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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百七十八話 選択すべき未来

静かに息を吐きながらオレは手に持つ魔術書を開く。


こういう時に新たな魔術を覚えるのは付け焼刃でそれほどつかるものじゃない。だけど、何かつかるものがあるかもしれない。だから、オレは探す。


「とは言っても、簡単に見つかるほど世界は簡単じゃないよな。まあ、今は一人だしゆっくりしますか」


本来ならオレに付き添っているアルネウラと優月の二人は今、冬華の部屋にいる。正確には冬華が連れて行った。


オレが疲れているから、ではなく抜け駆けされるのがいやという意味不明な理由だ。あいつらの中でなんか取り決めでもあるのか?


「久しぶりに一人だから孝治と酒盛りでもしようと行ったのあいつはいないし」


変わりに凄く暗いオーラをした光の姿を見かけてしまった。本音を言うなら行かなければよかった。


「浩平の方はお楽しみだし、オレは悲しく一人かよ」


「だったら、私が傍にいようか?」


オレは窓を見る。そこには純白の翼をはためかし空に浮遊するリリィの姿。オレは窓を開けてリリィを中に入れる。


リリィはオレの部屋のベッドの上に飛び込んだ。


「何かあったのか? 冬華から途中で消えたった話を聞いたけど」


「うーん。散歩? 気晴らしに考えとをしながら歩いていたら迷った」


「おいおい」


今の首都は治安がいいとは言えない。何とか孝治のおかげでかなりよくはなっているがそれでも天界の住人と音界の住人とのいざこざが無くならない。


さらには、天界のごろつきが首都のスラム街を支配しているという話も聞く。


「お前は可愛い女の子なんだから一人で危ないところに向かうなよ」


そう言いながらオレはリリィの頭を撫でた。だが、オレは眉をひそめる。


いつも、リリィはこういう時は嬉しそうにオレを見る。だけど、リリィは全く嬉しそうではなかった。嫌ではないのはわかるのが救いだが、心ここにあらずという表現が一番しっくりくるだろう。


「何かあったのか?」


こういう時はそっとしておくのが一番いいかもしれない。だけど、リリィはすでにオレの大切な人になっている。だから、放っておけない。


「ねえ、悠聖。悠聖がもし、親友が力を手に入れなければ死ぬ可能性が高くなると聞いた時、悠聖はどうする?」


「リリィ、お前、まさか」


「聞いちゃった。盗み聞きするつもりはなかった。一足先に走っていったリリーナがどこに行ったか探していた時に鈴に話していたの。アークの戦いに勝てなければ、リリーナは死ぬ可能性が高くなるって」


ベイオウルフ改造計画。


その話はオレの耳のも届いていた。防御力をとことん捨てて機動力と臨機応変力を身につけるための改造計画。だから、当たれば最悪かなり危険なことになる。


いくら、周のおかげでシールドビットが開発出来ていてもその危険性の高さは変わらない。


「私はどうしたらいいの? リリーナが死ぬかもしれないのに」


「それは」


それを選択させるのはリリィにとっては酷かもしれない。リリィはアークの戦いに勝たなければならない。だけど、勝ってしまったならリリーナが死ぬかもしれない。大事な親友のリリーナが。


だから、歩いていたのだろう。迷ってしまうほどに。


「私は勝ちたい。でも、私は、リリーナに死んでほしくない。ようやく出来た魔界の友達だから、大事な大事な親友だから、だから、私は」


どうしたらいいの?


そういいながら振り向いたリリィは涙を流していた。自分でもどうしたらいいのかわからない不安を抱えて。


だから、オレはリリィを抱きしめていた。優しく、だけど、強く。


「戦えないよ。リリーナが死んじゃうかもしれないの私は、勝てないよ。死んでほしくない。魔王の娘でも、私にとっては親友だから!」


リリーナはきっとこのことを話すつもりはないだろう。もし、リリーナがリリィのことが嫌いなら確実に聞こえるように話す、いや、直接言うだろう。そうすればリリィの精神を確実に揺さぶれるから。


だけど、リリーナの性格なら確実に言わない。そんなことで手を抜いて欲しくないから。


だから、ベイオウルフ改造計画は隠されていた。オレ達みたいな極一部にしか効かされていないほどに。


「どうしたらいいの? 私は、勝ちたい。でも、死んでほしくない! この状況で出来る最善の手段は何? 私は、何を選択すればいいの?」


「リリィ」


オレは優しくリリィを抱きしめながらリリィに囁く。


「これはリリィが選ばないといけないんだ。他人の言葉を聞いて判断することじゃない」


「悠聖の言葉を聞きたい。悠聖ならきっと」


「もし、オレがここでリリィに助言をして、リリィがそれを選んだらきっと、オレは一生後悔する」


「えっ?」


オレはそう断定できる。だって、オレの願いを言えばリリィはきっと選ぶから。


「オレが行ったらダメなんだ。オレはオレを許せなくなる。リリィはきっと、一生その重みを背負い続けてしまう。だから」


「いいよ。それで。悠聖が戦ってほしくないなら私は戦わない。ずっと悠聖を支えて」


「お前はそれでいいのか?」


「いいよ。私は悠聖と一緒にいられたらそれで」


「オレ程度のことで天王は諦められるほどのことなのか?」


その言葉にリリィが震えた。リリィは天王になりたい。そう決めていたからこの言葉は卑怯なほどにリリィに有効だ。


だから、オレはその言葉を言う。リリィがやりたいことをさせるために。


「諦めたくない。でも、リリーナのことが大事なの!」


「選択しろよ。お前は今本気で選択しているのか? 選択すべき未来はお前が最も望む希望を選べ!」


「選んだら、失ってしまう」


「選択するということはもう片方の選択を犠牲にすることだ。その選択をすることであったかもしれない未来を犠牲にして、最も望む未来を掴むことだ。それが選択するってことなんだよ。お前の天王への思いは他の何かよりも強い思いなのか!?」


「そんなわけないよ! 私は天王になりたい! なりたいけど、失いたくない! リリーナも失いたくないのに! 選べるわけないじゃない! 選択なんて出来ないよ! 悠聖!」


酷なことだとわかっている。でも、無理やり選択させるしかない。選択させるしかないんだ。


「選べ。そして、誓え、オレに! お前の選択を聞いてやるよ! そして、背中を押してやる! お前が選ぶ未来は何も間違っていないんだ!」


「間違うよ。私は」


「オレがいる。お前が間違っているならオレが必ず助けてやる。人は一人じゃない。だからオレが守ってやるよ。お前も、お前が望む未来を」


「私は」


リリィが涙を流す。そして、その口から未来を言う。


「リリーナにも、ミスティにも負けたくない! でも、二人共生きていて欲しい。私は、天王になりたいけど死んでほしくないの!!」


「終始神白川悠聖。その思い、聞き届けた! だから、オレがなんとかしてやる」


「悠聖」


オレは真っすぐリリィの顔を見る。そして、ゆっくりとリリィにキスをした。


リリィは一瞬だけ驚いて、そして、オレの唇を貪り始める。それをオレは受け入れながらリリィを強く抱きしめた。


どれだけ深いキスをしていただろうか。オレとリリィの唇が離れる。お互いの唇につながる糸をひきながら。


「お前はリリーナと全力で戦え。それを約束できるか?」


「うん。もう、手加減はしない。だから、悠聖」


リリィがオレの耳元に唇を近づいてくる。


「今夜は離れたくないよ」






「おめてとうさん、卒業」


「ぶん殴るぞ、お前ら」


オレは小さく息を吐きながらドアを閉めた。部屋の中ではリリィは安らかな笑みを浮かべて眠っている。


部屋を出たそこで待っていたのは親友の姿と妹の姿。


「いつから聞いていた?」


「まさか、俺達が屋上にいるのに始めるとはな」


「結界魔術を展開したぞ?」


「俺を誰だと思っている?」


「私のおかげだけどね」


そう言いなが胸を張る七葉の頭に『破壊の花弁(デスペルタル)』をいくらか固めて落とした。七葉は声にならない悲鳴を上げて頭を押さえてその場にしゃがみ込む。


「大変だったな」


「かもな。だけど、背中を押せてよかったと思うよ」


「そういうものだろう」


そう言いながら孝治はオレにいつの間にか取り出したワインのボトルを渡してくる。


「いや、オレが欲しいのは水なんだが」


「ブドウジュースだ」


よく見ると確かにブドウジュースだった。しかも、無果汁という表記が書いてある。これ、ブドウの味がするジュースだよ。決してブドウジュースじゃない。


オレは小さく息を吐きながらそれを受け取る。


「悠聖。お前がすることは決まったのか?」


「まあな。オレの『破壊の花弁(デスペルタル)』は今回は最前線向けの能力だろ。だから、出るさ。ベイオウルフを守りながらな」


「それならいい」


そう言いながら背を向ける孝治。対する七葉はオレに近づいてきた。


「これから頑張ってね」


「気が重いよ」


特に、あいつらのこと。


「でも、大丈夫だよ。私が保証します」


「七葉の保証があれば大丈夫だな」


七葉はゆっくりと手を振りながら歩いて行く。オレはそんな後ろ姿に感謝しながら部屋に戻った。そこには、ゆっくりと体を起こすリリィの姿。


もちろん、リリィは裸でありシーツで体を隠している。


「悠聖?」


「起こしたか? すまん」


「ううん。大丈夫だよ。その手にあるのは?」


「ジュース。のどが渇いただろ?」


「うん。カラカラ。一杯汗をかいたからかな?」


「だろうな」


そう言いながらオレはリリィの隣に座る。そして、リリィにボトルを渡した。


コップが無いことからラッパ飲みしないといけない。でも、リリィは嬉しそうにラッパ飲みをしてオレに渡してくる。


「間接キス」


オレは少しだけ顔を赤くしながらラッパ飲みをする。さすが科学調味料。確かにブドウの味がする。


「悠聖。しちゃったんだね」


「そうだな」


「私、幸せだよ。だからね、悠聖」


リリィが嬉しそうにオレに体を預けてくる。


「私はちゃんと戦うから。見ててね」


「ああ」


そんなリリィに肩を回しながらオレは優しく答えた。

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