表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第十話 弥生と夢鏡と夢石のチカラ
32/51

弥生と夢鏡争奪戦 一

超、久々の投稿です。今回は今までで一番文字数が少なめですね。何でだろう……。

 竜の教会内で、ラリア姿(人魚姿)の弥生が無我夢中で睦月の体に飛びついた頃は、ちょうど五時頃だった。


 弥生とスリジエが竜の教会内に睦月よりワンテンポ遅れて入った時には、睦月はベエモット目掛けて炎の魔法を攻撃する準備は整っていた。ベエモットから夢鏡を守りたい一心だったのだろう。竜の教会内には既に、夢鏡が出現したまま放置されていた。もし、この状態で攻撃を繰り出せば、夢鏡が暴走する可能性が出てくる。だからこそ、この場にいる全ての者が危うい。


 状況が悪化する予感を感じた弥生は睦月を止めようと、睦月の体に無我夢中でしがみつく。

「睦月さん!」

 弥生が睦月にしがみついているが、睦月は弥生から離れようと体を動かして抵抗していた。それでも弥生は離れようとはしない。

 睦月はしつこいと言いたげな表情で弥生をチラ見する。

「離せ、春野! 俺は……!」

「い、嫌……です! 睦月さん、冷静になって下さい!」

 弥生が睦月に向けて叫んだ時、睦月が「魔法が……!」と声をあげたのだ。

 弥生は睦月の言葉が気になり、ふと目をゆっくり開けて、顔を動かして現状を確認する。弥生とスリジエが同時に「あっ」と声を漏らしていた。


 睦月が魔法で放った炎はしばらくベエモットに目掛けて突進していたが、ベエモットまで一メートルに差し掛かった時突然みるみるうちに縮こまっていき、しまいには完全消滅してしまった。


 どうして魔法が……? もしかして、夢鏡の影響?


 弥生が呆然と硬直している内に、睦月が弥生から離れる。弥生は「しまった!」と考えたが、既に睦月は二度目の攻撃準備の真っ最中だった。その時には既に遅い。

「睦月さん、駄目!」

 弥生が睦月に問いかけても、睦月の心に響かず。弥生の声すら頭に入れていない感じだ。

 睦月は小声でブツブツとつぶやくと、二回目の魔法が発動される。発動された魔法も炎の魔法だった。両手の中で生み出された睦月の炎は、橙色のような色を放ちながら、ユラユラと動いている。炎の形は蝋燭ろうそくの炎に似た形をしていた。


 えっ。また、炎の魔法……?


 弥生が目を丸くした瞬間、炎が再びベエモットに目掛けて放たれる。炎の速さは一回目よりも、格段に上がっていた。

 同じ魔法を使ってはいけないというルールはないが、一度目で魔法が無効化されている以上はもう一度同じ魔法を使用しても結果は見えている。睦月ならそこを考慮した上で違う魔法使うと思っていただけに、弥生は驚きを隠せないのだろう。弥生の中には睦月の魔法が成功するか、不安がよぎっていた。

 ベエモットは睦月の攻撃に動じることなく無表情で話す。

「二度も同じ魔法を使うとは感心しませんね。睦月王子、冷静になってはいかがかな?」

 ベエモットが右手を前に突き出すと、睦月の炎がベエモットの右手手前で跳ね返され、炎は渦と曲線を描きながら睦月に衝突した。

 自身の魔法をこの身で受けた睦月は、魔法の衝撃で後方の右隅に背中を叩きつけられ、顔を歪ませながら倒れ込む。

 弥生は心配のようで、不安そうに睦月が飛ばされた方向に視線を移す。睦月の元まで泳ごうした弥生に、睦月が「く、る、な……!」と拒否した。

 弥生はびくっと体を震わせ、動きを止める。スリジエも驚いたように、睦月を見つめていた。


 む、睦月さん……。


 弥生とスリジエが睦月に視線を送っている隙に、ベエモットが祭壇の上に浮いている夢鏡目指して、追い込まれたような表情で走りだす。

「ベエモット! 待て!」

 睦月は力いっぱい叫んだ。近く置かれている木の長椅子の背もたれに手をかけ、よろめきながら体を起こして立ち上がった。そのままベエモットの後を追いかける。


 睦月さん、攻撃受けたばかりなのに……大丈夫かな……。


 弥生がオロオロと焦っていると、ベエモットが闇魔法『黒球ブラック・ボール』を繰り出した。

 しかし、距離が離れていて睦月に直接攻撃することはできない。その為、ベエモットは黒球を壁に打ち付けバウンドさせ、睦月に当てようとする。ベエモットの攻撃は睦月に直撃することはなく、いつの間にか移動していたスリジエが睦月の後方に歩み寄って、魔法で生み出した結界で攻撃をはじき飛ばした。

 スリジエは「ベエモット! 待ちなさい!」と声を出すと、勢いをつけて泳ぎ始める。

「スリジエさん!」

 弥生が声を上げた時には、スリジエ、睦月、ベエモットが夢鏡の目前までたどり着いていた。

 スリジエ、睦月、ベエモットが三人同時に夢鏡に触れた直後。夢鏡を目を逸らすほどの強烈な光を放ち、三人と弥生だけでなく、竜の教会全体を包み込む。竜の教会にいる者全ての人が目を瞑った。

 弥生はまぶたを閉じた瞬間に眠気に襲われ、意識が遠のいていき、夢世界へと誘われていく。そのまま、その場に倒れた。



      *




 深い深い闇の底、立ち尽くす弥生がいた。夢の中にいるのに気づいていないのか、立ちながら体が前後左右に揺れ動く。

 立ったまま意識朦朧としていた弥生は、少しずつ目を開けていく。キョロキョロと辺りを見た弥生が一言。

「ここは……どこ?」

 弥生以外、誰もいない。睦月やスリジエ、ベエモットさえいない。


 何度も辺りを見回す弥生だが、あるのは黒の世界が存在するだけだ。音すらないほど無音で、臭いも鼻をつまむほど悪臭が漂っている訳でもない。肌寒い感覚も蒸し暑い感覚も起こらない、何も存在しない世界。わかっているのは、ここが現実世界ではない、夢の中だということだろうか。

「ここは……夢の中、なの?」

 弥生は眉間にしわを寄せて、声を震わせながら呟いた。

 弥生が夢の中だと理解した時、弥生の体が光帯びる。最初は足元から始まり、徐々に上へ上へと上がっていく。頭の先まで到達した瞬間、光は弾け飛び、黒を白へと瞬時に染めていった。




 再び弥生がまぶたを開けた時には、室内へと変化を遂げていた。丈夫そうな長テーブルが部屋に沿うように縦に配置され、奥に一人座り左に八人、右に七人着席している。着席している人数は十五人。全員黒いマントを羽織り、フードも被って顔を隠していた。マントの下ももちろん黒い服を来ている。

 入口側付近には一人の男性が仁王立ちしている。奥の席にいる人物とは真正面の位置に立つ。


 弥生はその男性に見覚えがあるのか、目を見開いて口を半開きで固まる。

(あの男の人って……ベエモットさん!? これは、ベエモットさんの過去夢!?)

 顔つきは現在よりも若いが顔のパーツ一つ一つがベエモットのものであるから、間違いはない。過去夢は過去の記憶を見ることは出来るが、それ以外のことはできない。ただ見るしかできないのだ。

 弥生は部屋を見回している時にもう一つ、あることに気づく。


 黒いフード付きのマントを羽織った人達が十五人……黒い服。黒い服ってまさか、黒の人魚族!?


 弥生が立ちつくす中、黒の人魚族十五人の内、一人が喋り始める。

『ベエモット国王、復活させたスリジエの体調はどうかな?』


 復活させたスリジエさん……。ということは、スリジエさんを復活させると黒の人魚族が取引を持ちかけて、スリジエさんがその取引で復活させられた後ということかな。


 弥生が考え込んでいると、男の口が動く。

『ベエモット国王、お前は我々の取引に応じた。そこで今度は、お前が我々の要求を呑む番だ』

 男がほくそ笑みながらベエモットを凝視しているのに対し、ベエモットは怪訝そうに首を傾げた。

『お前達の要求、だと……?』

 ベエモットのつぶやきに、奥の席に座っている人物が話す。

『ベエモット国王の大切な娘二人を我々に渡してもらうことだ』

 ベエモットが『何!?』と叫び声を上げ、大声で言う。

『何だと!? そんな要求、断る!』

 ベエモットの拒否に、黒の人魚族達がどよめいた。その内、メンバーの数人が奥の人物に『族長!』と声かけている。おそらく、奥にいる人物は黒の人魚族を取りまとめる族長なのだろう。

 族長はベエモットの拒否に動じることなく、無表情で話を続ける。

『拒否をするのであれば、仕方が無い。復活させたスリジエを元に戻そう。なんなら、お前の娘二人の記憶を書き換えてもいいんだぞ?』

『卑怯だぞ! 黒の人魚族!』

 ベエモットは小刻みに体を震わせ、両手で拳を作ると叫んだ。

 族長がベエモットをギロリと睨みつける。

『ついでだ。我々の計画にも協力してもらおう。今現在、もう一つの世界を海堂町に出現させる計画を立てている。もう一つの世界には今世界をコントロール出来る、生まれたての王子がいる。いずれ、海堂町に来た際、王子をもう一つの世界に連れ戻して、その王子を利用して計画を実行しようと思っていてね』

 族長の話を耳にした弥生は大きく目を見開いた。呆然と立ちつくしながらも、過去夢の映像を目に焼き付けている。


 睦月さんを連れ戻す……! じゃあ、ベエモットさんが実行した今までの計画は、黒の人魚族の計画なんだ! ベエモットさんは黒の人魚族に言われた通り、実行していただけ!? 


『ベエモット国王、分かっているだろう? もし、要求を呑まなければ……それか、娘二人共殺すことも出来るが?』

 族長の脅しにベエモットが『ぐっ……』と声を漏らすと、数秒経ってからつぶやく。

『分かった……要求を、呑む』


 ベエモットさん……辛そう。


 弥生が悲しげにベエモットを見つめていた時、ベエモットの口が動く。しかし、声が小さく、聞き取りづらい。


 ベエモットさん、何か言ってる。何だろう?


 弥生がベエモットの言葉が気になり一歩進んだ直後、空間が歪み始める。どうやら、過去夢はここまでのようだ。

 弥生は目を見開いたが、声を出す暇もなく意識が遠のく。夢の世界から追い出されるように。



      *




 弥生が気を失ってからどれほど経っただろう。ふと目を覚ました弥生の目に飛びこんできたのは、竜の教会の床だった。意識を失うまでと何も変わらないように見える。弥生の中ではまだ夢の中なのかそうじゃないのか、起きたてで頭が回っていないらしく、理解できていないみたいだ。

 弥生は数秒間意味もなく、ぼーっと床を見続けた。


 弥生がふらつきながら起き上がった時、ある光景が弥生の目に入る。二メートル先にベエモットと睦月がうつ伏せに倒れ込んでいた。二人は離れるように倒れている。

「ベエモットさん!? それと、睦月さん!? どうして……」

 弥生は驚きのあまり大声を出した。どういうこと?


 弥生が祭壇に目を向けると、スリジエが祭壇の横で夢鏡に触ろうとしている。

「スリジエさん、むやみに夢鏡に触ろうとすると危ないよ!」

 弥生が叫んでも、スリジエは聞く耳を持たない。夢鏡に魅入られたように、夢鏡を凝視している。

 弥生はもう一度、スリジエの名前を叫ぶ。

「スリジエさん!」

 今度は届いたらしく、スリジエが伸ばしていた両手を引っ込ませた。その様子を見つめていた弥生の口からホッとした、安堵のため息が吐かれた。


 何故、スリジエが祭壇にいるのか。どうして、夢鏡に触ろうとしていたのか。

 ベエモットと睦月は何故倒れているのか。睦月が冷静でいられなくなった理由は何なのか。

 考えれば考えるほど謎は増えていき、弥生の頭を悩ませる。


 弥生は全くと言っていいほど状況をつかめておらず、うめき声を上げながら首を傾げていた。訳も分からぬまま睦月を見つめていたその時、弥生はあることを思い出す。

「そう言えば睦月さんの目の色、いつもと違っていたような……」

 そこで何かに気がついたような表情に変化すると、ポンと軽く手を叩いた。

(今まで感じていた……この違和感。いつもの睦月さんなら、冷静にベエモットと戦っていたはず。なのに今回はずっとヤケになるような感じだった。そこにずっと疑問を感じていた。まさかと思うけど、もしかして……)

 弥生は教会の天井を見上げ、ぐるりと天井を見回す。

「もしかして、この竜の教会自体に何かの仕掛けが施されているんじゃあ……!」

 弥生がつぶやいた瞬間、弥生の背後から「その通り!」と男性の声が教会内に木霊した。

 弥生は「えっ」と思い、後ろを振り向く。そこには、三人の人物が仁王立ちして、弥生を睨みつけていた。



      *




 弥生が意識を取り戻した頃、アクアワールドの地下に存在する洞窟で一人の少女が洞窟を見上げていた。何かをしている訳もなく、ただじぃーっと見つめているだけだ。どこか、寂しげな表情で洞窟の天井を見つめる少女は、九歳か十歳ほどの年齢だろうか。小さな女の子と言った印象だ。

 少女はすぐさま下の方を向く。

「まさか……奴等が、本気で行動に移すとは」

 少女らしくない口調で少女が吐くようにつぶやいた。少女は怒りを覚えているようで、体を震わせて歯ぎしりする。


 岩の中をくり抜いたような洞窟は少女の住処である。少女が居る空間は広めで一人で暮らすには充分の広さだ。いや、充分過ぎるほどである。洞窟内には水は入って来ておらず、至って普通の洞窟にしか見えない。


 少女が一歩進んだだけで土ぼこりがふわりと宙を舞う程、土は細やかである。洞窟の壁に備えられている蝋燭が風で左右に揺れ動く。


「始まった、か」

 少女は眉間にしわを寄せ言った後、もう一度、上を見上げた。洞窟の上は煙突のように空洞が広がってはいるが、光がさしている訳ではない。空洞の先は闇だけだ。

 少女が目を閉じて言う。

「我輩の出番も……そろそろ、だろうな」

 少女は思い出を懐かしむような顔で、目をつむっていた。過去を振り返るように。




物語が一人歩きしている。もう一つの世界、完結できるのかな……心配。

次回は来週投稿予定です。いつになるかは分かりませんが、せめて第十話は終わらせたい。頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ