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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
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第九十六話 狭間市の長い一日 白川七葉

クラインは笑みを浮かべている。ただの笑みじゃない。狂ったような笑み。まるで、精神が壊れた人間のように。


クラインの前にあるのは避難所区域の最終防衛ラインだ。頑固なバリケードと『ES』の面々。


普通なら破ることは出来ない。だが、クラインは普通じゃない。


「ふはははっ、我ら恐れ、そして、絶望しろ。我らの前にひれ伏せ。それが、貴様らの生きる道だ」


クラインが両手を広げ、まるで諭すように言う。だが、絶対死守をアル・アジフから命令されている『ES』の面々は反応せずに武器を構えている。妥当な判断だ。


『ES』の布陣は盾持ちのフロントと杖や弓、そして、銃を構えるバックの二重構造。これなら、並大抵の魔物は払える。でも、


「そうか。なら、死ね」


そして、彼らの影から大量のクラインが現れて彼らを殴りつけた。魔力の籠もった腕はそれだけで彼らを気絶させる。そう、あの時の第76移動隊のように。


そこからクラインがやることはただ一つ。虐殺だ。ゆっくり歩み寄りながら魔術を展開する。確実に殺せるように。


「我らに刃向かうことが愚かだと知れ」


「だったら、そんなことを言う人の方が愚かだと言わせてもらうよ」


クラインはその声に振り返った。そこにいるのは槍を手に持つ七葉の姿。だが、クラインの目には周囲に浮かぶ頸線が見えていた。


「ほう。クラリーネと同じ武器か。使えない武器を選んだものだな」


「使えない? 違うよ。これは使い手によって大きく威力の変わる武器。あなたはただ勘違いしているだけ」


七葉はゆっくりクラインに向かって歩き出す。


あの日、クラリーネに負けてから七葉は考えていた。どうすれば勝てるのかと。でも、よく考えてみると頸線の使い方は様々であり、それを上手く使えるかどうかにかかってくる。


七葉がクラリーネに負けたのは戦闘経験と特殊能力。なら、自分が得意な点を伸ばせばいい。


そして、七葉が至った結論を実戦で証明するだけとなっていた。


「私は、あなたが嫌い。悠兄や孝治さんに怪我を負わせたあなたが嫌い。だから、この場で倒す」


「出来るのか?」


クラインはにやりと笑みを浮かべて『影写し』の力を使った。すぐに七葉が気絶してどう殺すかを考えながら。


だが、影から現れたクラインは剣によって貫かれていた。


剣には頸線が繋がっており、七葉が突き刺したのは一目瞭然だ。


七葉が伸ばした自分の得意分野がこれだった。大量の頸線による武器形成。


操る武器の数を多くすることで七葉はクラインに対抗する力を簡単に見つけたのだった。周はそれに気づいていた。どういう理由かわからないが。


「小娘の分際で」


「確かに私は小娘だよ。まだ子供だし、背は小さいし、胸はないし。でもね、私だってみんなの役に立ちたい。第76移動隊の一員として活躍したい。そう思えるから」


「ふざけるな。ふざけるな!」


クラインが地面を蹴る。対する七葉も槍を握りしめて地面を蹴った。


槍の突きは基本中の基本。ただし、それは槍衾が出来上がっている時だけで、戦っている最中、特に1対1の戦いでは突きはデメリットにしかならない。


だけど、七葉は持っている槍を突いた。全力で。そして、最高速度で。でも、クラインはそれを回避する。七葉の最高速度はクラインからすれば十分に遅い。


七葉はそれを理解している。理解しているから手に持つ槍を頸線に解いた。


「なっ」


今まで笑っていたクラインの顔が驚愕に染まる。クラインの体はすでに七葉に向かって踏み出しているので止まることは出来ない。


七葉はそれを狙っていた。だから、新しく頸線が作り出した剣を振り切った。


クラインの顔に真一文字の傷跡が出来る。


槍を振り回した場合、どうしても柄の部分で殴ることになる。そうなるから七葉は剣に変えて振ったのだ。


「があぁぁぁっ!!」


クラインが顔を押さえて後ずさった。


七葉は頸線を纏め上げる。そして、巨大なハンマーを作り出してクラインを殴り飛ばした。


クラインは近くの建物にぶつかって動かなくなる。


「あう、疲れた」


そう言いながら七葉は壁にもたれかかってずるずる滑りながら座り込む。これでも昨日は1日近く意識不明のまま眠っていたのだから。


周のようにすぐに動けるわけがない。あれは薬のおかげかもしれないが。


「確かに、周兄の言うように弱点は私だったな。でも、自分でもよく勝てたよね」


七葉ははっきり言って勝つ見込みは無かった。第76移動隊にいるとはいえ、実力によって入った他の面々と違い、七葉はわがままを貫いた(本人はそう思っている)だけで実力が無いのはよくわかっていた。


よくわかっていたからこそ、七葉は勝つことにこだわるのではなく負けないことにこだわったのだが、結果は圧勝。


七葉は小さく息を吐く。


「他の人なら負けていただろうな。私ももっと強くならないと。悠兄や周兄に近づけるように」


七葉はゆっくり立ち上がった。立ち上がった瞬間、ゾクッと嫌な感覚が体に突き刺さる。まるで、膨大な力を感じ取ったかのように。


七葉は慌てて儀式場のある方角を見た。そこにあるのは儀式場のある山とその周囲を包み込む闇のドーム。それはだんだん拡大している。


「くっ、結界展開!」


すかさず結界を展開する七葉。頸線で陣を作り出し、通常よりも頑固な頸線を作り出す。闇のドームが簡単に迫っていたから。


だが、闇のドームはその結界を呑み込み破壊した。耐える暇なく七葉の体が闇のドームに呑み込まれる。そして、目を開けると、


「そんな、嘘だよね」


信じられない光景が広がっていた。周囲は暗い。だが、この暗さは見たことがある。そして、空に浮かんでいるのは月。


「さっきまで昼だったのに。それに、今日は満月じゃないのに」


周達の下に向かいたい気持ちを押さえて七葉はアル・アジフを探すために避難所区域の方に向かう。


何か、嫌な予感がする。そうとしか考えられなかった。


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