表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十一話 弥生と最終戦への序曲
35/51

弥生、洞窟に住まう少女と出会う

久々の投稿です。待たせ過ぎました(汗)お待たせしました、第十一話突入です。

そして、洞窟に住む少女の正体が明らかになる? かも?

 ライアンの言葉に対し、弥生とスリジエが大きく目を見開き、驚いた声色こわいろで言葉を発する。

「ライアンさんが、黒の人魚族を倒す……?」

「黒の人魚族を倒すだなんて……無謀だわ!」

 二人共、まさかライアン自らが名乗り出るとは思って無かった様で、口を半開きにさせたままライアンを見つめ続けていた。


 睦月もライアンの発言に驚いているのだろう、ただただ呆然とした表情で、師であるライアンを見つめていた。ゴクリと唾液を飲み込んでから、つぶやくように言う。

「ライアン先生、本気でおっしゃっているのですか……?」


 ――無謀。

 三人にはその二文字が脳内に浮かび上がっていた。黒の人魚族に、ましてや実力のある優秀な者達を集めた派遣隊四人に一人で挑むのは無謀である。三人はそう、考えていた。


 しかし――。


 ライアンだけは考えが違っている。自身の思いを三人にぶつけた。

「今やるべきことは黒の人魚族とベエモットを倒し、夢鏡を死守することです。躊躇している暇はありませんよ? 王子。そうでしょう? 弥生さん、スリジエさん」

 落着き払った声色で発言した、ライアンの主張。ライアンの思いは揺るぎないものだった。

 睦月はライアンの思いを受け取った様で、顔をしかめて「ぐっ……」と声を漏らし、それ以上は何も言えなくなる。

 弥生とスリジエも、ライアンの発言で黙り込む。

「直ぐに、済みますから……少々お待ちください」

 ライアンはそう三人に告げた後、まずは祭壇にいるメンバー二人に目を向けた。レベイルとセイヴィアの女性メンバー二人だ。


 しばらく喋らなかったセイヴィアが、しかめっ面な表情でライアンを睨みつける。その佇まいは怒りに満ち溢れていた。

「黙って聞いて見れば……いい気なって、私はそういう男、キライよ」

 レベイルもセイヴィアと同様、気に食わない顔でライアンを見つめる。

「ホント……突如乱入したかと思えば、私達を倒すだなんて……考えが甘いですよ?」

 そう言った直後、レベイルが小言でブツブツとつぶやいたかと思えば、レベイルの足元に魔法陣が姿を見せた。そして、一言叫ぶ。

「シュヴァルツ・ストローム!」

 レベイルが発動させた魔法は水流を利用し、流れが早いほど攻撃力が高くなる闇魔法。水系の魔法と間違えられがちだが、力の源は闇の力。れっきとした闇系の魔法なのだ。

 セイヴィアもレベイルと同じく、闇魔法を発動させる。

「シュヴァルツ・ストラール!」

 強烈な黒き光線を放ち、相手に向けて攻撃する闇魔法。これも光線が早いほど、攻撃力が増していく。

 レベイルが放った魔法と、セイヴィアが発動させた魔法。進んでいく途中で、二つの魔法が合わさり混ざり合って、より強力な闇魔法『シュヴァルツ・フェアエンデルング』に変化した。強力なものになった闇魔法はそのままライアン目指して突進を続ける。

「なるほど……その手で来ましたか。なかなか考えてますね……では、こちらも同じ手で行かせてもらいます」

 ライアンは淡々と喋ったすぐ後、レベイルと同じように魔法陣を発動させ、魔法を跳ね返す魔法の呪文を唱える。

「へクス・ヴォルタール」

 ライアンの目の前にバリアのような透明な壁が出現し、一瞬で闇魔法を跳ね返した。バリアが消えたと同時に、別の呪文を唱える。

「フィアンマ・ストローム」

 ライアンが続けて呪文を唱える。

「ヴェーチル・シャール」

 突如、炎の風が現れたかと思えば、今度は風の球が幾つも出現し、炎の風を巻き込んで炎の球と化した。

 『フィアンマ・ストローム』は風を炎に乗せて攻撃する魔法で、『ヴェーチル・シャール』は幾つもの風の球で攻撃する魔法、どちらも強烈な攻撃魔法だ。どちらの魔法も闇魔法に匹敵する強力な魔法だが、二つが合わさったことで、さらに強力な魔法に変化する。

 二つの合わさった魔法がレベイルとセイヴィアに直撃した。アクアワールドに掛かっている術式によって、下半身が尾ひれに変化されている為だろうか。と同時にアクアワールドの特殊な水流のせいか、上手くかわせられないセイヴィアとレベイルの二人は魔法攻撃をその身で受けてしまった。

「きゃあ!」

「ぐっ……!」

 二人は同時によろめき、時間の流れが遅くなったかのようにゆっくりと倒れ込む。


「嘘……一瞬で二人も倒しちゃった……」

「冗談でしょ……?」

 弥生とスリジエが呆然と見つめる中、睦月がその二人にライアンのことを話す。

「ああ見えても、ライアン先生はこのアクアワールドに存在する、特殊部隊の元工作員だったからな……魔法はもちろん、武術も出来る。ライアン先生の実力は確かだ」

 睦月の説明を聞いた二人は、同時に「ええっ!?」と驚きの声を上げた。

「元工作員……!?」

「アクアワールドの特殊部隊……!? 特殊部隊の元工作員ってことは……要するにスパイをしていたってこと……!?」


「ああ、そういうことだ。だからこそ、魔法や武術をある程度身に付けておかないといけないんだ。ライアン先生は他の工作員よりも、魔法の技術や武術が圧倒的に上だからな……強いのは当然なんだ」


 弥生とスリジエが、一度睦月をチラ見すると、ライアンに視線を戻す。そのライアンの目線は、真っ直ぐ前を見据えて、既に黒の人魚族派遣隊残り二人に視線を向けていた。


 ハバリーがよろめきながらも、ゆっくりと立ち上がった。仲間を糸も簡単に倒され、ライアンに対する激怒の表情を見せる。眉間にシワを寄せ、ギリギリと歯ぎしりしていた。

「ライアンと言ったな……なかなかの実力者のようだ。俺は派遣隊のサブリーダーだ。そう簡単に倒せるかな?」 

 つぶやいた直後、ヒィーロルに視線を移す。

「ヒィーロル、一瞬で決めるぞ」

 ハバリーの問いかけに対し、ヒィーロルは無表情で「……御意」とつぶやく。

 ハバリーとヒィーロルの二人は、ライアンの近くにいる弥生達目掛け、猛スピードで勢いよく動き出した。弥生と睦月とスリジエは警戒しながら瞬時に身構えたが、すぐさまライアンが弥生達を庇うように三人の前まで移動する。

 ハバリーが一足先に到着し、ライアンの顔目掛けて拳を繰り出し、ライアンに当てようと試みた。ヒィーロルはハバリーより一足遅れてたどり着き、ライアンに対して足蹴を出そうとしている。ライアンの方は、余裕綽々とした様子でハバリーの攻撃を軽々と躱し、力いっぱい握った拳を二人のお腹にお見舞いした。

 ハバリーとヒィーロルは、一瞬顔をゆがませた。ライアンによって二人の攻撃態勢が崩れたが、すぐさま攻撃の準備を整える。

「なかなかやるな……ライアンとやら」

「…………強いな」

 ハバリーとヒィーロルの言葉に、ライアンは二人に向かって微笑した。

「あなた方も、ですよ?」

 ライアンが二人から離れると、続けて話す。

「時間があまり残されていませんし、こちらも一発で決めさせてもらいます」

 そう言った瞬間、超特急で再び動き出すと、ハバリーとヒィーロルの首筋目掛けて手拳を繰り出した。手拳は見事に二人の首筋に命中し、頚動脈に直撃する。

 ハバリーとヒィーロルは同時に体がぐらつき、その場でしゃがみこむ。


 間近で傍観していた弥生がライアンを見つめながら、生唾を一気に飲み込み、言葉を発する。

「す、すごい、ライアンさん! 四人をあっという間に倒すなんて……!」

「でも、まだ二人残ってわよ?」

 スリジエの的確な指摘に、弥生は声を詰まらせた。

「ま……、まあ、そうなんだけど……」

 下を俯き、気まずそうな表情で、口をもごもごさせる弥生。


「ふっ……はははっ!」

 突然、そんな不敵な笑い声が教会内に響き渡った。


 な、何っ? 誰の笑い声?


 弥生が周りを見回りと、いつの間にか祭壇の側まで移動したベエモットが夢鏡を手に取った様子が目に入る。

 ベエモットは天高く夢鏡を掲げ、教会内に響かせるように大声で叫んだ。

「もう失敗はしない! 夢鏡を手に取ったぞ! これで……私の、本当の計画が実行出来る!」


 ――しまった! ベエモットさんの手に渡ってしまった!


 弥生に限らず、睦月やスリジエ、ライアンや黒の人魚族派遣隊メンバーまでもが、「しまった!」と言いたげな表情でベエモットに視線を注ぐ。


「黒の人魚族の派遣隊の皆様、ここから先、あなた方の計画を実行せず、私自らの計画を実行させていただきますよ」

 ベエモットがつぶやいた直後、ハバリーが忌々しい顔で歯軋りをする。

「ベエモット……貴様、我ら、黒の人魚族を裏切るつもりか……!?」

 ハバリーの問いかけに、ベエモットは淡々と答えた。

「ふっ……、何をおっしゃいます。私は、最初からあなた方の仲間になった覚えはございません。あなた方の命令に従っていたフリをしていただけですよ。わかりませんでしたか?」

 ヒィーロルが無表情ながらも、怒りに満ち溢れた声で「ベエモット……!」と一言つぶやいた。

「あの方のことです。既に私を抹殺する準備は出来ているはず。それならば、こちらも考えがございます」

 ベエモットはにやりと微笑み、挑戦的な笑みをこぼす。元国王とは思えない、冷酷な表情だった。

「考え……だと……? どういうことだ、ベエモット!」

 ハバリーが全力で声を出すが、ベエモットは一言話すだけ。

「見ていれば、分かりますよ……」

 ベエモットは最後に、「これで、ようやく……計画は果たされます」と言い残し、煙のように姿を消した。



 ハバリーがヒィーロルに視線を移し、険しい顔で話す。

「ヒィーロル、他のメンバーを連れて、ひとまずこの場を立ち去るぞ。緊急事態だ。リーダーに報告しないと」

 ヒィーロルが大きく目を見開いた。そして、驚きの声を上げる。

「…………サブリーダー!? …………しかし」

 ハバリーはヒィーロルを制して、表情を崩さないまま話を続けた。

「皆、負傷している。それに、いくら待ってもリーダーが来ないことが気になる……ここはひとまず退散だ。そしてリーダーと合流するぞ」

 ヒィーロルはしばらく考え込み、「…………御意」と渋々納得する。

 ハバリーとヒィーロルは、倒れたメンバーをそれぞれ抱えると、ベエモットと同様、その場から消え去った。



 教会内には弥生と睦月、スリジエとライアンの四人だけとなる。教会内に、数秒間の静寂が訪れた。

 沈黙をやぶったのは、スリジエである。

「……ああー! また、あの男にしてやられたわー!」

「スリジエさん、落ち着いて……!」

 弥生が慌てながらも、癇癪をおこすスリジエを宥めていた。

 睦月は舌打ちすると、歯ぎしりを立てる。

「くそっ、ベエモットに夢鏡が渡ってしまった……!」

 黒の人魚族が教会にかけた魔法により、未だに身体が拘束されている為、もがく睦月の姿があった。動きたいが動けない、夢鏡を取り戻しに行きたいもどかしさがあるようだ。

 弥生がスリジエの様子を気にしつつ、睦月にもスリジエと同じように宥めようと心みる。そう声をかけたが、

「睦月さんまで……! 二人共、落ち着いた方が……」

 睦月は悔しがるばかりで、弥生の声に耳を傾けようとはしない。

「王子、悔しがっても何も解決しません。大切なのは、これからどうするか、ですよ?」

 ライアンが眉間にシワ寄せて険しい顔つきで睦月に話しかけた。直後、睦月は反応を示し、一際大声で叫ぶ。

「分かっている! しかし……!」


 無理もないよね……ベエモットさんにやられちゃったんだもん……悔しいよね……。


 弥生は悲しそうな目でスリジエと睦月を見続ける。二人が後悔と怒りに浸りながら地団太を踏む姿を、瞳に焼き付けるのがいたたまれなくなったのか、数秒経ってから視線を逸らした。


 ――あれ? あれは……なんだろう?


 視線を逸らした先にあったのは、扉に似た何かが見え壁に埋め込まれたような形で見え隠れしている。おそらくは隠し扉だろう。


 ――もしかして、隠し扉かな!?


 弥生の心中は好奇心の渦に巻き込まれた。気になる、触ってみたい、どんな感じだろう。そんな感情で溢れ出す。

 弥生は耐えきれず、隠し扉の前まで泳いだ。そして、そっと隠し扉に手を触れる。


 睦月は弥生の姿が見当たらないと不安になったのか、キョロキョロ見回し始める。そして、ある光景が目に付く。弥生が隠し扉に近いていた光景だった。

 弥生が隠し扉の存在に気づいたことに、睦月が目を丸くして驚いた。

「春野……『ソレ』にはさわるなっ!」

 睦月は精一杯叫んだが、時すでに遅し。弥生が触った後だった。


 弥生が「えっ?」と声を漏らし、体の向きを変えた直後、動いた反動だろうか。何かが作動したような奇妙な音が響く。同時に隠し扉が出現し、弥生は引き込まれるように扉の奥へと吸い込まれて行った。

 その様子に、スリジエは何度も目をぱちくりさせる。何が起こったのか分からないと言いたげな表情で隠し扉を凝視した。

「えっ……、ええええっ!?」

 弥生が消えた教会には、スリジエの驚く声が響きわたるだけだった。



      *


 弥生が声を唸りながら意識を取り戻したのは、教会の隠し扉から落ちて約十分後のことだった。

 目を覚ました場所は――洞窟の中。満たされた水中空間内からこみ上げてくる、恐怖と言う名の感覚しかなく、それ以外の感覚は麻痺したように感じとれない。あるとすれば、しびれか震えだろう。


 弥生は体を起こすと真上を見上げ、驚きの表情で頭上を見つめた。煙突のような入口が天高く続いている。光が僅かに確認出来るぐらいで、隠し扉の存在は確認できない。落下して洞窟に着いたことから、どうやら隠し扉と繋がっているらしい。


 ――私、あんな上から落ちてきたの?


 呆然と見上げた後、弥生がキョロキョロと周りを見回すも、両側に岩壁しかなく出入口はない。ましてやスリジエや睦月、ライアンの姿すら存在しない。

 弥生はそこで、ようやく置かれた状況に気がつく。


 まさか、睦月さん達とはぐれた!? ど、どうしよう!


 はぐれたと言うより、弥生の好奇心で隠し扉に入って落ちてしまったせいで、睦月達と離れ離れになったと言い換えたほうが正しいかもしれない。


 弥生は再び上を見上げ、落ちてきた場所を確認する。果てしなく続く闇。どうやって睦月達と合流するかなど、全くもって見当がつかない。


 不思議……怪我してない。やっぱり、水の中だからかな?


 幸いなことは身体が傷一つなく無事だったこと。

 洞窟内が、アクアワールド特有の水で満たされているからだろうか。高い場所から落ちた筈なのに怪我一つもないのは、水が衝撃を吸収してくれた様だ。


 これから……どうしよう。というより、ここ、どこ!? 本当にどうしよう! ど、どうしたら……。


 弥生が頭を抱え、悩んでいた時だった。突如、洞窟に少女の声が木霊する。

「ほぉ、珍しい……ここに客が訪ねて来るとは」

 少女とは似つかわしくない落ち着き払った大人のようなトーン。けれども声質は少女そのものである。


 ――……!? えっ?


 弥生は恐る恐るゆっくりと振り返り、声が聞こえた方向に体を向けた。直後、「えっ?」と声を漏らす。想像していたものと違ったのか、口を半開きにしたまま立ち尽くす。

 声の主が九歳か十歳ほどの少女だった為だ。

 少女は弥生と数百メートル程離れた場所で、海藻の上にちょこんと正座していた。表情はどこか穏やかな表情で、呆然とした顔で硬直している弥生をジィーッと見上げている。


 お、女の子……!?


 水のように透き通った白い肌、花のように鮮やかな薄紫色の長い髪、そして血が染まったような深紅の瞳と唇。ここに十人の男性がいたとすれば、十人全員が必ず認めるであろう、紛うことなき小さな美少女がそこに存在している。弥生でさえ心奪われる程、整った目鼻立ちと落ち着き払った雰囲気もつ少女だった。なんとなくだが、顔立ちはスリジエに似ている。


「あっ、あなたは――?」

 弥生が恐る恐る少女に質問を投げかけた。

 少女は弥生の問いかけに微笑みながら話す。

吾輩わがはいか? 吾輩はずっと何百年……いや、何千年もの間……アクアワールドが誕生した頃からこの世界に住まう者。洞窟に住むことになったのはそれから随分ずいぶん後の話だがな」


 弥生は少女の言葉に驚いて「えっ、ええ!?」と声を上げた。そのまま話を続ける。

「ど、どういうこと!? ずっと前から住んでるって……よ、よくわからないよ! あっ、あなた……一体何者なの……!?」

 少女は直後、真顔になり、そして言った。

「吾輩はペルロマ・ドラコーナ・バシリッサ。この世界で王女だった者だ……人魚の姫・ラリア・ホワメールこと、春野弥生殿よ」



      *


 弥生が目を覚ました時と同時刻。

 竜の教会でスリジエは、未だに脳内の混乱が解けないまま、右左前後ろを見回しながら叫び声をあげていた。

「ちょっ、春野さんは!? どこに行ったの!? あの子、壁から姿を消したのだけど!?」

 姿を捜してみても、弥生の姿はどこにもない。その事実が余計にスリジエの脳内を混乱させていた。


 ライアンは喚く子供たちを諭すように、スリジエに話しかける。

「スリジエさん、大丈夫です。弥生さんの行き先は見当がついていますから」

「見当がついている……? それはどういう……」

 スリジエは大きく目を見開いた。スリジエが喋りかけた時、途中から睦月が話に割り込む。

「ライアン先生! それよりも! 何故あなたがここにいらっしゃるのです!? 人界で仕事をしていたのでは!?」

 ライアンが呆れたような顔つきで、「……はぁ」とため息を吐いたと同時に、言う。

「……王子、昔と今では……違うのです」

 ライアンは悲しみの表情で睦月を見つめた。ライアンの最後の言葉が気になった様で、睦月はつぶやくように言う。

「どういうことだ……? 今と昔とじゃ違うって……」

「弥生さんと合流してから、全て、お話ししましょう。今は弥生さんを迎えに行くことです。……それよりも、王子」

 ライアンが淡々と喋った後、さらに言葉を続ける。

「まずは、あなたの拘束魔法を解くのが先です。王子、自力でできますね?」


 睦月とスリジエは「えっ?」と声を漏らした。ライアンが魔法を解いてくれるかと思えば、「自力で魔法を解けますよね」という問いかけに対し、二人は再び呆然とした顔でライアンを見続けた。


 ライアンは険しい顔つきで睦月を睨むと、言葉の槍を睦月に投げつける。

「王子、『えっ』ではありません。私はあなたに、私の知っている術を全て教えた筈です。体術や剣の扱い方や戦闘術の他に、魔法についても」

 事実の為か言い返せないらしく、睦月が「うぐっ」とつぶやき、言葉の槍を受けた。

「あなたが自力で拘束魔法を解いてから皆で弥生さんを迎えに行きましょう。それまで私はここで、王子がきちんと魔法を解くことができるか見守っていますから」

 ライアンが睦月に対し、ニッコリと微笑み返した。

 睦月は不服そうにしながらも、ぶつぶつと呪文か何かを言い始め、魔法解除を開始する。


 ――き、厳しい先生ね……あの男以上だわ。

 ライアンと睦月のやり取りを聞いていたスリジエの本音だった。



 五分後――――。


 拘束魔法が解かれた睦月が、自由に動けるようになったことで、真っ先に師であるライアンの元へと移動する。そして、ライアンに報告した。

「ライアン先生、拘束魔法が解けました」

「お見事です、さすが王子ですね。昔よりも魔法の腕が上がっています。日々鍛錬していらっしゃいますね、王子」

 ライアンは笑みをこぼしながら満足気な面持ちで、睦月を見つめて何度も頷いていた。

 師に褒められた睦月は、照れくさそうにつぶやく。

「べ、別にそんなことはない……ただ教えられたことを実践しただけだ」


 スリジエは満面の笑みで頷き、睦月とライアンに声をかける。

「じゃあ、冬川君が自由に動けるようになったところで……春野さんを迎えに行きましょう!」

 スリジエの掛け声に、睦月とライアンが同時に頷いた。


 ライアンは一足先に早足で歩き始め、前に進みながらスリジエに来るよう促す。

「スリジエさん、こちらです」

「……ライアンさん、春野さんはどこに行ったんですか……?」

 スリジエが泳ぎながら、不思議そうな顔でライアンに質問した。スリジエが一番気になっていたことである。

 ライアンが躊躇いつつも、スリジエの質問に答える。

「弥生さんはおそらく、あのかたが居る場所ですよ」

「あの方……? って誰のこと……?」

 スリジエは二つ目の質問を投げかけ、ライアンはその質問にはすぐさま話した。

「このアクアワールドの初代王女で、呪われし力を秘めたまま洞窟に封印された……ペルロマ元・王女のことですよ。おそらくは彼女のところに、弥生さんはいる筈です」


 スリジエは目を見開く。

 ――ペルロマ……元・王女……!?



次回投稿は……未定です。できるなら1ヶ月後までに投稿できたらします。できなかったら……また遅れるかも(汗)

度々ご迷惑をおかけしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ