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弥生ともう一つの世界  作者: Runa
第四話 弥生、スリジエと恋敵になる
14/51

弥生と悪化していく事態

 睦月は屋上へと続く階段前まで来ていた。刻々と昼休みが終わる時間が迫り始めた頃。

 その時だった。かすかに残る魔力を読み取る。あきらかに尋常ではない魔力。あの夢石と同等の強さを持つ。スリジエだろうか。

 数秒間考え込み、首を横に振った。

 いや、違うだろう。もしスリジエであれば、弥生の魔力も残っているはず。それがないということは、二人はまだあの屋上にいるということになる。だとすれば、この魔力の気配は誰のものだろうか。

 なにげに階段に目を向けたとき、誰かが階段から降りてくる足音が響く。睦月は廊下の窓側に移動すると、顔を見られないように後ろを向ける。

 ちら見したときに顔を一瞬だけ確認できた。

 あれは秋村葉月だ。その顔は険しそうに見えた。

 何故があいつがここにいるんだ? 秋村なら教室にいたはず。

 もしかして、屋上で何か起きたのか? だとすると一刻の有余ゆうよもない。

 急がなければ。春野のことが心配だ。

 スリジエが暴走しなければいいが……。

 葉月に見つからないよう、忍び足で階段に近づく。

 今度は葉月の周辺で別の声が聞こえた。聞き覚えがある。同じクラスの誰かだろうか。

「葉月、ちょっと話があるの。いいかしら?」

 その声は夏野皐月だ! 二人は確か犬猿の仲で口も聞かないほどと聞いたが。

「皐月? 何の用よ? 今忙しいのよ。あとにしてくれる?」

 葉月の声は不機嫌そうだ。

 皐月が話を続ける。

「今じゃなきゃ、駄目なの。ちょっと……伝言をね」

 伝言、だと? どういう意味だ?

「伝言? ……わかった。でも少しだけよ」

 二人が距離を置くように階段を下りていった。


 睦月はため息つくと、額の汗を右手の甲でぬぐう。

 なんだあの二人は? 本当に仲が悪いのか? 今の会話を聞いても仲が悪いようには見えないが? まるで仲間同士で連絡を取り合うわけじゃないが、そんな感じのような雰囲気だったな。

 あの二人にはきっと裏があるかもな。

 一応調べておく必要がありそうだ。もしかすると、黒の人魚族と関わりがあるかもしれない。

 睦月は不信感を抱きつつも、重い足取りで階段を上って行った。



       *



 少し時間を戻して屋上が続く階段では。昼休みが終わる十分前。

 葉月は階段を下りながら考えていた。スリジエのことである。

 もし、スリジエが睦月さんに好意を持っているとしたら、まずい。相手が悪い。

 だが。

 いきなりやってきた女なんかよりも、少しでも長くいる私のほうが睦月さんのことをよくわかっている。まぁ、さすがに弥生には負けるが。

 考えていたときに、葉月の前に真剣な眼差まなざしの夏野皐月が現れる。

「葉月、ちょっと話があるの。いいかしら?」

 皐月が一体何のようだ? 報告ならまだ先のはずだが。

「皐月? 何の用よ? 今忙しいのよ。あとにしてくれる?」

 葉月は不機嫌そうに答えた。


 なぜ私が皐月なんぞの話を聞かなければいけないのだ。それだけでも腹が立つ。


 皐月が話を続ける。

「今じゃなきゃ、駄目なの。ちょっと……伝言をね」

 伝言ってことはなにか事態が変わったときに伝えられる。

 まぁ、聞いてみる価値はあるかもしなれない。

「伝言? ……わかった。でも少しだけよ」

 二人が距離を置くように階段を下りていった。




 二人は中庭までやってきた。もちろん人目につかない場所にいる。

「伝言って何? 報告ならまだ先のはずでしょ?」

 葉月の言葉に皐月は微笑み口にする。

「あの方……御前様からあんたにって、伝言を預かってきたの。聞きたい?」

 葉月は目を見開き、驚きの声をあげた。

「ご、御前様から!? ちょっ、どういうことそれ!」

 御前様が私に伝言がある? どういうこと? 何があったというの?

 呆然と口を半開きにする葉月をよそに、皐月が小悪魔のような笑みで伝える。

「例の計画だけど、葉月、あんたにはおりてもらうことになったから」

 なっ……それはどういうことだ? 私が計画からおりる?

「お、おりるっ? わ、私が? ちゃんとわかるように説明しなさいよ!」

「まぁ、つまり……」

 皐月は葉月に近づき、耳もとでささやいた。

「用済みってことよ」

 葉月皐月の言葉に、頭の中は真っ白となる。

「用……済み? どうして…………」

 御前様からの伝言が……私はもう必要ないって……。

 皐月は葉月の顔を見るなりにやりと笑う。

「どうしてって、簡単にいえば、計画をまったく進めていないからよ。弥生を憎んでいるとはいえ、少し近づきすぎたわね。それに、計画の目的である『夢石』を、継承者からはずすことが出来ていないし」

 葉月から離れ、振り向く。

「さすがの御前様も相当お怒りのご様子だったわよー。だから、代わりに私が計画を進めることになったの」

 葉月が否定するように大きく横に首を振る。

「う、嘘よ! 御前様がそんなこと、言う訳…………」

 だが、皐月は否定しない。

「嘘じゃないわ。これが、事実よ。ということで例のカード、私がいただくわね」

 いつの間にか葉月から盗み取ったカードを、左手に持っている皐月。

 あのカードは例の計画を進めるための重要なキーである。

「一応、伝言はしたわよ。そういうことで、じゃ」

 私は……もう、いらない。御前様は私をいらないと……。

 歩き去る皐月をただ単に見つめながら、立ち尽くす葉月だった。



       *



 一方、屋上では激しい攻防戦が続いていた。

 しかし弥生はスリジエと戦うのを迷っていた。本当にスリジエと戦うのが良いことなのかを。

 スリジエはチェリーの妹だ。チェリーが一番、大切に思っていると考えられる人物。

 そんな人と戦っていいのだろうか? ちゃんと伝えるべきものはちゃんと伝えておくべきなのではないだろうか。


 “もし、妹に会うことがあるのならば、約束、果たせなくてごめんなさいと伝えてほしいの”


 最期に耳元でチェリーに言われた。

 その言葉を伝えるためにも、戦わずにスリジエさんの暴走を止める!


 その時だった。

 久しぶりにラリアの声がささやいた。



『弥生っ! お願い、スリジエと戦って! 今のスリジエは敵よ!』



 今の……スリジエさんは、敵……………………?



 一瞬、頭の中が空っぽになった感覚。なにを言っているのか、わからない。

 チェリーも私が戦っているときに亡くなった。それでもし、スリジエも同じようになってしまったら……。


 出来ない! 私には……出来ない!


 弥生は大きく横に首を振った。

 その時、スリジエと目が合ってしまった。だが、スリジエの様子が何かおかしい。

 頭を抱えてもがくように、座り込んで苦しんでいる。息遣いも荒い。どうしたというのだろうか。

 もだえ叫んだと思えば、おなかを抱えて苦しむ。どこかおかしい。病弱だからとかそういう問題ではなく、また別の何かが起きているような感じだ。まるで別人格に変わったスリジエが壊れたように見える。

 何が起きているの? 何があったの? どうして?

 スリジエさんに声をかけたほうがいいだろうか?

 弥生は意を決して、スリジエに声をかけてはみるが、

「スリジエさん、大丈夫……?」

「うるさい! 黙れ!」

 相手にしてはくれず。

 まぁ、当然と言うべきだろうか。

 スリジエは赤い眼光で雄たけびを叫ぶ。叫んだ直後、現れた黒い玉が変形し剣に変化する。そのつるぎを手に取り弥生をにらみつけた。

 何をするつもりなの? 

 弥生はごくりとつばを飲み込むと、後ずさりする。いやな予感が背中をよぎった。

 明らかに攻撃の精度が上がってきている。もちろん、威力もあがっているだろう。もし、それに当たってしまったら、今度は体力が減るどころでは済まされない。

 弥生が不安なのはそれだけではなかった。

 黒い剣は青いもやを発しながら威嚇していた。それをそのまま自分に向けてくるなんてことは……。

 案の定、弥生の予想は当たっていた。

 スリジエが剣を強く握り、弥生に迫ってくる。

「春野弥生 絶対、許さない! チェリーお姉様の仇!」

 やばい! こっちにくる! な、なんとかしなきゃ!

 弥生は必死で誤解を解こうとする。

「違う! 私じゃない! 私はただ……チェリーが心配で駆けつけただけで…………」

「うるさい! あんたなんか、あんたなんか――死ねぇ!」

 聞く耳すら持たない。

 ど、どうしよう! このまま攻撃受けて、倒れちゃったりしたら…………今度は生きて帰れるかなぁ。

 や、やっぱり、誰かに相談して助けを求めるしか……でも、卑怯だとかスリジエさんに言われたりしたらやばいし、かといって、攻撃をまともに受けるわけにはいかないし……。

 あぁっ。どうしたらいいの?

 慌てふためき、屋上を見渡す。目はしどろもどろになる一方だ。

「春野弥生、死ねぇ!」

 スリジエの走るスピードが増す。弥生はスリジエの攻撃を左によけ、走り出す。

 っていうか、これじゃあ中庭のときと変わらないじゃん!

 自分に言い聞かせるが、走り出した足が急に止まるはずもない。

 当然、攻撃をよけられた側も攻撃をさらに加速させていく。

「春野弥生、逃げるな!」

「そ、そんなこと言われても、あ、足が勝手に動いて……」

 弥生がつぶやいたとき、屋上に落ちていた小石につまづきこけてしまう。

 まずい! 今こけたら、攻撃を受けちゃう!

「逃がすものか!」

 スリジエは剣を空に掲げ突進してきた。

 ど、どうしよう!

 弥生の身体は恐怖で動かない。また、倒れてしまうのだろうか。

 今度は学校の屋上で……。もう、どうしようもないの?

 数秒目を閉じ続けるが、攻撃が弥生に当たった気配がない。どういうことだろうか。

 おそるおそる目を開けると、弥生の前に倒れる睦月の姿。

「む、睦月さん! ど、どうして睦月さんが!?」

 おそらく、弥生の代わりに攻撃をくらってしまったらしい。

「睦月さん! 大丈夫? しっかりして!」

 睦月が目を開き、身体を自力で起こす。

「だ、大丈夫だ……今はスリジエをとめることだけ、考えろ」

 睦月はそういうと立ち上がり、手中に炎を出しそれを使って幻影を作り出した。

 弥生がみたことのあるチェリーのシルエット。スリジエのお姉さんだ。

 そうか! それを使ってスリジエさんを止める気なんだ!

 睦月さんはスリジエは必ずなにかしらの反応はするだろうと読んだんだ!

 炎で作り出されたチェリーの幻影にスリジエは戸惑い動きを止める。

「チェ、チェリー……お姉さま?」

 睦月の読み通りだ。スリジエが手から剣を放す。剣は床に落ちた瞬間、一瞬で消え去った。

 幻影は役目を終えたかのように小さくなりながら消えていく。

 弥生はスリジエに声をかけた。

「スリジエさん! スリジエさん、聞こえる?」

 睦月と弥生はスリジエが正気に戻るのを待った。

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