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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百九十話 開幕

静かにアークレイリアを両手で握り額に当てる。


ついにやってきたこの日。私は、緊張していた。全てが決まる、この日を。


「緊張しているな」


私は隣に座る悠聖の顔を見る。悠聖は優しく私の頭を撫でてくれる。悠聖の腕の中には心配そうにこちらを見つめるルナの姿。


「悠聖。私は」


「大丈夫だ。後はお前の羞恥心をどこまで抑えられるか」


「そんな問題じゃないから!」


確かにそれもあるけど私がいいたいのはそういうことじゃない。


「私の力で二人と戦えるのかな?」


リリーナはアークベルラの呪いを使った戦い方をする。これはかなり特殊な能力で呪いの物語になぞることで能力を発揮出来る。


呪いは四つ。


一つはアークベルラ・プライ。武器の耐久を落として劣化コピーを大量に作り出す効果。作れば作るほど本体の切れ味も耐久性も落ちる諸刃の剣。


一つはアークベルラ・ウィッシュ。相手の背後に回り込む瞬間移動と振り向いた相手にかかるあらゆる効果を打ち消す効果。これはプライと違って振り向かなければ効果は無かったこととなり元の場所に戻る。


一つはアークベルラ・カース。呪いそのものを相手に刻みつける効果。基本的には能力低下が主らしいけど耐久性の低下も可能。


そして、アークベルラ・キラー。これだけは能力が不明だ。


対するミスティはある意味未知数の力を持っている。天界と魔界のハーフであるからの白銀の翼。伝承の中でしか聞いたことのないあの能力があるなら、あらゆるアークよりも危険かもしれない。


「大丈夫、とは言えないな。だけど、リリィには新たな力があるじゃないか。中二パワーが」


「中二パワー言うな!」


「アークレイリアの力がアクセラレイトで光の刃が『アクセルエッジ』。アークセラーの力が『ワールドエンド』、アークゼファーが『ファントムライド』だったか?」


「あー、あー! 何も聞こえない。何も聞こえない!」


それはマクシミリアン様から言われた技の強化方法に従ってつけた名前。しかも、中二病と共につけた名前。恥ずかしすぎる。


「火力が20%向上したんだから恥ずかしがるなよ」


「恥ずかしいわよ! 何が嬉しくて技名を叫ばなくちゃならないのやら」


「オレはどうなるんだよ」


悠聖の場合は武器名だからと言いかけたがよくよく考えると『絆と希望の欠片ライペルタル』や『終始の星片オラトリオ』はどう考えても技名だ。それに、魔術師にとって技名を叫ぶのは普通。


ある意味、技名を叫ぶ行為は人界にとっては恥ずかしくないのかもしれない。


「まあ、今回ばかりは誰が勝つかわからないからな。オレから言えるのは一つだけ。ハイロスの能力に気をつけろ」


「ハイロスの?」


「リリーナはほとんど能力がわかっている以上、唯一の未知数があるハイロスの行動だけはかなり危険だ。それに、アークフレイは素で強い」


「わかっている。でも、強さだけは私は負けない」


「その意気だ」


そういいながら悠聖は私の頭を撫でてくれる。すると、ルナが悠聖の腕を伝って私の頭に上ってきた。そして、そのまま頭の上に座りこむ。


「ルナ?」


ルナはがうと声を上げた瞬間、私の体の周囲に優しい光の粒子が降り注いだ。


「これ、は?」


「これって、まさか」


悠聖が驚いたように目を見開き、そして、ルナを私の上から取った。そんなルナの表情はどこか不服そうに悠聖を見ている。


「悠聖、何か知っているの?」


「いや、今は言わない方がいいな。これは終わってから言うべきことだから」


「そうなんだ。だったら、いいや」


私はアークレイリアを握り締める。そして、歩き出した。


「行ってきます」


「ああ、行って来い」


その声に押されて私は歩き出す。体が少し軽く感じるけれど、そんなことを気にすることなく私は会場に向かう。


「勝つよ、アークレイリア」






楽しそうに話し合うリリィと悠聖。はっきり言うなら羨ましい。ここに悠人の姿は無いのに。


「リ、リリーナ。そんな目でリリィを見なくても」


「あれ? もしかして睨みつけてた?」


「うん」


どうやらあの桃色空間に嫉妬していたみたいだ。悠人がいないからそれには対抗できない。


「リリーナ、大丈夫?」


「あれ以外は大丈夫かな?」


そういいながら私は観客席の一角を指差した。そこには巨大な応援幕を超高速で振りまくるパパの姿があった。ちなみに、早すぎて何が書いてるかわからない。


魔界の一派はそこに陣取って私を応援してくれているが、大半がまるでアイドルを応援するかのような状態だ。だから、ある意味恥ずかしすぎる。


「あはは。でも、羨ましいな。お父さんが応援に来てくれていて」


「うっ。そういう意味じゃないんだけどな。でも、ここに後悠人がいれば」


「そう言うと思って、じゃん」


鈴が何かを取り出す。そこには立体ディスプレイがあり、そこには悠人の姿が映っていた。その後ろにはアル・アジフの姿もある。


『リリーナ、元気?』


「ゆ、ゆゆ、悠人!? なんで!? どうして!?」


『一応、我もいるのじゃがな。鈴から連絡があったのじゃよ。アークの戦いの決着をつけるから応援してほしいっての』


『ちょうど近くに敵はいないから休憩しながら応援ってわけ。ごめんね、そばで見れなくて』


「ううん。応援してくれているだけで充分嬉しいよ」


あまりの嬉しさに泣きそうなほどに。


悠人はそんな私の顔を見て苦笑する。


『リリーナ。鈴からいろいろな話は聞いているよ。この戦いに対するリリーナの覚悟を』


「それは」


『だから、言うよ。リリーナがそれを望むなら僕は君を助けるよ。鈴と二人でリリーナを守って見せる。だから、安心して言ってきて』


「悠人」


悠人はわかっている。改造したベイオウルフがどれだけ危険なものかを。それを理解した上で間に合うかわからないこの状況でもそう言っている。


だったら、私は本気でそれに応じるだけ。


「わかった。必ず、勝って来る」


『信じているよ』


「うん。悠人、鈴。行ってきます」






会場のフィールドに一人立っているハイロスはアークフレイを傍に突き刺して大きく息を吸った。


リリィよりも、リリーナよりも早くフィールドに入ったハイロスは静かに目を閉じている。


ハイロスは会話をしている。会話をしているのは主人格でもあるミスティと。心の中で。


『緊張してる? ハイロス』


『当り前だ。今回は今までと違うからな』


『相手のこと?』


それにハイロスは小さく頷いた。それは観客の誰もわからないくらいの頷き。


『大丈夫だよ。二人共、強いから』


『そうだな。なあ、ミスティ。一つだけ言っておく』


『何?』


『私が消える条件だ』


その言葉にミスティが息を呑んだのがわかった。


『私の人格は鎧にある。この白銀の鎧に』


『じゃあ、鎧が砕かれたら』


『だが、鎧が砕かれたところでアークの戦いは終わらない。私達が諦めるか、全てが砕かれるまで』


『ハイロスは、鎧が砕かれたら私が戦えっていいたいの?』


『そうだ』


それはある意味合理的な判断だ。


アークフレイの鎧を破壊出来ればその時点でハイロスは消える。だから、それからはミスティが戦わなければならない。それに、鎧を破壊出来た時点でアークの戦いは終わったと相手は思うだろう。


アークフレイは剣と鎧の二つで一つ。だから、どちらかが欠けてもそれはアークフレイじゃない。


だが、実際は続く。それを使った作戦には必ずミスティの力がいる。


『嫌』


だが、それをミスティは断る。


『アークフレイが二つで一つであるように、私は、ミスティーユ・ハイロスは二人で一人なんだから』


『そんなわがままな』


『わがままでいいよ。でも、私は見捨てない。この翼にかけて』


その瞬間、ハイロスの背中に白銀の翼が現れた。それと同時に純白の翼を作り出したリリィがフィールドに上がってくる。その手には光の刃を持つアークレイリアが握られている。


少し遅れるようにリリーナも上がってくる。その手にはアークベルラ。


『全く、お前は』


『だから、共に戦おう』


『ああ』


ハイロスはアークフレイを構えた。


『レディース&ジェントルメン。音界主催、天界と魔界の王を決める戦い、アークの戦い。その最終戦をこの仮説フィールドで開きたいと思います! 司会進行はこの私、白川七葉。解説には人界の第76移動隊代表花畑孝治。魔界代表雷帝刹那。天界代表光明神アーク・レーベ。そして、音界代表で今回の戦いを企画してくれた首相の元歌姫メリルです』


観客が盛り上がる。そんな中でフィールドの中央にやってきた七葉は観客に向けて手を振りながら突如としてオルタナティブ試作一号機を出現させた。


歓声が悲鳴に変わるより早くオルタナティブ試作一号機から放たれるエネルギー弾。だが、それは突如として現れた半透明の壁によって受け止められる。


一瞬にして訪れる静寂。


『今回のフィールドは佐野夫婦の協力により観客の皆さんに被害が及ばないように強力な結界を展開してもらっています。こういう風にフュリアスの攻撃してもへっちゃらです』


観客からわきおこるブーイングの嵐。だが、七葉は気にすることなく言葉を続ける。


『さて、アークの戦いの参加者を紹介しましょう。というか、時間も押してるので完結に。魔界代表リリーナ、天界代表リリィ、音界代表白騎士です、って、白騎士のままで行くの?』


「どっちでもいいが」


七葉が首を傾げながらブーイングの嵐の中でハイロスに尋ねる。


ハイロスは困惑したように言葉を返す。すると、七葉はどっちでもいいかと呟いて話を進める。


『ルールは至ってシンプル。相手の武器破壊を行えば勝利。一応、ギブアップもありなのかな? とは言え、見事のある戦いになるのは間違いありません!』



ブーイングの嵐の中で言葉を続ける七葉はある意味すごいかもしれない。


『さあ、皆さん、時間がやってまいりました。勝負の開始はこのコインが地面に落ちてから』


そう言いながら取り出したコインは一円玉。王を決める戦いにアルミ1gを開始の合図にするのはどうかと思うが七葉は一切気にしていない。


『皆さん、準備はいいですか?』


ブーイングの嵐が止み、誰もが固唾を飲んでコインを見つめる。


『三人共、準備はいい?』


誰もが頷く。それを見た七葉は笑みを浮かべて、そして、一円玉を上に弾いた。


その瞬間に戦いは始まっている。


リリィは落下する速度を計算して魔術をこっそり展開。リリーナは勢い良くアークベルラを地面に叩きつけ、ハイロスはアークフレイを抜きはなった。


そして、一円玉が頂点に達した瞬間、一円玉が七葉によって地面に叩きつけられた。


「初め!!」


「なっ」


リリィが完全にタイミングが遅れる。リリーナは焦りながらフィールドをアークベルラで斬りつけ、ハイロスは飛び上がっていた。


白銀の輝きで周囲を照らしながら。


「一撃で終わらせる!」


それを見たリリーナはアークベルラを構え、リリィはバックステップをする。


「ミスティックゲイザー!」


白銀の輝きは閃光となりあたかも雷のようにフィールドに降り注いだ。


『ぬおわっ、いきなりすぎるよ!』


「これは光属性の範囲魔術か?」


「光と雷の混合ッスね」


「光というより天空属性か?」


「あの、三人共、この状況でよく冷静ですよね」


「「「解説だから」」」


『解説だからじゃないよ! いきなり終わったとかは、ないね』


閃光が止んだ先には未だに立っている二人の姿があった。リリーナは無傷で自信満々に立っている。しかも、リリーナが立つ周囲半径5mの地面には傷はない。対するリリィは立っている場所を含め地面は傷だらけだった。


だが、リリィは無傷。しかも、その体は白銀の輝きに満ちていた。


「ちっ」


ハイロスがアークフレイを構えながら後ろに下がる。対するリリィはその白銀の輝きを解放した。


「ミスティックゲイザー!」

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