第八話 レヴァンティン
主人公たちの現在の年齢って実は珍しいのではないかと思っています。
『由姫が合格か』
「ああ。正直に言えば予想外の結果だ」
入隊試験の後、音姉によって手合わせによって絶対的な力の差を見せつけられ、絶望を植え付けられてすぐに、オレはレヴァンティンを使って通信機器によって孝治と連絡を取っていた。
「実力的には文句ない。今なら、悠聖と戦うとして互角まで持っていけると思う。まあ、シンクロしていなければの話だけど」
悠聖がシンクロ、特にアルネウラとシンクロをしていたらオレですら勝ち目がないのに。まあ、タイプが違うからでもあるけど。
『お前が言うなら確かか。しかし、わからないものだ』
何か嫌な予感がする。
『昔は、由姫はオレが守ると、後ろをついて来た由姫に言っていたが、入隊させるとは』
「その話は止めてくれ」
いつの話だっただろうか。多分、三年か四年前。
とある事件でオレの力不足から被害者を出し、もっと強くならなければと再認識した時。由姫だけはオレが守ると誓った時。そして、由姫への依存を止めると決めた時。
「由姫の実力は十分だ。オレが守らなくても、いや、違うな」
由姫の実力は確かに十分。だけど、今のままでは十二分に足手まとい。それはメンバーを見ればオレもそうなるだろう。
「オレも由姫も互いに守り合って一人前だ」
『俺はお前が十分に一人前だと思うが?』
「メンバーを考えてくれ」
副隊長に同年代の実力第一位と二位。隊員に地獄の攻撃者の異名を持つ中村。そして、殲滅姫の異名を持つ亜紗。二人共、その異名に恥じない能力を持っている。
その中にいるオレは完全に名前が霞んむ。
『はぁ、最強の器用貧乏の異名を持つのにそんなことを言うのか』
最強の器用貧乏。それがオレの異名らしい。
完全に他称なのでどうしてこうなったかわからないが、オレからすれば完全に迷惑だ。器用貧乏の時点で強さは微妙だと言われているようなものだし。実際に強さは微妙だけど。それに最強がつくと言うことはただの凄い何でも屋にしかならない。そう考えると不名誉だ。
そう考えていたのが波動で出ていたらしく、孝治はため息をついた。
『お前が自分の異名に首を傾げるのはわかる。だが、俺達の隊長はお前以外に適任者はいない』
「そういうものか? まあ、お前がそう言うなら受け取っておくさ」
オレは軽く肩をすくめながら言った。
自分の実力は理解しているつもりだが、こいつらの話だと誇張されているようにしか聞こえない。おかげでわけのわからない異名をもらうわけだ。
『では、明日は』
「予定通りにオレ達三人で先に向かう。書類は全て終わらしたからな。そっちの準備は大丈夫か?」
『誰に聞いている?』
「特殊部隊隊長のお前だよ。答えは分かっているけど、一応確認だ。音姉や中村は3日後に狭間市入り。亜紗は今のところ不明ってところか」
オレは小さくため息をつきながら話を続ける。
「で、そっちの準備は?」
『万端だ。あっちの方も解除を終わらせている』
「了解。じゃ、また明日」
『了解した』
孝治との通信を切ってオレは小さくため息をついた。
金色の鬼と戦うためには装備を完全にしないといけない。アル・アジフの映像を見る限り音姉や孝治だけでは勝てない。
「レヴァンティン。お前の限定解除は何段階まで?」
『二段階。いえ、三段階ですね。それ以上は許可できません。力に呑みこまれます。ですが、マスターはもしかして』
「今回の任務は違反がばれる覚悟で挑まないとな。想定できる相手の戦力はかなりの高さだ。正直に言ってオレ達のような子供が行くような任務じゃない。何が何でも使って生き残るしかない」
『でしょうね。任務のランクは余裕でAAランク以上。戦闘能力の段階でAランク以上しかいないマスターの部隊でも難しいと思っています。ですが、なぜ、正規部隊の学生『GF』が行かなければならないのですか? 正規部隊ではない地域部隊の学生『GF』なら任務に出ることは可能なはずですが。戦闘ランクという問題は放っておいて』
確かにそうだ。狭間市が拒否したのは正規部隊であって地域部隊ではない。正規部隊と地域部隊の違いは大きな戦乱に海外で動員できるかできないかの差なので、日本の中では区別はほとんどないと考えてもいい。すでに、地域部隊の学生『GF』が送られている可能だってあったはずだ。
だが、時雨はオレ達の動員を決定した。確かにオレ達の方が動きやすいけど、違和感なく戦力を送るなら地域部隊の方がいい。オレ達が動けば否応なく話題になるのに。まるで、
『まるで、ここで何かがあることを宣伝するようですね』
「そうなるよな。一体どういうことだ? 時雨は何の目的でオレ達を送る?」
話題が集まれば人が集まるのは必然だ。そこに鬼が現れたなら大惨事になる。混乱の中でダウンバーストを使われたなら対処する方法がない。
オレは小さくため息をついた。
あまりに情報が少ない。ここまで情報が少ないなら答えを出すことは難しい。だけど、推測は立てられる。
「学生でなければいけない理由。学校に何かあるのか?」
『確かに考えれますね。ですが、マスター達の通う学校が分散すればそれこそひどいことになると思いますが』
「だよな。でも、オレ達を送る理由は学生であることだけだろ? 何か関係性があると思うんだけどな」
『一応、調べましょうか?』
レヴァンティンはデバイスの中でも世界最高峰の演算能力を持つ。演算能力を持つの上に、他のデバイスに侵入することができる。もちろん、『GF』が使っている情報整理デバイスの対しても可能だ。情報を抜き出せるかは別として。
「相変わらずお前の性能はデバイス離れしているよな」
『造作もないことですから』
レヴァンティンを手に入れたのは約三年前。とある任務の最中に孝治と身を潜めるために遺跡に入ったからだ。遺跡と言っても石造りの遺跡ではなく、今の技術では再現不可能な純鉄によって作られた遺跡で、その最深部にレヴァンティンが眠っていた。
時代の最先端であるデバイスのさらに上を行くデバイス。ペンダントの形をしながらも、その情報処理能力は据え置き型のデバイスを凌駕できる。対抗できるのは集積デバイスと呼ばれるいくつかのデバイスを集めたものだけ。
レヴァンティンが話せることはオレとレヴァンティンの秘密にしている。もちろん、一緒にいた孝治さえ知らない。
「ばれないように頼む。今回、何も知らないところで何かが動いえいる気がする」
オレはそう言って小さくため息をついた瞬間、背中を何かが走った。殺気ではない。だが、一瞬のうちに誰かが近くに現れたような感覚。
オレがゆっくり振り返ると、そこには一人の女性がいた。
「やあ、初めまして。君と話がしたくてね」
この世界の技術について
純鉄は製作不可能で、鉄は最大で70%の不純物を含むもの。製鉄技術他、鉱物に関する技術は著しく低い。
その理由としては材料の枯渇と魔力製品の方が安くて簡単かつ一部を除いて丈夫であるから。
暮らしの風景は皆さんの暮らしと見た目は変わらず、通信を媒介するものは全て魔術に置き換わっている。
ちなみに、石油や石炭、核などはこの時代には存在しない。