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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第九話 弥生とベエモット・ムーン捜索
31/51

弥生と目指すは竜の教会

二ヶ月ぶりですね……(--;) お待たせしました。

ようやくの投稿です。

 ベエモットが竜の教会にたどり着く少し前のこと。四時五十分頃だろうか。

 巡回路で睦月が顔色を変えてからそう時刻は経っていない。

「む、睦月さん! どうかしたの?」

 城外を走りながら人魚姿の弥生が、険しい表情で数歩前で先を急ぐ睦月に尋ねた。けれども、睦月の返答はなく、ただ黙ったまま走り続ける。

 弥生の右隣に並んで泳ぐもう一匹の人魚、スリジエが言葉を発する。

「もしかして……あの男が探していたものが関わっているんじゃない?」

 スリジエの言葉で睦月がようやく立ち止まった。後ろを振り向かず、仁王立ちしている。

「冬川君がそれほど反応するだもの。絶対、ある筈なのよ。何か知っているんじゃない? あの男が探していたものに」

 スリジエは眉間にしわを寄せて、睦月の背中を見つめた。

 黙って耳を傾けていた弥生がキョトンと首をかしげる。

「ベエモットさんが探していたもの……?」

「冬川君、話してくれるかしら? あの男が探していたものの正体」

 スリジエに話すよう促された睦月は、しばらくの間考えこんでいたが、弥生とスリジエの方に振り向く。ため息を吐いてから口を開いた。

「……分かった。話す」

「睦月さん、ベエモットさんが探していたものって?」

 弥生が訊ねると、睦月は質問に答える。

「ベエモットが探していたのは恐らく、夢鏡ゆめかがみ……だろう」

 弥生とスリジエが不思議そうに、「ゆめかがみ……?」とつぶやきながら首を傾げた。

 睦月はコクりと頷くと話を続ける。

「ああ、このアクアワールドに古来から伝わる秘宝で、夢の鏡と書いて夢鏡……その名の通り、鏡なんだ。この世界の、一番大切な宝だ」

「へー、そんな物があるんだ 」

 スリジエが機嫌を損ねた様に顔を歪ませ、呑気に感心する弥生に話す。

「あのね……秘宝と呼ばれるくらいなんだから、何かあるに決まっているじゃない」

「え、そうなの……?」

 弥生は何度もまばたきを繰り返し、睦月とスリジエの顔を交互に見比べていた。

 睦月は弥生をチラ見した後、苦笑すると呟く。

「まあな。その鏡は……魔力を宿しているんだ。お前達の夢石と同じように、な」

 最後の一言を聞き漏らさなかった弥生とスリジエが、「えっ?」と同時に目を丸くした。

 睦月は表情を険しくさせ、言葉を続ける。

「だが、その夢鏡は限られた者しか扱うことが許されない。竜の血を引いた王族以外はな」

「どういうこと? 冬川君」

 スリジエが質問した時、睦月が昔話を語り始めた。



 その昔、誕生したばかりのアクアワールドは現在のように安定しておらず、常に不安定な状態が日々続いていた。しかし、傷ついた空間はじわりと秩序が乱れ、遂には消えかかる寸前まで追い詰められる。そこに一人の男が立ち上がったという。その男は武器を片手に相棒の竜を従え、空間を正そうと奮闘した。その時、秘宝が姿を現し、男に力を貸す。結果、空間は元通り。アクアワールドは平和を取り戻し、男はアクアワールドの英雄と讃えられた。同時に心底信頼できる者として、竜から血と力を分けて貰ったという。



「そこから夢鏡は歴史的にも、英雄の血と力……竜の血と力を引いた王族だけしか使いこなせなくなるんだ。けど、それでも夢境を使いたがる奴は大勢存在する。だからこそ、竜の血を引いた王族以外の者が夢鏡を使おうとした場合、罰……代償が与えられる」

「それって、まさか……」

 睦月の話を静かに聞き入っていた弥生が、スリジエと顔を合わせる。スリジエも弥生と同様、感づいたらしい。

「ああ、夢石と……同じだ。命を吸い取られるという代償だ」

 弥生とスリジエは驚きが隠せないらしく、呆然と口を開けたまま、

 ーー似てる……夢石に。そっくりだ。

 と心中で呟いた。二人共、心の中で出た言葉は同じだった。


 スリジエが睦月に数歩近づくと、眉間にしわを寄せて尋ねる。

「それで、冬川君。その夢鏡と竜の教会が、どう、関係しているの?」

「それには、このアクアワールドの誕生が関係しているだろう。……ちょっと、待ってくれ」

 睦月はそういうなり、小言でブツブツ呟いたかと思えば、一冊の書物を出現させた。ページ数の多い分厚い本で、持っているだけで疲れそうな書物である。

「これだ……アクアワールドの誕生した頃に書かれた、一番古い歴史書だ」

 ーー睦月さん、どうやって持っていたのかな……。

 弥生は小首をかしげ、不思議そうに睦月を見つめていた。

 睦月が右頬を指先で少しくと、言いづらそうな表情で二匹の人魚に目線を合わせる。

「実はな、このアクアワールド……元々はお前達の世界、海の世界の一部だったんだ」

 弥生とスリジエは目をパチクリとさせ、何度も瞬きを繰り返した。

(は、はい……?)

(なっ、どういうこと!?)

 状況が掴めていない弥生をよそに、真っ先にスリジエが睦月に聞いてみる。

「冬川君、それ……どういうことなの!?」

 睦月は一度、目を閉じると微笑する。

「二人が知らなくて当たり前だ。アクアワールドは閉ざされた空間、なんだからな」

 スリジエが急かすように、

「冬川君、説明!」

 大きめの声で叫んだ。

「ああ、悪いな。正確に言えば、元々は海の世界にある、北の海の一部だったんだ……この世界は」

 弥生は睦月の言葉で自我を取り戻す。

 ーーきっ、北の海って!


 北の海。弥生がラリアだった頃、住んでいた場所だ。北の海は白の人魚族が支配していることでも有名な地域だが、何故、北の海が出てくるのだろうか。北の海とアクアワールド、どう関係しているのだろうか。


「ああ、お前の故郷である場所だ。元々夢石という宝玉は北の海に住む一族、白の人魚族が守っていたらしいんだ。だがある時、北の海と反対側にある、南の海に住む一族……黒の人魚族がその宝玉を私利私欲の為に奪おうと攻撃を仕掛けたところから始まる」

 睦月の話を聞いていたらしく、スリジエが話に割り込む。

「その話なら本で少し読んだわ。もう一つの世界って情報があまり存在しないからよく分らないけど……確か、その攻撃がきっかけで戦争に発展したんでしょう?」

「ああ、そうだ。戦争は長く続いたらしい。どれくらい続いたかは、詳しく書かれていないから定かではない。だが、その戦争が引き金となり、海の世界の空間が乱れ、北の海の土地一部が空間ごと違う空間に飛ばされたんだ。その後、現在のアクアワールドへと文化を発展させたんだ」

 睦月とスリジエの話にじっくり耳を傾けていたようで、弥生は「そう、だったんだ……」と一言呟いた。

 今まで眉間にしわを寄せていたが、睦月の表情がさらに険しくなる。

「そして、黒の人魚族が宝玉を奪おうと攻撃を仕掛け、白の人魚族が宝玉を守っていた場所こそが、竜の教会だ。夢鏡はあの場所から誕生した」

 弥生とスリジエが大きく目を見開いた。

「……なるほど、そういうことだったのね」

 ーーだから、だったんだ……アクアワールドが海の世界の、もう一つの世界と呼ばれていたんだ。

 弥生がようやく理解した時、スリジエは焦るようにやや早口で叫ぶ。

「じゃあ、あの男が竜の教会にいるなら、急がないとマズいじゃない!」

「ああ、だから急いでいるんだ」

 睦月がうなづいた直後、弥生が理解出来ていないことがあるのか、「ん?」と首を傾げた。

「じゃあ、ベエモットさんが竜の教会にいるってことは黒の人魚族達は知っているのかな……?」

 スリジエと睦月は弥生のその言葉で、ハッと何かに気がつく。

 弥生の疑問に対し、スリジエが気難しそうに答える。

「多分だけど……知っていると思うわ。あいつら、できる限り情報は集めて、幹部などに報告しているはずだから」

「なら、竜の教会が全員集合する場所になるだろうな……おそらく。黒の人魚族が夢境を手に入れたいと思っているならな」

 睦月は自身の母親をさらった部族との対決に、少しばかりか緊張気味のようだった。

「それなら、急ぐわ! 春野弥生! 早くしなさい!」

 スリジエに急かされ、弥生は「は、はいぃ!」と涙目で返事をした。弥生、スリジエは睦月の誘導で竜の教会へと向かう。


 弥生は尾びれを動かし前へ進みながらも、頭の中は黒の人魚族のことでいっぱいである。

(ここから先が本当の戦いに変わる。黒の人魚族と対決することになる。となれば、夢鏡の争奪戦になるかも知れない。そうなったら、私は……何が、できるのだろう)

 ゆっくり目をつむると、弥生は心中で願い事を呟く。

 ーーどうか、夢鏡が黒の人魚族の手に渡りませんように。

 弥生の視線の先には目的地は見えずとも、目指す竜の教会に着々と近づいていった。



      *



 弥生達が城外で会話している同時刻。

 ようやく作業が終了したドグマは、小塔でベエモットの様子を魔法を使用して確認していた。姿を映す鏡のようなものにベエモットの姿がくっきりと映し出されている。

 ーーおそらく、もう間もなくだろう。ベエモットの……秘宝・夢鏡を出現させる儀式が始まるのは。

 ドグマは顔をしかめて、ため息を吐いた。

 ーー夢鏡は手に入るのだろうか。もしかしたらベエモットは夢鏡を渡さない可能性もある。さらに、王子の行方も気になる。一刻も早く王子を見つけ出し、拘束しないと計画にヒビが入ってしまう。それだけは避けなければいけない。その為にも……。

「では、次にいくか……」

 ドグマが次の行動へと移そうとした時だろうか。


 ドグマの脳内にかん高い音が鳴り響く。どうやら、メンバーの一人から連絡が入ったようだ。音の波動で誰から送られて来たかが判明する。

「む……? ハバリーからか」

 ドグマは片手を腰にあてながら、連絡に応答した。

〈急にどうしたハバリー、何かあったのか?〉

 ハバリーが荒い息遣いで話す。

〈リーダー、早速、王子を見つけました。ただ……〉

〈ただ……どうした?〉

 ドグマは怪訝そうな表情で呟いた後、ハバリーは言葉を続ける。

〈王子もどうやら竜の教会に向かうようです。夢石の継承者とスリジエ王女も一緒に向かうみたいです〉

 ドグマが人呼吸置いてから、〈あの二人も、か……〉と言葉を口にした。

 ハバリーはリーダーに尋ねる。

〈いかが致しましょう。すぐに追いかけますか?〉

 ドグマは〈いや、待て〉と制すると、王子捜索ペアに指示を出す。

〈二度手間になるが、一旦セイヴィアと共に戻って来て欲しい。それから指示を出す。セイヴィアにそう伝えてもらえるだろうか?〉

 ハバリーは〈はい! 分かりました!〉と承諾すると、繋がっていた連絡がぷつりと切れた。


「次は夢鏡入手ペアだな」

 ドグマは一言呟き、連絡魔法を瞬時に発動させる。

〈ヒィーロル、レベイル。応答せよ!〉

 最初は一分ほど応答が無かったが、一分経ってすぐに二人から応答が入る。

〈……ヒィーロルです〉

〈レベイルですが、いかが致しましたか?〉

 ドグマがハバリーからの報告を伝える。

〈ハバリーの報告で王子達が竜の教会に向かっているらしい〉

〈えぇ!? それは本当ですか?〉

 驚いたのはレベイルだった。ヒィーロルの方は無言らしく、声すら漏れてこない。

 ドグマはさほど反応は気にしないのか、淡々と話を続ける。

〈ハバリーは嘘は言わない。本当だろう。もし王子達が到着した場合、対応を頼む。私も後で他のメンバーを連れて、竜の教会に向かう。それまで頼んだぞ〉

〈はい!〉

 ヒィーロルとレベイルは返事をした後、直ぐ様連絡を切った。

 

 ほぼ同時に「リーダー!」と叫ぶ男性の声が、ドグマの耳に聞こえてくる。ハバリーとセイヴィアが到着したらしい。

 ドグマは二人に声をかける。

「早かったな、ハバリーにセイヴィア。セイヴィアは……どうした、一体?」

 不思議そうにセイヴィアを見つめるリーダーに、右頬を指先で掻きながらハバリーが説明する。

「セイヴィアはヒィーロルとペアを組めなかったことにねているだけなので、ご心配ありません」

 ドグマは納得したのかうなづくと、一瞬で真顔に変化した。

「そうか……それで早速なのだが、二人には“ある事”を頼みたい」

「ある事……?」

 ハバリーとセイヴィアは理解出来ていないらしく、眉間にしわを寄せて首を傾げていた。



      *


 黒の人魚族・派遣隊がアクアワールドを徘徊している頃、弥生達三人は竜の教会前までたどり着く。睦月が周りに敵が潜んでいないか、その場で見回していた。

 スリジエは警戒するように建物を睨むと、「あの男の気配を感じる」とぽつり言い放つ。あの男ーーベエモットは確実に、竜の教会内にいるらしい。


 ーーここが竜の教会……ここからアクアワールドが始まった“始まり”の場所。

 弥生は唇をキュッと締めると、生唾を飲み込んだ。弥生の両手と尾ひれがプルプルと小刻みに震え、表情は真っ青だった。竜の教会から漂う重苦しい雰囲気に耐えられないのだろう。


 弥生とスリジエに背を向けていた睦月が、振り返ると言葉を発する。

「ここが竜の教会だ。ここはこの教会に住みついてされると言う、伝説の竜に守られし場所と言われている」

 弥生とスリジエの目が大きく見開かれた。初めて耳にする情報に驚いているという感じだ。

「竜の教会に住みついている竜……!?」

「竜に守られし場所……!?」

 口を半開きにしたままの二人を、睦月はチラ見しながら説明を続ける。

「ああ、だからこの教会に入る者は心して入らないと竜に排除される。アクアワールドの中で一番危険な場所なんだ」

「と言う事は……ある程度、実力が備わった者でないと突破は難しい……そういう事?」

 スリジエの疑問のような推測に、睦月は「ああ、そういうことだ」と肯定した。

 スリジエと睦月の会話を内心、心配そうに聞き耳を立てていたのは弥生である。

(そんな所に行くなんて……私、足でまといにならないかな……?)


 現在は前世の姿に戻っているとはいえ、現実には弥生の実力は下の下。弥生としては、スリジエと睦月に叶うことはないほどのちっぽけな実力に不安があるらしい。どう戦えばいいか知らず、魔法の覚え方も知らない、魔法や戦闘に関しては無知なのである。ましてや、魔法は二つしか覚えてない始末。例え誰かに「自身の実力に自信を持て」と言われても、弥生にしてみれば無理な話である。


 ーーそんな私を二人はどう思っているのかな……やっぱり、足でまといだって思っているのかな。

「春野……顔が真っ青だが、大丈夫か?」

 考え事をしていた弥生は、睦月の問いに数秒間反応が遅れ、ようやく「えっ?」と声を出した。

 スリジエが眉間にしわを寄せてから、一言つぶやく。

「今にも倒れそうよ」

 ーーそれを言うなら、スリジエさんの方がよっぽどすぐにでも倒れそうなんだけど……。

 などと考えはした弥生だったが、本音を口に出せばどうなるか、スリジエの反応は目に浮かんだ。

(口に出すのは……止めておこう。今は二人の不安を無くさなきゃ)

 二人を心配させないようにか、弥生はニッコリと笑顔で答える。

「大丈夫……気にしないで」

 ーーここで足止めしちゃったら、意味がないもん。

 弥生の意思を察したのか、しばらく考え込んでいた睦月がうなづく。

「そうか……もし、疲れたら真っ先に言うんだぞ」

「うん、わかった」

 弥生が返事した後、スリジエはやや照れくさそうに呟く。

「もし倒れたら……回復魔法、一応、使ってあげるわ………だから、我慢なんてしたら許さないからね! いいわね!?」

「ありがとう、スリジエさん」

 弥生はスリジエに向かって満面の笑みを浮かべる。

 スリジエが弥生に何か言おうと、口を開いた時だった。


 突如、竜の教会の屋根から一筋の閃光が、空を突き破るように放たれた。強い輝きは強烈で、弥生、スリジエ、睦月の三名は一瞬、目をつむる。黄色く輝く光の柱は十数秒間続き、虹のように静かに消えていく。

 目を開けられるようになった弥生がため息をついた。

「はぁ……びっくりした。急に何が起きたのかと思ったよ」

「確かにね。でも、さっきの光は何かしら? 竜の教会からだったみたいだけど……」

 スリジエが後ろ髪を掻き分けた時、睦月が体を震わせ、血相を変えながら一言。

「まさか……“アレ”をやったのか…………?」

 何度目だろうか、睦月が一人で走り出したのは。二匹の人魚が同時に叫ぶ。

「睦月さん!」

「冬川君!」

 スリジエは弥生の顔を見つめる。

「何かあったみたいね……私達も追うわ!」

 弥生は「う、うん!」と答えながらも、状況が掴めないでいた。

 人魚達は教会内へと消えて行った彼を追いかける。


 スリジエと追いかける中、弥生の脳内は当然のごとく、睦月で溢れている。気になって仕方が無いという感じである。

(どうしたのかな……睦月さん。また顔色変えて)

 弥生の感情を読み取ったスリジエが、ぽつりと呟くように話す。

「さっきもそうだったけど、また何か気がついたんじゃない? 冬川君」

 ーー何かに……気がついた?

 弥生は頭の中で考えつつ、スリジエに「何かって……何を?」と問いかけた。

 尋ねられたスリジエは動かしていた尾ひれを止めると、ムスっと膨れっ面な顔で怒鳴る。

「知らないわよ、そんなの!」

 ーーははっ……そりゃあ、そうですよね……。

 怒鳴られた弥生は顔を引きつらせていた。


 再び尾ひれを動かそうと考えたのも束の間、今度は何かが破裂したような音が木霊する。二人は両耳を両手で塞ぎ、破裂音が静まるのを待つと、塞いでいた手を離した。

 スリジエが忌々《いまいま》しそうに竜の教会を見上げて呟く。

「やっぱり……竜の教会内で何か起こっているのね……!」

「スリジエさん、急ごう!」

 先程とは表情が打って変わった弥生に促され、スリジエは「ええ!」と返事をした。

 二人は竜の教会の扉前まで進むと、互いに見つめうなづき、思いっきり二枚扉をそれぞれ押す。ギギーッという重く響く音と共に、扉は開いていく。


 教会内へと潜り込んだが、二人共、先程から泳ぎっ放しの為か、はぁはぁと息切れで建物の内部と状況を確認する余裕がない。

 ある程度まで落ち着くと、弥生とスリジエはようやく現状を目の当たりにする。

「む、睦月さん! ……と、ベエモットさん!?」

「何が起こっているのよ!?」

 驚き戸惑っている様子のベエモット、教会の奥にチラチラと見え隠れする楕円だえん形の鏡。鏡の縁は装飾が施されていた。おそらく、あれが無鏡だろう。弥生とスリジエのすぐ先に、睦月がベエモットを睨みつけていた。ベエモットは既にファイティングポーズを構えており、今にもベエモットを攻撃しそうな剣幕である。ベエモットが立っているのは、部屋の奥に近い地点だ。弥生とスリジエにしてみれば、ベエモットと距離が離れている。

 睦月がベエモットに向かって叫ぶ。

「ベエモット! その夢鏡をどうするつもりだ!」

 叫んだ瞬間、魔法を発動し始めた睦月。睦月の周囲はどこからともなく風が吹き荒れる。

 二匹の人魚が再度、声を上げる。

「睦月さん!」

「冬川君!」

 ベエモットの方は突然、無鏡を目指すように走り出した。同時に、睦月の魔法が発動し、炎がベエモットを追いかける。

 状況を傍観していた弥生に、嫌な予感が走る。

 ーーいけない! 止めなきゃ!

 弥生の体は自然とベエモットと無鏡を目指して泳いでいた。不測の事態を避ける為に。



次回も一ヶ月か二ヶ月先に、なるでしょうね……きっと。

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