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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第六話 弥生、いざもう一つの世界へ
20/51

弥生ともう一つの世界への扉

 海堂町にある海堂中学校、3年1組の教室。八時のチャイムが学校中に響き渡る頃。

 スリジエが落ち込んだ雰囲気で黒板側の入り口からはいる。各席にはクラスメートがそれぞれ座り、SHRが始まるのを待ちわびていた。この時間ですでにクラスメートが席でおとなしくしているのは初めて見た気がする。

 いつもならこの時間は騒いでうるさいくらいなのに。何かあるのだろうか。抜き打ちテストでもあるのだろうか。

 ま、抜き打ちテストがあっても満点取れる自信はあるけどね。

 自信に満ち溢れた顔をしながら自分の席につく。スリジエの周りの席に座っている男子たちがスリジエを見つめている。その表情はうっとりと頬を赤らめ、鼻の下を伸ばしているほど。しかしスリジエはそのことには気がついてはいない。

 しかし、それにしても……。

 席についたとたん、表情を曇らせる。

 ベエモットから冬川君を助け出す事ができなかったわ。ベエモットの計画は刻々と進んでいってるというのに。

 やっぱり、仇に集中しすぎてベエモットがこの町にやってくるということを気づいていなかったのが悪いのかしら? でも、いまさら後悔しても遅い。これからベエモットの計画を止める方法を考えなくては。

 まずはやはり冬川君奪還から先ね。ベエモットにとって冬川君は最重要キーであるには間違いないのだから。

 その時、スピーカーから放送が流れた。

『全校生徒にお伝えします! 今から全校生徒は自習とします! 繰り返します。今から授業は……』

 自習!? 何かあったのだろうか? まさか! ベエモットが何かしたのか!?

 何をしたかはわからないが、探っておいた方がいいだろうか。

 ベエモットが何かするとすれば校長ぐらいだろう。それか担任か。

 とにかく直接聞いてみればわかることだが。

 その時スリジエが入った入り口から弥生が入ってきた。今来たようだ。相変わらず危機管理がない女だ。だがその表情は悲しそうな曇った表情に見える。何かあったのか。

 あったとすれば冬川君絡みに決まっているが。

 もしかして、冬川君がベエモットに連れ去られたのを知って?

 スリジエはしばらく考え込むが、あきらめたような顔つきで横に首を振った。

 いや、あの場に春野弥生はいなかった。冬川君の携帯はベエモットにより切られているだろうから、春野弥生は冬川君がベエモットに連れ去られたことは知らないはず。

 もしかすると、冬川君のことが心配になって携帯にかけてみたが、出ずに不安になっているといったところか。

 そういえば……!

 何かを思い出したような表情に変わると、弥生の席をちら見した。

 確か、もう一つの世界に通ずる扉を開けるには、白の人魚族の者が一緒でないと開かないと聞いたことがある。

 春野弥生は北の海出身。北の海は白の人魚族の血を引いている者が住んでいる。

 春野弥生を連れていけば……。

 スリジエがごくりとつばを飲み込んだのとほぼ同時に、担任が教室に入ってくる。

 表情は険しく、まるで怒った鬼のようだ。やはり何かあったのだろう。

 でなければあんな表情するはずがない。

 どうする……? ここは一時休戦して春野弥生と手を組むか?

 スリジエの中にためらいと後ろめたさがぶつかり、さらに迷い込む。

 しかし……姉の仇と手を組むなんてしたくない。でもこのままじゃあ、冬川君がベエモットの餌食になってしまう。それは避けたい。

 悩みに悩んだ結果、ある決断を下す。

 ええぃ! もう、こうなったら強行で春野弥生を連れていく! 

 スリジエは立ち上がり、椅子がぐらぐらと揺れだす。弥生の席へ直行すると一言。

「荒川先生っ! 私と春野さん、具合が悪いので早退します!」

 スリジエ以外の教室にいる全員が口をあけたままぽかんとした。もちろん当の弥生も口を開けたまま動かない。

 荒川先生があっけにとられたままく口を開く。

「い、今……来たばかりだが、大丈夫か……?」

「はいっ! 具合が良くなったらまたすぐにでも来ます!」

「そ、そうか。わかった……」

 荒川先生はうなづくと出席簿を開き、何かを書き込む。

 スリジエは弥生の左手首をつかむとそのままひっぱって歩き出す。弥生は頭の中で混乱したまま連れ去れることになった。



       *



 睦月の故郷・もう一つの世界 城の王座の間

 赤の生地が目立つ王座に座っている国王。頭には国王を示す、赤くきらびやかな王冠。あごには白いひげを生やし、おなかが出ている肥満体型。

 国王の手には家族三人が写った写真がある。写真には国王である自分と、妻である王妃。そして一人息子の王子。息子は『海堂町に異変が起きた』とかどうとか言って、もう一つの世界から出て行ってしまった。

「終わったらすぐ戻るから、安心して待っててほしい」

 と言い残して行ったのだが、早くその時が来ないか待ち遠しいのだ。

 そのため、毎日三回以上は写真を見ないと落ち着かない。

「あぁ……我が息子よ。いつになったら帰ってきてくれるのだ。父さんは待ちきれないぞ」

 はぁとため息がもれると、再び写真に目線を戻す。

 やっぱりうちの息子はかわいいなぁ~。世界一かわいい!

「こ、国王さま~! た、たたたた、大変っです~!」

 駆け足でやってきた大臣に邪魔され、国王はむすっと頬を膨らせた。

「なんじゃ。わしの幸せのひと時を邪魔するなど……許せん!」

 国王の手から剣が現れるのを目撃すると、大臣は慌てて頭を下げる。

「そ、それは謝ります! そんなことよりも、大変なんです!」

「そっ、そんなこととはなんじゃ! そんなこととは!」

「すみません! ですが……突然男が城に乱入……」

 大臣の話を聞かずに国王は言葉を発す。

「その男ってなんだ! 誰もいないじゃないか!」

「その男というのは、わたしのことではないでしょうか」

 国王と大臣が後ろを振り返ると、いつの間にか一人の男が立っている。

「貴様はベエモット! なぜおぬしがここにおる! 貴様にはここに来られないよう、術をかけたはずだ!」

 もう一つの世界をさわがせた男・ベエモットその人だった。

 ベエモットが国王たちに向けて笑顔で語る。

「この子のおかげで術をかけられても入ることができたのですよ」

 ベエモットが出現させたのは透明のカプセルに入れられた、この世界の王子・睦月だ。カプセルは操られているように宙に浮いていた。

「む、睦月か!?」

「王子!」

 国王と大臣は宙に浮くカプセルを見上げて、目を丸くした。数回パチパチと、拍子抜けした瞬きをする。

 国王が我を取り戻すと、カプセルにめがけて走り出す。

「我が息子よ! 今、助けてやるぞ!」

「こ、国王さま! 無茶です!」

 大臣の忠告も聞かずベエモットに突進していく国王。カプセルに手を伸ばそうとした時だった。

 ベエモットは腹部に拳の一撃を加える。一撃を加えられたことで国王の足元がふらつく。

 床に手をつく国王を見下げながらつぶやいた。

「困るんですよ。王子を取り戻そうとされちゃあ。今大事な計画を進めているんですから」

「大事な……計画、だと? 我が息子をどうするのだ!」

「このアクアワールドの支配に王子の能力が必要なのですよ、国王」

「なんだと!?」

「という訳で……王子に何かされたくなければ、おとなしくその王冠を渡してもらいたい」

 王冠を渡すということは、世界を自分に渡せと言っているようなもの。

 やっと手に入れた国王の座を、明け渡すなどできるか!

「断る! この王冠を渡すなど断固できん!」

「それは……支配欲からですか? 国王」

「貴様に言われたくはない! 自分の子供を愛していない父親などに!」

 国王に指をさされたベエモットが、落胆のため息をもらした。

「そう、ですか。ならば、仕方ありませんね……」

 ぱちんと指を鳴らしたとたん、城の兵隊が整列して現れる。

「この者たちを牢屋に入れておいてください」

「はっ! かしこまりました、ベエモット様!」

 くるりと国王と大臣に身体を向ける兵隊達。

 ベエモットはその場から去ろうとする。

「わたしはやることがあるのであとはまかせましたよ」

 宙に浮いていたカプセルも存在しない。ベエモットが隠したのだろうか。

 何はともあれ、あの男は何を考えているのだ。城の兵まで従えて……。

 城の兵に詰め寄られながら、悔しそうに歯軋りを立てる国王だった。



       *



 海堂町にある海堂中学校、校長室。八時十五分を回った頃。

 弥生はスリジエにつれられて、校長室に来ていた。

「あ、あの~スリジエさん、どうしてまた校長室に?っていうか私、具合なんて悪くな……」

 しかしスリジエがすべてを言わせずしゃべる。

「うるさいわね。ごちゃごちゃ言わず、黙って私についてくればいいのよ」

「で、でも、校長室に何の用で一体……」

「入ればわかるわよ」

 スリジエの手が校長室のドアノブにさしかかった。もう片方の手はドアをノックする。

「失礼します、校長先生。スリジエです。入ってもよろしいでしょうか?」

「あぁ……」と校長のか細い返事がドア越しに聞こえた。

 スリジエがドアを開け、部屋の中へと入っていく。弥生も遅れないよう、あとをついていった。

 そこには青ざめた表情でソファーに座る、校長先生の姿がある。スーツはシックな黒スーツだが、表情がそのスーツの色に同化しているようだ。

 いつもは笑顔が絶えない校長先生のはず。なのにこんなに落ち込んでいる校長先生、初めてみた……。

 弥生は右隣のスリジエを確認するかのように横目する。スリジエも弥生と同様、驚きを隠せないようだ。視線を校長に戻すと話を切り出す。

「あの、校長先生……一体何があったんですか?」

 校長先生は一旦唇をかんでいたが、ためらいながらも口を開いた。

「脅迫状が届いたんだよ……。昨日会ったベエモットって人から」

「えぇ!?」

 弥生とスリジエは同時に声をあげる。スリジエもはじめて知ったらしい。

 スリジエが驚きが消えないまま校長に話を問いかける。

「一体何があったんですか! 脅迫状ってどんな内容だったんですか!」

「何故脅迫状が送られてきたかは知らないが、今朝、私が持っている「もう一つの世界」の鍵を貸してほしいと。要求に応じなければ海堂中学校を校舎ごと破壊すると書いてあったんだ……何故こんな事をするのかさっぱりわからなくてね」

 校長は頭を抱え考えこむように両手で髪をくしゃくしゃにする。相当困り果てているようだ。

 スリジエはその話を聞いてか、ある話を切り出す。

「今朝……冬川君を見かけたんです。そこではベエモットが冬川君を気絶させ、連れ去ろうとする場面だったんです。私は、私は止めることができず……」

 睦月さんが……ベエモットさんに連れ去られた? 一体、どういうこと?

「父は言ってました。「計画のために王子が必要なのだ」と。もしかすると、校長に送られてきたという脅迫状、父の計画に、なんらか関係あるのだと思います」

 スリジエさんのこんな表情をするの初めてみた……。

 スリジエの目には涙を浮かべ、歯を食いしばって悔しそうにする。

「父は自分の願いのためならば、なんでもする男です。何をしでかすかわかりません。その前に、私が止めます! なので……」

 スリジエは一歩前へ踏み出し、一言。

「もう一つの世界への行き方、知っているなら教えてください!」

「スリジエさん……」

 弥生は隣で聞いていて心が打たれたのか、感慨深そうにスリジエを見つめる。

 そして弥生もまた一歩前に踏み出すと頭を下げた。

「私からもお願いします! 校長先生、今は校長先生の力が必要なんです! 睦月さんを助けるためにも! 校長先生、力を貸してください!」

「だがしかし……」

 ためらう校長に弥生とスリジエは、ここぞとばかりに頼み込んだ。

「校長先生、お願いします!」

 息のあった二人を見てか校長は口元を緩ませる。

「……わかったよ。君達の熱意には負けたよ。さすが人魚国のプリンセスたちだ」

 弥生とスリジエは顔を上げ、互いの顔を見合わせた。二人がひそひそ話をはじめる。

「あんた……自分の正体、校長にばらした?」

「う、ううん! 一度も言ったことないよ! スリジエさんは?」

「言ってないわよ! そんなの、当たり前でしょ! 正体ばらしたら泡になるのよ! 泡に!」

「じゃ、じゃあ校長先生はなんで……」

 二人は好調の顔を疑い深そうに見つめた。


 弥生は耐え切れず校長におそるおそる質問をする。

「あ、あの~校長先生。き、聞きたいことが……あって。どうして、私達の正体を知って……」

 しかし校長はただ笑顔で答えるだけ。何も話そうとはしない。

 代わりにもう一つの世界について話し始めた。

「そういえば、もう一つの世界の扉について聞きたかったんですよね? 私が知っている限りをお話しましょう」

「は、はぁ……」

 弥生もスリジエも困り果てたような顔でうなづく。しかし腑に落ちない感情が抜けない。

 こ、これで……いいんだよね?

 弥生は顔を引きつらせながら校長の話に耳を傾ける。

 校長が一度ソファーから離れると、大きな書斎の引き出しから一つの鍵を取り出す。引き出しを閉めると弥生たちの前にやってきて、鍵を渡した。銀色のどこにでもありそうな鍵。天井の明かりで鍵が星のようにきらめく。どこもおかしいところはない。

 しかし鍵には何かの紋章が刻まれてはいるが、弥生にはわからない。なにせもう一つの世界自体、どんな場所なのか知らないため紋章もどんなものか知らないのだ。もう一つの世界はその名の通りもう一つ世界が存在しているかもしれないという理由で付けられた通称。弥生も含めて誰もその世界に足を踏み込んだ事はないのである。

「あ、あの……これは、もしかして……」

 二人が校長の顔と鍵を見比べるのに対し、校長は当然のごとくうなづいた。

「あぁ、そうだ。これが……ベエモットさんが欲しがっていた鍵だ。そしてその一つは鍵は二つあってな。もし誰かに複製された場合を考え、わざと同じものを二つ用意してあるんだ」

「へぇー、そうなんですね」

 弥生は興味ぶかそうな声をあげるとうなづいた。

 しかし校長は話すのに夢中で弥生の反応に気づかない。

「しかし……迷っているうちにしびれを切らしたのか、ベエモットさんが現れて……もう一つの鍵は盗まれてしまったが。ところできみたちは扉を開ける呪文や条件は知っているかね?」

「い、いえ……知りません」

 弥生は横に首を振るが、スリジエは迷いながらも口にする。

「扉を開ける呪文は知りませんが……扉を開けるための条件なら知ってます」

「ほぉ……さすがスリジエさんだ。して、その条件とは」

「はい。もう一つの世界と関係深かった北の海の人魚国の者を連れていくことが条件だと聞いています」

 そ、そうなの!? そんなの、初めて聞いたよ!

 北の海の人魚国ではそんな話は一つもしていなかったのに……いや、外部に漏れてはいけないと、お父様たちが口止めしていたのかもしれない。

「なので、春野弥生さんを連れていけば……扉が開かれる準備は整うかと」

「確かに。だがそれだけじゃあ、扉は開かんぞ」

 スリジエが「えっ」と声を漏らした。下を向いていた弥生も思わず校長の顔を見上げる。

 校長は話を続ける。

「もう一つ、必要なことがある。それは……北の海の人魚国の者が、『聖なる声』で『聖なる歌』を歌うことなのだ」

「聖なる声で……」

「聖なる歌を歌うこと……?」

 弥生とスリジエはまだぽかんとした顔で校長を見つめたままだ。

 こ、校長がそんなことを知っていたなんて……知らなかった。

「そうだ。さすれば、あとはその鍵を扉に向かってかざせば、扉は開かれるだろう。代々いざというときに人魚国のプリンセスたちに伝えるのが、私達の役目だったが……何とか果たすことができた」

 こ、校長先生ってほんとに一体何者?

「早く行きなさい、二人とも。今ちょうど扉が現れているが、扉が現れている時間は限られている。急いで向かわないといつ現れるかはわからない。扉が消える前に行くんだ!」

「は、はい!」

 弥生とスリジエは力強くうなづくと走り出し、校長室を出る。

 弥生は一度振り向くと笑顔で会釈した。

「校長先生、いろいろありがとうございます! 失礼しました!」

 身体の向きを戻すとスリジエの後を追い始める。




 弥生とスリジエは弥生が通る通学路の商店街を、全速力で駆け抜けていた。時刻は八時二五分。

 商店街を歩くお年寄りたちはあっけに取られた顔で弥生たちを見る。

「まさか、校長先生がもう一つの世界の扉を守る『番人』だったとはね……」

 走りながらつぶやくスリジエに、弥生がきょとんとした声で質問する。

「番人……? 番人ってあの番人?」

「それしかないでしょ、普通番人って言ったら!」

 スリジエに怒鳴られて、弥生は「ごめんなさい……」と小言で話す。

 それでも話を変え、スリジエの機嫌をとろうとしてみた。

「でも『聖なる歌』について聞き損ねちゃった。どうしよう……」

「それは大丈夫よ。それは私達しか知らない歌でなきゃ、『聖なる歌』なんて呼ばれないわ」

「おぉー! 確かに」

 弥生は納得したような顔でうなづく。

 スリジエはやっぱ頭がいいなぁ……。私、そこまで頭になかったよ。

「それに扉は人々が一番多く集まる場所に現れる。現れる場所は海堂町で一番大きな図書館、海堂図書館ね」

 海堂……図書館。

 私はスリジエさんのように頭が良いワケじゃないし、魔法も上手く使いこなせないけど、今は私にやれることがある。睦月さんを助けるため、できる限りことをやってみせる! たとえ、ベエモットが強かったとしても、私は負けない。

 取り戻して見せる! 睦月さんを!

 弥生はスリジエの後を追いながら、もう一つの世界に通ずる扉を目指した。



       *



 弥生たちがもう一つの世界に通ずる扉を目指している頃。海堂中学校の校長室。

 あの子たちは無事、扉の場所までたどり着けるだろうか……。

 校長は弥生たちが部屋から出て行ったあと、ずっと窓を見つめたままたっていた。

 たとえ番人であっても扉の場所を教えることだけは許されない。これも試練の一つだからだ。彼女達が自分で見つけないと扉は現れない。たとえ人魚国のプリンセスたちであっても。

 しかしあの子達なら大丈夫だろう。あの子達は芯が強い。どんな困難にでも立ち向かう勇気がある。

 きっともう一つの世界の王子を救ってくれるだろう。

 そこに弥生たちの担任である荒川先生が、ドアをノックしてから入ってきた。

「校長先生、じつは……」

 校長は荒川先生に体を向けると、すべて知っているような顔でしゃべる。

「大丈夫だ。彼女たちを信じたまえ。彼女たちは人魚国の王女だ。彼女達ならきっと救ってくれる。信じて待ってよう」

「校長先生、ですが。スリジエ王女様には……もう、時間が残されていません」

 荒川先生は悔しそうに歯軋りを立てている。感情を抑えきれないようだ。

 荒川先生をなだめるように校長が話を続けた。

「……それも神が定めた運命だろう。私達が介入することはできん。たとえ番人であったとしても」

「校長…………しかし!」

「大丈夫だ。夢石の継承者であるラリア王女様もいる。彼女ならばきっとスリジエ王女様を守ってくれるだろう。夢石と共に」

「校長……」

「だから、信じて待とうじゃないか。二人の王女様たちを」

 校長は荒川先生をなだめると、体を窓側にむけ窓の外に映る空を見守っていた。

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