幕間 神々の思惑
この幕間を書くために何度書き直したことかorz
最初の予定と180度くらい変わってたりしますが、諦めました。
「さて、と」
小さく息を吐いて七葉が体を起こした。その動きと共に周囲に高く積まれていた本の山の一部が崩れ落ちる。
「こういう紙媒体で見ていくのもいいとは思わない? 悠兄」
「お前、どんなけ速読なんだよ」
オレは小さく息を吐きながら禁書目録図書館内の検索を行っていた手を止めた。
「オレが一冊捜しだすまでに適当に30冊ぐらい目を通しているだろ」
「こういう時に便利な魔術だってあるんだよ。まあ、こういう魔力によって書かれたものじゃなければ出来ないものだけど」
「便利というか、お前みたいな頸線使いにしか出来ないやり方じゃねえか」
やり方というのはいたって簡単。本のページ全てに頸線を走らせるだけだ。
頸線は攻撃だけではなく結界構築や遠距離からの範囲偵察など間接的にもかなり役立つものではあるが、その隠れた特技はこういう隠れたものを捜す時に便利なのだ。
あまり知られていないが、本のページに頸線を通すことで文字に残るかすかな魔力を探知し欲しいものを見つけ出す。精密な作業に見えるが頸線使いにとってはなんてことのない技術だったりもする。
特定の書物を見つけたい場合はオレみたいに特定のキーワードから探し出せばいいが、手当たり次第に抽出した書物から目的の情報を捜したい場合は圧倒的に、それこそ、あらゆる術者を凌駕する速度で速読を可能とする。
すごいことにはすごいが、まず日常じゃ使われにくいものなんだよな。
「とりあえず、ここにあるのは全部外れだね。 悠兄って捜し物が下手?」
「あのな、今回オレ達が見つけるのはそう簡単に見つかるようなものじゃないんだぞ。それに、どうやら隠されているみたいだから。なかなか尻尾を出さない」
「ああ、障壁を一つ一つ除きながらいってるんだ。でも、気付かれているよ?」
「だろうな。今、全て弾かれた。神さんは、いや、ここの司書はどうやらオレ達には触れられたくないみたいだな」
「だろうね。ある意味一番隠したいことかもしれないしね。前の世界の時の歴史だなんて」
「本当にそれはあるのか?」
その言葉に七葉は頷いた。オレ達がここに来た理由は七葉がさっき言ったもの、前の世界の時の歴史が書かれたものを捜すためだ。
複数の人間が未来の歴史を過去の記憶として持っている。七葉もそうだ。どうしてそうなっているかのメカニズムは詳しくは知らない。いや、教えてくれていない。おそらく、七葉はわかっているはずだ。
「多分、私の思っていることが正しければ」
七葉が腕を引いた。その手の先には頸線があり、その頸線は一冊の書物に繋がっていた。
「はい、悠兄。これが記憶の断片だよ」
「記憶の断片?」
「神には様々な役職があるってのはわかるよね?」
「まあな。選択神やら希望神やら終始神やらはたまた神姫やら」
「さらには記憶神やら書記神、区別神、整理神、傍観神に」
「いや、待て。何それ?」
傍観神って何?
「八百万の神。日本神話そのものの体現したような姿なんだよ。その神々が残したものがそれ。全ての神々の記憶の断片を書籍化したもの。どうやら、残されているのはこれ一冊みたいだね」
それを七葉が渡してくる。
「一応、目を通しておいて。多分、これからの流れに、ううん。周兄達が関わる流れに関わってくるから」
「あー、禁書目録図書館の奥深くに隠していたはずなんだけどな。やっぱり見つけられちゃったか」
その声と共にオレの手の中にあった本がいつの間にか消え去った。それに警戒しながらオレは『破壊の花弁』を展開する準備をしながら振り返る。
そこにいたのは確か、
「選択神、ルエルナエリナ、だったか?」
オレが神になる時に立ち会った神、選択神ルエルナエリナはその手に今までオレが持ったいた本を手にしていた。
「ルエナでいいよ。全く、せっかくばれないように隠していたのに希望神はなんで見つけちゃうかな?」
「だって、私達と違って悠兄は知らないからね。だから、知っておいた方がいんだよ。今の世界の歪さを。多分、それだけで悠兄は気付くから」
「はあ。あんまり公開したくないんだけどな」
その言葉と共にルエナの手から消えてオレの手の中に戻る。
「今のは」
「私の神の力だよ。私は本来、他者に選択を迫る存在。その選択を選ぶまではその選択に関する行動を禁止する能力。まあ、希望神や終始神みたいな強烈な能力じゃないんだけどね。私が君にそれを読ませたくないから選択肢を出して尋ねようかと思ったんだけど、まあ、いいや」
「限定的ならかなり強力だよな」
「まあね。どんな神でも使い方次第だよ。まあ、希望神には全て見透かされているだろうし終始神には本来効かない」
「まあ、確かに」
この能力は強力ってものじゃないからな。
「そこに書かれていることを簡単に言うなら過去の記述だよ」
「過去の?」
オレは本を開ける。
「八順目の世界、この世界の一つ前にあった世界の記述。その音界編」
「つまり、それは」
「禁書目録図書館が使えるようになった神は必ずそれかそれと似たものを捜そうとする。今回、希望神が捜そうとしたものの本命は別のものだけど、それは見せられない。だけど、それは見せられる。大きく変わっているから」
「なるほど、ね」
オレは目を通しながら乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
もし、ここに書かれている内容が本当なら、その時の歴史と今の歴史は大きく逸脱している。それこそ、天界が滅んだ直接の原因とでも言うかのように。
「最後はエクスカリバーtypeフォートレスとストライクバーストの一騎打ち、ね。音界内での戦いじゃなくて、音界対天界だったのか」
「まあ、そういうこと。本来の歴史だったら悠遠は存在していない。だって、悠遠はアレキサンダーに対抗するために生まれたようなものだから。だから、アレキサンダーが存在しなかった過去はエクスカリバーで何とかなっていた」
「今となっては天界は味方で音界の一部は敵。これは予想出来たのか?」
「出来るわけないじゃん。そもそも、予想出来るような要素なんて一切ないんだよ。今回の歴史は神の思惑を大きく超えているから」
「そうなのか?」
その言葉にルエルナエリナは頷いた。
「詳しくは話さない。この全ては君達が自分達の力で集めなければならないから。だから、今、音界内で起きていることだけ言うね」
嫌な予感がする。すでに未来を見たのか七葉が頭に手を当てて大きく息を吐いていた。
「まずはクロラッハ側とレジスタンス側。この二つが特に想像を超えているんだよ。そして、政府側。ぶっちゃけ音界勢力の全てが思惑を大きく超えている」
「政府側は『GF』が手を貸していて、クロラッハ側は天界が手を貸していた。ならば、レジスタンス側は」
「『GF』、天界に対抗出来る戦力なんて『ES』しかないよね」
七葉がため息をつつ言う。
「それぞれがそれぞれの思惑で音界を大きく動かした結果、類を見ない全勢力のぶつかり合いに発展したんだね。なんというか、なりふり構っていられない状況?」
「みんな必死すぎるんだよね。だから、戦争中の音界は本当に」
「都合のいい実験場ってか?」
「そういうこと。ここまではっきりと言われることは無かったよね? 世界が変わりすぎている以上、これを隠す意味は本当は無かったんだよね。だから、見せてあげる。選んで」
その言葉と共に世界が変わる。
禁書目録図書館からフュリアスが舞う戦場に。その中央にはぶつかり合う追加装備でかなり大きくなったエクスカリバーとストライクバーストの二機。
「この空間は前回の歴史を再現している。今回の戦いはこれ以上悲惨なものになるんだよ。それは終始神が参加するからでもある。君は、神としての使命で世界を救う? それとも、自分のために世界を救う?」
「その選択に違いはあるのか?」
「うん。神としての覚悟を聞かせてもらうよ」
その言葉と共に周囲が爆炎に包まれる。エクスカリバーが装甲のいたるところからエネルギーを凝縮させた弾を放ったのだ。
「私はね、エルブスを昔から知っていた。だから、聞かせて。あなたの決意を」
「そんなこと、決まっているだろ」
オレは息を吐いて答える。
「一人の人間として、今の音界は放っておけない」
「そう」
「そして、一人の神として、今の音界を放っておけない」
「なっ」
神としても、人としても、オレは見捨てることが出来ない。
「ちょっと待った。あれ? 選択神としての力が聞いていない?」
ルエナが冷や汗を流す。その言葉に七葉がまた小さく息を吐いた。
「悠兄って一度決めたら突っ走るからね。今、禁書目録図書館を調べたけど、選択神の能力の弱点って覚悟を決めた人みたいだね」
「予想外だよ。もし、神としての覚悟が無ければ立ち直れなくなるくらい叩きのめすつもりだったのに。ああ、もう。なんで新しい神って簡単に世界に干渉しようとするのかな!? 私達がどれだけ修正するのが大変かわかったないのかな!?」
「いや、キレられても」
「キレてないもん!」
「だから」
「キレてないもん!」
「もう、それでいいです」
七葉はお腹を抱えて笑っている。完全に他人事だと思っているよこいつ。
「最高神も伝承神も星神も氷結神も黎帝神も黎明神も天弓神も拳聖神も烈光神も雷神も憤怒神も漆黒神も竜神もしれっと世界に干渉して世界の歴史を少しずつ変えて天界を少しずつ滅ぼそうとしてそのたびに赤シックレコードを無理やり書き換えたり世界樹にアクセスして矛盾が発生しないようにしたり、ぬがぁー!」
「少しは落ち着け」
「これが落ち着いていられるか! 私は疫病神にとりつかれてないんだよ。私はただ、選択を与えても見守るだけなのに完全に他の神のサポートに回されているじゃん。これでもわりと古い神の一人なんだよ。巨大な派閥を築いている実力者の一人なんだよ。うう、神辞めたい」
テンションの差が激しすぎてついていけん。
「でも、まあ、決めちゃっているならもう、私はサポートするしかないよ。うん、サポートするしかね。何でもするよ。やけくそになって何でもしちゃうよ」
「じゃあ」
オレは周囲にで戦うエクスカリバーを指差した。
そのエクスカリバーは今、ちょうど全てのパーツをパージした瞬間だった。
「こいつの設計図もらえる?」