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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百七十七話 満月の夜

見上げた空に浮かぶ満月。それを見ながらギルバートは一人で街の屋上で酒を片手に座り込んでいた。


「ここの満月も悪くはないね」


そう言いながらギルバートは静かに周囲を見渡す。すでの街の大半は暗く明かりがついているのは数少ない。そんな景色を見ながらギルバートは昼間のことを思い出していく。


「みんな気負いすぎだよ。でも、彼らは世界が二分するほどの大戦争を体験したのは初めてだったね」


「そうなるな。ならば、仕方のないことだとは思わないか?」


その言葉にギルバートは振り返る。そこにいるのはギルバートと同じように酒を片手にもう片方の手におつまみを持った孝治だった。


ギルバートはそんな孝治の姿を見てクスッと笑う。


「まだ君は未成年のはずだよ?」


「この世界で年齢制限は無いからな。だから、未成年が存在していない」


「なるほどね。じゃあ、僕に止める理由はないかな」


孝治はギルバートの隣に腰を下ろす。


「君はどこまでわかっているのかな?」


「どこまでも、と言ったら?」


「疑いはしないよ。だって、君はアカシックレコード、正確にはスターゲイザーの欠片を持っているのだから」


その言葉と共に孝治の腰にある運命が揺れる。それを見ながらギルバートは空を見上げた。


「スターゲイザー。それは極めて凶悪なものだ」


「わかっている。この力があるからこそ、今の状態がある」


「そうだね。まさか、慧海も予想していないはずだよ。天界から出た犠牲者がほとんどいないこの事態を。さすがは次期最強の一角というべきかな」


「最強は周だ」


「そうだね。もし、彼が無名の神剣を持てば、誰も勝てない」


その言葉に孝治は頷いた。


無名の神剣の中には強力なものがある。ルネが持つものも無名でありながら極めて強力な能力を持つ神剣だ。だが、無名の神剣は力がほとんど無いから無名なのだ。


神剣であるのは持ち主に最も合った形状を取るからにすぎない。


だから、もし周が神剣を手に入れた場合、状況に合わせて形を変え、最も最高の武器を使い周は戦う。それがどれだけ異常でどれだけ凶悪かは誰もがわかるだろう。


「周はレヴァンティンだからまだ大人しいけど、もし、自由に様々な神剣を使えるようになれば」


「それこそあいつの独断だろうな。そうなっては欲しいが、そうなるのはまずありえない」


「管理神。あらゆる全てを管理する神。それなら可能だよ」


その言葉に孝治は振り返りながら運命を振り抜いていた。だが、運命の刃は薄い桜色の壁に阻まれる。


選択神ルエルナエリナが展開する防御魔術によって。


「初めまして、花畑孝治。ちょっとだけ君と話したくて現世に降臨させてもらったよ」


「お前は誰だ?」


「これは驚いた。太古の神の一人じゃないか」


ギルバートは面白そうに笑みを浮かべるがその手は腰のシュナイトフェザーに当てられている。だから、変なことをすれば一瞬でルエナの首は飛ぶだろう。


ルエナは軽く肩をすくめた。


「何も傷つけることはしないよ。ただ、私は話をしたかっただけ。それに、私を警戒しているのは伝承神だけじゃないよ。そうだよね、希望神」


「あらら。わかってたんだ」


七葉が満月を背に空から降りてくる。その手には槍とがあり、七葉が槍を動かすと視覚に隠されていた大量の剣が七葉の近くにある球体であるピースメーカーに吸い込まれていく。


その数を見たルエナは思わず苦笑してしまう。


「いやいや。あなたなら私が攻撃しないって未来がわかっているんじゃないかな?」


「どうかな? 神って油断にならない人ばかりだからね」


そう言いながら七葉はギルバートの隣に腰を下ろした。同じようにギルバートが腰を下ろす。


ギルバートが何もしなくても七葉が誰よりも早く動くとわかっているから全てを任したのだ。それがわかっているから七葉は苦笑しながらも何も言わない。


孝治は運命を鞘に収める。そして、片手に持っていた酒とつまみを両手で持つ。


「みんな寝たね」


「みんな疲れているんだよ。決戦は近いからね。明日や明後日の話じゃないけれど、みんなそれに向けて動いている」


必死に訓練する人。ゆっくりと休む人。仲間と連絡を取る人。新しい機体に慣れようとする人。


様々な状態で一日が流れて行く。全員に共通しているのは戦いを見据えているということ。


「特に、第76移動隊のメンバーは緊張の度合いが強いみたいだけどね」


「過去に大規模な戦争に参加したことのある俺や光はまだ落ちついているがな」


「楓さんも落ちついているよね。私は少しは緊張しているかな。明日もあるからね」


「明日は大丈夫だよ。そうは思わないかい? 選択神」


「なんで私に振るのかな?」


そう言いながらルエナは孝治の隣に腰を下ろす。そして、空を見上げた。


「私は、まだ、見守る立場だよ。まだ、選択する状況じゃない」


「選択神と言ったな。そのふざけた名前はなんだ?」


孝治の疑問にルエナは苦笑する。実際にルエナはそれを気にしているからだ。


「八百万の神、と言えばわかるかな。神にも様々な名前がある。私の選択神、七葉の希望神、悠聖の終始神、ギルバートの伝承神等々。神になる時に相応しい名前をもらうんだよ」


「そうなると、俺の場合は運命神か」


「孝治の場合は冗談抜きに運命神になりそうだよね」


「そもそも、私が知る中で運命を改編する能力を持った人が一切いないからね。それに運命の力で運命を変えている異常、運命神を名乗れるのは難しいんじゃないかな?」


「なら、運命を持つ神とかは」


「孝治さん孝治さん。ちょっと無茶があるよ」


「でも、孝治らしいな。神になりたい気持ちはわかるよ。僕も昔はそうだったから」


そう言いながらギルバートが悲しそうに空を見上げる。


「僕は大切な人を全て神に奪われた。家族も、恋人も、メイドも」


「なんか混じった」


「羨ましいな」


「花畑孝治。そういう話じゃないでしょ」


「だから、僕は力を欲した。全てを失った時には確かに力があったけど、それ以上の力を求めた。だから、今の僕がある」


「そういうものなのか」


孝治の場合は強くなった経緯が違う。孝治は家族が借金に苦しめられているのを見ていた。その時に孝治に才能があるのがわかり、家族を助けるために『GF』に入った。


だから、誰かを守るための強さを求めるために強くなったわけじゃない。だが、今は少し違う。


「だが、神になれば助けられる命はたくさんあるのはわかる。今では救えない。世界を」


「そっか。花畑孝治は見たんだね。アカシックレコードを」


「星の記憶を見たならそうなるのはわかるよ」


「アカシックレコード?」


七葉が不思議そうに首を傾げ、そして、頷いて納得する。おそらく、禁書目録図書館(アリスライブラリ)に行ってきたのだろう。だから、アカシックレコードを理解した。


「教えてくれ、選択神。このままでは世界は救えないのか?」


「それに関してはイエスだよ。今の戦力では到底勝てない。まだ、覚醒していない人が八人いるから」


「たった八人で世界を変えられるの?」


「隣を見ればわかるよ」


七葉の疑問に答えるルエナ。それに七葉は納得した。


禁書目録図書館(アリスライブラリ)を除ける七葉は過去の出来事を知っている。だから、隣のギルバートがほんの少数で世界を変えた人物だとわかっていたのだ。


だが、聞くだけでは半信半疑。実物を見ればよくわかる。


「でも、全員が覚醒しても、選択しなければどうにもならない。でも、私はこう思うよ」


そう言いながらルエナは立ち上がった。そして、浮かび上がりながら満月を背景に両手を広げる。


「私はあなた達がいれば大丈夫だと確信出来たと。話せてよかったよ。本当に」


「何のこと?」


七葉が不思議そうに首を傾げるが孝治とギルバートは苦笑しながら視線を逸らしている。


ルエナにはわかっていた。この二人がここにいる理由を。それは満月を肴に酒を飲むためではない。静かになった首都に万が一敵が襲来した場合に戦うために。だから、運命もシュナイトフェザーも収納しないで腰に身につけたままここにいる。いつでも戦えるように。


強くなろうとするみんなを見守りながら、そのみんなを守るためにここにいることを。


「だから、私は助言を与えるよ。花畑孝治。君は一度禁書目録図書館(アリスライブラリ)を訪れるように。一日中探し物をすれば、君は見つけられる」


「何をだ?」


「覚醒する手段を」


その言葉と共にルエナの姿が消えた。孝治は一瞬だけ目を見開き、そして、笑みを浮かべる。


禁書目録図書館(アリスライブラリ)か。面白いな」


「でも、どうして一日中禁書目録図書館(アリスライブラリ)に呼ぶんだろ」


「答えは選択神が言っていたよ」


そう言いながらギルバートは楽しそうに笑みを浮かべた。


「世界を救うには後、八人の覚醒を必要とするって」

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