの再会に喜んだのもつかの間、ライアンの体の違和感を見抜いた様で、表情を曇らせる。
ライアンは何とも言えない顔で話した。
「ええ、少し事情が……ありまして。それはともかく、ペルロマ様。お聞きしたいことがございます。もしかしてとは思いますが、術を一時解除したのはペルロマ様ですか……?」
ライアンの質問に、ペルロマが答える。
「そうだ、術を一時解除したのは吾輩だ。そこにおる、春野弥生殿とスリジエ・ムーン殿に会う為に、な」
「――――!?」
弥生、スリジエ、睦月の顔色が一変した。まさかペルロマの仕業だったとは三人共に思っていなかったらしく、口を半開きにしたまま硬直している。
「春野弥生殿をここに呼べば、自ずとスリジエ殿が彼らとここに来ると考えておった。弥生殿がどんな人物が知りたかったからな。それに……」
ペルロマはスリジエをチラ見した。
「吾輩と同じ血脈が流れておるスリジエ殿の姿をひと目見たくなったのでな。それで術を一時解除したのだ」
思わぬペルロマの告白に、弥生とスリジエが思いっきり大声を出す。
「ええええ――――!?」
ライアンと睦月も、スリジエとペルロマの関係性について知らなかった様で、目を見開きながらペルロマを凝視していた。
「ちょっ……それって……! って、ええええっ!?」
当の本人であるスリジエはまだ混乱している。
「要するに……そこにおる、王子の遠い親戚、と言えば分かるかな?」
ペルロマが睦月に視線を移すと、睦月は緊張しながら挨拶を述べた。
「は、はじめましてペルロマ様……冬川睦月と、申します」
「なるほど……人界ではその名前か。〝真名〟を名乗るのは得策ではない。賢いな、現代の王子は」
ペルロマは睦月に優しく笑いかけ、自身の子供について話をする。
「吾輩の子供が五人おったことは皆知っておると思う。五人の子供は……二人は息子、三人は娘なのだが……三人の内、次女が突如『人界に好きな人ができた』と言ってきた。もちろん吾輩らは反対をした。さすがに人界に降り立つのは時期早々だと。しかし、次女は反対を押し切って人界へと降り立った。私が王妃となってから数年経った頃だった。スリジエ殿はその次女の血を受け継いでいるようだ。その証拠に、スリジエ殿は薄紫色の髪色をしておる。吾輩の血を引く者達は必ず薄紫色の髪色をしておるのだ」
弥生とスリジエがキョトンと不思議そうな顔で首を傾げる。
「ということは……」
「睦月さんも……?」
弥生とスリジエはお互い顔を見合うと、睦月を見つめた。
睦月は気難しい表情でつぶやく。
「ああ、こんな姿をしているが、実際の俺は薄紫色の髪色だ」
ペルロマが申し訳なさそうに言った。
「吾輩の所為で迷惑をかけてしまったな……申し訳ない」
「いいえ、そんなことはございません。むしろ、感謝しております。久々に……ペルロマ様とお会いすることができましたから」
ライアンの言葉に、ペルロマは僅かに笑みをこぼす。
「これ以上この場に居続けると、規則に反します。さらに罪が重くなるかもしれません。竜の教会に戻りましょう。王子」
ライアンがくるりと踵を返した直後、睦月がぎこちなく返事する。
「あ、ああ、そうだな……春野! 戻るぞ!」
「はいぃ――――!」
睦月の掛け声で、素早く反応する弥生。そんな彼女を目にしたスリジエが呆れた声でつぶやく。
「やれやれ……やっと戻れるのね」
「おお、そうだ。最後に一つだけ、良いか?」
ペルロマが何かを思い出したような言葉で頼むと、ライアンは快く受け入れる。
「構いませんよ、もちろん」
「すまないな、ライアン。弥生殿、スリジエ殿。ちょっとこちらに来てくれないかな?」
ペルロマは弥生とスリジエを手招きして呼び出す。
呼び出された二人はまさかのご指名に、「えっ!?」と同時に声を上げた。そして、すぐさまペルロマの元へと泳ぐ。
「二人に、これを渡しておこうと思ってな」
自身の元にやってきた二人に、ペルロマが〝何か〟を手渡した。渡したもの、それは――――。
「あの、ペルロマさん、これは……?」
弥生がおそるおそる質問すると、ペルロマは簡単に説明を始めた。
「それらはこの世界に伝わる鉱石『竜の宝石』と呼ばれるものだ。いずれ、奴等との本格的な戦いが訪れた際、何かと役に立つ筈だ」
魔力を宿す、アクアワールドでしか手に入らない、幻の鉱石。それが、『竜の宝石』である。
「いっ、良いんですか!? こんな貴重なもの……!」
弥生はオロオロと慌てふためく中、ペルロマは至って冷静に話す。
「良い、良い。お主ら二人だからこそ、あげるのだ。お主なら上手く使いこなせるだろう。言っておくが、返品は受け付けないからな。その鉱石は奴等に見つからないないよう、大事に保管しておくのだぞ?」
「奴等……黒の人魚族、ですか?」
スリジエの呟きに、ペルロマが頷いた。
「……そうだ。夫は死ぬ直前、はるか未来で奴等が再び動き出して良からぬことを引き起こすだろう、と『未来視』の能力で視ていた。もし、その未来が本当に起こるとすれば、生半可な戦いではなかろう。それに、奴等は必ずお主らにも手を出してくるだろう。そうなれば、備えが必要になると思ってな」
ペルロマは、二匹の人魚姫に、満面の笑みを浮かべる。弥生とスリジエも、微笑み返した。
「要件は済んだ。呼び止めて、すまなかったな」
ペルロマの合図で、ライアンは弥生達に声をかける。
「いいえ、大丈夫ですよ。では、戻りましょう」
弥生、睦月、スリジエはライアンの元に集まると、四人はライアンの術式で浮上しながら戻って行った。
本当はもうワンシーン入る予定でしたが、文字数があまりにも増え過ぎた為、次回の第三節に持ち越しです(汗)
まさか弥生とペルロマ様のシーンがこんなに増えるとは思わなかった……。私の中での、今までで一番多い文字数だったりして。
次回はベエモットのシーンから入る予定です。今月末までに投稿できたらします。できなかったら……皆様にご迷惑お掛けします(泣)




