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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第七話 弥生とチェリーの死の真相
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弥生、チェリーの死の真相を知る

 光の塔にある小部屋

 ベエモットが弥生たちが入れられた小部屋に入ってきてから、かれこれ三十分も経った。

 いつまでにらみ合いつづければよいのだろうと、弥生は飽きを感じ始める。

 なにせ異様なにおいが染み付いた部屋。その部屋に三十分以上。

 弥生でさえ、食べた朝食を吐きそうになるほど、脳に異変を知らせている。ベットで眠ってはいるが、スリジエにも異変は起きていることは確かだろう。


 スリジエさん、無事だといいんだけど……。


「そうそう。ひとつだけ、言っておきたいことがありましてなぁ」

 ベエモットが思い悩む弥生に対してつぶやいた。

 弥生の方は、警戒心丸出しで話す。

「なんですか?」

 ベエモットさんは何をしてくるかはわからない。警戒せずにはいられないのだ。


 今度は一体何をしてくるのだろうか?


 ベエモットのほうも弥生が警戒していることにはすぐさま察知する。

「おやおや。そんなに警戒なさらなくても大丈夫ですよ。娘のチェリーのことです」

「チェリーさんの? なんで今さらそんなことを?」

 あのベエモットさんが娘さんたちに愛情抱いているのかわからないが、どうして今になって話そうとするのだろうか。っていうか。

「チェリーさんのこと、何か知ってるっていうんですか?」

「一応これでも父親ですよ? 娘の死の真相くらい知ってるのは当然と思ってますが」


 それはそうか。


 当たり前のことに質問してから気づく。質問する内容が違うということに。

 でも、娘の死の真相くらい知っていて当然?

「『娘の死の真相くらい知っていて当然』ってどういうことですか? 詳しく説明してください」

 その意味が全くわからないと、弥生はベエモットの言葉に理解できていない。

「そのままの意味です。スリジエはあなたがチェリーを殺したと勘違いしているようですが、そもそも、チェリーが何故死ぬ羽目になったか、知りたいと思いませんか?」

「チェリーさんが何故死ぬ羽目になったか……。というより、ベエモットさんは何故そんなこと、知ってるんです? ますますわかりません」


「ふふふっ。ラリアさん、あなたは面白い人だ。ますます気に入りました。いいでしょう。あなたには真実を話しましょう」

 ベエモットの口がわずかに動いた。

「実はチェリーを殺すよう命じたのは、黒の人魚族さんたちなんですよ」

 ベエモットは後ろに方向転換をする。

「最初は驚きましたけどねぇ。まさか、あの人たちが? ってね」

「えっ!? 黒の人魚族が!?」

 あの黒の人魚族が関わっていたとは。

「えぇ。そしてチェリーを殺すよう命じられたのが……」

 再び方向展開をし、弥生に顔を向けた。

「私、なんですよ。プリンセス・ラリア」

 弥生の思考が一時的に停止。驚きというより、どんな表情をとればいいか、困惑している。

 ベットで眠っていたスリジエの右手がかすかに動くが、二人は気づいていない。


 ベエモットさんが……チェリーさんを、殺した?

 でも…………。 


「チェリーさんはあなたの実の娘さんでしょう? たとえ頼まれたとしても、娘を殺せるんですか?」

「えぇ、そうですね。ですが、それが本当なんですよ」

「ベエモットさん、あなたって人は……」

 他人の親であるのは重々承知している弥生ではあるが、両手の拳を強くにぎりしめるほどの、怒りに震えていた。

「でも遠くから氷の矢を放って、あたるかどうか不安だったのですが、あたったので安心しました」


 氷の矢!?


“氷の矢”という単語に反応したのは弥生だけではない。いつの間にか目を覚ましたスリジエもである。

「どういうことよ……。ベエモット、あんた、チェリーお姉様を殺したの?」

 弥生が身体をベットに向けると、起きたてのスリジエと目が合う。

「スリジエさん!? いつの間に起きてたの!?」

 ベエモットの方もスリジエには気づかなかったらしく、

「スリジエ、起きてたのか……」

 目を見開きながらつぶやいた。


 しかしスリジエは弥生には目もくれず、ベエモットに視線を流す。

「答えなさいよ、ベエモット。あんた、ホントにチェリーお姉様を殺したの?」

「スリジエ、落ち着きなさい。興奮しすぎるのは身体によくない」

 父親らしく優しく声かけるも、スリジエには届かない。

「答えなさいよ!」

 ただ父親であるベエモットの口から真実を話してもらいたいようである。


「……あぁ、そうだ。私が……チェリーを殺した」


 スリジエは身体を震わせ、呆然と固まる。実の父親が姉を殺した真犯人と知ってしまったことへの悲しみが、スリジエの身体を興奮させていく。

 ベエモットはいいたくはなかったかのような表情で顔を逸らし、壁を見つめる。


 スリジエさん、ベエモットさん……。


 ふとスリジエの様子がおかしいことに気づく弥生。スリジエの顔を確認しようとしても、したを向いたままで、表情が読めないのである。

 スリジエは復活した代償として『もう一つの人格』を持っている。その人格に変わると、性格まで正反対になり、攻撃的になってしまうのだ。しかも、その人格になるたびに身体に大量の負担が掛かってしまう。スリジエが興奮したときに別人格になることから、スリジエが興奮しないように落ち着かせないといけないらしい。

 それでもなぁ……と心の中だけで言うと、言葉を続ける。


 スリジエさんを落ち着かせるって、結構大変なんだよなぁ。


 憂鬱そうなため息をつき、スリジエの様子をうかがう。

 やはりまだ下を向いたまま動かない。表情を読み取るのは難しいのは変わらない。

 それでも落ち着かせるための考えを、苦悩しながら出してみた。



 まず、一つ目の案。

 普通に声かけてみるとか……いや、スリジエさんには通用しない。

 逆に怒鳴られる可能性大だ。よって、一つ目の案は没。


 次に、二つ目の案。

 魔法を使って落ち着かせてみる案はどうだろうか? って!

 そんな魔法自分が覚えているはずがない。二つ目の案も没だ。



 他の案を考えねばと、頭を使ってみるも、すでに弥生の脳内は故障しかけている。

 早くしないとスリジエさんが別人格に変わってしまう。その前に止めなければいけない。

 しかし、弥生の努力ははかなく消えることになる。

 突如空気が一変したと思いきや、スリジエが別人格に変わってしまったのである。目つきはたかのようなするどい眼光でベエモットを凝視していた。


 やばいっ! 間に合わなかった!


 弥生が振り返ったときには、スリジエは姿を消しており、ベエモットに飛び掛ろうとしているところである。あのベエモットが対応できないはずがないが、こうなってしまった以上、魔法でとめるしか方法がないらしい。

 スリジエさん、正気に戻って。

 弥生は本来は防御で使うアクアシールドを攻撃魔法として、スリジエにしか当たらないよう放った。



       *



 もうまもなく十二時半になろうとしていた頃。

「ほら、早く入れ」

 とある部屋に入れられた睦月は、兵隊達に綱引きの綱のようにひっぱられた。

 ホントに荒々しい奴らだな。

 部屋の奥に装置のような機械が置かれていた。アクアワールドにない機械である。ベエモットが持ってきたものであろう。機械の周りに四人ほどの兵隊が番人していることしかわからない。

 その機械は二段重ねの円柱の形で、一番上の円柱は下よりも小さめに作られているよう。その下の円柱には人一人入れそうな扉が取り付けられていた。


 その扉の中に入れられる、とかじゃないよな?


 睦月は背中につく兵隊に押され気味に前へと進んでいく。

 一歩、また一歩と、機械との距離を縮める。

 睦月が兵隊のリーダーらしき男に

「一体、俺に何させようとしているんだ?」

 と尋ねるも、男が出した答えは、

「おまえが知ることではない」

 と返ってくるだけだった。

 機械との距離が目前まで迫ったところで、案の定、一番下の円柱の扉が右の前列で番人する兵隊によって開かれた。

 睦月はやっぱりかと扉を開ける様子を傍観ぼうかんすることしかできない。

 もちろん、リーダーらしき男に言われる言葉は、

「この中に入れ」

 だった。

 睦月は何も知らされないまま開いた扉の奥に進んでいった。



       *



 南の海

 ブルーホールの奥に位置する洞窟のさらに奥。黒の人魚族が再び集まっていた。ここは黒の人魚族の秘密のアジトとなっている。人数は先ほどと同じ十五人。

 黒の人魚族、サブリーダーの男が族長に報告する。男の見た目は二十代前半ぐらいだろうか。

「族長、王子の準備が整ったようです」

 族長と皆に呼ばれる男は満足げにうなづいた。

「そうか……では、はじめろ」

 ジェスチャーで始める合図を出すと、伝達者がうなづきアクアワールドに潜伏している仲間に伝達魔法で伝えている。

「こちら、黒の人魚族、秘密のアジト。族長の許可がおりた。さっそく始めてくれ!」

 十秒も満たないうちに返答がきた。

「こちら、アクアワールド! 了解した。さっそく始めます!」


 その言葉を聴いた黒の人魚族たちが歓喜に沸き始める。

「ついに、この時がきた!」

「あぁ、我らの時代がやってきたのだ!」

「強い味方がついているんだ! 絶対成功するはずだ!」

「アクアワールドが我らのものになれば、海堂町は手に入ったのも同然だからな!」

 隣同士の者と握手したり、中には涙を流すものも現れる。


「族長、いよいよですね」

 サブリーダーはうれしさをにじませながらしゃべる。が、族長だけは一人冷静を保っていた。

「まて、早まるな」

 部下達を一言だけで黙らせると、言い続ける。

「あの、アクアワールドの王子だ。何をしてくるかわからん。それに、我らに従うかもわからん。早まると、かえって失敗してしまう」


 族長の言葉に誰もが納得し合う。それはそうだ、と。

「どうすれば、あの王子に言うこと聞かせられるのでしょうか? 族長」

 サブリーダーの問いに族長が答えた。

「それはまず、アクアワールドの様子を確認してから答えよう」

 族長がアクアワールドの全体像を映し出すと、その映像に仰天ぎょうてんする。

「なんだ、これは!?」

「どうかなさいましたか、族長!」

 心配そうな顔でサブリーダーが映像と族長を見比べていた。他のメンバーたちも見合わせながら、私語をしている。


「アクアワールド全体に、守りの結界が張られておる」

「えぇ!?」

 その場にいた全員の声が洞窟内に染み渡り、洞窟の外まで、かすかに声が漏れ出すほどだった。

「おそらくアクアワールドの王子だろう。アクアワールドを包み込むほどの結界を生み出せるのは、王子しか存在しない」

 族長の言葉を受けて、サブリーダーが悔しさをにじませた。

「くそぅ! あの王子め、我らの計画に水を差すような真似しやがって」

「しかし、それはそれで何かいい方法を考えねばならないようだな……」

 族長は目の奥底に、殺気を溜め込ませながら言った。



       *



 天界の雲の上

 天界に住まわせてもらっているチェリーが地上で起こっている出来事の様子を見ていた。

 弥生との戦いで最後は清らかな心にもどったということで天界の長に大目おおめにみてもらい、天使にしてくれたのだ。当人は魔界や地獄に落ちるのではないかと、覚悟を決めていたが、拍子抜けした判断で天界に住んでいるということなのだ。

「もっと詳しい理由が欲しいところなんだけどね」

 チェリーはあいまいな答えに不満足のようで、もうちょっと、二つや三つほどの根拠が欲しいのだ。

「最後の最後でって、なんかねぇ……」

 しかし、天界に住まわせてもらっている身。余計な不満は口出しできない。

「ま、天界での生活も悪くないからいいけど。後は……」

 生前、スリジエと最後に会った時のことを頭に思い浮かべた。何故か涙が浮き上がり、ホロリと雲の中に埋もれる。

「スリジエのことだけ、ね」

 何かをやり残したような不快感が体中を束縛する。


 チェリーの妹、スリジエは弥生と同い年で、病弱ながら知識が豊富で本を読むのが好きだった。知識はあるが実際に海の世界をあまり見たことがない。城から出たことはあっても、範囲が限られていた。スリジエはひとつのことに熱中すると暴走するようなところがあるため、春野弥生なんかにやつあたりしないか、不安なのだ。想像した通り、弥生に戦いを挑んだり、なにか勘違いを起こしてしまっているが。


「春野弥生は誤解を解こうとがんばってくれてるのに、見てるだけって良い気分じゃないわ」

 チェリーの性格は思ったことはすぐに行動。すぐに口にだすのが板についているので、何もしないことは、束縛に当たるという本人の考え。

「大丈夫かしら……二人とも」

 チェリーがアクアワールドにいるはずの弥生とスリジエの様子を確認する。そこには忌まわしい実の父親、ベエモットもいるのが気に食わないチェリー。


  死んだあとも、あの男の顔を見なきゃいけないなんて……運がないわね、私って。


 人間にもベエモットにも天使は見えないので仕方が無い。

 しかし、チェリーの心を曇らせる出来事が起きた。

 スリジエが別人格にスイッチが入った事である。それがいかに大変なことかはチェリーが重々知っていることで、負担が膨大なのかもわかっていた。


 いけない! スリジエをとめないと!


 チェリーは地上に降りようと、しまいこんでいた白い翼を広げる。

 許可もなしに地上に降り立つのは反則行為だが、これ以上スリジエが別人格に変わり続けると大変なことになる。ルールをやぶってでも止めなければいけないらしい。

 チェリーはハイスピードで地上に降り立った。



       *



 再び、闇の塔にある小部屋

 弥生はいまだに別人格に変わったスリジエをとめられずにいる。惜しくも弥生が放った魔法はスリジエにかすれてしまい、床にぶつかった。今は暴走するスリジエをベエモットが止めている場面をやや遠くから目撃し続けているだけの時間をすごす。

 なんとかしたいと考えている弥生ではあるが、二人の戦いに入る隙がないためだろうか、黙り込んでしまっている。


 どうしたら、スリジエさんを正気にもどして、ベエモットさんの計画をとめることができるんだろうか。


 両方とめられればいいのに、と想像するだけで実現できるとは限らないのが現実というもの。

 ただ見てるだけというのも心苦しい気がしてならない、それが弥生の本音でもある。

 そこであきらめていいのか? と自分自身に問いただしてみるが、頭の上に天使と悪魔がぐるぐると回りを回っているような状況で、判断がつかない。優柔不断とはこういうことなんだろうか。

 スリジエの攻撃の威力が増していることも目にわかるが、魔法でも駄目なのになにがあるのだろう。


 ここで、チェリーさんの幽霊が現れてくれたら、スリジエさんも動きを止めそうなのに。


 スリジエはチェリーの姿を目に焼きつけただけでも過剰に反応を示す。それが別人格をとめるにも役立つが、それは睦月の力を借りることで可能な訳で、弥生一人ができるかは不明となる。

 その時、スリジエが大技を繰り出すような巨大な魔法陣を映し出した。

 さすがの弥生も反射神経を使い、びくんと反応しているが、そこで動きを止めてしまう。


 私、どうしたらいいの?


 あんな巨大な魔法陣、みたことなかったためか、内心は怖がってばかりなのだ。

 しかし、弥生は首を振った。

 こんなことでおじけてどうすると。自分に負けてはいけないと、そう心に言い聞かせていく。


 怖がっちゃ駄目、勇気を出して。


 だが、発動させようとする魔法の威力、魔力の量が弥生よりもはるかに上回りすぎる。弥生だけでとめ

るのは難しい。

 それでも弥生は心にけじめをつけると、魔法を発動させようと心みた。弥生の魔法はスリジエの魔法にかき消されて失敗してしまう。

 二度目の魔法を使おうとしたときである。

 何かが通り抜ける感覚が走った瞬間、部屋全体が閃光で覆われ、光が強すぎるのか三人とも目をつむった。


 弥生が目を開けたとき、衝撃がのしかかるも、目に刻む。

 スリジエとベエモットの間に、チェリーらしき天使が二人を止めていた場面だった。  

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