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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第八話 弥生と壊れたはずの夢石
27/51

弥生の睦月救出大作戦

 弥生はアクアワールドにある城の中にいた。まっすぐにのびた廊下を泳ぎながら、左右の壁に取り付けられている無数の扉を開けていく。時刻は三時五分ごろだった。

 睦月が捕らえられているとされる『兵士の間』を見つけて、睦月を救出するため。

 弥生は『兵士の間』を探し歩き回るが、部屋の数が予想以上に多すぎて、それらしい部屋は見つかっていない。弥生がラリアだった頃、住んでいた城よりも部屋数が膨大である。


 中々見つからない。この城ってなんで部屋数こんなにも多いの?


 弥生からあきらめのため息が吐き出される。体力が少しずつ削られていく。

 それでも人間の姿ではなく、人魚の姿に戻っているため足に負担が掛からない。

 足に負担が掛からないだけでもマシな方である。

 歩き回っている内、城の装飾に目が止まってしまう。さすがアクアワールドというだけあって、水や海に関する装飾が施されている。しかし海に住む魚や人魚は見当たらない。

 やはり本来の国王が人魚アレルギーだからなのだろうか。


 すごーい。ずっと見ていてもあきないよー。


 しかしすぐさま自我を取り戻し、本来の目的を思い出す。

 そうだ。私は睦月さんを探しにきたんだ。何うっかり観光気分に浸っているんだ。

 目をつむって両手で頬をたたき、観光気分に浸っている自分に言い聞かせた。

 何やってんの、私! しっかりしなさい!

 私がここにきたのは睦月さんを助けるためにきたのよ。馬鹿馬鹿、私!

 睦月さんごめんなさい、と本人にわびたいほど責任を感じている弥生。


 弥生が顔をあげた時、ひとつの扉が光を示す。右側にある、弥生から三つ前の部屋。

 扉が光っている。もしかして、あそこが『兵士の間』かな!?

 その部屋まで歩き、扉の前で脚をとめた。よし、と決意のうなづきを見せる。

「失礼、しますね……」

 ドアノブをひねり、扉を押していく。扉が取り付けられている金具から、寂れてこすり合うような不快な音が同時に発生する。


 忍び足で部屋に入ると、音を立てないようゆっくりと閉め切った。四畳ほどの広さだが、薄暗くて奥が真っ暗のため、先がわからない。

「もしもーし、誰かいませんかー?」

 部屋の中に人がいないか、確認の言葉をかけてみるが、返答はなし。

「もしもーし、誰かいたら返事してー」

 誰もいなかったら、入った意味がないじゃないか。

「睦月さーん。いたら返事してくださーい」

 弥生の目には涙が光っていた。


 入った部屋が暗い部屋なんて……家に帰りたいよぅ。


 弥生は暗い場所が苦手なのである。前世では暗い深海に住んでいて平気ではあったが、現世では前世と関係なしに苦手なものは苦手なのだ。

 一歩、また一歩と、前へと進んでいく弥生の尾びれ。本人は尾びれを止めたいと思っていても、心と身体は裏腹だった。身体の意思が命令に忠実に従う機械に見えてしまった。

 お化けとかいませんように。

 心の中で祈り続ける弥生。


 その時だろうか、奇妙な音が足元から漏れる。

 カチッと何かスイッチを押してしまったような感覚が弥生からあふれてきた。

 こういうときって、漫画とかでは罠を押してしまったりするパターンが多いんだよね……まさかね。

 違ってほしいと弥生は願ったが、その願いは打ち砕かれる。

 弥生の真下の床が抜けて、地下へと続く穴が出現した。


 やっぱり罠だったぁ!


 弥生の身体はそのまま穴の中へとすいこまれていく。

「きゃあああぁぁぁーーーー!!」

 弥生の悲鳴が聞こえたのか、兵士の間にいる睦月が反応を示していた。

 しかし弥生は地下へと引き戻されてしまった。




「きゃあっ!」

 弥生はドスンと床に尻がぶつかり、思いっきりしりもちをつく。

「い、いた~いっ」

 相当深い場所まで落ちてきたらしい。

「ここ、どこっ?」

 どうやら牢屋らしいが、弥生たちが捕らえられていた牢屋と一変していた。

「もしかして、前いた牢屋と別の牢屋ってこと?」


 部屋全体が六角形の部屋で、塔のようにのびるコンクリートの壁が天井が見えないほど先が続く。思ったほど明るい。明けられた四角い穴が窓代わりとなって光を差し込んでいるようだ。


 しかし牢屋には代わりはない。出口が見当たらないのだから。

「どうしよう……ここからどうやって出よう」

 悩んでいても仕方が無い。弥生は入り口探しを始めることにする。

「よ~しっ。探すぞ~!」


 まずは天高くそびえ、弥生を囲むコンクリートの壁を調査。

 ただの壁にしか見えない。しかし壁とかに秘密の扉への隠し扉が隠されていたりする。

「そういうの仕掛けがあると入り口が開いたりするのに」

 壁に仕掛けが施されている気配は見られない。壁に入り口が隠されているというのは可能性が低いだろう。


 次は床である。よく漫画を読むらしく、それに習い床に仕掛けがないか探すようだ。

「ありそうなんだけどなぁ。仕掛け」

 だがあの国王の事を想像し、床に更なる仕掛けをほどこすなど考えにくい。

「睦月さんのお父さん、人魚アレルギーって言っていたし、一生閉じ込めておくなら、そもそもそんな仕掛け自体作らないよね」

 よって、床の仕掛けは無いにとぼしいことになる。

「でも、あきらめないからねっ!」


 弥生はその後、三〇分間にわたり、牢屋の隅々まで入り口探しに没頭し続けた。けれども、入り口は見つからず、何も収穫が得られないまま、体力だけが減っていく。


「はぁ、こんなに探しても入り口が見つからないよ。これじゃあ、本当に来た意味がなくなるよ」

 心配そうな顔つきで見えない天上を見上げる。

「早く睦月さんを助けないといけないのに……。ベエモットさんは今頃計画を進めているはずだから、睦月さんを助けないと大変なことが起きちゃうよ」

 ため息ついていただけでは何も始まらないことは弥生本人でさえもわかっていた。


「睦月さん……」

 弥生が無意識につぶやいたとき、睦月の笑顔が脳内で蘇える。

 その瞬間、顔から火がでたように、顔面が真っ赤に染まった。


 これまでの出会いや出来事、睦月との時間。記憶たちが鮮明に思い出す。

「睦月さんへのお礼、あまりできていなかったなぁ」

 お礼ができたという感覚がない。なので。

「今度こそ、睦月さんに恩返ししなくちゃ。そのためにも、睦月さんを助けなきゃ!」

 でもなぁ、と不安の言葉を口にし始める。

「私、あんまり魔法とか覚えていないしなぁ。それに、睦月さんと仲が良くなったというわけではなく、友達になったって感じだし……」


 距離が縮まったか、不安なのだ。


“大丈夫。弥生さんなら、きっと”

 聞き覚えのある声。女性の声だ。

  声の主が光を持って姿を現した。長い髪がなびいて、顔には母の優しい笑みを浮かべている。

 睦月の母親だ。

 睦月が連れ去られる前日の夜中、弥生の前に姿を見せてきたあの女性である。

 『ムツキを助けてください』と言った人。


「あなたは確か、睦月さんのお母さん……?」

 記憶をたどって、やっと言葉にする弥生。

「どうかしたんですか?」

“ムツキが『兵士の間』にとらわれていると話を聞き、案内できればと思い出てきた次第なのです”

 あ、そっか! 睦月さんのお母さんはこのアクアワールドの王妃様だから、この城のことについても詳しいんだ!

「でもどうして私なんかのために……」


“弥生さん、いえ、ラリアさんにこのアクアワールドの規律を変えてほしいのです”

 弥生はまばたきを二回やると見おろす睦月の母親を見上げる。

「規律を変えて、欲しい?」

“はい、そうです。アクアワールドでは、アクアワールドの者と海の世界に住む人魚の恋は禁止されています。ましてや、恋人同士などさらにご法度なのです”

「えっ。そうなの!?」

“はい、そうなんです”


 初めて知ったよそんな事!


“たとえ王子であっても同じです。国王に知られれば、死刑になることは間違いないでしょう”

「そんな。死刑だなんて……」

 睦月さん。そんな事情背負っていたなんて。

“だからこそ、あなた達に幸せになってもらい、そんな規律は関係ないと証明してほしいのです”


「む、睦月さんのお母さんは……それでいいんですか?」

 精一杯の弥生の質問に、睦月の母は答えた。

“私は息子のムツキが幸せだと思う方を選んでくれればそれでかまいません”

「睦月さんのお母さん……」

 やっぱり子供を持つ母親は強いんだなぁ。



“さぁ、私が『兵士の間』まで案内します。ついてきてください”

 睦月の母親の言葉を信じ、うなづく弥生だった。



       *



 弥生がわなにかかって牢屋まで落ちているころ。

 同じ城の中で急いで前へ進んでいく人魚の姿があった。スリジエ・ムーンだ。

 スリジエは塔周辺で、探知魔法でベエモットが残した魔力をたどりながら、残した本人であるベエモットを探索していた。

 もちろん、ベエモットの計画を阻止するため。見つけ次第倒して計画をとめるのである。

「冬川君のほうは春野弥生が救出するだろうから、私はあの男の探索に集中しなくちゃね」


 探知魔法は少しでも魔力さえ残っていれば、その人がどういう道をたどって、今どこにいるのかがわかるのだ。しかもあまり魔力は使わない。つまりからだに負担が掛からない、スリジエのとっておきの魔法なのである。


「それにしても、ベエモットの奴は何を考えているのかしら。何かしないうちに止めないといけないわ」

 ベエモットの性格からして安易な場所で計画を行うなんてありえない。絶対どこか見つかりにくい場所で計画を実行するはず。

「あの男は用心深い。ひっかけなんかもあるかもしれないわね、あの男ならやりかねない」

 じゃあ、ベエモットは今どこで何をやっているのか。それはどのように行っているのか。

「根気よく探さないといけないわね。結局」


「たとえ実の父親だとしても、絶対に負けない。計画は止めて見せるわ」

 スリジエの意気込みに、さえぎる男性の声がこだまする。

「ほう。一回も私に勝った事がないのに、ですか」

 スリジエが声に反応し目を見開いた。こえの主はわかっているような顔である。

 スリジエはゆっくりと後ろを振り向く。

 スリジエのはるか数メートル上で宙に浮かぶ、一人の中年男性。


「ベエモット! なぜここにいるの?」

「何故って……スリジエ、お前を足止めするためさ。余計に首をつっこまれると厄介なことになってしまうからね」

「どういうこと?」

 スリジエが眉を寄せていった。


「スリジエは知らなくていい。本当に厄介だからね」

 ベエモットは話を変えるようにある物を懐から取り出す。

「ところでスリジエ。これを知っているかい? 知識が豊富なスリジエなら言わなくてもすぐに気づくだろう」

 銀色に光り輝く宝玉がベエモットの右手にあった。スリジエは見覚えがあったのか、率直に検討がついたらしい。

「まさか……それって」


「そう、その、まさか……ですよ」

 ベエモットの勝ち誇った笑みにスリジエは気に障ったのか、怒りを噴出させる。

「どういうことよ! どうしてそれをあんたが持っているのよ! それを持ち出す機会なんてなかったはずよ!」

「私にはあるお方たちがバックについている。そのお方達がいるかぎり、私はなんでもできるのだよ。スリジエ」


 まさかベエモットが言う、あのお方たちって……。

 スリジエが考え込んでいたとき。その隙をついてベエモットが魔法を使って不意打ちをしてきた。

「ヒュブリーゼ・ダークネス」

 氷と闇のつららが同時にスリジエを襲う。


 しまった!


 スリジエは身構えるが、既に遅く腹部に集中的に直撃。その場で倒れこむ。

「こうなることはわかっていたはずだ、スリジエ。これ以上首をつっこんではいけない。自分の身を守るためにもね」

 そんな……ここまで、来たのに。

 ベエモットが言い捨てて去っていく姿を、見てるしかできなかったスリジエだった。



       *



 時刻は三時半に到達したころ。

 睦月の母親の案内により、『兵士の間』まで目と鼻の先の廊下を歩いていた。

 とはいっても、人魚の姿のため、ひれを動かしているだけなのだ。

 弥生の数歩先には睦月の母親が弥生を先導している。実体ではないため、体は透けている。しかもこの城は監視カメラがないので、睦月の母親に先導されていることはばれないため、ありがたい。


“あともうちょっとで『兵士の間』につきます”

「あの……ちょっと、質問してもいいですか?」

“はい。どうかなさいましたか?”

「睦月さんのお母さんはどうしてとらわれているんですか?」

 弥生の問いかけに、睦月の母親は一瞬目を伏せると振り返った。

“あまり詳しくはいえませんが、私を捕らえた奴らはなんらかの計画があるようで、そのために私がとらわれてしまったのかもしれませんね”


「それって……」

“はい。弥生さんがよくご存知の集団です”

 ――黒の人魚族なの?

 弥生の心を読んでいたかのように睦月の母がうなづいた。

“そうです。黒の人魚族です”


 弥生は口を開け驚きの表情を見せる。

 睦月の母が話を続けた。

“これ以上は話せません。ですが、いつか必ずすべてをお話します。そして、ラリアさん、ムツキを助けてあげてください。お願いします……”

 そう残して睦月の母親は消えていった。


 弥生は睦月の母親の思いを乗せるように、『兵士の間』の扉まで歩く。

 睦月さんのお母さんによると、睦月さんは兵士さん四人に守られているとか。

 気を引き締めていかないと。

 ドアノブに手をかけると、扉を開けた。


 部屋に入ったとたん、部屋の奥の中央に機械のような円柱型の装置、装置を取り描こうように四人の兵士が監視していた。睦月の母親の情報通りである。

 弥生が入ってきたことに気がついたのか、前列の二人が同時に走り出した。

「いきなり来るの!?」

 弥生は二人の攻撃をよけてはみたが、それだけで済むはずがない。

「なんで来るのー? いやー!」


 二人の兵士は剣を抜き、上に掲げて突進する。

「きゃー。剣なんて卑怯だよー。私、武術とかできないのにー」

 まずは自分の身を守らないと危うい。

「アクアシールドっ」

 防御呪文でなんとか応戦してはみる弥生。しかし防御魔法は一瞬で消え去り役目を終える。しかも。兵士の剣が止まる事はない。

 それどころか、二人で息を合わせてタイミングよく襲い掛かり、当たる隙を作らせない。


「アクアアローっ!」

 水の塊で出来た無数の矢。兵士が持つ剣を集中的に攻撃していく。

 それでも当たるかどうかは不明。一か八かのかけのようなものだ。

 兵士の目が豹変していく事に違和感を覚える。誰かに操られているようだった。

 早くしないと、やばい気がする。倒さないといけないのはわかっているが。

「やっぱり怖い! 無理!」

 首を振ってバトルを拒み、構えている手を緩ませた。わかってはいることだが、魔法を使っている途中のため、中断することはできない。


 でもここで引き下がることはできない。私は睦月さんを助けるためにやってきたのに、やめたら意味がない!

「アクアアロー、パワー全開っ」

 再び手を構えて魔法を強化させる。それでも矢は兵士二人に当たる事がない。

「早くしないと、まだ二人も兵士さん残っているのに」

 弥生が心配をめぐらせていたとき、兵士二人が弥生の両側に回りこみ斬りかかった。


「しまった。油断した!」

 急いで防御魔法を構えるが、防御魔法は使ってから二回目以降は五分以上かかる。

 別の方法を考えるしかない。

「どうしたら、どうしたらいいの?」

 偶然だろうか。弥生の右側にいた兵士に矢が直撃。その場で倒れこむ。

 何故か、左側の兵士も流れ矢で剣を失い、意識を失っていた。


「なんかよくわからないけど、助かった」

 安心したのもつかの間。三人目の兵士がすでに弥生の目前で控えていた。装置から右側の後列で監視していた兵士だ。

「運がいいんだろうが、俺はこいつらのように行かないぜ」

 いつになったら睦月さんを助けられるんだろう……。

 口角を左に上げ目を光らせる兵士を前に、さらに不安をよぎらせる。


 そう考えているうちに三人目の兵士の不意打ち。

「余所見していていいのかい? お嬢ちゃん」

 三人目も銀色に輝く剣。三人目も剣なの?

 今度の兵士は無差別に振り回すことはなく、弥生の様子を見ながらうかがう。

 弥生を中心にして、円を描くように回り歩いている。弥生との距離は約五メートルほどだろうか。


 どうしたらいいのかな……。

 不安のあまりか視線を逸らしてしまい、相手に攻撃する隙を与えてしまう。

 兵士の剣先が弥生に向けられ突進する。

 って視線逸らしちゃ駄目じゃん! 私の馬鹿!

 どうすればいいか周りを見渡し、二つの剣が床に落ちていた。最初戦った二人の兵士の剣だろう。

 剣はクロスするように重なり合っている。倒れ付す兵士たちの前で。


 弥生は一番上の剣を手にとってみた。

 剣そのものが光を放ち、今戦っている、三人目の兵士を足止めする。

 何か……浄化された感じがする。

 持ったときの重さが急に変化して軽くなったことに気がついた。

「なんだ!? 今さっきのは!?」

 男が両目をこすりあわせまばたきをしている。倒すならは今しかない。


 弥生は男めがけて助走をつけると、

「剣に我が魔力を乗せよ!」

 という掛け声と共に、聖なる剣となった武器でふりかざした。

「なんだと!?」

 攻撃は男に当たり、男はぐらつきながらも倒れる。


 四人目、最後の兵士。この兵士は三人目の兵士と同じ、後列で左側を守っていた男。

 自らの名を「パラディ」と名乗った。

 右手には弓を持ち、左手には矢を所持。矢筒を肩にかけて、戦闘の準備は完了しているようだ。

 パラディと弥生の距離は、三人目との距離半分ほど。やや近すぎるほどある。


 パラディは弓に矢を構えた。

「やばいっ」

 弥生は部屋の中を走り出す。そのままたっているとあきらかに矢の餌食になるのは確実だからだ。至近距離で濃い劇されると命の保障がない。

 弥生が走り出した瞬間に矢を放すパラディ。


 矢は床に落ちる事なく弥生を追いかけまわす。

「なんで追いかけてくるの~? 」

 振り返り様に言葉を吐くと部屋中を走り回った。

 部屋の真ん中まで来ると、右側の壁によりそう。

「つ、疲れたっ……」

 両手を壁に引っ付かせそのまましゃがみこむ。息が上がり周りの音がさえぎられる。

 休憩している間にもパラディは矢を放つ手を止めない。


 って、ここで休憩していたらやばいよ!

 弥生は息が上がりながらもまっすぐ前へ進む。足はぎこちなく、ひきずるように動かす。

「がむしゃらに走って……損したよ」

 と本音を漏らしたが、脚が回復することはない。

 部屋の奥までやってくるとそのまま装置の裏に回りこんだ。

「家に戻ったら体力作り、してみようかなぁ」

 あまりにも自分の体力の無さに落ち込む弥生。


「早く対策をしないと、ここにいることがばれちゃう」

 相手が弓なら、いっそ私も……。

 頭に浮かんだ策を実行するため、百メートルほど前進し、水の弓を生み出した。

「早く、睦月さんを助けなきゃ……」

 言うなり早々水の矢を取り出すとパラディめがけて放つ。


 斜めに放たれた水の矢はまっすぐパラディの元へとむかった。たとえパラディにあたらなくても、部屋全体が水いっぱいで満たされているので、痛さは感じられない。だがそれでも効果は絶大でシャルロット戦も水の矢を多数使用して計画をとめるのに成功している。

 案の定弥生の矢が水の抵抗力で威力が半減し、パンッとはじけ飛ぶが、確実にパラディの体力を削った。

 人をあやめる事をしたくない弥生にとっては一番楽な魔法でもある。


 それから三分ほどだろうか。弥生とパラディの弓対弓の戦いが続いていた。

 パラディは左右によけたり、人魚姿の弥生はくるりと空中を回っては矢に当たらないようにする。

 その戦いに幕がおろされようとしている。

 パラディが用意した矢がまもなく底切れになる。弥生の矢は何度も生み出せるので、尽きることがない。しかも体力の減りが少ない。

 そして、パラディの矢はすべて使い切りなくなってしまう。最後の矢は弥生に当たることなく装置にぶつかり床にちらばる。ただ装置にぶつかったやじりの金属音が部屋に響く。

 運悪く、用意していた武器が弓だけだったためかやることがなくなったパラディ。


 弥生はそんなパラディに向けて自分も最後の矢を放つ。すこしでも休ませてあげようという弥生の心配りからだった。

 矢はパラディの額に直撃し、パラディは床で眠りについた。気絶させただけなんだが。

 装置の内部が動めくような機械音。

 弥生は横方向から聞こえる音に耳をすませて、視線を横に向けてみる。


 閉めきった装置の扉が開かれた音である。

 四人の兵士を倒すと睦月を救出できるようになっているらしい。

 なかからやせ細った睦月があらわす。弥生があわてて睦月のそばまでつきそう。

「よかった……無事でよかった」

 弥生は涙を流し、睦月を装置から助け出せたことに喜びに浸った。

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