第九十三話 戦場への帰還
視点が周に戻ります。すぐに変わりますが。一応、悠聖の話でもあります。一応ですが。
オレは地面を蹴っていた。
体が軽い。奥底から力が湧き上がってくるのがわかる。多分、あの薬の影響だろうな。
苦くて不味くて辛くて塩辛くてざらざらしていてねばねばしていて、そして、人間の感覚が麻痺してしまいかける匂いで、色はどう見ても不気味なまでの黒な上に、多分、毒草も入っている。だけど、飲み干そうと覚悟した瞬間には自分の感が否定しなかった。いつも、嫌な予感がすれば大変なことになるのでそれを頼りにしているが、今回はそれを確認できなかった。いや、これを呑んだ方がいいという風に。
「レヴァンティン、状況は?」
『すでに貴族派と『ES』が大規模な交戦中です。バリケードのおかげでいまだに破られていませんが、幹部クラスが来たならかなり危ないと思います。第76移動隊は進軍中。すでに山にはまだ入っていません』
「そうか。でも、思っていたよりも貴族派の侵攻が遅いな。オレが考えていた60%くらいか?」
『マスターが過大評価しすぎなのでは?』
レヴァンティンが呆れたように言う。そう言われても、クラリーネの能力を考えると抜かれていない方がおかしいくらいだ。もしかしたら、クラリーネは儀式場の方にいるかもしれない。
それなら好都合。
「アル・アジフはどうやら悠人専用フュリアスを持ってきたらしいからな、多分、守りきれる」
『そう言えば言っていましたね。あのメンテナンスドッグにあるのがフュリアスだと。どうしてわかるんですか?』
「推測だよ。でも、オレはそう断言する。あの中にはオレ達と似たようなシステムが組み込まれている」
『そう言う理由ならわかります。私にはわからなくてもマスターにわかることはありますから。マスター、十時方向、白川悠聖の姿があります』
「了解」
オレは一気に地面を蹴った。そして、視界に悠聖の姿を入れる。
悠聖の形勢は不利だった。召喚できる全ての精霊を出して戦っているが、貴族派が使う弓に苦戦している。こんな時に風の精霊契約を行えていたら。
「光の5。大地の6。全てを浄化する力を成せ」
オレはポケットから鉱石を取り出した。
魔力鉱石。
純粋な魔力が結晶化したもので、その鉱石に魔術陣を刻みこむことで凄まじく強力な魔術を使える。ただし、戦果に見合えるコストではない。
オレはそれを思いっきり投げつけた。もちろん、貴族派の弓部隊に向かって。
大きな爆発と共にオレは着地して鞘からレヴァンティンを抜いた。そのまま悠聖と背中合わせになる。
「無事みたいだな」
「ったく、周隊長は来るのが遅い。でも、来なくても勝てていたぜ」
「そうか。なら、悠聖、今、風の精霊と契約しろ」
オレの言葉に悠聖がぽかんとなる。オレはその間に魔術をいくつかストックする。
「あい、今、戦闘中だぞ」
「戦闘中だからだ。出来るな」
悠聖は小さくため息をついた。そして、自分のデバイスである指輪を触る。
「出来る? 誰に言っているんだ? 時間は2分。頼めるか?」
オレは小さく肩をすくめる。そして、レヴァンティンを鞘に収めた。
「誰に言っているんだ? さて」
そして、オレは地面を蹴った。一瞬でオーガの懐に入り込んでレヴァンティンを一閃して殴り飛ばす。そして、ストックしていた魔術で前方にいた魔物たちを薙ぎ払った。
「さて、かかってこいよ。お前らが来る勇気があるならな」
その言葉と共にオレは地面を蹴る。レヴァンティンを持ち、戦場を縦横無尽に駆け回る。それは敵からすればかなり厄介だ。だから、狙って何人かが来る。
「さて、どうするか」
地面を蹴りながら一番前にいたリザードマンを肩からタックルして吹き飛ばす。リザードマンはそのまま後ろにいた仲間を巻き込んで転がった。でも、残っている敵はいる。
「レヴァンティン、モードⅡ」
すかさずレヴァンティンを槍に変えてオレ時は地面を蹴った。槍の柄を握り、迫ってきた刃を穂で払い、すかさず石突で殴り飛ばす。槍の使い方の基本はこれだ。初心者にとって槍は有効だが、上級者との戦いになると振り回せなければ扱えない。なんでも突けば解決するわけじゃないのだ。だから、オレは駆け回りながら槍を振り回す。
オーガの斧を簡単に受け流して石突でオーガのこめかみを殴り飛ばす。横に振られた斧は穂先を地面に突き刺して棒高跳びの要領で跳び上がり、空中に壁を作り出してそれを蹴り、こめかみを殴り飛ばす。そのまま向かってきたコボルトを股の下からすくいあげて投げ飛ばした。うん、これは止めよう。
背後からの嫌な予感にオレが石突で背後を突くとちょうどそこにいたゴブリンの額とぶつかった。そのまま旋回して後ろからきている敵の群れを槍で薙ぎ払う。
「さすがに、数が多いな」
オレは軽く敵を薙ぎ払いながら小さくつぶやいた。そして、探していた目標を見つける。前方20mに弓兵数は8。
「モードⅡカノン」
すかさず砲身を取り出して弓兵に向かって射撃した。弓兵がいる位置で放ったエネルギーが炸裂して弓兵が昏倒するのがわかる。
「モードⅡ」
すぐさま槍を戻して背後から振り下ろされた斧を受け止めていた。体勢が悪い上に前からも何人か迫っている。
「しゃあない。モードⅢ」
斧を受け流し、地面を蹴る。オレの手に握られているのは双剣。流れるような動きで迫ってきていた魔物を倒し、感覚を頼りに振り返りながら両手の双剣を一つにして振り切る。振り切った剣はオーガの斧を弾き飛ばしていた。
「まだやるか?」
オレの言葉にオーガが身をひるがえす。武器を取りに行ったのか逃げたのかわからないが、これで十分だ。
レヴァンティンを双剣から通常の剣に戻す。そして、小さく息を吐いた。
貴族派の動きは完全に止まり、悠聖に従う精霊達は悠聖を守るように布陣している。その中央で悠聖が一人の男を召喚していた。
エルフと言うべきか。特徴的な長い耳。ただ、その気配はただものじゃない。
「我、白川悠聖はそなたに願う。我に力を貸してほしい。その力でみんなを、大切な人達を守る力を貸してほしい」
『大切な人達ね。複数形なんだね』
「それだけ、守りたい人が多いということさ」
その言葉に悠聖は笑みを浮かべた。まるで、子供が浮かべるような笑み。まあ、悠聖は子供だけどな。
『気に入ったよ。僕の力を貸してあげよう』
「ありがとう。オレの友として一緒に戦ってくれ」
『友。うーん、良い響きだ。詩人の心を揺さぶるよ。僕の名前はエルフィン。よろしくね』
「ああ」
悠聖が笑みを浮かべてオレの方を向く。そして、拳を握り締め、親指を上に立てたままオレに腕を伸ばした。
「行け、周! お前はお前の戦いがあるだろ。ここはオレに任せろ」
「帰ったら、お前の友達と一緒に祝宴でも開くぞ!」
オレは地面を蹴る。でも、道をふさぐ貴族派のメンバー。
『それはさせないよ』
すると、アルネウスの放ったチャクラムが前にいた魔物を薙ぎ払った。
『行けっ! ここは我が、この炎の大公』
『前進』
『そうそう。行きなさい。我が友の親友よ』
『だから、この我を無視するな!』
オレは笑みを浮かべながら地面を蹴る。目標はみんなに追いつくこと。
「さて」
オレは小さく息を吐いた。そして、周囲にいる8人の精霊を見渡す。
「全員、準備はいいな」
『いいよー。さーて、友達に心配されないように頑張らないと』
『そうですね。行きましょう』
『肯定』
オレは腕を振り上げた。そして、振り下ろす。
「突撃」