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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十話 弥生と夢鏡と夢石のチカラ
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弥生と夢鏡争奪戦 二

三週間ぶり? ですかね……。待たせ過ぎて、すみません!

第十話、節二です。

「さすが、夢石の継承者だ。教会にかけられた魔法に気付くとはな」

 男が弥生に向けてそう告げているのが分かる。他二人は無言でその場に立っていた。

 弥生は数秒考えてから、呆然と座り込んだまま言う。

「まさか……黒の人魚族?」

 弥生のつぶやきに男がニヤリと意味有りげな表情で微笑んだ。

「……ご名答」

 男の回答に対して、弥生は鳥肌がたったような身震いを感じていた。


 竜の教会で動きがあったのは、弥生が目を覚ましてから数分後のことだった。黒の人魚族と思われる三人が姿を見せたのだ。黒のローブを羽織った人物が三人いれば、黒の人魚族の実体を直で見たことがない睦月であろうと黒の人魚族だとわかる。


 ――遂に、来た! 黒の人魚族が!


 弥生はゴクリと生唾を飲み込んだ。黒の人魚族と対面するかもしれないと予想はしていたが、こんなにも早く対面するとは思っていなかった。黒の人魚族が姿を見せたからには覚悟を決めるしかない。弥生の中にそういう思いが巡っていた。


 黒の人魚族の三人はその内、中央と右の位置に男が二人、左側に女が一人となっている。男二人の内、一人の男は無表情でただじぃーっと弥生を見つめていた。

 もう一人の男が口を開く。

「まずは自己紹介からだな。私は黒の人魚族派遣隊サブリーダー、ハバリーだ。隣の男はヒィーロルと、女はレベイルだ。宜しくな、夢石の継承者よ」

 ……!

 弥生はびくっと体をびくつかせた。夢石の継承者と呼ばれてびくついた訳ではない。ハバリーと名乗った男の瞳に殺気のような視線を感じ取ってしまった為だ。

「ヒィーロル!」

 ハバリーがヒィーロルに対して叫んだ直後、ヒィーロルは無言で頷き、睦月に向かって駆け出す。弥生がどういうことか首を傾げている内にヒィーロルが睦月の右手首を掴んだ。掴まれた本人は嫌々そうに暴れている。

 弥生はその光景を目の当たりにして、ハッと気がつく。


 いけない。このままじゃあ、また睦月さんが捕まってしまう。どうしよう……!


 弥生の思いは、既に決まっていた。 考えは一つしか思い浮かばない。


 ……睦月さんを、助けなきゃ!


 弥生が睦月目掛けて泳ぎだし、ヒィーロルに飛びかかる。ただ睦月を助けることしか頭に入っておらず、それ以外のことは何も考えていなかった。


ヒィーロルは弥生が飛びかかっても動じることはなく、無表情で片方の手で弥生の左手首を掴む。掴んだ弥生の左手首を背中に回り込ませ、呪文を唱えて身動きを封じた。


「うぐっ……! む、睦月さん……」

 弥生が悶えながら叫んだ時、ハバリーがレベイルに向かって言う。

「レベイル! 計画実行だ!」

 ハバリーの命令に対してレベイルが一礼してつぶやく。

「は! 承知しました!」

 レベイルは承諾すると、スタスタと歩き始めた。弥生を見つめることなく通り過ぎ、ベエモットにも声かけることなく通り越す。レベイルの先に居るのは、夢鏡の側から未だに離れようとしないスリジエだった。


 まさか計画というのは……?


 弥生の頬に汗がにじみ出ると、床へと滴り落ちる。

「スリジエさん、危ない!」

 弥生がスリジエに聞こえるよう、大声で叫んだ。

 スリジエは驚いたように弥生の姿に視線を向ける。同時にレベイルの姿も目に映った。

 しかしレベイルはスリジエを横切って、気にもとめない様子である。

 弥生は素通りしたことに「あれ?」とつぶやき、首を傾げた。まさかスリジエを横切るとは思っていなかったようで、首を傾げつつも眉間にしわを寄せている。

 レベイルが夢鏡に手を伸ばした時、睦月が体をジタバタさせながら大声を出す。

「夢鏡に手を出すなっ!」

 弥生は睦月の言葉を耳にして、「あっ!」と声を漏らした。みるみるうちに青ざめた表情へと変化する。


 そうだ。黒の人魚族は夢鏡を狙っているんだった。黒の人魚族に夢鏡が渡ったら大変なことになってしまう! は、早く止めないといけないのに……!


 弥生の体は拘束されたままで、身動きが取れる状況ではない。

 レベイルは睦月の叫びに気にすることはなく、両手で鏡の縁に触れた。

 直後、夢鏡が二度目の光を放つ。光は一瞬にして教会全体を覆い尽したが、じわじわと消えていく。目を開けられるほどになった時、鏡の光が消滅した。

 弥生が目をこすっていると、今まで無口だったベエモットが叫ぶ。

「スリジエ……お前、本物のスリジエではないですね? 誰ですか!」


 え……。スリジエさんがスリジエさんじゃない? 本当に……?


 弥生はまさかと思いながらも、体を前のめりにして鏡に映し出されているスリジエの姿を確認しようと試みる。目を凝らしていると、少しだけだが、鏡に映し出されたものが読み取れた。


 あれ……? いつものスリジエさんとは、違う気がする。


 弥生は不思議そうに首を傾げる。これを違和感と言うものならば、そうかもしれない。

 それもその筈だ。鏡には、スリジエではなく、全くの別人が映っていたからである。


「えっ……ええええ――――!?」

 弥生が驚愕の声を発した。弥生の叫び声に、睦月が「春野……? どうしたんだ?」とつぶやきながら、怪訝そうに弥生の後ろ姿を見つめる。


 スリジエ、否、偽物のスリジエはしばらく黙り込んでいたが、その内クスクスと笑い始めた。

「あーあ、バレちゃったか」

 偽物のスリジエは一言つぶやいたかと思えば、十秒も経たない内に瞬時に姿を変えた。二十代と思われる若い女性が姿を見せる。

 女性が弥生と睦月の顔をそれぞれの交互にチラ見した。

「私は黒の人魚族派遣隊メンバー、セイヴィアよ。宜しくね」

 セイヴィアと名乗った女性は微笑みを見せる。弥生がつぶやくように言う。

「じゃあ、今までのスリジエさんは……?」

 弥生の言葉に対して、セイヴィアが答える。

「途中までは本物のスリジエ王女だったのよ? 私はただ、あなた達のスリジエに関する記憶を書き換え、そこからスリジエと入れ替わっていただけ」


「途中から……?」

 弥生が眉間にしわを寄せて言った。

 セイヴィアは力強く頷き、話を続ける。

「そう。夢石の継承者、あなたが先ほど夢鏡が光を放った後、気を失ったでしょう? その時の記憶に入り込み、記憶を書き換えてからスリジエと入れ替わっていたの。と言っても、時間が限られているから時間との戦いだったけど」


 そんなことって……! じゃあ……!


 弥生は呆然とセイヴィアの話に耳を傾けてはいたが、殆ど聞き流している。弥生の脳内にスリジエの姿が浮かぶ。その瞬間、何かに気がついたらしくハッとして、一つの疑問が浮上した。

「じゃあ……本物の、本物のスリジエさんは……今、何処にいるの!?」

 弥生は大声でセイヴィアに質問したが、セイヴィアは微笑み返すだけである。

「それは……教えられないわ。秘密事項よ。自分で考えたら?」

 余裕の表情で話したセイヴィアの答えに、弥生は「うう……」と言葉を詰まらせた。


「でも、茶番はここまでよ」

 セイヴィアはそうつぶやいてニヤリと笑ってすぐ、もう一度夢鏡に触れた。

 弥生はその光景を傍観しながら、「また光が発生してしまう!」と直感する。

 しかし、今度は光は発することはなく入手に成功した。直後、弥生が「ああっ」と悲鳴にも似た声を出す。


 どうして……? どうして、今度は成功したの……?


 セイヴィアやハバリーが満足気に頷いているのをよそに、弥生は疑問が浮かび上がるも、肝心なことに気付く。


 と言うより!


「む、夢鏡が黒の人魚族の手に……!」

 弥生の悲痛な叫びで、睦月の目が大きく見開かれた。

 直後、睦月が体を小刻みに動かし始めたかと思えば、睦月にかかっていた魔法が解除される。素早く立ち上がり、セイヴィア目掛けて走り出した。


 ハバリーは「しまった!」と叫び、ヒィーロルに命じる。

「ヒィーロル、アレを解除しろ!」

 ヒィーロルは「……承知しました」と小声でしゃべると、ぶつぶつと念仏を唱えるように呟いたちょっとの間に、教会が小さく揺れた。

 一瞬、何かから解き放たれたように教会から衝撃波が放たれた。教会内にいる弥生や睦月は分かっていないだろう。


 走っていた睦月が突然よろめき、その場にしゃがみ込む。そのまま胸に手を抑えて、うめき声を出し始める。


「睦月さん!?」

 弥生は睦月に何が起こっているのか分からず、オロオロしながら睦月の背中を見続けた。

 弥生の様子を注視しているハバリーが、淡々としゃべる。

「この教会には特定の相手を興奮状態に変えてしばらく経ってから魔法を解除すると、興奮状態が長いほどその者に対して、体に負担がかかるよう魔法をかけてあるのだ」


 睦月さん……!


 弥生は強く目を閉じた。


 睦月さんを助けたい。でも、私も拘束の魔法がかけられているし、何より、拘束の魔法を解く方法なんて知らない。睦月さんが苦しんでいるのに、何もできないなんて……! 

 スリジエさんのことだって、助けに行くことすらできないなんて。私はどうしてこうも無力なんだろう。


 弥生が心傷んでいる時だった。突如、少女の声が弥生の脳内に響く。


 ――――無力ですって!? そんなこと、今決めつけてどうするのよ!




次回の更新は……他の作品の更新があるので未定です。なるべく今月中には投稿したいですね。

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