第二百八十三話 宴会模様
お互いにぶつかり合うアークレイリアと光輝。激しい火花を散らしながら常人の反応速度ならギリギリ追える速度でお互いに剣が振られる。
それを酒の肴に盛り上がる会場。模擬戦ではなく演舞だ。
「盛り上がっているな」
オレは苦笑しながら宴会場に足を踏み入れる。
基地の滑走路で開かれた宴会は首都の住人や天界の住人が集まり交友を深めていた。もちろん、時々喧嘩はあるがお互いに酒を飲んで和解しているように見える。
『こういう宴会は食べて飲んで歌って踊るのが一番だよね。というわけで、行ってきます!』
「あ、あれ? 私も?」
勢いよく優月の手を引いてアルネウラが走り出す。それを見ながらオレは苦笑をしつつ見知った顔を見つけた。
「よっ、ナイト」
「うぐっ、悠聖か。お前のせいで味わっていたものを飲み込んでしまったじゃねえか」
「そりゃ悪かった。どうやら楽しんでいるみたいだな」
「当たり前だ。リリィの奴も楽しそうだしな」
そう言いながらオレ達はリリィに視線を向ける。
お互いに手加減はしているからか同じ速度での剣舞は見応えがあった。いや、リリィの方が若干速いか。
「昔は泣き虫でよく俺の後ろをついて来たのに、今となっては天王に一番近いもんな」
「七葉もそうだったな。オレが『GF』に入ると知ってから慧海さんから頸線を押してもらってオレについて来ようとした」
「妹っていいよな」
「黙れシスコン」
「うるせぇぞ、ロリコン」
「シスコンのてめぇに言われたくないな。シスコンの方が犯罪じゃないか」
「俺は日々の成長日記を書いていただけだ。スリーサイズも書き始めた瞬間にバレて追い出されただけで」
「黄色い救急車を呼ぶか?」
「てめぇこそ黄色い救急、ごぶっ」
「なにやってんのよ、お兄ちゃん!」
いつの間にかやって来ていたリリィがアークレイリアをナイトの頭に叩きつけていた。かなり、いや、めちゃくちゃ痛そうだ。
「私の将来の夫になんてことをいうのよ!」
「ちょっ、おまっ!!」
完全にそれは爆弾発言だ。
「お、夫? ちょっと待て。それは、つまり」
「ふむふむ。次期天王候補の一人が神との婚約か。これはめでたいことじゃないか?」
「頼むからこんなところで出てきて場を引っかき回さないでもらえるか? マクシミリアン」
オレは小さく息を吐いて振り返る。そこには天王マクシミリアンとアーク・レーベ。そして、見知らぬに女性二人にゼルハート。おそらく、魔界の五帝に対抗する天界の五神だろう。
「失敬。次期天王候補が神から子種を授かったと来てな」
「もう少しオブラートに包もうぜ!! からかいに来たのか?」
リリィはリリィで顔を真っ赤にして隠れているし。
「そういうつもりではないさ。ちゃんと紹介しておこうと思ってな。天界を代表する五神を」
「アーク・レーベとゼルハートは知っているが、その二人も五神なのか?」
「ああ。聖天神レイリアと水皇神フラベール。どちらも優秀な兵士だ」
「レイリア? ああ、不可視の偵察者か?」
レイリアの名前は聞いたことがある。
光属性のエキスパートではあるが、攻撃魔術ではなく補助魔術のエキスパートと言われている。
レイリアが持つレアスキルの『不可視の造形』は存在を視認出来なくなる能力がある。それは映像だろうがセンサーだろうがはたまた足跡だろうがそこにいる姿が視界の範囲でわかるものは一切見えなくなる。
ただ、周みたいに魔力粒子を散らせて位置を把握したり、孝治みたいな女性の位置を隠れていても把握することが可能なら場所はわかるが。
そんなことが可能な奴は本当に限られてくるけど。
「水皇神フラベールだ。刹那からは色々と話を聞いている。強いらしいな」
「強いかどうかは試してもらわないとな」
オレはそう言いながら『破壊の花弁』をフラベールに見えるように展開する。
それを見たフラベールは楽しそうに笑みを浮かべた。
「明日手合わせしないか?」
「いいのか? マクシミリアン?」
「天神様が許可されても私が止めます」
そう言いながら呆れたようにレイリアが言う。
「彼は終始神。我らが仕えるべき神たる存在です」
「それなんだけどさ、なんで神は私達の上なんだ?」
それはかなりの問題発言だぞ。
「フラベールはこういう存在だ。言うならば、バカだ」
アーク・レーベが一瞬で切り捨てる。だが、この発言がある意味決戦の最大の切り札の理由となる。
「神を疑問視する者は少なくはない。フラベールのようにな。だが、神を前にすれば従うのが天界の人間だ。フラベール等の例外を除いてだ」
「ですから、私達からすればあなたのような存在を前にすればフラベールのような発言は出来ないものですが」
「オレからすれば普通に接して欲しいものなんだがな」
「そういうわけにはいかないのが天界というものだ。いや、我らが作り出したというべきか?」
そう言いながらマクシミリアンが笑う。
「我は自ら天神を称しているためそのようなことはないがな」
「そう言えばリリィってそんなことないよな?」
「だって、悠聖は悠聖だもん」
「そういう考えが例外というのだ、妹よ」
確かに例外だよな、リリィって。
「しかしだ、白川悠聖。いや、終始神というべきか。お前の人造、違うな、神造」
「ストップだ、マクシミリアン。これに関しては最後の最後まで隠したい」
それこそ、決戦当日まで。
「お前が最悪の想定をしているのはわかる。だからこそ、オレは最悪の状況が進んでも最善の一手を使えるようにしているだけだ。計画を止めることはしない。それに」
オレはリリィの肩に手を回して引き寄せた。
「オレはリリィとも共にいたいんだ。だったら、ついでにそうするのがいいだろ?」
「ついで? ふはっはっはっ! そうか! ついでか、ついでなのか! その答えは予想していなかったぞ、終始神よ」
楽しそうにマクシミリアンが笑う。そして、マクシミリアンは優しくリリィの頭を撫でた。
「そなたは終始神が好きか?」
「うん、じゃなかった。はい。私は悠聖が好きです」
「そうか。ならば我はもう何も言うまい。後は宴会を楽しむだけだ」
「最初から楽しめばいいのに、天王は」
呆れ混じりの声に振り向くとそこには魔王の姿があった。その隣には刹那とリリーナ。さらには孝治に光、ニーナと、後少女。すごく恥ずかしそうにキョロキョロと周囲を見渡す水色のドレスを着た少女だ。
リリィはオレから離れてリリーナに近づく。
「リリィが離れてすごく悲しそうな顔になってるわね、悠聖」
「滅相もございません、冬華様」
「まあ、婚約者が離れて悲しいのはわかるわよ」
「だったら、殺気満々で背後に立つのは止めてもらえませんかね」
いつの間に冬華は背後にいたのやら。怖くて聞けないや。
「それにしても、あの子。正体を隠すつもりはないようね」
「あの子? あの少女のことか?」
緒美みたいな雰囲気だけど違うし。あの少女は一体誰なのだろうか。
いつの間にかリリィやリリーナが少女に話しかけている。いや、ニーナもか。四人で楽しそうに笑い合っている。
「天王、飲め。孝治が持ってきた梅酒だ」
「これまた安っぽそうな梅酒を持ってきたよな」
「定価498円だ」
「マジで安物かよ」
オレは孝治の度胸に感服する。そもそも、安物の酒を魔界の王と天界の王に飲ますか?
「こういう場ではありッスよ。魔王様も人界のお酒は大好きッスからね。特に安物」
「マクシミリアン様も同じだ。特に定価498円のあの梅酒が大好物らしい。マクシミリアン様曰わく、庶民の味だと」
「あいつら本当に王かよ」
豪遊するのはどうかと思うが安物大好きは正直疑ってしまう。
「まあ、いいんじゃないの? そういう王の方が親しみを持ちやすいと思うわ」
「王としては何か間違ってはいまいか?」
冬華の言葉にナイトが呆れたように言う。だが、そんなナイトをレイリアは睨みつけた。
「天界の人間でありながらマクシミリアン様を愚弄するのですか?」
「生憎、俺はもう音界の人間だ。何を言われようが俺の勝手にさせてもらう」
「あなたは」
「はいはいストップ。お前ら、いい加減にしとけよ。今は宴会だ。争いは持ちこむな」
オレは呆れたように息を吐きながら『破壊の花弁』をチラつかせつつ二人を牽制する。
レイリアは隠密行動に秀でている。ナイトはフュリアスの操縦に秀でている。今の状況で二人がオレと戦ったところで勝てる確率は万が一にも無い。
「なあ、冬華。ところで、あの子は誰なんだ?」
オレはそういいながら話を変えるために冬華に尋ねた。冬華は少しだけきょとんとして、そして、頷く。
「あの子が白騎士、ミスティーユ・ハイロスよ」
「はい?」
その言葉に白騎士を知る全員の時が止まったのは言うまでもない。