第三百四話 一つの終結
この話が完成していたのに投稿するのを完全に忘れていました。
そういうわけで割り込みでぶち込んでます。
エターナルのコクピットを開き素早く飛び降りる。僕が地面に着地した瞬間、懐かしい二人が僕に駆け寄ってきていた。
「「悠人!」」
鈴とリリーナの二人は同時に僕に飛びついてくる。僕はその勢いに少しだけ下がりながらも二人を受け止めた。
「ごめん。ただいま」
「お帰り、悠人」
「悠人の匂いを久しぶりに嗅げるよ」
いつの間にか一人は変態になっていたらしい。
二人はゆっくりと僕から離れると僕が乗っていた機体を見上げた。
「悠遠エターナル、だよね?」
「なんだろう。どこかエクスカリバーに似たような感じがするね」
「うん。ダークエルフにも似てるような気がする」
「よく悠人の機体を見ているようじゃな」
楽しそうに笑いながらアル・アジフさんはゆっくりと僕達に近づいてきた。
「悠人。悠遠エターナルの感想はどうじゃ?」
「予想外かな。アストラルブレイブで練習していたからか出力はまだ慣れてないけど、これならアレキサンダーと簡単にやり合えるよ」
「そうだ。あの竜化ドラグナイズした黒猫を斬った一撃ってどうやったの?」
「私も不思議に思った。イグジストアストラルやベイオウルフの一撃も受け止めていたし」
「あれ? あれは僕はただ斬っただけだよ」
そう、ただ最速で移動している状態で回転しながら最速の斬撃をただ放っただけ。出力も形状もなんら変えていない。
僕の言葉にアル・アジフさんがかすかに笑う。微かに笑いながらアル・アジフさんは僕を見てくる。
どうやら話すかどうかは僕に一任しているらしい。
「僕はただ単に最速で移動しつつ最速の斬撃を放っただけだよ。どんな一撃も速度によって火力を増加させるからね」
「それを並みではない速度で放った。それこそ、イグジストアストラルやベイオウルフの一撃すら耐えうる体を持つ相手すら切り裂けるほどに。遅かったな、悠人」
「タイミングは良かったと思うけど? ルーイはあの時のことを見ていたんだ」
「当たり前だ。アストラルファーラの中からよく見えた」
あれは少し離れてみていたならすごくわかりやすい攻撃だしね。
「しかし、どうやらそれが悠遠エターナルの真の姿みたいだな」
「ううん、それはちょっと違うよ、ルーイ」
僕は悠遠エターナルの姿を見上げる。
前に乗っていた悠遠エターナルと今の悠遠エターナルは少し違う。シルエットはほぼ同じだが装甲の至る所に別の機構が組み込まれている。
悠遠エターナルの悠遠エターナルだけが持つ悠遠エターナルの特殊能力。
「この悠遠エターナルは過去の産物を現代に蘇らせたんだよ。たった一人の少女がやり遂げたことを引き継ぐために」
『絆と希望の欠片ライペルタル』を展開しながらオレは静かに息を吐く。
周囲との接続を確認して通信を繋げながらオレはデバイスに語りかけた。
「こちら白川悠聖。被害の状況は?」
『ゆ、悠聖さんですか? 緒美です。悠聖さんからの連絡ということは』
「何とか終わった。避難誘導とかは上手くいけたのか?」
『は、はい。“義賊”の皆さんも手伝ってくれましたし何とか上手くいきました。ただ、怪我人が皆無というわけじゃなくて』
「逃げる最中に転けて怪我をした人はいるだろうな」
それくらいなら想定内だ。よほどの状況じゃない限り民間人は我先にと逃げ出す。
いくら避難計画を最初から作っていたとしても逃げ出す人達を抑えることは出来ない。
「それくらいなら問題はないだろ。治癒は終わったのか?」
『は、はい。待機していた天界の治療部隊と一緒に怪我人は全員治しています。天界の治療部隊はすごいですね。第76移動隊並というか』
「そいつらは治療専門だからオレ達より上じゃないといけないんだけどな」
緒美は嘘をつかない。性格的にそうなのだろうけどその天真爛漫っぷりは真実をよく言ってくれる。
だからこそ、連絡役としてはとてもよく出来る。
「後はそっちに任せた。こっちはこっちでやることがあるから」
『り、了解しました。が、頑張りま』
言葉が途中で止まる。どうやら気合いを入れて言おうとした瞬間に通信を切ってしまったらしい。
緒美らしいというか何というか。
オレは小さく息を吐いて振り返った。そこには刹那とアーク・レーベの二人に連れて行かれる黒猫とそれを見送る冬華達黒猫子猫の三人。
「お疲れ様」
オレが到着した時には全てが終わっていた。冬華は自らの実力で雪月花を持つ黒猫を撃破したらしい。
だから、オレは冬華の背中に声をかけた。
「あっ、悠聖」
「黒猫と死闘を繰り広げたらしいな。遅れたから直接は見て」
オレの言葉が途中で止まる。それと同時に冬華がオレの胸に顔を押し付けていた。
「悠聖、私ね、いろいろとわかったよ」
「いろいろ?」
「うん。黒猫がどうしてクロラッハ側についたのか。そして、どうして私と戦ったのか」
「そっか」
あくまでオレの推測は黒猫はオレ達を成長させるためにあえて敵になったのではないかと思っている。
あまりにも黒猫の動きが不審だからだ。
特に今回ではクロラッハ達が退却しているのにも関わらず戦っていた。オレ達を倒す自信があったからかもしれないが、第76移動隊の他にギルバートさんまでいるのにあの黒猫がそういう考えになるとは思えない。
しかも、クロラッハが来たのは模写術士コピーライターや黒猫達が来る前らしい。そうなると余計に不可解だ。
だから、黒猫の目的はオレ達を倒すわけではなく、オレ達に対する試練みたいなものだったのかもしれない。
「私はずっと怒ってた。フェンリルを奪われて操られて、私の知っていた黒猫は優しいお父さんだったから。でも」
「あえて敵になったのか」
「うん。だから、私は継ぐよ」
冬華が顔を上げる。そして、泣き腫らし赤くなった目をしながらオレを真っ直ぐ見つめてくる。
「黒猫を私は引き継ぐ。新しい黒猫として」
その言葉と共にミルラが嬉しそうな表情となりラウが少し複雑な表情になった。
冬華が黒猫になったら黒猫子猫は冬華の下につくから第76移動隊の傘下になる。音姫さん達と戦えなくなるのが気にくわないということだろう。
「お姉様なら私はずっとついていきます」
ミルラは嬉しそうに言う。ミルラからすれば冬華の立場なんてどうでもいいのかもしれない。
「悠聖、見てなさい。私は活躍してあなたを私の部下にしてあげるんだから」
「お手柔らかにな」
楽しそうに笑う冬華がどういう目的でそう言うのかはわからないこんな冬華を見ていたら別にいいかと思ってしまう。
オレは苦笑しながら黒猫の方を見た。黒猫は楽しそうにまるで子供のように無邪気な笑みでこちらを見ている。
その笑みにオレはまた苦笑するしかなかった。
「やあ、黒猫。いや、今は黒猫というより本名で呼んだ方がいいのかな?」
突如として話しかけられた言葉に黒猫は振り返る。そこにいるのは漆黒のゴスロリ服を着た正の姿。その姿を見た刹那が小さくため息をつく。
「正か。今、私達は黒猫の護送を」
「うん。アーク・レーベの言い分はわかるよ。でも、今だけは僕と黒猫、そして」
正が振り返る。そこにはギルバートが苦笑しながら近づいてきていた。
「彼の三人だけで話させてくれないかな?」
「仕方ないッスね。アーク・レーベ。少し離れているッスよ」
「しかし」
「ギルバートが本気を出したらこっちは手がつけられないッス」
「仕方ない」
しぶしぶと言った表情でアーク・レーベは黒猫から離れた。そして、二人は離れた位置にいくためゆっくりと歩いて行く。それと入れ替わるようにギルバートがそこに到着した。
「お疲れ様」
「お疲れ様ね。今まで敵対していた儂にそんな言葉をつくとは」
「おかしいかもしれない。でも、僕はなんて言われようとそう言うよ。黒猫、いや、三剣俊介がやり遂げたことを僕は忘れはしないからね」
「儂がやろうとしたことなんて時雨や慧海さん達の計画には遠く及ばない。それなのに、忘れないのかの?」
「忘れないよ。だって、僕達は昔仲間だったじゃないか」
その言葉に黒猫が懐かしそうに眼を細める。
「懐かしいの。あの時は時雨も慧海さんも無茶苦茶やらかして、儂らが後をどうにかしていく。愛佳も啓二も由真もアイシアもレノアもキャロルも姫路さんも雪羽さんもテオロさんも綺羅さんも朱雀さんもレイさんもフィーナさんもギルバートさんも、みんな呆れながら、それでも楽しそうに後を追いかけていた」
「今の二人は無鉄砲だけどね。二人がやろうとすることはあまりにも無鉄砲すぎる」
「そうじゃな。本当なら儂も手伝うとことだが、手はいらないようだの」
「うん。彼らはすでに動き出している。新たな未来に向かって。だから、僕はただそれをサポートするだけだよ」
黒猫が楽しそうに笑う。笑いながら正を見た。
「お前はどうするのだ?」
「僕がやることはただ一つだよ。歴代の海道周あまねがやってきたことをただ継承するだけ。違うのは僕は本気で世界を救うためにやることかな」
「そうか。なら、儂は獄中でゆっくりしようかの。日本魔術学園にいた頃は啓二や由真にひっかき回され、ハイゼンベルク魔術学園にいってからは時雨達にひっかき回され、卒業してからは今度はアル・アジフにもひっかき回された。儂はゆっくりと静かにお前達を見守ろう」
「そっか。少し、さみしくなるね」
その言葉と共にギルバートは手を差し出した。その手を黒猫が握る。
「今までお疲れ様」
「後は任せたぞ」
「もちろん」
ギルバートが笑みを浮かべて頷く。それに黒猫は頷き返し正を見た。
「困難はあるだろうが、お前も頑張るように」
「僕は僕だけのやれることをやるだけだから大丈夫だよ」
苦笑しながら言う正に黒猫は笑みを返す。そして、二人に背中を向けた。
「男は背中で語ると、昔はかっこよく言っていたが、儂は今、語れているかの?」
笑みを浮かべながら言う黒猫にギルバートは自信満々に言葉を返した。
「哀愁漂う背中だね」