~佐藤猛~
この回の話では少しながら性的な描写がありますので、嫌な方はスルーしてください。R-18にしなかったのは、その表現自体がR-18になるかどうか、自分では付かない程度だと思ったからです
さて、ここで君に質問しよう
イロイロと言いたいのだが、何を聞こうか迷っている顔をしているな。すまん。急だが、とりあえず答えてくれ
急に聞かれても困る?それでは私が困る。まぁ、実際困るのは君なのだがね
実は、君は残り24時間しか生きていけないのだ
おいおい。そんなにがっかりしないでくれ。どうせ今の命が終わったとしても、また新しい命として生きていくのだから
いいかい?君がどんなことをしようとも24時間後には君の命は尽きる。それだけは覚えておくんだ。そろそろ夢が終わる。最後の一日はせいぜい楽しく生きていけよ
とてもいやな夢を見た
自分があと24時間しか生きていけないと言われた夢だ
時計を確認する。今は2013年7月8日4時39分6秒
たぶん夢の言うとおりだとすれば、明日のこの時間帯に俺は死ぬのだろう
外はまだ陽が昇っておらず暗い
所持金を確認する。1万3754円
一人で一日使うには多いのかどうかわからない
そもそも、俺は本当に死ぬのだろうか?夢が見せたドッキリなのではないだろうか?
考えれば考えるほど、推理の糸は絡まり解けなくなる。お手上げだ。まずは身支度をしよう。汚い格好のまま死ぬのはイヤだ
箪笥の中から着替え等を出し風呂場に向かう
朝から浴びるシャワーは気持ち良かった。気持ち良いのだが、気持ちが晴れない。当然といえば当然だが、少しは気が晴れると思ったのだが
シャワーも浴び、着替えも済んだ。次は朝食。冷蔵庫を開く
何も入っていなかった。いっそのことなにも食べないで過ごすか。そういう考えも頭をよぎったが、やはり腹が減っては何も考えられない。コンビニに買いに行くことにした
買い物途中、店の中にあるATMやレジから金を盗ることも出来る事を思いついたが、最後の最後でそんな馬鹿げた事はしないほうがましだと、理性が勝った。最後くらいは静かに死にたい
買い物途中、背後から何かの気配がする。もしや誘拐犯か?それにしても早すぎる。まだ23時間ほど余裕があるが
「タカちゃ~ん。今日は朝早いね。どったの?」
近所に住んでいる腐れ縁の奈々が前に出てきた。素早い
「目が覚めて、家に食料が何もないからだ。お前も早いな。朝帰りか?」
「そんなわけないでしょ!散歩だよ。散歩。嫌な夢を見て起きちゃったからさ」
顔を真っ赤にして怒る奈々は、小学生のように幼く見えた。実年齢は22なのだが
「そうか。なぁ今日暇だったらどこかに遊びに行かないか?就活の息抜きとしてさ」
大学4年の俺はほぼ毎日、イロイロな企業を廻って職に就こうと必死で、精神まで疲れきっている。奈々はどうだかわからないが、同じようなものだろう
「どうしたの?私とデートしたいの?それと、私は去年のうちに内定もらってるから今まで落としてた単位を取ってるだけだよ」
もじもじと体をくねらせながら俺の腕を突くことはどうでも良いのだが、言っていることに腹が立つ。いつの間に内定もらってたんだお前は
「そうかい。内定もらってる人は息抜きなんかいらないな。俺は他の就活で困ってる奴と遊びに行くからな」
我ながら子供じみていると思う。ただ、こういうやりとりも今日までのこと
「ごめんごめん。それでどこ行く?私、今見たい映画あるんだ。一緒に観に行こ。タカちゃんが良かったら、その後ホテルとかでも良いけど」
童顔の癖に育つところが育った体で突かれた腕を包む。両方からくる肉感がたまらなく気持ち良い
「ホテルに行って何するんだ。そんじゃ映画に行くとして、どうする?待ち合わせとかするか?」
「じゃあ久々にタカちゃん家に行こうかな。どうせこの格好で遊びに行くし」
ただの散歩だというのに、奈々はジャージなどを着てなく、コイツがお気に入りの真っ白なワンピースを着ている。不思議なものだ
「嘘を言うんじゃない。最後に来たのは一昨日だろうが。お前の友達と一緒に呑んだときなんだから」
ははは。と奈々は笑いながらスッキプしつつ俺の横まで来ては腕に頬ずりをする。今日はいつもよりスキンシップが多く、いつもなら俺が奈々に触れようとすると怒るし、自分からは俺に触れようとしない。もともと気まぐれなところもあったが、今日はとても機嫌が良いのだろう。せいぜい怒らせないように注意しながら生きていこう。最後の一秒まで
家に着いた俺はとりあえず、買ってきた食糧を胃に収める。俺が食事している間、奈々は俺のベッドに飛び込んでゴロゴロとしているか、寝に入ろうとしている。これから映画を観ようと言った張本人なのだが
「ねぇ~。タカちゃ~ん。一緒に寝よ?」
甘ったるい声で奈々が呼ぶ。そうだ。やけにスキンシップが多いと思ったがこういうことだったのか。すっかり忘れていた。目も据わっているし、顔も赤い。完全にスイッチが入っている
「おいおい。映画はどうするんだよ?見に行かないのか?」
「まだ映画館開いてないよ。それに明日も休みなんだから、映画なんて明日にして今日はいっぱいシよ」
こうなってしまってはもうどうすることも出来ない。発情期に入ってしまった奈々の気が済むまで体を貸すしかない。それしかすることがないのだから
「映画は明日。それで今日は一日中SEX三昧か?お前も物好きだよな。俺としたいなんてよ」
明日なんて俺には来ないから映画なんて観れないが、問題なんかないだろう。最後の一日が幼馴染とSEX三昧という堕落しきった一日というのもまぁ面白いだろう
「物好きじゃないよ。私はずっとタケちゃんしか見てないんだから。覚えてるでしょ、私の初めて奪ったのはタケちゃんだし、私はタケちゃんとしかしてないんだってこと」
「そうか、良いんだな。俺もしばらくしてないから抑えられないぞ」
ベッドに近づきながら着ているものを脱ぎ、そこらへんに投げる
「うん。来て。タケちゃんの全て受け止めるから」
奈々の唇を優しく塞ぐ。柔らかい感触が心地良い。一度離し再び口付ける。今度は深く
舌を絡め、唾液を交換し、お互いの唇を貪る
長い間、キスだけすると奈々の顔にしまりがなくなり、緩みきっている
「ねぇ。早くほしいよ。お願い、早く頂戴。あっ、でも頭なでなでして」
ワンピースを脱がすとノーブラだったのか豊満な胸や、綺麗な身体が露わになる。いつ見ても惚れ惚れする俺好みの身体だ。しかし、どうもこの時の奈々は頭をなでてと言ってくる。どうも、安心するのだと。なでてやると、満足したのか満面の笑みで軽いキスを頬にくれる
そしてたわわに育った果実をそっと手に取る。これも柔らかく手に吸い付く感触が心地良い
胸だけでなく奈々の身体に触れているとどこか安心する。俺はコイツに惚れているのだろうか?しかし今更だろう。どうせ明日まで生きていけないのだから
他の事に気を取られることないように俺は再び奈々の身体を弄んだ
結局、奈々の気が済むまでやり続けたらすでに陽は暮れていた。12時間以上持った俺達の性欲は凄いの一言だろう
「ねぇ。タケちゃん。私に言うことない?」
いつも気が済めばすぐに寝てしまう奈々なのだが、今日は不思議にも起きていた
「言うこと?何のことだ?それより水飲むだろ」
俺が飲んだ後のペットボトルを投げ渡すが奈々はそれを取りこぼし頭に当たる。それもキャップが当たったのか凄く痛そうだ
「そうだね。24時間しか生きていけないとか」
あやうく、これから開けようとしたコーラのペットボトルが手から離れかけた。コイツはどこまで知っているのか。そしてなぜ俺の夢のことを知っているのか
「なに馬鹿なこと言ってんだよ。健康優良児の俺がそんな簡単に死ぬわけないだろ。それより痛くないのか?ちょっと見せてみろ」
冷静を装いつつ奈々のおでこを確認する。手は震えているが、勘付かれないように必死に震えを止まらせる。額は少し赤くなっているが、タンコブは出来ていないから大丈夫だろう
「ほんとに死なない?絶対?」
額を見た所為か、奈々の顔を見下ろすようになり、上目使いで見られる。とても可愛いのだが、今は目を逸らすことしか出来ない。正面を向いたまま会話なんて出来るはずがない。もし顔を見られながら話したりしたら、俺の嘘はすぐにばれてしまうだろう
「あぁ。本当だ」
陽も沈んだことでやることもなくなった俺は、死ぬまでの時間を持て余す。何をしよう。時間は約10時間。なにが出来るというのか
「さっきも言ったけどさ、私はタケちゃんが大好きなんだからね。心の底から愛してるんだからね。もしタケちゃんが急に消えたりしたら、私、泣いちゃうよ。お願い。ぎゅってして」
未だ裸のままの奈々は両腕を突き出して俺の抱擁を待っている。身体は大きいけどやっていることは子供じみているところがコイツの可愛いところだ
奈々の要求通り、力いっぱいに抱きしめる。痛いよ。と聞こえるが聞こえないふりをしてまた力を込める
怖いのだ。決められた時間に死ぬというのが。それもたったの1日という短い時間を与えられても、どうしようもない
なにか行動しようとしても、いったい何が出来ようか
どのように死ぬのかも知らない状況では予防策の張りようがない。ただ死を受け入れ待つのみ。それが残された時間の唯一の使い道だ
それをしなかった俺は死ぬまで苦しみ続けて死んでいくのだろう
煩悩に打ち勝てず、結果このザマだ。
その後、俺は奈々が寝るまでずっと抱きしめ続けた。その時間が来るまで
2013年10月29日4時38分47秒
佐藤猛が住んでいるアパートで不審火による火災が発生。アパートに住んでいる住人は佐藤猛以外全員が外出中だった
佐藤猛が住んでいる部屋には本人以外の焼死体も発見された。DNA鑑定の結果によると、佐藤氏の恋人の佐々木奈々さんという結果が出た
最近、ここ橘町内で不審火による火災が多発しているので、各地区で警戒をしてくれとのことです
彼は、実に幸せだったと思うよ。なんたって彼女と一緒に死ぬことが出来たんだからね
え?彼一人だけに言った言葉じゃないのかって?おいおい、それは君の思い違いだろ。誰も彼一人に向けて話していたわけじゃないのだからね
私は誰かって?ソイツを聞いて生き残った者は誰一人としていないんだ。それでも聞くのかい?
そうか。そんなに君は死にたいのか。なら特別に教えてあげよう。と言いたいのだが、あいにく名乗れる名前がないんでね。だが、私はこう呼ばれているのだ
『死神』
とね
さて、君はあと3分で死ぬ
これは逃れられない運命なのだから
それでは、残された時間を存分に楽しむんだな