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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百七十話 合流

拳と拳がぶつかり合う。オレは拳をぶつけ合った相手を見て笑みを浮かべた。


「元気そうだな、孝治」


「お前こそ、悠聖に浩平」


孝治も笑みを浮かべる。おそらく、いや、確実に斜め少し後ろにいる浩平も笑みを浮かべているだろう。


オレ達がいるのは首都の中にある歌姫の居住区。現在は音界の首都を中心とする歌姫派の本拠地。


「アストラルファーラ19機、エリュシオン226機、アストラルルーラ1機、アストラルソティス8機、イグジストアストラル1機、ベイオウルフ1機、ピースメーカー1機。到着したぜ」


「全部で257機か。かなりの数がいるな」


「そっちは?」


「総計約7500機。だが、大半が旧世代機だ。最新機は1500ほどにはなるな」


現在の首都の戦力は大半が元レジスタンス勢力だ。政府の軍隊はほぼ壊滅しており、機体は残っていてもパイロットがいないという事態になっていた。


ただ、量産が可能だったギガッシュは元レジスタンス勢力の持つ機体でもかなり上位に位置する機体であったため大量生産が短期間の間で行われ戦力はかなり底上げしている。


「アストラルシリーズは1500機。クロノスが800機。イージスやソードウルフも数十機単位で借り受けた」


「人界からか? 面倒なことを相変わらずするな。だが、お前のことだ。根回しはすでに終わっているんだろ?」


周を第76移動隊の表の代表だとするなら孝治は第76移動隊の裏の代表。


こいつのことだ。オレの作戦をさらに手助けするような作戦をいくつか思いついているに違いない。そして、その根回しを全て終わらせている。


孝治の一番怖いところは誰も気づかれないように根回しをしてサポートするところだ。それこそ、周にすら気づかれないレベルで。


「買い被りすぎだ。だが、今回ほど危険な戦いは」


「なあ、孝治。お前は口でそう言うけど本音はどうなのよ? 俺が答えを言った方がいい?」


浩平の言葉に孝治は黙り、そして、フッと笑みを浮かべた。


「後は悠人次第、ということだ。アレキサンダーを抑えられるのは悠人のみ。麒麟工房にいるあいつのみだ」


「オレや孝治でも対処は出来るだろうけど」


「どうだろうな。敵の数を考えた場合、悠聖の作戦を使っても覆せない戦力差があるからな」


「さすがは孝治。やっぱり気づいてたか。お前と周だけは敵に回したくないな」


お互い不敵に笑みを浮かべる二人に浩平は呆れたように呟いた。


「明らかに敵の半分を崩しそうな作戦を考えるお前らの方が怖いわ」






「これは、どういうことだ、天王マクシミリアン」


「我に聞くか? 答えてやろう。意味不明」


「珍しく魔王様と天王様が混乱しているッスね」


「無理もない。何故、あのような光景が繰り広げられているのかを理解するなどこの光明神でも可能が不可能になってしまう」


「アーク・レーベも混乱しているんッスね」


無理も無い。何故なら、二人が見ているのはイチャイチャラブラブしている音姫とギルバートの二人。あまりにイチャイチャラブラブしているからかドン引きしすぎて誰もが距離を取っている。


蛇足だがこれに対抗しようとして七葉、和樹ペアが頑張ったものの桃色空間に一分ほどしか耐えられなかった。


「あっ、魔王天王光明せっちゃんだ」


「刹那、お前だけ本名なんだな」


「冷静になって言わないで欲しいんッスけど、アーク・レーベ」


ちなみに、せっちゃんと刹那を呼んだ最初の人は音姫である。身近な人には意外と呼ばれていたりもする。


「四人揃ってデート?」


「明らかに男四人で使う言葉じゃないッスよね?」


「我と魔王は男。つまり、雷帝とアーク・レーベは女だったのか」


「こういう時にボケじゃなくて真面目な天王様に別の意味で私は尊敬する」


「相変わらず面白い人生を歩んでいるね、アーク・レーベ」


ギルバートは爽やかな笑顔でアーク・レーベに話しかける。ただし、音姫と手を組んだまま。


「あんたのおかげでな」


憎々しげに答えるアーク・レーベに刹那が首を傾げた。その疑問にマクシミリアンが答える。


「アーク・レーベはギルバートに瞬殺どころか刹殺されたのだ。だが、刹殺されたのに何度も立ち上がる姿に我は惚れスカウトしたのだ」


「まさか本当に尻の穴を狙われるとは思わなかった」


「我が輩はバイである」


「色々なものが壊れていくッスね。ところで、二人はいつからお付き合いしているッスか?」


「ほんのちょっと前かな。ギルが私に告白してきたの。ギルは昔から格好良かったしイケメンだし優しいし弟みたいだし」


「ちょっと待つッス。二人の年齢差は」


その言葉にギルバートが諦めたように首を横に振る。確かに音姫は世話好きな部分があったが、まさかギルバートですら弟みたいと言われるとは。


「若人達が付き合い出したのだ。我らは祝福する。そうだろ? マクシミリアン」


「そうだな。だが、長かったな。約50年か?」


「飢えてはいないとは思っていても、いざ大切な人を見つけるとどうしてもね」


「そうか約50年か。幸せそうで羨ましいな、ギルバート」


「ギルガメシュが生まれたばかりのリリーナを腕に抱えた時の方が羨ましかったよ」


三人にしかわからない会話が繰り広げられているがギルバートは最後に凄まじい言葉を言い残している。


ちなみに、音姫は聞いてはいるが嬉しそうにギルバートの腕に抱きつくだけだ。


「そ、そうか。それは、恥ずかしいな。それはそうと、お前達はどこまで聞いている? アークの話だが」


「私は全部。三つの可能性と三つの未来。もちろん、一つの希望も。だから、私達は次の戦いに勝てるよ」


「待て。何故、アークの戦いが勝利に繋がる?」


その言葉に音姫は笑って返した。


「だって、天界は天王じゃなくて天神を求めていたんだよね。だったら、天神が出来れば向こうの天界勢力はこちらに付くと思わない?」






静かに踏み入れる元歌姫の居住区。その大半が戦いでボロボロとなっておりまともな場所は仮政府が今の首都を動かそうと必死になって動いている。


現在の首都を簡単に表すなら混沌。魔界と天界の住人も移り住んだからかいざこざが絶えないでいる。もちろん、それに巻き込まれた首都の住人達が苦情を出すからだ。それをどうにかするためにみんな動いている。


だが、この忙しさはそれだけじゃない。その忙しさは今ではある意味過去のものだ。今の忙しさは別の忙しさ。人がたくさんいることに対する忙しさ。


その中にメリルは足を踏み入れた。拳を握り締め、後ろにルーイとリマの二人を従えてゆっくりと、だけど、確かな足取りで前へ歩いている。


「ルーイ、リマ。二人は私についてこなくてもいいんですよ」


「バカなことを言うな、メリル」


「そうです。私もルーイもメリルの決意を後押しするって決めていますから。それに、今はあなたの声が必要です」


「歌姫の力を失った私に、何が出来ますか?」


「今は何もできないだろうな」


メリルの言葉にルーイが否定で返す。メリルの顔が暗く染まるより早く、ルーイは笑みを浮かべた。


「何もできないからこそ、何かをしようとする。そして、結果がついてくる。最初からわかっている役割よりも僕は何も出来ない状況でも頑張ることの方がいいとは思うが」


「そうだとしても、私は」


「お前は相も変わらず人嫌いか?」


その言葉にメリルは前を見た。そこにいるのはグレイル首相。いや、グレイル元首相。


「無事だったんですね」


「当り前だ。やらなければならないことがいくつもあるからな。首相の地位を退いても仕事はたんまりくる。今の首相が今まで怠け者だったからな」


「確かにあなたは優秀です。あなたが補佐についているなら首相は傀儡でいいかもしれませんね」


「そうかもしれないな。だが、現実を見ろ。今、音界は誰の力を必要としている?」


その言葉にメリルは周囲を見渡した。周囲にいる誰もがメリルを見ている。


「歌姫、ですか?」


「歌姫ではない。今の音界に歌姫など必要ない。誰の言葉でここいいる人達は動いていると思う?」


「私の言葉」


メリルが歌姫としてではなく、ただのメリルとして皆に語った言葉。それが今の状況を表している。


現在、首都にはたくさんの人が流れている。それは行商人出会ったり鍛冶師であったり医師であったり政治家であったり。現在、首都は多種多様な業種の人達が集まっていた。それをメリルはここに来るまでにすれ違っていた。


「現在、首都には信じられないほどの人がいる。それは全て、お前の言葉によって来たのではないか?」


「私の言葉ですか?」


「誇れ。お前は歌姫でなくても皆の先頭に立つ権利がある。誰をも導く存在になれることを」


「私は何もできません」


「何もできない、ではないな。お前はもう何かをしなければならないと思っている。何もできないと言い訳しているならお前はここには来ない」


その言葉にメリルは俯いた。そして、そんなメリルにグレイルは笑みを浮かべる。


「私は誇れと言ったのだ。お前は今まで何も出来なかった。だが、これからは違うだろ?」


その言葉と共に扉が開かれる。そこにあるのは様々な人。そこに共通するのは誰もが役人であることだった。そして、唯一、首相と副首相の席だけが空いている。


「歓迎しよう、メリル首相。これからの音界を導く音界政府の首相になれ」


「私なんかがやってもいいのですか? もしかしたら、政治家にとって住みにくい世の中になるかもしれませんよ」


「政治家など平和ボケしている方がいいのだ。ただ、民を思う気持ちさえあればな」


「グレイル。お前、最初から決めていたな」


「決めたのは私じゃない。花畑孝治だ」


「孝治が」


ルーイの顔が引きつる。おそらく、孝治は最初からこうなることを考えていたのだろう。


悠聖が戦場で手駒を使うプレイヤーだとしたなら孝治はその後ろで手駒をさりげなく増やしている役目。反則に近い最高の人員の配置を最初から根回ししている。


「なるほど。どうやら試されているみたいですね。わかりました」


メリルが踏み出す。首相の席に向かって。


「音界を救うために、私は戦います。皆さん、ついてきてください」

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