表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第一章 狭間の鬼
88/853

第八十五話 都の思い

山の中間部にある広い丘。そこに都は捕らわれていた。別に拘束されているわけじゃない。ただ、そこにいるだけだ。


都自身も周囲が貴族派の魔物が守っている上に、近くにエレノア達がいるため逃げられないとわかっている。


だから、都は正座したままずっと物事を考えていた。


「エレノア様。大人しいですね。明日生贄になるのに」


エレノアの横にいたクラインが都を話しかける。それを聞いたクラリーネは小さく溜息をついた。


「クライン、都は希望を捨てていないだけ」


「希望を? 『ES』は市民を守るために動くため第76移動隊しかいない。だが、第76移動隊の主力は」


「第76移動隊は周君一人の部隊じゃない」


クラリーネが暇そうに槍を回しながら答える。


「第76移動隊のブレインは確かに海道周だよ。でもね、海道周の実力は第76移動隊の中で下から数えた方が早いから」


「バカな。海道周は人間の中で最強と言っていたのはクラリーネではないか!? 何故、それを」


「違います」


否定したのはクラリーネではなく都だった。都は目を開けてクラインを睨みつける。


「周様は確かに最強です。あらゆるポジション、あらゆる支援が可能なオールラウンダー。単体では弱くても、戦場で動けばあらゆる状況をかき乱し自由自在に動き回る最強の兵となりえます」


本来、普通はポジションが存在する。


フロントならフロント。バックならバックと普通は得意なポジションを維持したまま戦うはずだ。でも、周は違う。あらゆるポジションに入りあらゆる支援が可能。つまり、弱点がほとんど無いということ。


「だが、エレノア様には負けた。それをどう説明する」


「一芸特化には勝てません。周様が最も活躍出来る戦場は総攻撃時。チームが完全に攻撃をする場合です」


周の最大の弱点を上げるとするなら一芸特化との1対1は極めて難しいということ。だけど、引き分けにするのは得意でもある。


都はそれがわかっているから動かない。動き回って怪我をすれば周が悲しむことを知っている。


「ほう、巫女。お前は怖くないのか? 明日、お前は鬼から初めてを奪われ、子供を無理やり作らされる。それに怖くはないのか?」


「小物ですね」


都はクラインの顔を見ながら笑った。


「すでに覚悟しています。そして、周様に助け出されることも」


「き、貴様」


「クライン、だめ」


クラリーネはクラインの前に頸線を展開していた。クラインは舌打ちをして踏み出そうとした足を止める。


クラリーネは頸線を直した。


「あなた達も覚悟した方がいいと思います。千春が一番わかっていますよね。第76移動隊の強さを」


「ボクは千春じゃなくてクラリーネだよ」


「いえ、あなたは千春でありクラリーネです」


都は真っ直ぐクラリーネの目を見つめた。


「第76移動隊の主戦力は副隊長の二人。そして、部隊にいる異名持ち。その方々が戦線を支えます。周様が抜けたとしても、強さはほとんど落ちません」


「都は信じているんだね。でも、無理だよ。ボク達はすでにそれを計算している。第76移動隊の強さもわかっている。彼らに味方を見捨てる勇気があるなら、ここまで辿り着けるはずだよ」


その言葉に都は渋い顔になった。第76移動隊は本当に仲がいい。だけど、それは仲間を見捨てにくいという意味と同じだから。


クラリーネは山の麓を見下ろす。


「ここに来た時は、誰かを見捨てた時。それほどに覚悟があるならボク達が全力を持って相対する。そして、叩き潰す」


「そうですか。わかりました。千春、一つだけ聞かせてください」


都はクラリーネではなく千春と呼んだ。


「琴美はどうなっていますか?」


「わからないよ。気絶させて校舎に置いてきたけど」


「なら、希望はあります」


都はにっこり微笑んだ。


「私達の勝ちです」


「なっ」


都の急な勝利宣言にその場にいた誰もが息を呑んだ。そして、クラリーネは都に駆け寄る。


「琴美がいるからどうっていうのよ。たった一人に何が出来ると思っているの?」


「千春は知りませんでしたね。琴美って薬草について詳しいのですよ」


そう言って都は頷く。


「それはもう、よく効く薬です。実際に、琴美の医薬は狭間市の医者すら手本にしますから」


「そ、そんなもので事態が好転するとでも」


「良薬は口に苦し」


その言葉に千春は首を横に振る。


そんなことで意識不明の周が起きるとは思っていないからだ。でも、都は信じている。


「私は友達を信じます。そして、周様を信じます。あなた方が自分達の力を信じるように、私は大切な人達を信じる。ただ、それだけです」


「信じるだけで何かが好転すると思ったら間違いだよ。そんなことで都が助かるなら、この世にはもっと助かっていい人達がいる。信じて救われるならボクは神だって人だって崇めてあげるよ。でも、現実はそうじゃない。何もかもが思い通りにはいかない。私達は儀式を成功させる。都には犠牲になってもらう。だから」


「誰かを犠牲にして世界を救えたとしても、それは世界を救えたことにはならない。世界を救うということは、自分も仲間も知り合いも誰もかも救うこと。周様の信念です。千春、あなたは自ら動かないのですか?」


クラリーネは音がなるくらいまで歯を噛み締めた。そして、都の首を掴む。


「何がわかる! 都に、ボクの何がわかるの! ボクは、ボクは」


首を絞めたのは一瞬のこと。千春はその場に崩れ落ちた。


「世界を救うために、ボク達は戦っている。邪魔はさせない。エレノア、行ってきてもいい?」


「そなたが決めたなら余は何も言わない。だが、必ず帰ってくると約束するなら」


「約束するよ。琴美を殺してくる」


その言葉に都が立ち上がった。


「駄目です! 琴美はあなたの親友でも」


「うるさい! 僕はやらなくちゃ駄目なんだ」


クラリーネはそのまま走り出した。都はクラリーネを追いかけようとしだがクラインが道を塞ぐ。


「琴美、無事でいて」


決戦当日にはなかなか入りません。後二話ほど前日の話です。次は『ES』の隠し兵器が登場します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ