第二百八十七話 圧倒的な戦力差
山肌をかける八機のフュリアス。第五世代型のレイヴァレルと呼ばれる機動力に特化した機体だ。その背後の空には形はギガッシュだが、いたるところで装甲が変更されている七機のギガッシュ。
このギガッシュはどうやら大破したものを修理したらしく、機動性は通常のギガッシュよりも劣る。
合計十五機のフュリアスが山肌を駆け抜け、登った先にある目的地に向かって移動していた。
『数は十五、ですね。相も変わらず正面から襲いかかってくるとは』
呆れたような機会音声を聞きながら僕は苦笑しつつレバーを握りペダルに足を乗せる。
「公式発表では麒麟工房は放棄されたからね。近くの村を含め、全員が首都に移動した」
『とは言っても、撃破された総数くらい流れていてもおかしくはありませんか?』
「それが流れてたら苦労はしていないよ」
そう言いながら僕は隠れていた茂みから機体を踊り出した。
『アストラルブレイズか!? そんな骨董品など!』
相手の通信を傍受しながら僕は小さく息を吐く。
どうやら、僕の機体をアストラルブレイズと勘違いしているらしい。確かにベースはアストラルブレイズだけどその改造具合は原型を留めていない。
「ピース。支援よろしくね」
『わかりました』
ピースの声がコクピットの前方にあるデバイスから流れる。それを聞きながら僕は小さく息を吸い込んだ。
「アストラルブレイブ。真柴悠人、行きます」
出力を最大にして一気に駆け抜ける。その加速はアストラルブレイズを遥かに越え、あっという間にレイヴァレルの一機に肉迫する。
レイヴァレルがそのままエネルギーライフルを構えるより早く、アストラルブレイブが放ったアンカーがレイヴァレルの腕を吹き飛ばしていた。
「まずは一機!」
跳び蹴りでさらに吹き飛ばしながらブーストで真横に移動する。強烈な重圧を体中で感じるが、それを気にすることなく左右の腰から対フュリアス用の対機ナイフを抜き放ち体当たりをかけながらレイヴァレルの中枢に突き刺す。
レイヴァレルを吹き飛ばしながら対機ナイフを空中のギガッシュに向けて放った。
対機ナイフはギガッシュの腕をもぎ取りそのナイフに対してアンカーを放つ。
『脇ががら空きだ!』
『警告。左右からレイヴァレルが二機接近。どちらも対機剣を』
「わざと空けているんだよ!」
対機ナイフにアンカーが繋がった瞬間にアストラルブレイブを回転させた。
アストラルブレイブに向けて突かれた対機剣を残ったナイフで弾きながらアストラルブレイブの肘をレイヴァレルの顔面に叩きつける。
もう片方のレイヴァレルはこちらに狙いを定め対機剣を構えながら、
振り抜かれたアンカーの先についた対機ナイフが側面から腕と頭を削り取った。
回収したナイフを握り、その場から飛び退くのと同時に上空のギガッシュがエネルギー弾を放ってくる。
『本当にあれはアストラルブレイズか!?』
『機動性が違いすぎる!?』
「まあ、専用に改造してもらったものだからね」
そう言いながら僕はアストラルブレイブを飛び上がらせる。そして、両腕についたアンカーを二機のギガッシュに向けて放ちながら対機ナイフを他のギガッシュに向けて放った。
戦果を確認するより早く足に収納された対機ナイフを取り出しながら一気に下降する。
地上ではレイヴァレルが片手に対機剣を構えながらエネルギーライフルの引き金を引くがそれを軽々と回避しながら僕はレイヴァレルを上から踏み倒した。そのまま蹴飛ばして踊るように回転しながら二機のレイヴァレルの中枢を切り裂く。
それと同時に落下を始める四機のギガッシュ。
『残るは四機です』
「三機だよ」
その言葉と共にアストラルブレイブが回転したことで振り抜かれたアンカーがレイヴァレルに直撃して派手に部品を飛び散らせながら吹き飛ばした。
僕は空中にいるギガッシュに向けて対機ナイフを放つ。寸分違わずコクピットを避けて中枢を貫き、ギガッシュが落下を始める。
僕は小さく息を吐きながら起き上がろうとする残る最後のレイヴァレルを踏みつけた。
「さてと。死にたくないならいろいろ教えてくれる?」
『なっ、まさか、最初から通信を傍受していたとでも』
『傍受なんて人聞きの悪い。通信を撒き散らすあなた方が悪いのです』
「ピースさん。相手は一応秘匿通信で」
『プロテクトレベルC以下で暗号通信で無い以上、聞かれてもいいという意思表示なのでは?』
その理論が通じるのは魔科学時代だけだよ。レヴァンティンと言いピースと言い、魔科学時代の最高傑作は桁違いなまでの情報に対する強さを持っているよね。
ピースとレヴァンティンがいたら世界中のネットワークを掌握出来るんじゃないかな?
「全く。とりあえず質問に答えて。これはあなたの」
『アストラルブレイズの分際で!!』
僕は小さく息を吐いてアストラルブレイブの体を反らした。たったそれだけで対機剣を回避する。
そのまま腕を取りつつ力任せに逆方向にねじ曲げ破壊した。
「全機に質問するよ。これはあなた方単独の仕業? それとも、誰かに命じられての行動?」
アストラルブレイブを格納庫の専用スペースに入れる。そして、小さく息を吐きながらコクピットの外へと出た。
デバイス化したピースを手に取りながら。
「これで200くらいかな?」
『正確には208機です。共通する点と言えば一つだけ。どれも小さな組織ということ』
「クロラッハ達からしたら寄る価値がないんだろうね。向こうは向こうで立派な工場があるだろうし」
『だから、おこぼれを手に入れるために小さな組織が狙ってきます』
「そうだね」
僕はそう言いながら格納庫の中を見渡した。
格納庫の中に人の気配は無く、本来ならいるはずの整備員の姿すらない。ただあるのは、三機のアストラルブレイブのみ。
ただし、その内の一機は小破しており今乗っていたアストラルブレイブも関節部分の疲労が大きい。だが、修理する者は誰もいない。
「使い捨てのアストラルブレイブか」
アストラルブレイブはアストラルブレイズを元に近接面の強化と機動性の強化。そして、遠距離武器の全排除というかなりピーキーな性能をしている。
装備も足に四本、腰に二本、肩に二本の計八本の対機ナイフと腰の後ろのスラッシュナイフ。そして、両腕と両胸についたアンカーだけだ。
エネルギーライフルなどエネルギーの消費が多い遠距離武器をとことん排除して近距離に特化させた機体がアストラルブレイブだ。
ただし、整備する人はいない上にアストラルレファスと違ってアストラルブレイズは近接戦にあまり対応していない。だから、数回の戦闘で機体の消耗により関節が動かなくなる。
だから、乗り換えて戦うのだ。使い捨てのようにして。
「アストラルブレイブも性能は悪くないんだけどね」
「あんまり特化させた機体やったら使える人がおらんようになんねん。アストラルレファスみたいに扱いにくい機体にもなるしな」
その言葉に僕は振り返るとそこには凄まじいまでの濃い隈を作るアンがいた。どう見てもほとんど寝ていないみたいだ。
「一段落ついたの?」
「ついてなかったらここにはおられへんで。ようやく可変機構の組み換えが終了した。悠遠からデータを取った戦闘中における高速変形も可能やわ」
前のクロラッハとの戦いで変形機構を持つ悠遠の変形を一度も使わなかったのはわけがある。変形中に隙が出来るからだ。
通常なら問題はないが相手はクロラッハ。減速しながらの変形は死ぬと同義であり、悠遠にはアクロバティックな機動を取りながらも減速することなく変形する性能が必要だった。
ただでさえ機動力はあまり高くないのだ。機動力の高い変形状態を上手く使用しなければならない。
「だったら、少しは寝た方がいいと思うよ」
「寝たら一日中寝る自信がある。明後日に間に合わん」
「それはそれで問題だけど、でも、ちょっとだけでも寝た方が」
いいと続けようとした瞬間、格納庫内に警報が流れた。
「ピース!?」
『機体が一機近づいています。該当する機体あり。アレキサンダーです』
「よりにもよってこのタイミングで」
僕はすかさずアストラルブレイブに戻ろうとして動きを止めた。そして、未だに一度も使用していない最後のアストラルブレイブに向かって駆ける。
『新品ですか?』
「二号機は先程の戦闘で貯蓄エネルギーを使っている。だから、三号機を使う」
すかさず新品のアストラルブレイブに乗り込みながらコクピットを閉めてピースをアストラルブレイズと接続させる。
「アストラルブレイズ、真柴悠人、行きます」
アストラルブレイズの体を格納庫から外に飛び出させる。そして、レーダーが反応する方向を向いた。
そこから向かって来るのはクロラッハが乗るアレキサンダー。
「ナイフだけじゃ心許ないけど、やるしかないか」
そう言いながら僕は対機ダガーを鞘から抜き放った。
「クロラッハ。これ以上は何もさせないよ。悠遠はやらせない」