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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百八十八話 交渉

アレキサンダーは簡単に言うなら丸腰だった。アストラルブレイブも丸腰だから、もしかしたらこちらの姿を視認した瞬間に武器を収納したのかもしれない。


だが、アレキサンダーの背中の砲は攻撃が可能。そういう意味では丸腰ではないのかもしれない。


「クロラッハ! 何故、ここにいる!?」


僕はアストラルブレイブをアレキサンダーに向けながらクロラッハに尋ねた。すると、アレキサンダーがゆっくりと降下し着地する。


今なら狙える? いや、今は狙わない方がいい。クロラッハは何かを隠している。


『あの時以来だな、真柴悠人』


「クロラッハ。何故来た? ここを攻めても戦略的価値は無いに等しいよ?」


『戦略的価値が無い? 何を言う。麒麟工房で開発されているのは真柴悠人専用機だ。つまり、一騎当千。いや、一騎当万という表現が正しいくらいの機体を作り上げているではないか。ならば、戦略的価値は極めて高い』


なら、何故ここを攻めないのか。


その理由の一つとしてアル・アジフさんがいるからだろう。フュリアスの天敵である魔術師の中でもトップクラス、速度と火力の両立の観点から言えば最強のアル・アジフさんがいる。


『だが、今回我は戦いに来たわけではない』


「何だって?」


『勧誘をしに来たのだ。真柴悠人よ、我と共に世界を救わないか?』


「何を、言っているんだ?」


『黒猫からお前達の目的を聞いた。お前達は最初から音界の平和に興味は無かった。いや、音界の平和の先にあることしか興味は無かった』


「違う!」


僕は叫んでいた。これ以上言われたくないから。


「僕はメリルの理想を」


『お前はそれもあるだろう。だが、人界の人間、第76移動隊の隊長はこう思っているはずだ。音界に恩を売り、来るべき決戦で力を借りるため。いや、違うな。来るべき決戦で力を利用するために』


「黙れ」


『人とはそういうものだよ。国家とは、世界とは、それぞれが求める利益のために他者を利用する。人界も第76移動隊もそのために力を貸してくれるのだろう』


「黙れ!」


『それがお前達の目的だ。それがお前達の狙いだ。音界の平和の先にあるものを狙っている。ならば、我は人界と戦おう。だが、お前もいれば安定性は増す。どうだ? 我らと一緒に』


「いい加減黙れよ、クロラッハ!」


僕は対機ナイフを抜き放つとアレキサンダーに向けて投擲した。だが、対機ナイフはアレキサンダーによって弾かれる。


「そんなんじゃない。僕達はそんなもののために戦っているわけじゃない!」


『確かにお前はそうだろうな、真柴悠人。だが、全ての人間がお前みたいな者ではない。お前のように心の底から音界を救おうとしているものもいれば、人界のように音界を利用しようとするものもいる。我らにとって後者は倒さなければならない存在だ。そして、それは天界も同じ』


「だから、政府を攻撃するのか?」


『ああ、そうだ。音界は音界のためにあらなければならない。人界や天界の人間が関わる隙間などないのだ。音界は音界だけの力で生きていける。それを証明するために戦わなければならない』


「違う。確かに音界だけで音界は進むかもしれない。だけど、寂しいじゃないか。僕達は知り合ったんだ。僕達は会話を交わせるじゃないか。だから、僕達は関わっているんだ。人界の人間がここにいるじゃないか」


僕だってそうだ。最初は『ES』のパイロット。だけど、メリル達と会うことで今では音界の一員としてここにいる。人は分かり合うことが出来るんだ。


『ならば教えてやろう。何故、レジスタンスが今まで生き長らえていたかを』


「急に何を」


『おかしいと思わなかったのか? 音界は本来政府が全てを管理している。大なり小なりレジスタンスは存在するものだが、あまりにもレジスタンスの規模が大きすぎることに』


「えっ?」


『どうやら何も知らされていないみたいだな。だから、我は教えてやろう。レジスタンスは今まで人界からの技術提供を受けていた』


その言葉に僕は完全に動きを止めていた。


『このアレキサンダーの機能の半分は人界由来の技術だ。四肢の可動範囲が広い骨格データ。エネルギーバイパス。両腕のエネルギーシールド発生装置。背中の砲刀エスパーダ。それら全てが人界の技術を利用している。これらは奪ったものではない。提供されたものだ』


「そんな」


『人とは現金なものだ。特に軍事産業の関係者は戦争や内戦にはとても食いつきがいい。作り出した兵器を試せるのだからな。人界も天界もレジスタンスが発足するないなやすぐさま兵器を届けてくれた』


「そんなこと」


『ありえないと否定したいのだろう? だが、事実だ。人界や天界にとって音界は実験場なのだよ。我らはモルモットと言うべきか。笑えない冗談だがな。だからこそ、我らは今動かなければならない。音界を本来の世界にするために。それにはお前の力が必要だ、真柴悠人』


アレキサンダーがゆっくりとアストラルブレイブに向かって手を伸ばしてくる。それに僕は反応しない。反応出来ない。


『我が進化の力とお前の才能。二つが組み合わさればそれこそ世界と戦える力となる。そう、音界を救う力とな。他国すら侵略する力が無ければ国家は成り立たない。力こそが全てなのだ。真柴悠人よ。我ら二人ならば必ずや世界を救えるだろう。だから、我の元に』


「嫌だ」


僕は対機ナイフを抜きはなった。


「確かにそうかもしれない。人界や天界は都合のいいように音界を見ているかもしれない。だけど、僕はそうじゃない。僕にとってそんなことは関係ないんだよ、クロラッハ。僕はただ、メリルを守る。それだけのためにここにいる」


『元歌姫を? 力を失った奴に何が出来る?』


「僕には出来ないことを。だから、僕は僕の出来ることをする。それだけだ。クロラッハを倒すことを僕はする!」


『愚かな。お前は何も持っていない。お前はただ、他人の言葉に踊らされているだけだ』


アレキサンダーが背中に隠していたエネルギーライフルを手に取った。確かにアストラルブレイブは近接用の武器しかない。アンカーの攻撃はアレキサンダーには当たらないだろう。


だが、そんなことは関係ない。このアストラルブレイブならワンチャンスが存在する。


『そこまで堕ちたか、真柴悠人』


「あなたを倒せば戦争は終わるんだ。だから」


僕はアストラルブレイブを動かそうとした瞬間、嫌な予感が体中を貫いた。


一歩でも動けば死ぬ。まるで、そんなことを言われているかのように。


『どうした? 何故動かない?』


おそらくクロラッハは笑みを浮かべている。それでも僕の体は動けなかった。


『聞こえますか? 真柴悠人』


ピース?


頭の中に響くピースの声。どうやら精神感応を伝わって話しかけてきているみたいだ。


『アレキサンダーには行動予測プログラムが載せられています』


行動予測?


『あくまで完全ではありませんが、行動予測プログラムを真柴悠人に設定しているなら容易に迎撃されます。今までの行動から次の行動を予測するので』


クロラッハが来たのはそれを試すためかな?


『可能性としては』


だったら、戦い用があるね。


僕はそう言いながら静かに操作パネルを触ってアストラルブレイブの全てのリミッターを解除する。


「行くよ、ピース」


『マスターの仰せのままに』


その瞬間、アストラルブレイブが加速した。その速度はまるでエクスカリバーの最高速であるかのようにアレキサンダーに向かって突撃する。


アレキサンダーはエネルギーライフルの先をアストラルブレイブに向け、そして、引き金を引いた瞬間、アストラルブレイブの動きが直角に曲がった。


それに対応するようにアレキサンダーも動くが、エネルギーライフルはアストラルブレイブの横を通り過ぎるだけだ。


『外しただと!?』


「お前は油断した!」


対機ナイフを投げつけながら一気に加速する。


「プログラムに頼るお前に僕が負けると思うな!」


『それはどうかな?』


アレキサンダーがエネルギーソードを抜き対機ナイフを弾く。僕はすかさず対機ナイフで斬りかかった。


『エネルギー系の武器を封印し、全て推力に当てたか。見事な近接用の改造だな』


「くっ」


対機ナイフをエネルギーソードで受け止められた瞬間、僕はアンカーをアレキサンダーに向かって放っていた。だが、アレキサンダーはアンカーを避ける。


上空に向かって急上昇することで。


『機体の改造をしているのはお前だけだと思うな!』


「この瞬間を待っていたんだ!」


僕はすかさずアストラルブレイブで宙返りを行っていた。伸びたアンカーは鞭のようにしなりアンカーの先に弾かれた対機ナイフをつけたままアレキサンダーを下から上に浅く切り裂いていた。


『何!?』


アンカーと対機ナイフを戻しながら一気に急上昇する。狙いは動きを止めたアレキサンダー。


「これで」


『甘いわ!』


アレキサンダーの背中の砲がアストラルブレイブに照準を向ける。それに対して僕は手のひらを突き出していた。


「ぶっつけ本番!」


『死ね!』


背中の砲から莫大な量のエネルギーが解き放たれた。おそらく、エネルギーシールドを展開しても一瞬で消されるほどの膨大なエネルギーの奔流。


それに僕は立ち向かう。アストラルブレイブと共に。


「リンクスタート!」


体を走る激痛。それを感じながら僕は手のひらをエネルギーの奔流にぶつけた。


「アストラルブレイブは確かに近接用に改造した機体だ!」


手のひらがエネルギーの奔流を受け止める。


「それは推力を確保するためでもあり、そして」


近接機体に対して有効なのは射撃。それを僕は待っていた。


「この時を待つための近接用機体がアストラルブレイブだ!!」


アレキサンダーがエネルギーを解き放ち終わる。そして、クロラッハが見たのは背中から莫大なエネルギーを吹き出し加速するアストラルブレイブの姿だろう。


「これで」


拳を突き出しアレキサンダーを殴りつけようとした瞬間、アストラルブレイブの腕が吹き飛んだ。それと同時に中核部分でも爆発が起きる。


推力を失い、アストラルブレイブは制御不能となり落下を開始する。


「何が」


『許容量を超えたオーバーフローです。簡単に言うならアレキサンダーの火力が高すぎました』


「あのタイミングで?」


アストラルブレイブが地面に激突する。衝撃を感じながらも僕はすかさずアストラルブレイブを起きあがらせた。


中核で爆発が起きてもどうやらまだ動ける。すぐには動けなくなるだろうが。


『貴様はやはり我と共に世界を救うべきだ』


「クロラッハ?」


『次会う時、敵になるなら殺そう』


アレキサンダーが背中を向ける。


後少しだった。アンカーを使った斬りつけも最後の突撃もアレキサンダーに届かなかった。


「負けた、ね」


『はい。ですが、収穫はあります』


「そうだね。フルリンクシステムはどうやら使えるみたいだね」


アストラルブレイブの電源が落ちる。僕はピースを外してコクピットの外壁を簡易魔術で破壊した。


戦闘の後にしては軽い傷跡。


「僕は、どうすればいいのかな?」

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