第七十九話 世界を滅ぼす力
レヴァンティンがオーガを受け止めた斧ごと吹き飛ばす。オレは一気に地面を駆けてトロルを蹴り飛ばした。向かって来たゴブリンとコボルトには戦闘中にストックしている風属性魔術で吹き飛ばす。
オレはレヴァンティンを鞘に収めながら都の前まで戻った。
「今、治癒します」
都が治癒魔術をかけてくれる。だけど、そんなものは気休めにしかならない。
貴族派の半分は倒したものの、体中に切り傷や擦り傷、そして、右足は確実に折れている。『強制結合』で無理やりくっつけているが痛みは打ち消せない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。くそっ。はぁっ、はぁっ。多すぎるぞ」
これが防衛戦でなければ戦い方はもっとある。でも、今回はヒットアンドアウェイを繰り返す防衛戦。常に走り回って戦う戦場なら休む時間は微かにあるが、休む隙がない。疲労だけが蓄積する。
「レヴァンティン、二番解放」
オレの体に魔力が戻る。その魔力を体力に転換して何とか体を休める。
「次は、どいつだ」
キマイラ飛びかかってくる。オレは鉤爪を避けてキマイラの顔面にレヴァンティンを叩きつけた。キマイラは地面を跳ねて転がる。次に来るのはグレムリン。
レヴァンティンでグレムリンの持つ槍を払いタックルで吹き飛ばす。
「レヴァンティン、三番か」
『下がってください!』
レヴァンティンの声が聞こえると同時に嫌な予感が体を覆い、オレは後ろに下がった。
オレがいた位置に大量の槍が突き刺さる。
「何が」
空を見上げるとそこには槍を持ったデーモンの姿があった。
はっきり言うならかなり不利な状況だ。でも、
「レヴァンティン、三番解放」
『マスター、大丈夫ですか?』
「大丈夫だ」
レヴァンティンを鞘に収める。これで地上だけでなく上空にも警戒しなければならない。戦闘効率は著しく減少する。でも、
「なあ、レヴァンティン。オレは今、自分の力を信じれる」
向かって来るミノタウロスの突進を受け止めて投げ飛ばす。
「あの日、たくさんのものを失った日、オレは自分の弱さを嘆いた」
メデューサとラミアをレヴァンティンで殴り飛ばす。
「そして、自分の殻に閉じこもった」
レヴァンティンを素早く鞘から抜き放ち、デーモンに向かって衝撃破を放つ。
白楽天流遠当て『燕閃』。
離れた距離を攻撃出来る技。
「そして、オレは由姫に救い出された。それから、オレは強くなることを誓った」
オーガの斧を受け止めきれず吹き飛ばされる。だけど、オレはすぐさま大地属性の魔術でまとめて貴族派を地面から放り投げた。
「今までオレは自分が生きていることが嫌いだった自分がいた」
あの事件を起こし、オレは普通に生きていた。天才海道駿の息子としてちやほやされた。
確かに、オレは他の人より何でも出来た。だけど、それは本当に良かったかと思う自分がいたから強くなれた。
「この村に来て都と出会い、オレは変わった」
大人であろうとした自分が剥がれるのは嫌だった。でも、都の前では由姫や亜紗と同じように自分でいられた。
レヴァンティンを構える。
「レヴァンティン、限定解除。一気に決めるぞ」
『イエス、マスター。アクセルドライブ起動。バランサーシステム正常化。現世空間に浸食を開始します。20秒間、持ってください』
「余裕」
オレは都を失いたくない。だから、レヴァンティンの力を使い切る。
「全てを巻き込む力となせ!」
魔術の詠唱を行いレヴァンティンに魔術陣を纏わせる。それは、オレのオリジナル。イメージの中から作り出した勇者の剣。
空気中にある魔力粒子がレヴァンティンに集まり剣と化す。
「呑み込め!」
オレはそれを横薙ぎに払った。
レヴァンティンを纏っていた魔力がエネルギーと化し、地上にいた貴族派を呑み込む。
魔力が消え去った時、そこには倒れ伏す貴族派の姿しか無かった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。来いよ。オレはまだ戦えるぜ」
「だが、もう限界ではないか」
クライン達が降りて来る。それに対してオレはにやりと笑みを浮かべた。
「誰が限界だって?」
「減らず口を。では、我が殺してやろう」
「クライン、北欧神話って知っているか?」
オレはレヴァンティンを構えた。クラインからの回答はない。
「北欧神話。神々がいた頃の話だ。北欧で起きたラグナロクは世界を滅ぼしたと言われている。その中で、世界を9回滅ぼしたとされる力があるのを知らないか?」
「何の関係がある」
「魔科学時代に存在した最強の炎。その力、具現化させてもらう。レヴァンティン、限定解除」
オレの言葉と共にレヴァンティンが大きく形を変える。片手剣から両手剣に。そして、大きさは桁違いに大きく、黒かった。
「独立エネルギー機関と呼ばれるものを使った剣だ。お前らに受け止められるか?」
「たかが剣一本で勝てるとでも? 我らを甘く見すぎだ」
「なら、やってみるか?」
オレはレヴァンティンを構える。
世界を9回滅ぼすことが可能な炎を原動力に動くデバイス。それがレヴァンティンだ。だから、レヴァンティン内のエネルギーを使って不可能に近い技を扱える。
「一撃くらい、持ってくれるよな!」
レヴァンティンに紫電がほとばしる。こういう時に会話しなくても発動してくれるのはありがたい。
オレは地面を蹴った。一歩を踏み出し地面を踏みしめながらレヴァンティンを振り上げる。二歩目をしっかり踏みしめ、三歩目を振り上げ、レヴァンティンと共に振り下ろす。
純粋な斬撃。だけど、その斬撃はエネルギーの塊となってクライン達を呑み込んだ。
レヴァンティンが一部から蒸気を吹き出す。
「レヴァンティン、限定解除を解除」
レヴァンティンの形が戻った。だけど、レヴァンティンは未だに蒸気を出し続けている。おそらく、オーバーヒートした部分を冷やしているのだろう。
オレはレヴァンティンを鞘に収めた。
「ふぅ、これで、終わりだ」
「本当にそうかな?」
千春の、いや、クラリーネの声。それにオレは振り向いた。そこにいるのはクラリーネと、エレノア。
さすがにこれには頬が引きつる。
「千春! 琴美は」
「大丈夫だよ。殺してはいないから」
状況は最悪だ。
レヴァンティンは未だに冷却中な上にオレの体には疲労が溜まっている。今の時間でかなり回復したものの、相手が魔界五将軍の『炎帝』と『水帝』。不利すぎる。
「後、一人いればな」
「周兄、呼んだ?」
オレはその言葉に眉を潜めながら結界を探知する。結界はまだ展開されている。
「なんでいるんだ?」
振り返ることなく尋ねる。
「私は結界魔術が得意なんだよ。つまり、破るのも得意。ただ、頑固だったから私一人分のスペースしか開けられなかったけどね」
あははと七葉が笑う。
確かに結界魔術が得意なら結界破壊魔術も得意になる。それを考えると、七葉が一人で来たのはよくわかる話だ。
「他のみんなは?」
「結界破壊魔術を試してる。でも、かなり頑固だよ。一番得意な私で少しの隙間しか開かなかった」
だから、一番小柄な七葉が来たのだろう。
「七葉、気合い入れていけよ。敵は魔界五将軍の二人だ」
「うわっ、いきなりボス戦。帰っていい?」
「殴るぞ」
七葉がオレの横に並んで槍を構える。相性は確実に最悪だ。
「準備は出来たかな? だったら」
クラリーネの槍が頸線に解ける。
「『水帝』のクラリーネ」
対するエレノアは『炎熱蝶々』で空に飛び上がった。
「余は『炎帝』のエレノア」
「『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊長海道周」
レヴァンティンを鞘に収めて腰を落とす。
「同じく『GF』移動課第一部隊第76移動隊隊員白川七葉」
七葉はクラリーネと同じように槍を頸線に解いた。
「行くぞ!」
その言葉と共にオレは地面を蹴る。