第二百八十二話 密会
狭い室内。暗い室内。その中でオレ達は部屋の中央にある机を囲むように座っていた。
むさ苦しい空気の中、全員の視線を一身に集める男が静かに口を開く。
「どうやら、ワルキューレは大多数が撃破出来たみたいだな」
その言葉を呟いた男、一誠は笑みを浮かべた。
ワルキューレ殲滅作戦。その作戦において撃破出来たワルキューレの数は400にも及んだ。対するこちらの被害は小破が1のみ。しかも、小破の具合は軽いため余裕で決戦には間に合うらしい。
「へっ、俺達の活躍が一番に大きいよな。なんてったって、俺と真人の二人でワルキューレ百機撃破。勲章ものじゃね?」
「そんなことを言い出したら悠人はどれだけ勲章をもらえるのだろうな?」
健の言葉にルーイが呆れたように言う。それに真人は苦笑するだけだ。
ルーイはそれにしてもと言葉を続ける。
「第76移動隊は特殊部隊も隠していたのだな」
そういいながらルーイは一誠、健、真人の三人を見た。
これに関してはオレも驚いたが、周は最初から“義賊”を音界に忍ばせていたらしい。ワカメやハトの二人も別行動で動いている。
しかも、隠れてリーゼアインとリーゼツヴァイの改造を行いさらに強化していたし。
「それに関してはオレも副隊長の孝治も聞いていないからな」
「当り前だ。どこで気づかれるかわからないからな。周はそういう意味で俺達の役割があると考えている」
「トリックオアトラップ。天界の一部種族が使うことで化け物じみた効果を発揮する神剣。まさか、ここまでとはな」
オレは苦笑する。
首都にいるクロラッハ側の人間を騙せたのは一誠が持つトリックオアトラップの影響が大きい。
驚くことに、フルーベル平原でのワルキューレ殲滅作戦に参加したメンバーのダミーを人形として作り出して動かしていたのだ。しかも、見た目は同じ。だから、騙せた。
“義賊”に関しては取引が成立したと言っていたが、この取引の成立はかなり大きいみたいだな。
「しかし、このような場所で僕達は密会しなければならないのか?」
そういいながらルーイがオレ達五人がいる部屋を見渡す。まあ、狭いし。
「ルーイには“義賊”を、というより一誠達を知っていた方がいいからな。リーゼはすでに公表されているけど、一誠の存在は未だに隠されたままだ」
「俺と真人の二人は決戦に表だって参加するけど一誠だけは裏で動くからな。音界側のリーダーに近いお前と仲よくなっているのはいいと思うぜ」
「うん。僕も賛成かな。とは言っても、僕達のリーゼは相手に警戒されることになるだろうけど」
「それが目的だ。リーゼはそもそも天界の機体。相手の予測を大きく乱すことが出来る」
一誠の存在はありがたい。今回ばかりはオレも孝治も表に出なければならない。だから、裏では指揮官としても動ける神剣使いの一誠は切り札として使える。
リーゼの存在も一誠の言うとおりだ。相手にも天界の人間はいる。あから、リーゼを見たら相手は他にもリーゼがいると警戒するだろう。それこそ、戦力のバランスを変えるほどに。
リーゼの装甲はかなり特殊で、並みの機体では相手にならないならなおさらだ。
「しかし、面白い状況になってきたな」
そういいながら一誠が笑みを浮かべる。
「俺が何もしなくても勝てる戦況の中で俺を加えることで圧倒的な差をつけるつもりか?」
「音界の住人を出来るだけ傷つけたくないからな。全てが上手くいくとは思わないけど、こっちには神様がついている」
「神様がついているじゃなくて、神様がいるだろうに。僕としてはとやかく言うつもりはないけれど、おあまり派手なことを起こして欲しくはないけどな」
「「無理だな」」
オレと一誠の言葉が重なる。
「そもそも、オレの終始の星片を使う以上、派手なことになるのは確実だろ」
「こいつの終始神としての力は戦争ではチートだ。ルーイ、といったな。戦争で勝つ条件はなんだ?」
「数。そして、総合的な力と地の利」
その言葉に一誠は頷く。
戦は数と言われている。極一部の例外を除いて数が多い方が勝つのが当たり前だ。数こそ最大の力と言ってもいい。
まあ、人界にいるとある人物はたった一人で数万の敵を倒した逸話すら存在するけど、そんな例外を除けば数こそが勝つ条件と行ってもいい。
総合的な力はその数との関係だ。いくら弱い兵が集まっても数さえあれば総合的な能力はある。ただ、鍛えられた強い兵士が集まれば数は少なくても力は拮抗するかもしれない。そして、地の利。
これがある意味一番むずかしいかもしれない。地の利を生かしても数の前ではどうにもならない時があるからだ。
だが、今回の決戦では地の利を最大限に使う。
「内包世界召喚。それが終始の星片の本質なら、終始の星片の中で自由にルールを決められるのではないか?」
「ご明察。終始の星片の世界の中なら自由にオレがルールを決められる」
「悠聖、ちょっと待てよ」
健が何かに気づいたようにオレに詰め寄ってくる。
「じゃあ、終始の星片の世界で、女子は服を着てはいけない、と定めた場合は全員全裸で召喚されるということか?」
「…………、はっ。その可能性を失念していた」
『失念していたじゃないからね!!』
オレの背中を誰かが蹴りつける。オレは派手に机を巻きこんで倒れた。
『どこに言ったか不安だったから探してみれば、なんでこんなところでそんな変な話をしているのかな?』
「よう、アルネウラ。いきなりキツイ攻撃をしてくるな」
『悠聖が悪いんだからね!!』
オレは小さく息を吐いて立ち上がる。いつの間にか、部屋の中にはアルネウラの他に優月の姿があった。
こいつら、どうやってこの密室に入ってきたんだ?
「えっと、アルネウラ、そこらへんにしておこうよ。夜は長いんだから」
「何でだろう。優月の言葉がかなり怖いんだが」
「一誠。今のはどうやって入ってきたのかな?」
「精霊の半物質化だろうな。見たのは初めてだが」
オレは小さく息を吐いて手を払う。
「帰った帰った。今は密会中なんだ。部外者は帰ってくれ」
「では、俺も変えるべきか?」
「いつの間に現れたんだよ、孝治」
気づけば孝治がいた。机の上に日本酒と人数分のコップを置いた状態で。
オレ達が今いるのは終始の星片によって入った完全密室の部屋のはずだった。それなのに、孝治は入っている。
「それより、外では宴会が始まっているぞ」
「宴会って、戦争に勝ったつもりかよ」
「主導したのはお前の妹だが?」
「あのバカ」
オレは小さく息を吐いて額を抑えた。いや、まあ、七葉なら未来を見ながら予定を組み立てることができるからまあ、いいのか?
というか、七葉の能力なら未来を見て勝つか負けるかをすでに判断できるんじゃ、
「いや、止めておこう」
今回ばかりはそうするわけにはいかない。決戦は音界の人達がどれだけ戦うかによって未来が変わってくるのだから。
「どうする? 宴会に行くか?」
孝治が日本酒をコップに注ぎながら尋ねてくる。きっちり全員分。
「行かすつもりがないよな!?」
「軽く一杯飲んでからだ」
「日本酒を通常のコップ一杯は軽くないんじゃないかな?」
「いっきにいくか?」
「死ぬぞ」
「僕は遠慮する」
「私も、飲むの?」
『優月は止めた方がいいんじゃないかな?』
孝治の言葉に誰もが呆れる。オレも呆れたように小さく息を吐きながら呟いた。
「まあ、すでにチェックまで行ってるんだ。今回ばかりは騒いでも問題はないだろうな」
オレはそう言いながら日本酒が入ったコップを手に取った。