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新たな未来を求めて  作者: イーヴァルディ
第三章 悠遠の翼
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第二百六十九話 最高傑作

『悠遠の粒子貯蔵タンクははっきり言ってほとんど使い物になりません。その状態の悠遠は本来なら動かないものと仮定してください』


まるで空気があるかのように空気が存在しないとされている宇宙空間で息をする僕。空気がないからか濃密な魔力が体の中を駆け巡る。


『予想以上に悠遠が壊れていたため仕方なしに乗ってもらいますが、本来なら宇宙服を着てくださいね』


エリシアさんの声に僕は頷きながら宇宙に朽ち果てかけていた悠遠を再起動を行っていく。


正さんが言っていたもしもの時は空気を鈴に分け与えること。『翼の民』にとって魔力で満ちた空間は空気で満ちた空間に等しい。『翼の民』がどういうものかはよくわかっていないが、他の生物よりも異質であることが僕の生存でわかるだろう。


宇宙空間の魔力粒子はあまりに濃密過ぎる。それこそ、常に翼を作り出さなければ貯蔵しきれないほどに。


『これから起動してもらうのは一つのシステム、魔科学時代にいた科学者の一人が悠遠のパイロットのために開発した呪いと言っても差し支えのない昨日です』


「呪い?」


『はい。このシステムはパイロットの魔力に反応します。パイロットが貯め込んだ魔力に応じてそのシステムは力を増し、同じように魔力を発動した瞬間で蓄えます』


「それはマテリアルライザーと同じ機構?」


マテリアルライザーは背中に光の翼を作り出している。それは正さんが『翼の民』として作り出している翼であり、その実態は魔力そのもの。


『いえ、マテリアルライザーよりも質の悪いものです。マテリアルライザーは反映します。つまり、翼は翼のままです。それこそ、いくら戦闘したところで魔力を使わなければ翼は変わらず、いえ、大きくなります。ですが、悠遠の場合は消費します』


「貯蔵タンクの代わりに魔力を消費するということ?」


『それも、パイロットの魔力です。『悠遠の翼』が全てあろうと、そのシステムはパイロットの命を確かに蝕む呪いのようなものとなります』


「命を代償に莫大な力を得る儀式契約みたいなものだね」


『有り体に言えば。宇宙空間には魔力粒子が満ちています。ですから、今は魔力を蓄えれるでしょう。ですが、いくら『翼の民』が魔力だけの空間で生きられるほどの大量の魔力粒子がある空間で貯蔵したとしても、大気圏内に戻れば限界稼働時間が出来ます。時間は約八分』


「短いね」


『宇宙空間での戦闘なら問題は無かったかもしれませんが』


今は宇宙ではない。これから向かうのは地球だ。そして、悠遠の機体を無事に地球に戻すために僕はそのシステムを立ち上げなければならない。


でも、八分くらいなら十分だ。だって、このままイグジストアストラルとマテリアルライザーの三機で降下して安全な場所まで降下出来ればいいだけなのだから。


『悠人。大丈夫、だよね?』


「大丈夫だよ。僕を信じて。だから」


悠遠の再起動が終わる。そして、僕はシステムを立ち上げた。


「システム起動。悠遠補助システム『強制悠遠駆動術式(エターナルシステム)』、発動」


その瞬間、悠遠のいたるところから魔力粒子が噴き出すのがわかった。それだけで体中が熱い。精神感応を利用していないはずなのにまるで精神感応を使っているかのような感覚。


「これ、コスモドライブ?」


『まだ完成していない状態のコスモドライブで、エターナルドライブです。精神感応を追加したコスモドライブと考えていいですよ。移動用の意味合いが強いコスモドライブと違ってこちらは攻撃用のものと考えていてください。能力は『栄光』の力を参照しています』


「じゃあ、近接格闘戦に強いんだね」


『はい。エターナルドライブは発動できるほんの一瞬でも全員からエネルギーを噴き出すため完全な攻防一体のものとなります。その分、エネルギー消費は激しいのでいまの状態では使用しない方が賢明です。今は全体を魔力で覆って』


「こういう時は摩擦係数を0に出来る魔術を使用した方が手っ取り早いよね」


僕はそう言いながら魔術を使用する。僕は魔術が苦手だけど、もしもの時に使用できる衝撃緩和系の魔術は大体使える。機体から放り出された時は衝撃を緩和しながら摩擦を0にすることで衝撃を極限まで緩和できる。まあ、緩和したところで骨折するんだけど。


『そう簡単にその機体で魔術を発動させられたらマテリアルライザーの存在意義が少なくなるような』


『まあまあ。悠人、ついでに機体を魔力で覆うこと。摩擦をいくら0に近くできるとはいえ今から跳び込むのは大気の塊。受ける衝撃は摩擦だけじゃないよ。その機体は半壊している。壊れたら、今度は助からない』


『悠人、大丈夫?』


鈴が今にも泣きそうな表情になる。だけど、僕はそんな鈴に笑顔を返した。


「大丈夫だよ。僕は負けない。だから」


防御魔術も展開しながら僕は機体を地球に向ける。そして、息を吸い込んだ。


「悠遠。これより大気圏内に突入します!」


その言葉と共に加速させる。操作は大体悠遠(エターナル)と同じ。だから、どう操作すればいいかはわかっている。しかも、エターナルドライブは精神感応よりも反応性が高い。攻撃的だからかまるで脊髄反射をしているかのような反応速度。


そして、そのまま悠遠が大気圏内に突入した瞬間、凄まじい衝撃が体を貫いた。


「っく」


瞬時的にエターナルドライブで悠遠の体を覆うように魔力の膜を展開する。ちなみに、コクピットの外は赤く燃えているようにも見える。


「確かに、機体がばらばらになったらさすがの『翼の民』でも生き残れないよね」


機体が震える。まるで、推進ロケットを付けて飛び上がっているイグジストアストラルのように、いや、それ以上に機体が震える。制御が難しい。だけど、制御が出来ないわけじゃない。


「ねえ、悠遠。君が生まれたのは戦争のためなんだよね?」


魔科学時代は相当混沌としていたらしい。アル・アジフさんから暇な時に聞いていたけど、悠遠が作られる魔科学時代末期までは各国が火花を散らしていた。主に軍事兵器で。


末期となれば話は大きく変わったみたいだけど、悠遠はその延長線上にあった機体。誰かを守るためではなく、誰かを殺すために開発された機体。


「だったら、僕は君を使ってみんなを守るよ。誰だって殺さない。守るためだけに戦う。だから、これからも力を貸してね」


そう言った瞬間、悠遠が加速した。僕はなにも操作をしていないのに。


「悠遠?」


『悠人!? スピードが速すぎます!? そのままでは防御魔術の耐久よりも高い衝撃が』


『大丈夫です!』


エリシアさんの声を阻むように鈴が声を上げてくる。すると、いつの間にかイグジストアストラルが悠遠の前にいた。悠遠の前で聖盾ウルバルスを構えた状態で僕を守るように位置している。


僕はすぐさま悠遠でイグジストアストラルの背中に抱きついた。


『これで、いくらか衝撃は緩和出来た?』


「うん。これなら大丈夫だけど、悠遠、どうしたの?」


悠遠は答えない。だけど、速度は上がっている。


『落下速度が上昇している? 重力による落下よりも早い』


「悠遠が急いでいるんだ。何かわからないけど、この機体は意志をもっている」


『レヴァンティンみたいに?』


「そうだと思う。僕の思いに悠遠が答えてくれるように。おわっ」


悠遠がさらに加速する。それを感じながら僕は眉をひそめた。


悠遠のレーダーは死んでいる。だから、悠遠が何を見つけたのかはわからない。だけど、悠遠は焦っているように思える。これは一体、


『悠人!』


鈴の言葉と共にモニターに何かが映った。それは巨大な翼を持つ巨大な足の無いクロノスのような機体。


「到達予測は!?」


『約40秒。ううん』


その瞬間、悠遠とイグジストアストラルの位置がひっくり返った。


『悠人、エターナルドライブ全開で!』


鈴の目的がわかった瞬間、僕はエターナルドライブを展開した。そして、イグジストアストラルがさらに加速する。


『悠人を先に届けるよ!』


聖盾ウルバルスを僕に預けて背中の方が聖盾ウルバルスに向かって放たれた。その衝撃で悠遠がさらに加速する。


そして、視界に捉えた光景は、今にもやられそうなベイオウルフだった。さっき見えた機体がベイオウルフの上から腕である鋏を振り上げている。


「リリィィーーーーーナァァァアアアアーーーッ!!」


だから、僕は駆け抜けた。ベイオウルフを切り裂く寸前だった鋏を根元から抉り飛ばしベイオウルフを抱きしめる。


『ゆう、と?』


びっくりしたようなリリーナの声。僕はその声に安心しながらリリーナに声をかける。


「間に合った。大丈夫だよ。僕が、守るから」


そう言いながら振り返る。敵はもう片方の鋏を繰り出してくるがエターナルドライブを展開した悠遠の腕で受け止める。


「十秒で終わらせる!」


そのまま素早く鋏を根元から引きちぎる。敵は大きく下がろうとするけど、それより早く悠遠の腕が翼を根元から掴んでいた。そして、腕から魔力が噴き出し簡単に切断する。


素早く後ろに回りつつもう片方の翼を切断。そして、装甲に指を突きいれて装甲を剥した。


胸部にコクピット部分は無い。つまり、コクピットは頭にあるということになる。


「さあ、終わらせるよ」


逃げようとする敵の上を走り頭部の装甲を外した。そこから姿を現すのはコクピットに乗るパイロット。


僕はコクピットの隙間からそのパイロットに語りかける。


「これ以上抵抗するならあなたの身の保証は出来ません。どうしますか?」


その言葉への回答はパイロットが両手を上げることだった。

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