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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第三百話 悪魔

「っつ! しつこい!」


アークレイリアを振り抜いてすかさず迫りくる雷球を全て撃ち払った。いや、撃ち払ったはずだった。だが、ケツアルコアトルは再び雷球を放ってくる。


『ごめん。私がもう少しケツアルコアトルの、種族としての力を使えたら』


「ルナのせいじゃない、っく」


ケツアルコアトルの口から紫電が迸った瞬間、私は全方位に拒絶の力を振りまいていた。全方位から迫り来る紫電を一瞬にして蹴散らす。


「全く。模写術師(コピーライター)は完全に戦意を失っているというのに、どうしてケツアルコアトルは正気に戻らないんだか」


ケツアルコアトルが本格的に暴れ出したのはほんの少し前。それまでは黒猫の乱入の最中に上手く引き剥がすことが出来たのだがそれは幸運だったのだろうか。


ここに来るまで、ほんの少し前までアークの戦いを行っていた会場から離れた首都の外のフルーベル平原に来るまではここまで攻撃は激しくなかった。


模写術師(コピーライター)の手から完全に離れている? なら、正気に戻ってもいいのに」


『来るよ、リリィ!』


「ワールドエンド!」


全方位から迫る紫電を拒絶しながら私は前に駆ける。


アークレイリアを握りしめてケツアルコアトルに向かって全速力で駆ける。


『何を』


「待っているだけじゃ救えない。だったら」


ケツアルコアトルはすかさず全身を振りまわしてくた。だけど、それを軽々とアークレイリアで撃ち払う。そして、アークレイリアの刃をケツアルコアトルに向かって振り抜いた。


だが、甲高い音を立ててアークレイリアが弾かれる。


「今の、何」


『目を覚まして!!』


ルナが必死に呼びかける。だが、ケツアルコアトルがこちらを見る目は異常だった。まるで、私達が全ての仇だとでも言うかのように。


ケツアルコアトルが口を開く。巨大な顎をバックステップで回避しながら私は考える。


ケツアルコアトルは幻想種の中でもかなり特殊な部類。前に人界の日本にある学園都市、悠聖達が少し前までいた場所、で起きた学園都市騒乱。そこでは多数の幻想種が発見されたがそれは作られた幻想種。だけど、ケツアルコアトルは違う。


人為的に作れる幻想種と違い、自然にいる幻想種はかなり特殊な能力を有している。ケツアルコアトルの能力は私達が最初に出会った時に受けた放電。いや、周囲の魔力を吸い取り我がものとして使う固有能力。


それが炎であれば炎を撒き散らし、雷であれば紫電を撒き散らす。自然すらも味方にする強力な力。


模写術師(コピーライター)達はそれを欲した。だからこそ、ルナを人質にしようとした。何故なら、どんな制約を科してもケツアルコアトルの固有能力ならいつかは我がものに出来るのだから。


「呪い、かな」


『呪い?』


「出来るかわからないけど、試してみる」


アークレイリアの先をケツアルコアトルに向けながら私は息を吸う。


「幻影回帰」


今ならよくわかる。アークベルラの力だった幻影回帰の本質を。


リリーナはその力で世界を呪うように使った。世界に対して偽装魔術を施すころで自然の理すらも操ることが出来た。だけど、本質は偽装魔術ではない。アークベルラ単体ではそう勘違いしてしまうのも無理はないだろう。だけど、今の私にならその本質はわかる。


「反転の力」


世界の想いを騙し、世界の想いを利用する理解を超えた超常の力。それを理解出来る形で表したなら偽装ということになる。


アークレイリアのような応用性はない。だが、アークレイリアと同じくらいの可能性に満ちた能力。その能力を上手く使えば、もしかしたら、


「ワールドエンドを幻影回帰すれば」


世界を騙せるなら、アークレイリアの中にある力の拒絶を反転させればそれは受容となる、それすらも可能となるはず。それがあれば、ケツアルコアトルの想いもわかるかもしれない。


「お願い。私の思いを紡いで!」


神姫の鎧が光を帯びる。その力を感じながら私はアークレイリアの力を最大まで発揮させた。


「フェースドライブ!」


世界が止まる。いや、止まったように錯覚する。全ての感覚が世界よりも早く、そして、世界よりも広く全てと繋がる。


大地を、風を、空を、空気を、命を感じながら私はケツアルコアトルの想いを受け止めようとした瞬間、


「あぐっ」


思わず片膝をついた。


「今、のは」


感じたのどす黒いまでの空気。そして、濁りに濁った怒りの感情。


ケツアルコアトルが大きな声を上げる。それは獣声と言うべきものかもしれない。だけど、ルナと契約した私からすればそれが何を意味しているのかは理解できた。


苦しんでいる。そして、助けを求めている。自分ではないなにかに浸食されることを嫌がっている。


『クラクラする』


ルナが私の肩に降り立つ。どうやら私を通して今のことを受け取ったらしい。


『でも、今のは』


「何か心当たりでもあるの?」


『あると言えばあるけど、でも、これは』


地面を駆ける音。すかさず横に飛びながらケツアルコアトルの体に合わせてアークレイリアの刃を当てて受け流す。本来なら不可能な巨体でもアークレイリアの力なら受け流すことが出来る。


すかさずケツアルコアトルとの距離を取る。いや、取らなければならないから取る。


今までと雰囲気が異なっているのだ。まるで、今の咆哮が合図であったかのように。


『ううん。ありえない。だから、違う。だってまだ、まだ死んでないから』


「ルナ?」


『大丈夫だよ。私は大丈夫。でも』


ケツアルコアトルがゆっくりとこちらを振り向く。その目は血走っており、今にも私達に襲いかかってきそうな雰囲気だった。


私は小さく息を吸い、そして、吐きだしながら走りだそうとした瞬間、


「ノートゥング!!」


いくつもの雷の槍がケツアルコアトルの周囲に着弾した。


「ルーリィエさん! 大丈夫!?」


「名山、俊也、だよね?」


私の前に空から着地した名山俊也はさっきまでとは全然雰囲気が違っていた。まるで、人ではなく別の何かになったかのような錯覚がする。


「大丈夫、みたいだね。でも、ケツアルコアトルは」


「あなたがここにいるということは模写術師(コピーライター)は?」


「今は花子さんに任せている。精神的な疲労で気絶しているけど。一応、セルファーを護衛としているよ」


「ちょっと待って。私が聞きたかったのはそういうことじゃなくて」


『来るよ!』


ルナの声に私は呆れかけていた感情をすぐさま戻す。ケツアルコアトルはことらに向かって飛びかかろうと動き出していた。だけど、それを阻むかのように名山俊也が腕を向ける。


「グレイブ、行くよ」


そんな優しい声が響いた瞬間、ケツアルコアトルの周囲の大地がせりあがった。ケツアルコアトルはすかさず一回転するように体を動かし力任せに大地を破壊しようとする。だけど、それは出来なかった。いや、これは正確じゃない。


せりあがった大地は破壊出来た。だけど、それ以上に前より大量の大地がせりあがりケツアルコアトルの動きを封じ込める。


「これは」


「アースクエイク。グレイルが持つ精霊武器だよ」


「ちょっと待って。武器?」


「うん、そう。グレイルの精霊武器は大地そのもの。僕が地面に足をつけている限り、その全ては僕の味方をする」


私は開いた口が塞がらなかった。


精霊武器と言えば悠聖の精霊でもある優月の薙刀やアルネウラのチャクラム、セイバー・ルカのエッケザックス等のまさに武器というべきものだった。だけど、名山俊也の精霊だけは違うみたい。


確かにこれならケツアルコアトルの動きを封じることが出来る。


「でも、おかしいな。模写術師(コピーライター)もセルファーも完全に降伏したのに、どうしてケツアルコアトルはまだ暴れているんだろう?」


「名山俊也。今、何ていったの?」


「どうしてケツアルコアトルはまだ暴れているんだろう?」


「その前」


模写術師(コピーライター)もセルファーも完全に降伏したのに?」


「そう」


操る能力を持つダヴィンスレイフを扱えるのは模写術師(コピーライター)とセルファーの二人だけのはずなのに、どちらも降伏しているなら誰がケツアルコアトルを操っているの?


『じゃあ、まさか』


「ルナ? 何か知っているの?」


『お母さんから聞いたことがあるの。私達の主である神の真の敵。ディアブロ』


「ディアブロ!? どうしてその名前が!?」


「くっ、下がって!」


名山俊也の言葉に私達は同時に後ろに下がった瞬間、漆黒の刃が一瞬にして周囲を切り裂いた。いや、漆黒の刃じゃない。


それを見た私は顔が引きつるのがわかった。


それはもう、ケツアルコアトルではない。いや、姿形はケツアルコアトルだろう。だが、その体からは何本もの漆黒の触手が伸びていた。その全ての先が鋭利な刃物のように鋭くなっている。


『そんな、ありえない。ディアブロは死んだものか、死にかけのものにしか憑依出来ないのに』


「ルナ。あの状態で助ける方法はないの?」


『あるよ。でも、それは』


「ルーリィエさん。助けるなんて悠長なことは考えない方がいいよ」


険しい声で名山俊也が言う。その言葉と共にケツアルコアトルが一歩踏み出した。


「もう、僕達の手に負える存在じゃないかもしれない」


ノートゥングをいくつも展開しながら身構える名山俊也。


『うん。私もそう思う。あれはもう、お母さんじゃない』


ケツアルコアトルが血走った眼をしながら大きな口を開いた。


『あれはもう、悪魔そのものだから』

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